やがて哀しき外国語

著者 :
  • 講談社
3.38
  • (24)
  • (54)
  • (144)
  • (8)
  • (3)
本棚登録 : 592
レビュー : 59
  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062068000

作品紹介・あらすじ

村上春樹の魅力の世界。プリンストン通信。久々の長篇エッセイ。アメリカより愛をこめて。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 今も昔も村上春樹の考えはぶれてはいない。でもこの時期の村上春樹は「揺れている」。それは国のことかもしれないし、仕事のことかもしれない、ルーツかもしれないし、床屋のことかもしれない。
    その前の「遠い太鼓」は旅行記として秀逸だった。流れる旅人となってヨーロッパを楽しむこと(もちろん不愉快なことも)村上春樹というフィルターを通して全て受け入れていた。冬のギリシャ以外は。
    この「やがて悲しき外国語」は、2年半のアメリカ滞在(そのあとはマサチューセッツに引越し)の中のより深い文化の交わりの接点におけて揺れる彼自身が深く思考することにより表層に浮き出てくる思いが連なっている。良いも悪いも綺麗も汚いも美しいも醜いも、たとえ文学を通じて知っていたアメリカでさえも異邦人として、全て同じテーブルに載せられた時に、どちらのことも考えることの可能性を広げる。ある意味平等性をもって判断する価値観(あくまでもこの時点ではどちら側に着くかは決めることはしないようにしているような気がする)が養われているような気がする。
    この後のエッセイは、よりソフィストケートされて、読みやすく分かりやすく、どちらかの立場に著者は立って記述するのであるけれども、その前段階をみると彼も人なんだなぁとちょっと安心したりする。

  • 海外で生活するというのは想像がつかない。もっとも住みたいと思わないが。英語を流暢に話す姿を夢想するが、習得したいという欲求はい。自分のことすら日本語で満足に話せないのに、外国語をべらべら話せるようになれるとは思わない、という箇所に納得した。なるべくなら日本語だけで生きて生きたいが、そうもいかない。パソコンの関係で英語を目にするだけでうんざりする。

  • アメリカ、プリンストンで村上さんが暮らしたときの話。

    --------------------------------------

    NBAを小学生のころから観ていてよかったな、と思うのはこういうときだ。村上さんはプリンストンに暮らしながら、フィラデルフィアに行ったり、ボストンやらニューヨークに車で向かったりする。それを読んだとき、アメリカの都市の位置関係が頭に入っているから、なるほどね、とわかる自分がいる。村上さんはけっこうロングドライブできる人みたいだ。やれやれ、とか言いながらハンドルを握っているのかな。

    ジャズを聴いておけばよかったな、と思うときもある。村上さんの本(主にエッセイ)にはジャズ関連の話題がわんさか出てくる。この本でも何度も取り上げられていたが、自分にはちんぷんかんぷんだった。ルイ・アームストロングと山下洋輔くらいしかわからない。こういう話題に対して、なるほどね、と感じる人はかっこいい。

    --------------------------------------

    『ミッドナイト・イン・パリ』という映画を先日DVDで観たばかりだったので、フィッツジェラルド夫妻の話題になったときには嬉しかった。やはり自分がわかるテーマの話は面白く感じてしまう。

  • 図書館で借りてきた。

    面白かった。書籍のタイトルになっている文章は、特に、自分のいま考えようと思っているところの契機になりそうなので、抜き書きをWFにしてみた。

    「大学村スノビズムの興亡」P41より引用
    <blockquote>でも「これはコレクト、これはインコレクト」という風に考えて暮らしている生活も、考えようによってはなかなか悪くないものである。とくに日本みたいな「何でもあり」という仁義なき流動社会から来ると、かえってほっとする部分もなきにしもあらずである。余計なことを考えずにとにかく細かい部分をコレクトに揃えておけば、それですんでしまうわけだから。とにかく『NYタイムズ』を購読しておけばいい、とにかく『ニューヨーカー』を取っておけばいい(まわりを見ていると取ってるだけで読んでいない人が多いようだ)、とにかくオペラを聴いておけばいい、とにかくガルシア・マルケスとイシグロとエイミー・タンを読んでおけばいい、とにかくギネス・ビールを飲んでおけばいい。でも日本ではそう簡単にはいかない。たとえばオペラなんて流行じゃないよ、今はもう歌舞伎だよ、という風にどうしてもなってしまう。情報が咀嚼に先行し、感覚が認識に先行し、批評が創造に先行している。それが悪いとは言わないけれど、正直言って疲れる。僕はそういう先端的波乗り競争にはもともとあまり関わってこなかった人間だけれど、でもそういう風に神経症的に生きている人々の姿を遠くから見ているだけでもけっこう疲れる。これはまったくのところ文化的焼き畑農業である。みんなで寄ってたかってひとつの畑を焼き尽くすと次の畑に行く。あとにはしばらく草も生えない。本来なら豊かで自然な創造的才能を持っているはずの創作者が、時間をかけてゆっくりと自分の創作システムの足元を掘り下げて行かなくてはならないはずの人間が、焼かれずに生き残るということだけを念頭に置いて、あるいはただ単に傍目によく映ることだけを考えて活動し生きていかなくてはならない。これを文化的消耗と言わずしていったいなんと言えばいいのか。</blockquote>

