蒼穹の昴(下)

著者 :
  • 講談社
4.16
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本棚登録 : 1329
感想 : 155
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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062080392

作品紹介・あらすじ

落日の清朝には領土を分割せんと狙う列強の牙が迫っていた。科挙進士の友とも別れ、西太后の側近となった宦官の春児は、野望渦巻く紫禁城で権力をつかんでいった

感想・レビュー・書評

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  • 最高に良かった!
    本当に歴史はこうだったのではないかと勘違いしてしまうほど、激動の時代に絡み合う架空の人物と実在の人物が織りなす物語に没入してしまいました。
    最後にそれぞれの人生が見事に収まる伏線回収も見事!超オススメです♪

  • 読み終わり、悲しい、でも、満たされた気持ちになった。

    この本では、様々な立場の人が登場する。
    登場人物多すぎてどこから語ればいいかわからないけど、良い意味で感動して泣けた(かわいそう、という涙ではなく胸熱の涙)のは、王逸のラストだった。
    白太太から、生きなければならぬ、生きて龍玉のみしるしを悪鬼から守れ、おぬしはそのために生まれたのだ、と予言されていた王逸。
    袁世凱の暗殺に失敗して捕らえられ、もはや死を待つ身となったとき、下女として働く少女に文字や四書を教えた王逸。そしてその少女が、王逸の脱獄を手助けしてくれる。
    彼は将軍だったけど、武力ではなく、「学ぶこと」「知識を得ること」が自らを助ける・・・ということを実践した人物ではないだろうか。自分の死を前にして、子どもに力を与えたいと行動する王逸、彼もまた、人のために尽くす者だったのだ。
    彼は、彼自身を生かすために捧げられた命について、きちんと理解していたと思う。そんな彼が、賢く優しい少年に出逢って命を救われ、師としてその子の家に招かれる(なんと、その少年こそ、毛沢東!)。
    人柄も良く能力もある人なのに、なんとなく追いやられている不遇な感じのしていた王逸。彼に、こんな胸熱の展開がラストに待っていたとは。
    更には、「こうして歴史がまわっていくのか」という、実際の未来を知る読者にとって、歴史小説特有の感動だった。

    あと心に残った人物は、玲玲だなぁ。
    西太后の側近として出世した春児の妹。物語のラストでまだ18歳だから、この物語では5歳くらい~18歳までが書かれていることになるのだろうか。
    結婚する予定だった譚嗣同が処刑され、文秀とともに日本に渡ることになった玲玲。
    私が思うに、なんだけど、やはり玲玲はずっと文秀が好きだったのだろうと思う。
    子供時代は文秀への慕情を隠さなかった玲玲だが、大人になり、自分の分というものが理解して、ずっと心に秘めて隠していたのだろう。
    というか、そう考えないと玲玲がかわいそうすぎて読めない。
    日本に亡命する船の中で、文秀に殴られ、蹴られ、抱かれたあとに、死んだ譚嗣同に謝りながら泣く玲玲。
    あれは、譚嗣同を裏切ってしまったことへの涙だけではなく、文秀への慕情、恋心を断ち切れなかった心の裏切りへの涙だったのではないだろうか、と思いました。
    文秀は、皇帝への最後の手紙で「人民に施すのではなく、人民に尽くす必要がある」と書いていたけど、「尽くす」ということを体現しているのが、まさに玲玲だ。
    文秀は玲玲から「尽くす」姿、耐える姿を教えてもらったのだと思う。
    そして、尽くすことは、「愛」に裏打ちされた行為だ。
    人民への愛をもって、人民に尽くすこと、これが、文秀の辿り着いた改革の結論だったのだろう。
    科挙第一等で合格し、将来国のトップになることが約束されていた文秀。
    その文秀が、学もない糞拾いの少女とその婚約者から、大事な人生観を教えられたこと、その素朴な結論が、科挙制度の闇を訴えいているようで、清国の根本的な間違いを痛感したんだ。

