百年佳約

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062124218

感想・レビュー・書評

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  • 龍秘御天歌の続編。龍では朝鮮式の葬儀、日本式の葬儀を巡り、それぞれのクニの死生観やこれからも日本で生きていかねばならないという状況が絡み合い、コミカルと言えば言い過ぎかもしれないけれどそんな調子で葬儀の諍いが描かれていた。今作は前作で揉めた百婆と十蔵が出てくるものの百婆は死に、葬儀は土葬だったために朝鮮式の神になったという設定。そしてその神視点で物語が進む。前作は葬儀、今作は結婚。百年佳約=共白髪的な意味。窯焼きとして、朝鮮人として、誰が誰と結婚するのが適切かを巡ったどたばた劇。前作は対日本が重要な要素だったけれど、今作は日本の陶工をいかに利用するか、持ちつ持たれつに持ち込むかに切り替えられているし、一族のための結婚という制度に現代では当たり前の「恋愛」というイベントも発生する。たかだか数年で変わるものだなぁという妙な感心の仕方をしてじまった。嫁のどこにこだわるかは現在の韓国の整形技術の発展を彷彿とさせる。

  • 秀吉の朝鮮出兵で拉致され、九州皿山で龍窯を開いた陶工の長・辛島十兵衛こと張成徹の死後、朝鮮人として朝鮮式葬儀で送ろうとする妻・百婆と、参列する藩重臣や今後の生活を考え和式の葬儀を執り行おうとする長男・十兵衛の争いを描いた『龍秘御天歌』の続編。
    百婆は死んで神となり、山上の墓から一族を見守る。折しも下界では息子・十蔵がその子供たちの嫁取り婿取りをめぐり、日々思案を重ねていた。これまで通り仲間内で絆を固めるか、日本人と結婚して渡来の未来をひろげるか。可愛い子孫の「百年佳約」=結婚成就のため、百婆の活躍。
    と言いつつ。この神になった百婆、あまり力も無い割に捧げ物を飽食したり、何やら人間めいていて妙に可笑しいのですが。百婆の孫達(長男の2人の息子と娘、二男の娘)の結婚話はと言えば、孫たちのさほど深くもない想いに収まり、さほどドラマチックな展開は無い。その当たりはちょっと肩透かしです。
    やはり興味深いのは(その時代の?)半島出身の人々の生態というか風習。母が死ねば長い服喪、百日間は粥しか口にせず、毎日墓に通っては哭(号泣しながら声を出して哀しみを訴える)を行う。形式ではあろうが、それを貫く事によって自分の心を変えて行く。個より家を重視し(結婚は家がするもの)父母には絶対服従。逆に祭りとなれば女性はチマチョゴリで美しく装い飛び板(シーソー)で高く飛び、鞦韆(クネ=ぶらんこ)で舞い上がる。結婚前は人前に出ることさえ許されず大人しい娘が、結婚後は虎となって亭主をやり込める。そんな風習を描きながら物語に独特の雰囲気を作り上げて行きます。そこは見事です。そういえば中国雲南省を舞台にした『雲南の妻』や九州の離島の『飛族』、姥捨て山の『蕨野行』、廓を描いた『ゆうじょこう』など、村田さんの作品にはしばしば異界めいた重いバックが描かれますね。そこが村田作品の大きな魅力のようです。

  • 強制的に日本に移住させられた朝鮮陶工の一族の結婚の話。実在の人物をモチーフにした百婆の存在感は、その死後”神”になってからも健在。作中の人物を貫く思想は、家父長制と陶工の仕事が癒着していたり、結婚して実子を残さないと親不孝…という、少々現代の感覚からは遠いものであるが、その分かえって迷いはなく、”虎”のようにたくましく生きる女性たちの描写が面白かった。家父長制と仕事が融合していて地獄、という点ではGame of thronesに近いかもしれない。
    嫁の顔面の美しさと処女性に拘る男の描写が複数回あるが、これって現代の韓国にも通じているんだろうか?

  • 前作『龍秘御天歌』は葬式、本作は結婚が主題。渡来陶工の一族のグランドマザー格・百婆が亡くなり、本当に一族を見守る神になったところ、年頃の孫達の結婚話が持ち上がって、百婆は可愛い孫達の幸せのために生者達の結婚話にあれこれと手出しをしていく。
    渡来人の立場から、殊に渡来一世の百婆に寄り添う視点で描かれるため、渡来人と日本人の文化、習俗について、必ずしも相対的なものになっていない感じで、途中まで所々一寸もやっとする(のは自分におおらかさが足りないのだろうか?)。
    生きている者達の結婚のみならず死者の結婚まであったり、若者達の結婚も親の思惑からはずれてばかりで二転三転したりと、物語は面白かった。何やかやあったものの孫達全員幸せを得られそうでよかった、よかった。
    結婚式や結婚後の生活があっさりし過ぎてる感じで一寸もの足りず、その辺りもう少し描写してもよかったんじゃないかと思った。

  • 渡来した陶工たちが日本に根づき同族とだけでなく日本人とも結婚していく様子を百婆の視点から描く。

  • 「冬のソナタ」が日本では、異様な盛り上がりを見せているが、当の韓国では、なぜ日本でそれほど、あのドラマが受けるのか、理解できないというのが、本当のところらしい。主役の男優にしても、韓国では、人気ランキングの五位にも入らない。もっといい男優がいるのに、というのが韓国の関係者の反応だという。

    近くて遠い国、というのか、海峡をまたいですぐそこに位置するのに、日韓両国には、ドラマや俳優だけでなく、風俗習慣から、ものの考え方、食べ物の好みに至るまで、似ているところより、ちがうことの方が多いようだ。「韓流」という言葉が流行るほど、今、日本は韓国ブームである。違いはあっても、互いを受け入れられるようになれば本物である。ただ、そのためには互いの国のことをもっと知った方がいい。