  • 同じエッセイとは言っても「村上朝日堂」シリーズにくらべてやはりアメリカ(と、そこからみた日本)という国の文化論に近いところがある。文体も比較的まじめだし・・・。アメリカでの生活が作者のものの考え方などに結構影響を及ぼしているなあ、というのがよくわかる。

  • この作家は鋭い観察力を持っているし、視覚で得たものを文字に置換する能力にも長けていると思う。アメリカ社会で生活している私の、日々感じる事がまさに代弁されているような書だった。

  • 久しぶりに読もうかなと思ってふと奥付を見たら、1994年第一刷とある。なんとまあ20年以上前ではないか。驚愕。わりに最近のエッセイだと思ってたのに。

    村上春樹がプリンストンで教えていた頃のことが中心。当然のことではあるけれど、アメリカの状況もずいぶん変わったものだなあと慨嘆する。この頃のアメリカって、いろいろ問題はあるにしろ、自信と活気に満ちている感じだ。今やあんな大統領を選んじゃうほどだものなあ。

    日常生活のことがすごく詳しく書いてあるというわけではないのに、海外で暮らすということがリアルな実感をもって伝わってくるのが、村上春樹の文章の力。これはつくづくたいしたものだと思う。

    あと、ウンウンまったくそうだと深く納得したのが、ある程度年齢を重ねると、外国語(会話)習得にかける時間が惜しくなるという話。いや本当にそう思う。他にもっとすることがあるはずだ。流暢にしゃべることができるからって、それがなんぼのもんやねん。

  • 途中で文体が変わる。後半はいつもの先生。最初2編は明らかに堅い。この時期がちょうどグラデション時期だったのだなと推測。外国にあってもつねに日本を意識して威高くならないところが好感の秘訣。この辺が龍センセと違って。

  • 日本を離れて海外で生活すると気づくことーそんなことをまとめたエッセイ。



    印象に残ったもの(断片的に)


    そんなに勉強する方ではなかった。
    勉強しなかったからといって困ったことはなかった。(周りにはしないと困るとは言われたが)
    英語はもともと原書で読んでいた。
    国語も本を読むから、まぁまぁ。
    世界史は本を20回くらい読んでいたので、頭に入っていた。

    →これは結果論としての戦術なのかもしれないが、こうして、流れに身をまかせるとうまくいくこともあるんだなぁと思った。


    アメリカと日本のマラソンの違い
    →アメリカの方がフランク。


    アメリカで専業主婦は納得の出来ない答え

  • 村上春樹の作品は何冊か読んだが、はっきり言って僕にはピンとこなかった。だが、このエッセイは面白い。書かれた当時の時代の空気みたいなものがよく伝わってくる。今となっては歴史的な記述もあるが、それはそれとして楽しめる。村上作品がどの辺で評価されているかほんの少しだがわかった気がする。

全59件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

村上春樹(むらかみ はるき)
1949年、京都府京都市伏見区生まれ、兵庫県西宮市芦屋市育ち。早稲田大学第一文学部映画演劇科卒。大学在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺・千駄ヶ谷に開店していた(1981年、店を人に譲渡)。1979年にデビュー作の「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞。谷崎潤一郎賞、読売文学賞、朝日賞など数々の受賞歴がある。2006年にフランツ・カフカ賞、2009年にイスラエルのエルサレム賞受賞。ノーベル文学賞に最も近い作家の一人と言われており、毎年発表時期に日本国内でニュースになる。事実、村上春樹作品は全世界で翻訳されており、アメリカ・アジアでの評価がとりわけ高い。フィッツジェラルドやレイモンド・カーヴァーなどの作品の翻訳も手がけ、翻訳家としての仕事も高い評価を受ける。翻訳と創作活動を交互に行うことで、作風を変化させ、作家としての成長を続けている。新作が発表されるたび大きな話題となるが、近年は特別番組「村上RADIO」にてラジオDJも務め(不定期放映)、数々の名言も注目を集める。代表作に『風の歌を聴け』『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』。2019年7月31日に『神の子どもたちはみな踊る』が舞台化。アメリカのサックス奏者スタン・ゲッツの伝記翻訳を2019年8月刊行。2019年9月10日発売の『文藝春秋』10月号で「至るところにある妄想 バイロイト日記」を寄稿。

やがて哀しき外国語のその他の作品

村上春樹の作品

やがて哀しき外国語を本棚に登録しているひと

ツイートする