それぞれの終楽章

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 20
感想 : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062036399

作品紹介・あらすじ

小説家の矢部宏は3年ぶりに故郷のO市に帰った。自殺した友人の森山の通夜に出るためだった。森山は他人の借金の保証人になったために、億を越す借金をひっかぶっていたのだ。通夜の席で同級生たちと再会した矢部は40年前の時間の中へ戻っていく…。友の死を契機に集まった男たちが背負ってきた人生の哀歓と陰影を巧みな筆致で描く待望の新作長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • ちょっと思ってたような内容じゃなかったなぁ。
    でも、振り返ってみる良い機会は持てた。
    会いたいと思うようなそれも思うが為の要素のような。

  • 1987下半期 直木賞

  • これから聴く、人生の終楽章 決意をこめた自伝的小説
        
    触れたくない少年時代の思い出

     「それぞれの終楽章」は〈小説現代〉87年6月号から9月号に連載された作品を単行本化して出版された自伝小説である。
     この作品は阿部がかかさず続けているジョッギングで腰を痛め、入院したおりに構想が練られたという。
     それまて連載物て忙がしく本当に書きたい物もなかなか書けなくてジレンマに陥っていた阿部にとって、6週間の入院は自分を見つめる期間であったのだろう。
     それゆえ阿部は、直木賞を狙ってこの作品を書いたという。編集者とも十分に推敲を重ねている。
     作品は、作者の分身ともいえる主人公・矢部宏が自殺した友人・森山の通夜に出席するためO市へ出かける場面から始まる。『矢部や森山が少年時代を過ごしたO市には、触れたくない思い出が数多くあった。だから矢部はこの街が好きてはなかった。仏事などでO市のすぐ近くの実家へ帰っても、ほとんどの場合、O市は素通りしていた。
     しかし、今回は友人の通夜と葬儀に出席するためにO市に滞在することを余儀なくされている。
     矢部は通夜の席で久しぶりに中学・高校時代の同級生たちと再会する。「今日まて矢部はいくつもの垣根を乗り越えてきた。50才をすぎた地点てふりかえれば少年時代のさまざまな恥ははるか後方の垣根のなかのとるに足りない恥てしかない」
     しかし、同級生に会えば、はるか後方の垣根のなかにあるはずの恥が真近に追ってくるのだった。憶病で卑屈だった少年時代、その底にあった父親との葛藤。
      「やすやすと少年にもどれるのは、現在の自分が当時とほとんど変っていないせいだった。40年近い月日がたっている。その間、矢部がしてきたことは、ただ歳月のあぶらとシミを身につけるようなことだったのかもしれない」
     作者は別の所で矢部にこうも言わせている。
      「心の底はみんな少年なんです。世渡りの必要上、大人みたいな顔をしている。なにかあると、仮面が剥がされてしまうんてすよ」
     矢部にとって、かつて少年てあった自分を知っている同級生は、良くも悪くも、仮面(ペルソナ)なして対峙するしかない存在であったのだろう。それは自分の本質を、嫌が応でも見つめざるをえないということでもある。

    反撥した父親と今や同じ年代に

     〈同級生〉と、もうひとつこの小説のキーワードは〈父親〉である。
      <父親〉は、少年と対比をなす大人としての存在てある。矢部は父親に反撥していた。生活能力がなく、酔えばからんでくる父親はうとましい存在でしかない。しかし、その父親が死んだ時、ただ暗く、重かった。まるで尊敵できなかった父親の死でも、息子にはこれほど重いものかと感じている。
     50才を過ぎた今、かつて少年時代に意識しだした父親の年代に自分もさしかかった。それは少年時代に反撥した〈大人〉に自分もなったということてもある。
     O市から帰ってきた矢部は家の近く、万博公園のサイクリングロードヘ、日課のジョギングに出かける。一周2500mのコースを二周走るのだ。
     その途中、腰を痛める。ぎりぎりとした痛みで彼は身動きてきなくなる。コース横の芝生に横たわり、彼は、森山や同級生のことを思い、そしてかつてうまましく思った父親の年代に今さしかかったことを自覚した。
      「森山は第三楽章まてを聴いていなくなった。自分はまだこれから終楽章を聴くことができる」
     矢部は、コース上に今まで自分がかかわってきた人々の幻影を見た。父も森山もいる。一人て50才になったのではない、と矢部は思った。
     小説家・矢部、それは阿部自身といってもいいが、これからはそれらの人々を生かす仕事をしなければと決意する。
     その決意が、すばらしい作品を作り上げたのだろう。この作品は第98回直木賞を受賞している。

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著者プロフィール

小説家

「2017年 『家電兄弟 松下幸之助と井植歳男』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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