日の砦

著者 :
  • 講談社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062124836

感想・レビュー・書評

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  • 定年退職を迎えた夫婦を中心に、長男・長女、そして長男の婚約者の5名が登場し、10の小話からなる連作です。不安な気持ちに支配されている家族の気持ちが描かれていますが、少し不気味な面の強調が多く、暗過ぎる気がします。タクシー運転手とのしばしの邂逅は陰鬱で思わず惹き込まれました。

  • 群野家の日常に潜むもやっとした不安。
    登場人物は、夫・高太郎、妻・堤子(ていこ)、息子・夏男、娘・秋子の四人家族と、夏男の許嫁・美緒。

    ■祝いの夜
     家族水いらずの食事からタクシーでの帰途。
     還暦を過ぎた高太郎を老い先短いと言っては失礼だろうけど、そんな人の定年退職祝いに、子どもの動物で作られた料理を食べる残酷さみたいなのはあるかなあって思った。
     最後ちょっとした騒動が起きるが、家族みんながバラバラのほうを向いていたから起きたことなんじゃないか。そして、これ以降の作品では、家族四人が揃って登場することはもうない。
     タクシーの運転手は結局なんだったんだ。

    ■昼の火
     散歩途中で立ち寄った喫茶店で、常連達がうわさしていた人物「トクさん」。焼け跡から発見された焼死体を、高太郎はその人だと確信する。
     なんだかホラーだった。本当に焼死体がトライアスロンに挑戦しようかという健康な老人(?)トクさんかどうかは分からないけれど、トクさんだと確信することで喫茶店の常連と何かを共有してるような感じも受けた。

    ■日暮れの鍵
     堤子が締め出された斜向かいの家の老女・花子に声をかけたせいでなんだかめんどくさいことに。妄想と不安が膨らみすぎてそれは考え過ぎだって! と思うけど、なんとなく気持ちは分かる。
     ていうかさー、お礼くらい言えよな! と思うのですが(笑)

    ■午後の影
     夏男が美緒を連れて、母校を訪れる。かつては小学生だった夏男も大人になって結婚する。家族は変質していく。たくさんの記念樹は、卒業生がみんな老いて死んだ後も残り続けるだろう。

    ■冬の腰
     知る人ぞ知る老マッサージ師に治療してもらう話。老師、腕はよいようなのだが、なんと治療の途中で寝てしまうのだ。
     この老師に肩揉んでほしいようなほしくないようなー。

    ■家族風呂
     家族旅行で温泉へ。でも夏男はいなくて、母娘の女二人にちょっと疎外感があるような高太郎。勤めてた会社の人に似た女の人を見つけて妙に不安になる。確かに、プライベートで会社の人にあまり会いたくないな……。
     売店で見かけた老人が救急車で運ばれていく。恐ろしや。

    ■雨の道
     同期が亡くなり、香典を送るために郵便局へ向かう道中、近所の医院を捜すじいさんに出会う。なんとなく不気味なじいさん。
     「ああ、切ないなあ」は誰が言った言葉なんだろうか。

    ■耳と眼
     携帯電話、アウトレット。取り残される男・高太郎(還暦過ぎてる)。
     携帯電話が散らばった家族を引き寄せる道具になりえる……ような感じではない。

    ■家の声
     家にガタがくる話。それは群野家を象徴しているというより、住んでいる高太郎と堤子とダブる感じ。老い先短い、はやっぱり失礼だろうけど、そう長くはない彼らの未来を実感してしまう。

    ■空地の人
     いつの間にか花子おばあさんは死んでいて家が空地になっていた。こういう未来は、群野家にも必ず来る。

     しぶいぜ黒井千次。ヤングアダルト(YA)ではなく、エルダーアダルト? て感じ。

  • 切なく残る余韻が何とも言えない。日常の些細な出来事なのだが、恐ろしくもあり、哀しくもあり。何もないような顔をしていても、本当は誰しも内に抱える闇がある。寂しいし、不安だし、切ないし、いろいろな黒い感情はあるけれど、生きていかなければならない。そういう普通の人間を描いた作品。

  • 定年を迎え、都心へばかり向かう自分から 住まいとする郊外の些細なことに目を向ける自分となった高太郎。その目に映るものは 穏やかな日々の中にそこはかとない違和感や不安を抱かせる。
    変わったのは自分なのか それとも周りなのか。しあわせなさみしさを感じさせられる些細な物語たちである。

  • 定年退職した群野家の普通の日常が10篇に書かれている。
    普通の日常のことなのに 黒い幕に覆われているような不安に駆られる高太郎の心。読むものの気持ちも不安にさせる。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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