「即興詩人」のイタリア

著者 : 森まゆみ
  • 講談社 (2003年6月発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062118699

「即興詩人」のイタリアの感想・レビュー・書評

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  • 本日(2016/01/09)が公共施設からの貸借更新の期限で、既(すで)に更新してる(一回のみ更新可だった)から更新は?…不可!だけど?、その返却直前に覚えた!、 #トリビア を拡散するな?‥。cappuccino(カプチーノ)って、漢字で書くと?…尖帽僧(せんぼうそう)になる!らしいよ?‥。

  • かつてイタリアを訪れる際、『即興詩人』をポケットに忍ばせようと想いながら、近くの書店を何軒かあたっても見つからず、仕方なく、ゲーテの『イタリア紀行』だけをトランクに入れて旅立ったことがある。「あとがきに代えて」の中で、著者はアンデルセンの作品の中で、さほど有名でもないこの作品に鴎外はなぜ九年間も費やして訳し終えたのかという疑問を提出しているが、そう言われてみて、はじめて、「即興詩人」が、世界名作級の作品でないことに気がついた。鴎外の流麗な訳業あってはじめて、我々は、この作品の名を記憶しているのである。

    著者は地域雑誌「谷中・根津・千駄木」通称「谷根千」の名物編集者。安野光雅が鴎外の『即興詩人』の跡を訪ねて絵を描き、著者がそれに文を添えるという企画でイタリアを訪れたのが病み付きとなり、その後も何度もイタリアを再訪することになる。ローマは言わずもがな、ナポリ、ポンペイ、ソレント、カプリ、ヴェネチア、ミラノと挙げていけばきりがない。およそ、イタリアを旅する者なら訪ねたい街ばかり。それらの地を鴎外訳『即興詩人』片手に精力的に歩き回り、実に根気強く物語に登場する主人公ゆかりの建築、旧跡を突き止めてゆく。要所要所に引用される鴎外の華麗な筆になる『即興詩人』の文章が、絶妙の布置を得て、格好のイタリア案内となり得ている。

    それにしても、主人公アントニオの生家の位置を確かめるために必要なバルヴェリーニ広場の銅版画を、偶然テヴェレ河畔の古本市で手に入れたり、発掘中のため、滅多なことでは見ることの適わぬエルコラーナの地下劇場を特別に見学したりと、運にも恵まれている。もっとも、舟で入るのさえ剣呑なカプリ島の「青の洞窟」の中へ、主人公同様泳いで入るなど、著者の実証精神には恐れ入る。この気構えがあったればこそ呼び寄せられた強運でもあったろう。

    幼くして母に死に別れたアントニオは、親切な養い親の下で育つが、ある日有名な貴族を助けたのを契機に、その庇護下で学ぶことを得る。そこで、ベルナルドオを知り、生涯に渉る誼を通じることになるが、二人は美貌の歌姫を争って決闘沙汰を起こしてしまう。その結果、友を傷つけ女を失ったアントニオはローマを去る。歳月が過ぎ、ナポリで即興詩人として成功したアントニオの前に今は落ち目となったかつての恋人が現れ、実はアントニオの方を愛していたことを知る、というのが『即興詩人』の粗筋だが、波瀾万丈の物語の中にイタリア各地の名所を巧く嵌め込んでいる。

    鴎外の典麗を極めた名訳が、未だ訪れたことのないイタリアの地に思いを馳せ、想像だけで成し遂げられたことを知り、あらためて、その教養の深さ、語学の力を思い知らされた。また、有名な「命みじかし恋せよ乙女」という、例の『ゴンドラの唄』が、鴎外の訳した「即興詩人」の影響下にできたのではないかという著者の指摘にも驚かされた。因みに原文を引く。「朱の脣に触れよ。誰か汝の明日猶在るを知らん。恋せよ、汝の心の猶少く、汝の血の猶熱き間に」。鴎外の『即興詩人』がこの国の文学にどれほどの影響を与えたか、推して知るべし。

    いつか、またイタリアを訪ねることあれば、何を置いても、鴎外訳『即興詩人』の一巻、ぜひ携えたいものである。とはいえ、如何せん、名訳も今となっては、文学研究者でもなければおいそれとは理解しがたい。その意味で、この本は充分に鴎外の現代語訳としての役を果たしてくれるだろう。

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