現代日本のリベラリズム (Kodansha Philosophia)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062081023

作品紹介・あらすじ

自由や民主主義は、本当に絶対的な価値であったのか。戦後日本を根底から問いなおす現代日本社会論。

感想・レビュー・書評

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  • 著者:佐伯啓思
    装値:蟹江征治
    内容:評論

    【感想】
     進歩的知識人をdisる保守派知識人という構図。佐伯啓思がリベラリズム陣営の主張を内在的に批判する。論壇誌に載せた各種評論を単行本にまとめたもの。文明論から憲法論議、愛国心まで幅広いので一貫性は薄い。しかし1990年代の主張を読めるので便利。
     本書の構成は、詳細目次を作ったので、ページ下部をみてほしい。十数本の論文を内容で大別してある。

     序文はひどい。地震災害もオウム真理教も「オウムを生み出す土壌は、いかにも現代日本的というほかない。」のように雑にまとめて、事故・災害をダシにしてる。それとも著者は新手の運命論者になったのか? 
     本書全体にある問題:①各議論の方向がおおむね恣意的(これ自体は大した問題じゃない)。
    ②いくつかの文では、展開が途中でも「戦後民主主義にはこんな欺瞞がある」と言えそうなら、そこで急に停まってしまう。オチをつけたつもりなのだろうが、かえって説得力が雑な新聞記事レベルに墜ちてしまう。
    ③著者はコミュニタリアニズムに属していると思うが、現代的なリベラリズムの下の制度の後に建てるべき、代わりとなる政治思想や社会モデルを吟味していない。代案が封建制でも共和制でも開発独裁でも、比較できなければ「現状を変えよう」とはならないのでは。
     著者は「序文」の末尾で「社会への信頼」の重要さを強調しているが、原因も対処法も直接言及していない(現代社会の不安や危機感について書き、それから戦後民主主義の瑕疵について書き、関連性を匂わせているだけだ)。この問題点は他の著作でも同様。
    ④現代日本のリベラリズムを離れて、「リベラル・デモクラシー」一般について論じる文もあるが、かなり省略気味。個人的にはむしろここが読みたかった。
    ⑤新自由主義(批判)の小テーマでも、新自由主義の定義づけが曖昧で困る(この論点は、後に佐伯啓思の弟子が指摘していた)。また、近代経済学(批判)に脱線することがしばしば。水野和夫みたいだ。
     なお「保守派の主張を点検する」のはそもそも本書の対象外。まあ佐伯啓思にとってはずっと問題外かもしれない。
     著者の総括が読める「ポストモダンは何を残したか」など、第III部は面白いので、ここはオススメ。他の部分は、『自由とは何か』(講談社現代新書)を読めば代えられる。


    【目次】
    目次 [003-005]


    序 信頼の崩壊 007
      問題の本質はどこにあるか  自然による無差別攻撃  オウムが培養された土壌とは  合理的近代市民社会への不安  政治不信と金融不安  政治不信と金融不安  改革が常に正しいわけではない


      I 近代への懐疑 021

    一 リベラリズム論 023
    「近代的リベラリズム」への疑問 024
      方向感覚を失った日本丸  なぜ今、規制緩和なのか  規制緩和で得るもの、失うもの  アメリカでの「経済学の壮大な実験」  レーガノミックスの矛盾  市場競争理論と戦略的経済の対立  意味のない「リベラリズム」の対立  市場競争神話の崩壊  資本主義のパラドックス  グローバリズム思考のあやまち  「市民」とリベラリズム  個人と国家をリンクさせるには  「新自由主義」との決別

    自由主義か、民族主義か 066
      力を失った「リベラル・デモクラシー」  普遍主義が生んだ民族主義  「経済的自由主義」への転落  理念のための戦いと祖国のための戦い  「徳」としてのリベラリズム 

    オウム事件と「自由の逆説」 086
      精神をもたないテクノロジー人間  神なき「現代人」の内面を支えるもの  人は生まれながらに不自由である  かくして日本人は自由を失っていく


    二 人権と憲法 101

    「基本的人権」は普遍か 102
      アメリカ人権外交の転換  アメリカ人権外交の転換  独立宣言は権利回復をめざす  神なき現代人に権利はあるか  「人間」が融解する時代  「共感」を背景にした権利


    「人権主義」という迷信 114
      「人権」のうさん臭さ  「人権宣言」への疑問  あくなき利己心の権利に  「人格」が不要になった  無残な単なる政治的運動 


    憲法の正当性とは何か 133
    1  
      国防の義務は、憲法の規定以前の問題  国防の義務は、憲法の規定以前の問題  軍事力と祖国防衛との結び付き  人権思想と「国民の総意」の矛盾  イギリスの「革命」・フランスの「革命」 
    2  
      「憲法の廃止」がなぜ憲法に盛り込まれないのか  受容されることと正当性をもつことは別である  日本国憲法を国民投票にかけたらどうなったか  「革命」の産物なのか、「歴史」の継続ゆえなのか  権利の根拠があいまいな日本国憲法  憲法の隠された作者アメリカ  憲法のロジックにより維持された天皇制  革命的な断絶と歴史的な継続を引き受けよ



