火怨 下: 北の耀星アテルイ

著者 :
  • 講談社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (486ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062098496

感想・レビュー・書評

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  • すごい作品だった。

     いつの時代も戦争は資源の争奪だったり、政権維持のための方便だったり、変わらないものだなぁと思って読んでいたが違うな、逆だ、これは。
     現代における主権同争い、資源の争奪、政治に利用される軍隊、大義のすり替え、戦争そのものの矛盾、愚かさ、etc.etc.を、残された記録の少ない古代史の、さらには攻略された側の蝦夷の側の歴史に、実に巧みに織り込んで練り上げた、壮絶なエンターテイメントだった。
    じっくり時間をかけて読んでよかった。

     大和朝廷が大仏造成のため多量の金が必要となり、陸奥を攻略しようという筋立て。これは近代史における石油争奪やEEZを巡る攻防と同じだ。
     蝦夷という外敵の恐怖を煽ることで民心を掌握しようという手法は、すぐ近隣のお国がよくやる手法だ(近頃、我が国もそれに近いものがあるが)。
     実に見事に古えの時代を舞台に、現世における矛盾や愚かな悪あがきを浮き彫りにしている。

     上巻、坂上田村麻呂の登場まで、公家上がりの名ばかりの征東大将に蝦夷が圧勝するシーンが続く。上巻の最後のほうで登場する坂上田村麻呂の存在も、単なる敵ではなく、時代と立場が違えば分かり合える同志的存在として描かれ、下巻で会いまみえることが楽しみでもあり、辛くもあり。
     下巻は坂上田村麻呂にかなり翻弄されるのかと思いきや、最後の最後まで蝦夷主導で戦局が推移するのが見事だった(ちょっと坂上田村麻呂が情けないくらいだ)。
     戦端を閉じるための阿弖流為たちの策略が実に見事で、読み応えのある大団円だった。

     和議(蝦夷側の表面的な降伏)後の都での話は史実に残るもののようだが、それを劇的に感じさせる筋立てに唸らされた。その英断は思いもよらぬものだった。

    「他の蝦夷を救うために自らが巨大な悪となって果てる」

     今、世界中で起こっている戦争も、こうした崇高なる思いを双方で分かち合って、終結させることは出来ないものだろうかと思わされた。
     
     途中、天鈴が語る、出雲と大和朝廷、物部氏の話も良かったなあ。古代史は実にロマンがある!!

  • 蝦夷の実力を知る坂上田村麻呂は蝦夷群の懐柔と切り崩しを始める.阿弖流為たちとの交流も描かれる.阿弖流為は最後までかっこ良すぎる.

  • 【火怨 下】 高橋克彦さん

    朝廷軍と阿弖流爲の軍隊が戦を始めて二十数年の間、
    圧倒的に数で勝る朝廷軍は蝦夷を見くびり数に頼った無策の
    攻撃を何度もしかけるが、その都度阿弖流爲率いる蝦夷の軍隊
    に敗北を喫していた。

    再三にわたる朝廷軍の攻撃を退け続ける阿弖流爲に対し
    帝はついに側近である坂上田村麻呂を征夷大将軍とし、
    蝦夷討伐の切り札としてとして陸奥へと遣わした。

    田村麻呂は朝廷軍では唯一蝦夷の実力を認めている将軍でもあり
    双方の犠牲者の数を考えて和議の道を探る将軍でもあった。

    しかし、和議を考えているのは田村麻呂のみで、他の将軍や
    公卿は蝦夷を蛮族と捉え、あくまでも力でねじ伏せるコトに
    固執していた。

    二十数年という年月は阿弖流爲にも新たな考えを持たせていた。
    自分たちが都の人間からは人として認められていないというコト
    から始めた戦ではあるが、二十数年という歳月の間には子も生まれ
    ている。その子が何故永きに渡り戦を続けているのか理解できない
    であろうという思いが阿弖流爲の心の中に芽生えてきていたのだ。

    そして、その子らのために、せめて大人になるまでの間は停戦を
    し、自らが「蝦夷とは何か?」というコトを考える時間を与え
    たいと考えたのだ。

    そして、その為には何をすればいいか?というコトを考え一つの
    結論に達した。

    彼は自らが悪人となり田村麻呂と対峙し、陸奥の平和を掴み取ろう
    とする。



    読みながら当時と今を比較し、いろいろなコトを考えた面白い本でした。
    この時代の戦は戦場で敵と合間見える肉弾戦。そのために兵を
    鍛錬しなくてはならない。そして戦術で地域戦に勝ち、戦略を
    進めていく。今は違いますね。ボタン一つで先に撃った方の勝ち。
    戦略なんて無い。1人の狂人がいるだけで世の中が終わりになる
    可能性がある。そう考えると危うい世の中だと思います。

  • 真のもののふに会えたか。舞台は平安時代初期の東北地方。強大な朝廷軍に対し少ない戦力で蝦夷の心を守った英雄アテルイ。反逆した賊徒とのイメージを大きく払拭する作品に仕上がっている。智徳体全て備えるアテルイと偉大なる将軍坂上田村麻呂と手に汗握る智の攻防。蝦夷の心を守るため和議を引き出す。自らを犠牲にして最後まで勝ち続けそして降伏。多分諸葛孔明でも見抜けぬ戦術。「戦って死ぬ者より生き残って種子を育てるものの方が重要な存在」ふかーい。東北3部作。後2作品も読まねば!

著者プロフィール

1947年岩手県生まれ。早稲田大学卒業。83年『写楽殺人事件』で江戸川乱歩賞、87年『北斎殺人事件』で日本推理作家協会賞、92年『緋い記憶』で直木賞、2000年『火怨』で吉川英治文学賞を受賞する。他の著書に『炎立つ』(全5巻)、『天を衝く』(全3巻)などがある。

「2009年 『To Tempt Heaven』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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