    李鴻章→西太后→栄禄
    という老齢の三角関係、歴史の裏ロマンス。
    これもこれで、胸が熱かった。
    李鴻章、いい男すぎるよ。なんで西太后様は、栄禄を好きなんだよ。
    少女時代の恋をいつまでも引きずるというのは、西太后と玲玲の共通点か。それとも浅田次郎先生が思う「女性像」としてたまたまそうなっただけなのか。
    かたや清の大権力者と、かたや糞拾い出身の少女。人間の業というか、女の悲しさというか。
    玲玲のほうが、文秀と日本で自由に一緒にいられるだけ、女としては幸福なのかもしれない。
    玲玲と西太后を対比することで、「歴史の中に巻き込まれなければ、西太后にも、玲玲みたいに好きな人と将来があったもしれない・・・」と考えてしまい、西太后という歴史の責任を負う西太后の悲しさ、守るべきものの大きさが、より浮き彫りになった気がする。

    それと、やはり主人公の春児のことも外せない。
    宝を求めて宦官になった春児が、他の宦官のためにお金を使い、自分のためには何も使わない、残さない。誰よりも命の大事さをわかっているから、命を救われた恩義を忘れない春児だ。
    春児は、白太太からは「夢」を与えられ、西太后からは「蒼穹」を与えられた(ネックレスをかざして蒼穹が見えると言うのは、オシャレじゃないか)。
    でもそれは、きっと「施し」ではないと、私は思う。
    白太太も、西太后も、「かわいそうだから施してあげよう」という思いではなく、春児にそれらを与えたくて、与えずにはいられなくて、与えたんだ。
    春児が彼女たちに与えられ導かれたように、誰かがまた誰かを導くことがあるもしれない。王逸の話に通じるけど(どんだけ王逸好きなの、私・・・)。
    ラストは、そういう人生の夢というか、無限さを感じた。
    王逸が子らに教えた「宇宙は洪く(ひろく)、荒しない(はてしない)」のように、人生も広く、はてしないのだ。

    「蒼穹」は、誰の心の中にもあるのだろう。
    それぞれの「正義」「大義」「守りたいもの」。
    改めて、登場人物の数だけ、生き方、人生があるのだ。
    本書で悪者として書かれている栄禄や袁世凱にだって、彼らにとっての守りたいものがあったのだ。それが「自分の富」「自分がえらくなること」というものだっただけで、彼らは彼らで必死に生きたのだろうと、私は思った。
    でも、必死に生きるだけでは、やはりだめなんだ。
    人への思いやり、優しさがなければ、美しくない。そんなことを思ったのでした。

    • hibuさん
      サマーさん、おはようございます。
      初めてコメントさせていただきます。
      物語同様の胸熱レビューに引き込まれてしまいました!サマーさんの感想にう...
      サマーさん、おはようございます。
      初めてコメントさせていただきます。
      物語同様の胸熱レビューに引き込まれてしまいました!サマーさんの感想にうんうん頷きながら、読ませていただきました。
      これからもよろしくお願いします^_^
      2023/02/25
    • サマーさん
      hibu様
      はじめまして。コメントありがとうございます!
      この本はかなり熱く熱く、思いの丈を感想に書きました。なので、hibu様が私の書...
      hibu様
      はじめまして。コメントありがとうございます!
      この本はかなり熱く熱く、思いの丈を感想に書きました。なので、hibu様が私の書いた感想に共感してくださってとても嬉しいです。
      hibu様の本棚にも訪問させていただきますね。よろしくお願いします。
      2023/02/28
  • 清朝末期に生きた人たちに思いを馳せながら読みました。歴史の中にはいろんな物語があったのでしょうね。西太后についてはステレオタイプなイメージが覆されました。
    面白かった!この先も気になります。

  • 『中国の歴史認識はどう作られたのか』(東洋経済)という
    中国育ちの在米国際政治家学者、ワン・ジョン氏が書いた専門的な本を
    興味があるので、読みたいとは思っているのだが
    ちょっと難しそうで、いまだ手に取らず、積んである


    これまたぐっとくだけて、でも力作、浅田次郎『蒼穹の昴』を読了しての感想
    清国の末期、有名な西太后の執政時代の物語
    書き下ろしの当時(1996年)にもてはやされた本だけあって、さすがおもしろい
    でも、これって、それって中国のひとたちはどう思うんだろうねと考えた

    長い歴史、広い中国、その歴史上人物を物語にする日本の作家は多い
    司馬遼太郎、井上靖、宮城谷昌光など
    日本人がたとえ資料を読み漁り、読みこんだとしても
    想像し、創造するについての当然、違和感あるのだろう

