- Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062097956
感想・レビュー・書評
-
伏線の回収はされていて、最後にはスッキリとしたが、現世だけでなく、生まれ持った宿命や怨恨に左右されていく時代背景や誰も幸せでなく思えてしまう刹那が辛過ぎた。読みやすさはある。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
主人公の苦悩の描写が心に痛くとてもいい。いつまでも読んでいたくなる世界。
-
終わり方にほっとしました。
-
乙川優三郎のこの小説は、藩内のお家騒動と、それに巻き込まれた下級武士の悲哀や人間的成長を描いている点で、藤沢周平の「蝉しぐれ」との共通性を感じながら読んだ。
だが、読みすすむうちに「蝉しぐれ」とは違った味わいに、次第に物語世界へと引き込まれていった。
主人公は剣術で身を立てようと武芸に励む下級武士、瓜生禎蔵。
いずれは隣家の幼馴染、八重を妻にと考えていたが、ある日八重は親友の黑﨑礼助と共に姿を消してしまう。
その失踪の裏に家老暗殺というお家騒動の影が次第に浮かんでくる。
そして藩の政権交代にからんで剣術師範として取り立てられた禎蔵も、否応なく政争の渦に巻き込まれていくことになる。
「蔓の端々」という題名は、藩政をめぐる争いのなかで、無残に使い捨てられていく無名の人間たちのことを指している。
歴史の裏にはそうした人間たちの悲哀が隠されているのが常である。
だがそれは悲哀だけで終わるばかりではない。
懸命に生きることで人間的な成長を遂げ、揺るぎない生き方を見つけることもある。
主人公の瓜生禎蔵もそうした人間のひとりである。
悩み、苦しみながらも、過酷な運命のなかで自らの生きる道を見出していく。
「しかしそう悪いことばかりではないぞ、人間は締めつけられるほど強くなるらしい、中には潰れてしまうものもいるが、いつまた葛のように強い芽を出さぬとも限らぬ、世の中にはそういう人間がひしめき合っている」
こうしたセリフに作者の思いが込められているように思う。
切なさのなかに明日への力を感じさせる乙川節は、この小説でも十分に味わうことができた。