コリアン世界の旅

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 91
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062080118

作品紹介・あらすじ

美空ひばり、孫正義の涙の理由とは?その疑問から私たちの旅は始まった。日本、アメリカ、ベトナム、韓国、済州島、そして再び日本。旅の中で見えてきた韓国・朝鮮系の人々が日本で生きるということ。一番身近なアジアを知るための一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 本書を読むまで、在日コリアン=強制連行という負のイメージが強く、過去の話として深く考えることはなかったが、私達が考えている以上に「在日」は身近な存在で、強制連行だけで片付けられる話ではないことが分かった。

    執筆時からかなりの年月が経っているため、現在の在日が置かれている状況とギャップはあるが、日中戦争〜阪神・淡路大震災までの在日が辿ってきた見えない歴史を知るうえで必読。

    阪神・淡路大震災のときは関東大震災のような朝鮮人虐殺には至らなかったが、長年の変わらない構造(限られた職にしか就けず低賃金のため河川の側や木造の家屋に暮らす)により在日の死者の割合は多く、その後の経済復興にも時間が掛かった。

    民族とはなにか?国籍とはなにか?という問題が、南北分断により、より複雑な問題となっている。

    韓国=虐げられた国というイメージがあったが、韓国も日本が朝鮮戦争時にそうであったように、ベトナム戦争の特需で経済成長を遂げ、サイゴンで虐殺を行なっていた事実は衝撃だった。

  • ルポルタージュの最高傑作。マスターピース。現象の本質をストイックに探究し、本当に大切なことを簡潔にそして鮮やかに切り取って日本人に向けて語りかけている。まさに至高。

    ・韓国人であることをカミングアウトすると返ってくる「韓国人でも日本人でも関係ない」にショックを受けた。なぜ一緒に考えてくれないのか。そこに逆に隔たりを感じる

    ・韓国人であることを隠すために友達を家に呼ぶ際に祖母を軟禁した。友達が帰って様子を見に行くと首を吊ろうとしていた。祖母は若い頃からひどい差別を受けていて、今こうして孫に監禁されているのである

    ・なぜ在日はここまで民族にこだわるのか。それはそうでもしないとこの国では人間らしく生きられないと感じるから。自分ばかりでなく親や祖父の民族性をも否定することにつながる。

    ・こだわりを積み重ねないと人間としての普遍性は出てこない。ただこだわりがこだわりで終わると閉鎖性が出てくるので、こだわりながらも他者を受け止めていく視点と感性を持たないといけない。

    ・済州島もひどい差別を受けてきた。赤狩りの数合わせに何の罪もない島民が韓国軍に殺されていった。これは陸地民がもつ済州への差別意識が背景にあるとする。

    ・日本が戦争に敗れ朝鮮が植民地から解放されると、そのエネルギーが爆発し、戦前戦中の恨みを晴らすべく、日本人に乱暴狼藉を加え、労働争議や覚醒剤の密造などをおこなった。それまでの日本人との力関係が逆転したこの一時期の記憶が、高齢の日本人の脳裏に焼き付いている。そのせいで苦労をしているのが在日の2世である。

    在日問題に関する多くの疑問や謎が、さまざまな見地から綿密に分析されている。パチンコや焼肉の謎
    などアウトロー的な話には引き込まれたし、ルポルタージュならではの手に汗握る取材の様子は読んでいてこちらまでドキドキしてしまった。

    どうなんだろうね。戦争の記憶が薄れていけば、少なくとも今よりはお互い住みやすくなっていくんだろうかな。日本と韓国・北朝鮮を比較した時、お互いが持つマイナスの感情はどの程度まで次の世代に伝播していくんだろう。

    今の若者はそんなのくだらねーと表では言いながら、いざ在日が場面場面でしゃしゃり出てきたら徹底的にネットで叩きそうな気もする。それは逆にとても悲しいよね。陰ではそういうふうに思ってたんだ…なんてことになったら温度差の分、本当やりきれない。

    周りに在日がいないから分からんけども、自分の身内に仮にいても特に気にはならんな。家制度そのものがどうでも良いと思ってるし。だからといって在日のことを理解してほしいとか言われてしまうと、確かにちとめんどくさい。事勿れに越したことはないし…とかうだうだ考えてしまう。

    あと本文にあった「日本に在日がいることは、長い目ではメリットとして捉えることができる」というのは確かにそうだなと思う。日本人のベースとしての寛容さもあいまって、この後を背負って立つ人達に民族の排斥なんかできないでしょ。いろんな文化があっていいんじゃない?いろんな色の髪をした若者が当たり前に受け入れられてる社会なのだから。

    追記
    20210427
    金賛汀 「在日という感動」読了
    世代間で異なる在日の民族感情が共生に向けての糸口になると感じた。

    「現実を無視し在日朝鮮人の生活感覚からかけ離れた観念的な祖国志向、もしくは祖国追随の行動をとるこれら一世的発想が、在日朝鮮人社会の未来像を不透明なものにしてきた」

    ・民族学校は大学進学率の低さ、現代にそぐわない金日成主席礼賛が強要されており、生徒数が減少している。

    ・ロスにいる韓国人は、企業駐在員の子息の場合は本国に帰るために民族学校に進むが、移民としてきている場合は大学への進学が実質的に不可能で英語の勉強も十分でないため選ばれない。つまりほぼ在米韓国人学校のようになっている。民族意識を醸成する目的は果たされていない。

