密やかな結晶

著者 :
  • 講談社
3.81
  • (26)
  • (41)
  • (37)
  • (5)
  • (0)
本棚登録 : 254
感想 : 43
  • Amazon.co.jp ・本 (411ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062058438

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 時を経る毎に何かが消滅していく、とある島を舞台にした物語です。

    消滅といっても、おそらく感覚や記憶の問題で、何の感慨も湧かないものが目の前にある不条理さは、消滅した物を隠匿していた人を捕まえる、秘密警察の存在も同様で、何となく、ちょっと前に話題になった共謀罪の法案を思わせられて、薄ら寒さを覚えた。

    ただ、そんな世界に於いても、諦めずにやれるだけやってみようとする登場人物の姿には、素直に心を打たれた。

    主要人物の「わたし」の、何かが消滅していくに連れて、それを含めた想い出まで消滅していく空虚さは、失うものが増えていくに連れて、却って、外界の空虚な世界と上手く調和されていく皮肉さがやり切れず、その影響を受けない「R氏」と我々読み手にとって、登場人物たちの全ての想い出を忘れずに、心に留めておくことが出来る素晴らしく感動的な事柄を、おそらく、物語の中の「わたし」には共有させることが出来ない、そのやり切れなさが私には最も辛く感じた。

  • なんとも不思議に余韻の残る作品だった。とある島で少しずつ少しずつ何かが消滅して行くと言う筋で、ついには身体の部分までが一つずつ消滅するくだりには表現し難い感覚になってしまう。消滅を皆が自然に受け入れるなか、消滅を消化できない人も居て、彼らは秘密警察に狩られて行く。主人公の女性は作家だったが小説も消滅させられ、書く術も何もが消滅する。しかし編集者の男性は消化できない派の者だった。そこから 編集者を匿う女性と幼い頃から親しいお爺さん の三人を軸に終焉に向かっての不思議な話が進んで行く。何故だか読み手も引き込まれて途中で止められなくなってしまった。多分 好き嫌いが分かれる作品です。

  • 女子はこういう話がすきなのか。なかなか身近にない話で、空想の世界なのか。

  • 400ページ強の本。最近「薬指の標本」を読んだところなので、「なじんでくる」や「消滅する」という表現、完全な支配を受け入れる女性、魅力と仄暗さの両面を持つ男性のキャラクターは薬指の標本と似ているなと思った。小川洋子さんの物語にはいつも素敵な老紳士が出てくる。あたたかい物語の中で、時々背筋がスッとするような場面も織り込まれ、一気に読める。

  • 世界からひとつひとつ 何かが消滅していく物語

    「消滅」が起きる朝には空気がいつもと違っている。
    何が消滅したのかすぐに気づくこともあれば、
    その日生活をしながら気づくこともある。

    大半の人にとってその儀式は当たり前のことで
    嘆いたり悲しんだりする対象のものではない
    そのうち消滅したことすら忘れて
    心の中の空っぽは増えるけど
    日常はちゃんといつも通り続いていく。

    一部の「消滅」の影響を受けない人たちは
    秘密警察による「記憶狩り」を恐れながら
    周りの人と同化するよう息をひそめて暮している。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    何かが消えたとき
    それに気づくほうが幸せだろうか?
       気づかないほうが幸せだろうか?

    私はこの物語を読み終わったとき、悲しかった。
    とても静かで寂しくて、でもどこか美しい悲しさを感じた。
    消えてしまったことを覚えているから、悲しみを感じられるのだ。
    そしてこの本そのものが「密やかな結晶」なのだと思った。

  • しんとして薄暗くて、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の<世界の終わり>サイドみたいだな、と思いながら読んでいたのだけれど、最終的にはアトウッド的なじりじりした男女関係の息苦しさが余韻に残る。体温と湿り気と、ほんの少しの生臭さ。

    秘密警察、隠し部屋、とナチスのユダヤ人迫害を連想させる世界が舞台になってはいる。しかしそういう寓意はさておいて、善意で全力を尽くして、保護という名目で人の行動を縛る薄気味の悪さをとても感じた。

    作中作のタイピング教師と生徒の関係が、「わたし」→R氏またはR氏→「わたし」の関係と二重写しになる。結局はエゴに由来する監禁だと「わたし」の無意識は知っていたんだと思う。外見は甘やかな、気持ち悪い話でありました。

    消滅するものの消滅具合がものによってかなりぶれがあるのが気になった(フェリーに比べた左脚とかね)。そこがカチッとしてたらもっと入り込めたのに、とちょっと残念。

  • <消滅>という単語を辞書で調べてしまった。
    自分が失うことと、世の中から消えてしまうこと、そこにどんな意味があるのか、またはないのか、と、ずっと考えながら読んだ。
    答えはまだでない。

  • 20211026読了

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPAC↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/188261

  • 奇妙な話だった。じわじわと人々のすべてを消滅させていく権力の不気味さ。自分を失わずしっかりと生きていこうとする主人公たち。秘密警察のリアリティ。
    これは私たちの社会のことか。だとすると結末が哀しい。

全43件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1943年 鹿児島県生まれ
1974年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位
取得退学

主な訳書
テオプラストス『植物誌1』(京都大学学術出版会)
フィンレイ編著『西洋古代の奴隷制』(共訳、東京大学
出版会)
クラウト編著『ロンドン歴史地図』(共訳、東京書籍)
ストライスグス『ギリシア』(国土社)

「2015年 『植物誌2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×