ブラフマンの埋葬

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 947
レビュー : 212
  • Amazon.co.jp ・本 (154ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062123426

感想・レビュー・書評

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  • 小川洋子さんの本ばかり選んで読んでしまうのは
    このひとの、こんな色彩感覚にも似たこの文才にあるとおもう。

    ブラフマンという ネコなのか、犬なのか、はたまたイタチなのかも
    わからない「謎」の動物の存在が「僕」の家に傷を負ってあらわれる。

    小川洋子さんの文章によく使われるのだけれど
    このかたの文章には「いち個人」の具体的な名前をつけない。
    わたしは「私」であって、ぼくは「ぼく」
    少女は「娘」であって、ほかを「彫刻師」など職業で表現する。

    またその職業もうつくしいし、外国か日本か
    そんなことはどうでもよくて、そこの世界観に生きる「ひとびと」という
    存在がある。

    もっとも好きなのが今回のような「僕」の存在や語りかけかただ。

    「無理しちゃダメだ」
    僕は頭を撫でた。
    「君は怪我をしているんだ」

    喧騒の中で生きているのをわすれるこの時間の静けさと対話のなんとやさしいことだろう。「僕」の存在というのは決してしかりつけたりなどしない。
    けれど謎の動物のいたずらにも「これは机といって、本を読んだり、食事をしたり、手紙を書いたりするものなんだ・・」と説明をする。
    人はこの説明という作業にどれだけ心が救われるかわからない。
    ここに「愛情」というものをとても感じるのだ。

    どうしてこんな風にすてきな言葉をえらぶんだろう。
    小川洋子さんの世界というのは色彩のように生まれて、水彩のように水を多く含んでいる。鮮やかな色をぼんやりと描き、ときには油絵のようにねっとりとけれど、全体はやさしく物語る。

    ブラフマンの最後ですら、彼女は「僕」としての注釈をつけた。
    けれど最後の一文に、電車の中で涙してしまうのだった。

  • ブラフマン、かわうそかな?レース編み作家が一晩でブラフマンのおくるみを編んでくれたことが、なんだかうれしい。

  • 数時間で読めてしまった。やっぱりこの人の世界観が好き。奇想天外なストーリーがある訳ではないけど、心がスーッと落ち着く。

  • タイトル通り、いつブラフマンが死んでしまうのかヒヤヒヤしながらページを捲り……。
    そして予想通り呆気なく。
    小川洋子さんの描く男女の距離感、それがいつも微妙で美妙で息苦しい。

  • 文章の豊かさ。小川洋子の文章は優しい時間が流れます。
    ブラフマンの埋葬時、集まった人たちは、最初からブラフマンの埋葬のために創作者の家に訪れた。
    そんな気がしてならない。
    読んで良かったです。
    ブラフマンが愛おしい。

  • アーティストが集まる宿泊施設で働く主人公とそこでであったブラフマン(何かわからない動物)の話。

    ふわふわと頼りなく、何が書かれているわけでもないのになんだか特後に切なさと虚しさと悲しさと、ほんの少しの満足感がこみ上げてきた。
    ブラフマン、とても可愛かったのに、あっという間に違う世界に行ってしまう。
    私たちの世界も、気づいてないけどそうなんだろうな。
    なんだか無性に切ない気持ちになった。

  • 舞台は日本…のようできっと違う。ブラフマンも犬?とか思ったけど違う生き物。そして主人公の彼も、少年か青年か分からない。けどそんな情報は不要。ブラフマンと「彼」が出会ってからの、活き活きとして瑞々しく美しい日常。そしてその終幕はびっくりするほどあっけなく、あっさりしすぎて涙も出ない。余韻に浸ることもないけど、寧ろそれがいいのかな?と感じた一冊でした。何気ない日常に愛着がわきます。

  • 僕とブラフマンのひと夏のできごと。
    相変わらず美しい文体。

  • 久しぶりにこういう文学的な本を読みました。文章によって、現実から乖離した感のある静かで独特の世界が描かれています。ただ、フランス映画のように切り取られた時間から何を感じるか微妙なところもあります。

  • 「ブラフマンの埋葬」
    夏のはじめのある日、ブラフマンが僕の元にやってきた。朝日はまだ弱々しく、オリーブ林の向こうの空には沈みきらない月が残っているような時刻で、僕以外に目を覚ました者は誰もいなかった。


    サンスクリット語でブラフマン、それが彫刻師と僕で付けた名前。大勢の人々がやってきて去る創作者の家にブラフマンもやってきた、そしていつかブラフマンも去っていくと僕は思ったのだろうか。だから僕はブラフマンの石棺などを考えたのだろうか。


    これはブラフマンが僕の元にやってきて去るまでの夏の物語です。しかし、ブラフマンが死を以って僕の元から去ってしまうのは非常に残念です。それもブラフマンと意思を交わそうとしない娘と僕との一連の出来事を起因としているのも正直言って納得出来ません。さらに言ってしまうと、僕がブラフマンをそのまま置いていくとは思いもしませんでした。だって、ブラフマンはいつでも僕を必死に心配し、探し回ってきたではないですか。


    ブラフマンを認めていたのは彫刻師と僕だけだった気がします。彼ら2人と対照的な存在として挙がる娘とレース編み作家はまさしく人間だったのだと思います(そう考えると、レース編み作家は何故埋葬に参加したのかは謎)。


    ブラフマンの謎は次第に少しずつ明かされていきます。しかし、それでもブラフマンは一体何者だったのかまでは決して分かりませんし、声も僕が一度きり聴けるだけ。そんなブラフマンが最後に振り絞って出した言葉は何だったのか。


    ブラフマンが紡ぎ出す童話のような雰囲気に引っ張られる物語です。

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

小川洋子の作品

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