金と水銀: 私の水俣学ノート

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062111065

作品紹介・あらすじ

環境汚染の現場を訪ねて日本全国からブラジルへ、ベトナムへ。40年の研究成果を透徹した筆致でつづる入魂のエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • (2016.12.23読了)(2016.12.11借入)
    副題「私の水俣学ノート」
    医者としてのスタートの時点から水俣病と関わってしまい、生涯かかわり続けてしまった原田さんというイメージだったのですが、水俣病以外の公害病や薬害事件、鉱毒事件、鉱山爆発、鉱山採掘、等に関わることについて、国内・国外問わず、いろんなところに呼ばれたり、訪ねていったりしているんですね。
    いずれも、脳神経をやられることが多く、外見上は損傷がないように見えるので、企業や為政者からは切り捨てられてしまうことが多いようです。
    企業側の余計なことにお金をかけたくないという指向とそのために労働者が病気になったり死亡しても切り捨てればいいという考えの犠牲に多くの労働者がなっているという実態があります。
    原田さんは、このような労働者を何とか救いたい、と活動してきたようです。
    そのような活動のためには、政府のひも付きでは自由が利かないので、自費で動くか、同じ考えを持つ団体の協力を得るということです。
    一部、企業からの支援もあったりするようです。

    【目次】
    はじめに
    第1章 水俣病は予想できた
    第2章 二重の被害者
    第3章 水銀の長い旅
    第4章 金と水銀
    第5章 マンガンという差別語
    第6章 化学兵器か農薬か
    第7章 毒ガス島
    第8章 九州の山々で
    第9章 水俣からベトナムへ
    第10章 野辺山銀山の栄光と悲惨
    第11章 深刻な砒素の地下水汚染
    第12章 輸出された職業病
    第13章 カネミ油症は終わっていない
    第14章 子宮は環境である
    終章 水俣学の模索-あとがきにかえて

    ●チッソ水俣工場(18頁)
    原因は何か。最初疑われた伝染病はすぐ否定され、ある種の中毒であることはわかった。しかし、その原因物質は不明であった。それでも、もし何かの中毒であるとすればその原因はチッソ水俣工場以外に考えられないと誰もが思った。この1200平方キロの不知火海にはチッソ以外に海を汚染するような工場はなかったのである。しかも、患者が多発した水俣湾の奥にはチッソの排水口が口を開けていた。
    ●メチル水銀(26頁)
    水俣病発見の40年も前にすでにアセトアルデヒド製造工程でメチル水銀が発生して労働者の健康を障害し、環境汚染をも起こす可能性があることが明らかになっていたのである。
    ●美顔石けん(69頁)
    私たちが泊まった小さなホテルのおかみさんの頭髪水銀値は470ppm、その娘が80.0ppm、生後6か月のその男児が280ppmであった。彼女らが共通して美顔石けんを使っていることがわかった。原因は水銀入りの石けんであった。色が白くなるということで売り出されているこの石けんには約2%の沃化水銀が含まれていた。
    ●営林署による枯葉剤の散布(120頁)
    薬をまいたところでは小鳥や獣がいなくなり、魚がいなくなっていることを私たちはよく知っています。スス竹の根さえくさらすほどの強い薬ですから、人間に害がないとはどうしても信じられません。
    ●枯葉剤は塩より安全(123頁)
    塩より安全と言いながら1か月間、山に入るな、谷水も飲むなというのはおかしい。塩より安全なら、この場で水に溶かして飲んで見せてほしい。握り飯にまぶして食べてみてほしい。
    ●CS₂(二硫化炭素)中毒(182頁)
    日本でも1927年にゴム糊(CS₂を含む)を使用していた靴職人の中毒例が三宅鉱一によって報告されている。

    ☆関連図書(既読)
    「水俣病」原田正純著、岩波新書、1972.11.22
    「水俣病は終っていない」原田正純著、岩波新書、1985.02.20
    「水俣の赤い海」原田正純著、フレーベル館、2006.10.
    「よかたい先生」三枝三七子著、学研教育出版、2013.08.17
    「患者さんが教えてくれた」外尾誠著、フレーベル館、2013.10.
    「証言水俣病」栗原彬編、岩波新書、2000.02.18
    「水俣病の科学 増補版」西村肇・岡本達明著、日本評論社、2006.07.15
    「新装版苦海浄土」石牟礼道子著、講談社文庫、2004.07.15
    「天の魚 続・苦海浄土」石牟礼道子著、講談社文庫、1980.04.15
    「苦海浄土 池澤夏樹=個人編集世界文学全集」石牟礼道子著、河出書房新社、2011.01.30
    (2016年12月24日・記)
    内容紹介(amazonより)
    環境汚染の現場を訪ねて日本全国からブラジルへ、ベトナムへ。
    40年の研究成果を透徹した筆致でつづる入魂のエッセイ!
    いのちの価値とは何だろうか――
    「水俣学」とは人間の生きざまを問うまったく新しい学問である。
    現場には無限の事実がある。わからなくなったとき、迷ったとき、現場に行ってみるといい。必ず答えがある。しかし、権威者になると現場からますます遠くなってしまう傾向がある。そして批判を嫌う。(中略)
    現場に戻るということは実はあまりたやすくない。公式どおり、予想どおり、計画どおりには行かないのが普通で、面倒なことが多い。しかし、その事がその人を鍛える。私は現場から鍛えられ、教えられ、育てられた。そこで現場を離れまい、大切にしようとして、しばしば旅に出た。水俣は私の出発点であり、また終着点であった。――(終章「水俣学の模索」より)

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著者プロフィール

1934年鹿児島県生まれ。熊本大学助教授を経て1999年より熊本学園大学教授。胎児生水俣病、三池一酸化炭素中毒、カネミ油症など社会医学的研究を行う。また世界各地の水銀汚染や砒素中毒を調査。著書に『水俣病』、『水俣が映す世界』、『水俣学研究序説』ほか多数。日本精神神経学会賞、大佛次郎賞、アジア太平洋環境賞など受賞。

「2009年 『宝子たち 胎児性水俣病に学んだ50年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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