    舞台は九州肥前の窯元。文禄の役で故国を離れ、日本に連れてこられた渡来人達も、一世の多くは死に、二世、三世の時代に入っている。「百婆」と呼ばれた朴貞玉も、今は墓の中。ところが、朝鮮では、死者は神になる。日本と違い華やかな死装束を着た百婆は饅頭墓の上から息子十蔵の来るのを待っている。親が死ぬと三年間は喪に服し、最初の百日間は粥しか口にすることを許されないのが、朝鮮の習慣。粥腹で、毎日墓参りをしなければならないのである。儒教道徳の強いところは、今と変わらない。

    百婆は怒っている。十蔵は、母親が死んだのをいいことに娘を日本人の嫁にやろうとしているからだ。十蔵にも言い分がある。同族婚を禁忌とする風習の中では、やがて渡来人の家系は先細りになる。新しい血を入れて、もっとこの国に根を張るのだ、と。あわよくばそれをきっかけに龍窯のますますの発展をと願う十蔵の思いとは裏腹に、妻や子は、また別の思いがある。いつの世も、子は親の思うようにはならない。結婚は、親が決めるという故国のしきたりに、日本で生まれた子は素直に従えない。

    朝鮮では、独身のまま死んだ男や女は、悪鬼になると信じられていた。顔に天然痘の痕が残る娘は年頃になってももらい手がない。悪鬼になるよりは死者との結婚をと勧められ、娘は悩む。結婚を前に死んだ男女は、死んでも死にきれない。死者となっても結婚をしたいと切に願う。一族の幸せを願って百婆の活躍が始まる。木と婚姻の契りを結ぶ木婚や死者との冥婚等、耳慣れない奇妙な風習が、次から次へと出てくる。

    しかし、それだけなら、他国の迷妄を笑う話になるだけだ。話者を渡来人にしたことで、彼らから見た日本人の奇妙さもまた、あぶり出される。夜這いをはじめとする性に対する節度のなさ、裸体を平気でさらし、素足でべたべたと歩くこと、粗食で、食べる楽しみを知らぬことなど、数え上げればきりがない。異なる習慣を持った二つの民族が、一つところで生活をしてゆく中で、摩擦を繰り返しながらも互いに融和していく過程が、「百年佳約」(結婚)を中心に食事や遊び等、彩りもあざやかに描き出される。

    村田喜代子を知ったのは、『人が見たら蛙になれ』という古物商を扱った新聞小説だった。実はそれまで、新聞連載小説を最後までまともに読んだことがない。加賀乙彦の『湿原』、中上健次の『軽蔑』以来の快挙だった。『百年佳約』も新聞連載小説である。同性婚という奇習を描いた『雲南の妻』もそうだったが、人物描写の巧みさと、見知らぬ世界を覗き見たいという読者の欲望を手玉にとる老練さは、今回も健在である。小説を読む愉しさを味わいたい人にお勧めしたい。

  • 『龍秘御天歌』の続編とも言える作品。
    前作は葬式、今作は結婚が中心。

    日本人は意外と上品な民族でもなかったようだ。
    私(達)が現在「日本人」と思い込んでいるものは実は武家文化が中心で、農家については知られていないのかもしれない。
    ルース・ベネディクトが「菊と刀」と称した気持ちが少し解る。
    美しくも苛烈で逞しい朝鮮人女性たちは読んでいて好感が持てる。

  • 『龍秘御天歌』の続編。前編でつれあいに朝鮮式の葬式を出してやろうと大活躍した百婆は、本編ではなんと神様になっている。朝鮮では、長生きして死んだ者は神となって子孫を守る役目があるのだ。というわけで、死んでからも、子孫たちが無事にいい相手を見つけて幸せな結婚ができるようにと、百婆は大車輪で活躍することになる。前作に続いて、朝鮮の民俗に触れつつ、異国で生きる陶工一族のつらさとたくましさを感じる作品だ。それにしても、幽霊になっても相手を見つけないといけないとか、相手が悪くても破談になったら木と結婚しなくてはいけないとか、なかなかに朝鮮の女性はたいへんなのであった。

  • 正直読み始めた時は「何でこれ読んでるんだろ」と思うぐらい自分の中では退屈で、「ドンナ・マサヨの悪魔」の人だから期待して読んでたんだけど…、と少し後悔しながら惰性で読んでました。
    けれど読み終えてふと思い返してみると面白い。面白いというより興味深くて良い本を読んだなぁと思えました^^
    今までページをめくる手が止まらない本が面白いと思っていたので、こういう面白さはすごく新鮮でした。
    秀吉の時代の終わり頃を背景に、渡来人の窯元の一家の結婚を巡る話なのですが、初めて韓国の文化に興味を持ったかもしれないです。一応韓国の血は入っているけど、韓国のことは全くと言っても良い程知らないからなぁ…
    日本の文化も素晴らしいけれど、庶民の生活まで優雅なイメージを持ってしまっていた私。考えてみればそんな訳ないのにね。
    正座って明治時代から入った文化らしい、ということを少し思い出しました。

  • とにかく大好きな話です。予約して購入して今まで年1くらいで読み返してしまっています。

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著者プロフィール

1945(昭和20)年、福岡県北九州市八幡生まれ。1987年「鍋の中」で芥川賞を受賞。1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年「望潮」で川端康成文学賞、1999年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞、2021年『姉の島』で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。ほかに『蕨野行』『光線』『八幡炎炎記』『屋根屋』『火環』『エリザベスの友達』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』など著書多数。

「2022年 『耳の叔母』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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