  • 図書館で借りてきた本。

    最初の方はあまり自分を在日と明らかにしていない人をわざと暴露するみたいな話でなんだか嫌だなあと思って読んでいたし、途中、在米コリアンとかベトナム戦争で戦った韓国人の話とか、この本になんか関係あるのかと疑問を感じつつ読んでいたが、それらが一気にまとまっていく最後にはなんだか涙が出て来て仕方なかった。

    確かにこの本が書かれた'95年頃は「在日」と言われてもなんとなく「差別の対象」や「触れてはならないもの」という印象があったのだろうが、今は比較的簡単に「在日の歴史」などに触れやすい部分があり(それはわたし自身在日に興味があって今まで何冊か読んできたということもあるだろうが)、この本に書かれている在日の置かれた環境や歴史などは既にもう知ってるよ、という感じなのだが、それでもこの本の優れているところは「これから日本人と在日(帰化した人も含む)はどうやってその関係を作っていくべきなのか」をきちんと提案しているところだと思う。

    ただ残念ながら、'95年以降現在に渡っては、在日の人にとってさらにひどい環境になっていっているんじゃないかと思うんだよね。それは在特会の存在だったり、社会の右傾化の問題だったり。在日の人と仲良く暮らしていきたいと思うわたしはやっぱり個人的に在日の友達を増やすんじゃなくて、この社会に訴えて行かなければならないんだと思う。この本には「在日はその恨を乗り越えてもっと日本社会に歩み寄るべきだ」みたいなことが書かれるんだけど、それを在日の人だけに押しつけるのはおかしいと思うんだよね(ってこの本を読んで誤解する人が出てこなければいいなと思うのだが)。やはりこの国で圧倒的マジョリティであるわたしたちも歩み寄らなければならないのだと、その感を強くした。

    ちょっと書きぶりが「これは誤解を招くんじゃ」とか「ここの部分だけ切り取られて在日の人が悪く思われるんじゃ」と思ったところが結構たくさんあるので、ちょっと危うい本かなと思ったり、上にも書いたけど最後の結論のところ「在日の人にとっては(著者である)日本人にはそう言われたくないんじゃないか」と思ったりもするのだけれどね。それってわたしの考えすぎだろうか。

  • 最初のにしきのあきら編は非常に面白かったが
    その後は、いま読むと平凡過ぎて…
    初版が1996年なので
    読む時期によって評価の変わるドキュメンタリーだと言える
    なので、2013年時点では
    3.o点

  • 昔むかし、"在日コリアンとの共生"をテーマに卒論を書いた私としては、非常に興味深く、ウンウンと唸りながら読んだ。
    この本が出たのはもう随分前なので、2010年の今は果たして状況がどれだけ進化しているのだろう、と常に想像しながら読んだ。

    「同化」ではない、「共生」のあるべき姿について、改めて考えさせられた。

  • 隣の国なのに、知らない事分からない事がたくさんある。
    ほんの少し、いろんなことがぼんやりとだけど見えた気がする。

    きっとここに出てきた色んな事件、見方によっては又
    全く違った様相もあり得るんだろうな。
    もっと知りたいような、知りたくないような。

  • 1997年第28回大宅壮一ノンフィクション賞&第19回講談社ノンフィクション賞受賞。
    日本、アメリカ、ベトナム、韓国、済州島、そして再び日本。
    旅の中で見えてきた韓国・朝鮮系の人々が日本で生きるということ。
    一番身近なアジアを知るための一冊。

    なぜ、美空ひばりは「悲しい酒」を歌うたびに、涙を流したのだろう?
    なぜ、孫正義・ソフトバンク社長は「毎日経済人賞」授賞式のスピーチのさなかに突然声を詰まらせて絶句したのだろう?
    「蒲田行進曲」の銀ちゃんは一体誰だったのだろう?
    映画「月はどっちに出ている」でのせりふの中に隠された意味とは何だったんだろう?

    「紅白歌合戦」もプロ野球も、彼らがいなくては成り立たない。
    著名人に限らず、私たちは毎日、知らぬまに大勢の韓国・朝鮮系の人たちと出会っている。それなのに、なぜ日本人の目には彼らが見えないのか。どのようにして見えなくされてきたのか。
    一番身近だけど、一番見えにくい存在である在日韓国・朝鮮系の人々。

    この謎を解くところから、私たちの「コリアン世界の旅」は始まった。そして、「不可視」が「可視」になった時、私たちのすぐ隣にある「コリアン世界」は、いったいどんな姿を現したのだろうか――。

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著者プロフィール

野村/進
1956年、東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科中退。78~80年、フィリピン、アテネオ・デ・マニラ大学に留学。帰国後、『フィリピン新人民軍従軍記』で、ノンフィクションライターとしてデビュー。97年、『コリアン世界の旅』で大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞をダブル受賞。99年、『アジア新しい物語』でアジア太平洋賞を受賞。現在、拓殖大学国際学部教授もつとめる。主著に『救急精神病棟』『日本領サイパン島の一万日』『千年、働いてきました――老舗大国企業ニッポン』。近著は『千年企業の大逆転』

「2015年 『解放老人 認知症の豊かな体験世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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