    また
    本国ではそういう時代をどんな風に教えているのか、考えているのか

    やっぱり『中国の歴史認識はどう作られたのか』も読まなくちゃならないなあ

  • おもしろかった。泣ける。李鴻章がめちゃかっこいい。けど下巻は、なんかいろいろイラついた部分が多かった。慈禧と載湉の上手くいかん関係とか、無能の康有為とか、なぜかトントン拍子の栄禄とか、めっちゃ重要人物っぽかったのにどっか行ってしもた王逸とか、これまたどっか行ってしもた龍玉とか、何も言わずに妻を残して死ぬやつとか、急に荒れて急に反省する文秀とか、白太太の予言がすごいのか外れてんのかよおわからん感じとか、主人公が誰なのかわからん感じとか。かわいそうな人が多すぎた。

  • 地方の有力者の妾腹の次男、文秀。最貧の家の子、糞拾いの春児。
    都で試験にも合格し出世していく文秀。自ら男性性器を切って宦官になり、苦労して道を切り開いていく春児。
    そして、複雑で怜悧でもあり情もある西太后。
    この三人に様々な個性的な登場人物がからみあい、とても面白かった。
    史実とフィクションが微妙に混じり合っているのだろう。全部本とかもと思わせられるのは著者の力量が凄いのね。
    悪女としか知らなかった西太后が、とても魅力的。日本に亡命した文秀は、モデルとなった実在の人物がいるよう。
    清朝が衰退していく大きな原因になったであろう、科挙という高級官僚への試験制度は、リアルに丁寧に描かれていて興味深い。龍玉というダイヤモンドはどうやら作者の創造物のようだ。
    しっかしマダム・チャンが西太后の孫とはねえ!

  • 中国もので人物の名前に字があり、人物も西太后くらいしかなじみないしすごく読みにくい・・と思っていたけど、キャラがたっているし、何より面白いので楽しく読めました。

    浅田次郎さんは大変文章がうまいとのことで
    以前から読んでみれば?と勧められましたが本当ですね。

    物の見方を変える、頭の体操にもなります。

    自分を成長させる、強くするヒントがこの小説には沢山ちりばめられています。
    「幸せ」についても同じことがいえます。


    「康有為は、改革は自強であると言った。まさにその通りである。自らを悟り、自らを鍛え強めることのほか、改革は有りえない。外国の侵略とか、天変地異とか、そうしたものは自己の改革とはもっぱら関係ない、いわば人間を取り巻く環境の一種であろう。」400p

    特に史了が日本へ脱出する辺りから手紙の部分に凝縮されています。
    史了は、難しい科挙試験に合格して月日をも動かす進士になりましたが、自分という人間とその立場を本当に理解し、悟ったのは全てが終わった後でした。

    自分自身の生れ落ちた境遇に甘んじていないと思っていたようですが、実際は与えられた身分に何の疑問もなく、目の前にいる献身的な侍女もまたそうすることに何の疑問もなく身を投げ出していることから気づいた場面は感動的でした。



    丁度「八重の桜」で会津藩士たちが維新をどう生きたか描かれていたのもあって、読書の助けにもなります。
    また占い師もキーパーソンとして出てきます。見ただけでどんな運命をたどるのかわかるようなそんな占い師がいるなら便利ですが、運命を変えること、運命にさからえないこととはなんだろうと改めて考えさせられました。

    ベネツィアから布教のためにやってきた宣教師とベネツィアに残って名を成した芸術家の手紙のやりとりや、外国の記者たちのエピソード。
    王逸を逃がした少女の話など、いろんな話が交じり合うのですが、それがまたしっかりまとまっていて読み応えがあります。

  • どこまでが 史実 だとか そうでないとか
    そんなもの どうでもいいや
    と おもわせてもらえるほど 愉しませてもらいました

    一気に読んでしまうのはもったいない
    途中で 今日はここまでにしておこう
    と 次の愉しみのために栞の紐をはさんでいたのですが
    やはり 気になって
    いつのまにか また 手にしている

    噂には聞いていたのですが
    それ以上の満足感、読後感を持つことができます

  • やっぱり、
    運は自分次第
    と勇気付けられました。

    • maria888さん
      強く生きていく勇気をもらいました。
      強く生きていく勇気をもらいました。
      2009/12/30
  • とても面白かったです。
    またこの辺りの歴史背景を勉強してから読んでみたいです。

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著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

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