      II 戦後日本の再検討 165

    一 戦争責任と国家意識 167

    「戦争責任」と国家 168
    1 戦争責任とは 168
      戦後世代の戦争責任  戦争責任と「国家のロジック」  ドイツの場合と日本  東京裁判と戦争責任  戦争責任の不明瞭さ 
    2 丸山眞男と戦争責任 180
      先行世代を裁くということ  丸山眞男の日本ファシズム分析  丸山眞男の位置  進歩派の自己特権化
    3 大熊信行の戦争責任論 193
      借り物の「争点」  丸山眞男の呪文  責任問題の次元  大熊信行の国家論  内省する精神の持続 


    「愛国心」について 206
    1 大態信行と愛国心問題 206
      大熊信行における愛国心  丸山眞男と清水幾太郎と「愛国心」  「親しいもの」としての愛国心  「隷従の精神構造」に堕した戦後
    2 デモクラシーを支える国民意識 217
      戦後世代の戦争責任論  戦争責任論と国家意識  ヴァイッゼッカーの「愛国心」  国家意識を喪失した日本 
    3 「自分を越えたもの」の喪失 228
      日本は核実験を批判できるか  ハベルによる平和運動への懐疑  「至高の価値」ということ


    二 戦後日本の知的状況 239

    戦後知識人の「あいまいさ」 240
      大江健三郎に見る進歩的文化人の典型  議論は封じ、護憲で糊塗し  大衆消費社会の形成にかかわりながら  進歩派改革案と重なる小沢構想  小沢以前に丸山が述べたこと  誰の責任も問えない日本型社会  「前近代ひきずる」日本と西欧の対比  自立した近代的大衆を主体に想定  林氏が指摘した米国社会学の代弁者  米国の間接支配に好都合な議論  ロストウの問題提起に限界示す 

    「四〇年体制」論を超えて 261
      議論を呼ぶF・フクヤマの新著  どこでも共通する市場経済はない  当事者の安定した関係こそ必要  「四〇年体制」論への危惧  むしろ「戦後進歩主義」の復活  絵にかいた「市民社会」はない  グローバリズムは均一化ではない  「日本型」を再創造する 

    ポストモダンは何を残したか 275
      驚くほど純粋な資本主義賛歌  閉塞に陥るのも当然  まったく無意味だったのか  袋小路からの出発 

    宗教の原理と市民社会の論理 290
      ヨーロッパに見る聖と俗とのせめぎ合い  踏み絵としての戦後民主主義  背後で主権者の行為を規制する神  市民生活に欠かせない宗教的なるもの  ヨーロッパの都市に結実した歴史の知恵  ヨーロッパの都市に結実した歴史の知恵 


    あとがき(平成八年二月 佐伯啓思) [305-307]
    初出一覧 [308]
    書名索引 [309-310]
    人名索引 [311-313]



      [初出一覧]
    信頼の崩壊 「季刊アステイオン」平成八年新年号
    「近代的リベラリズム」への疑問 「季刊アステイオン」平成七年新年号
    自由主義か、民族主義か 『諸君!』平成六年二月号
    オウム事件と「自由の逆説」(原題 「自由」のハルマゲドン) 『新潮45』平成七年七月号
    「基本的人権」は普遍か(原題 「基本的人権」は不変の原則か) 『発言者』平成六年八月号
    「人権主義」という迷信(原題 二十世紀最大の迷信「人権」) 『新潮45』平成六年十一月号
    憲法の正当性とは何か 『発言者』平成七年二月号
    「戦争責任」と国家(原題 戦争責任は誰の責任か、丸山眞男と戦争責任、大熊信行の戦争責任論) 「発言者」平成七年八月号、九月号、十月号
    「愛国心」について 「発言者」平成七年十一月号、十二月号、平成八年一月号
    戦後知識人の「あいまいさ」 「This is 読売」平成七年三月号
    「四〇年体制」論を超えて 「This is 読売」平成八年一月号
    ポストモダンは何を残したか(原題 ポストモダンの終り?) 『VOICE』平成八年三月号
    宗教の原理と市民社会の論理(原題 問われるべきは宗教の質) 『RONZA』

  • 私たちは「伝統負荷的な存在」である以外に存在の仕様が無い。
    「共同の偏見」をとりあえずは引き受けざるを得ない。
    あらゆる思考は、ある伝統的な思想様式の文脈の内部で行われ、その伝統の中でそれまで思考されてきたものの限界を、批判と考察を通して超越してゆくのである。

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著者プロフィール

1949年奈良県生まれ。東京大学経済学部卒業。滋賀大学、京都大学大学院教授などを歴任。現在京都大学名誉教授、京都大学人と社会の未来研究院特任教授。著書に『隠された思考』(サントリー学芸賞)『「アメリカニズム」の終焉』(東畑記念賞)『現代日本のリベラリズム』(読売論壇賞)『倫理としてのナショナリズム』『日本の愛国心』『大転換』『現代文明論講義』『反・幸福論』『経済学の犯罪』『西田幾多郎』『さらば、民主主義』『経済成長主義への訣別』『「脱」戦後のすすめ』など。近著に『「保守」のゆくえ』(中公新書ラクレ)『死と生』(新潮新書)『異論のススメ 正論のススメ』(A&F出版)『近代の虚妄 現代文明論序説』(東洋経済新報社)など。

「2022年 『ひらく7』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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