群野家の日常に潜むもやっとした不安。
登場人物は、夫・高太郎、妻・堤子(ていこ)、息子・夏男、娘・秋子の四人家族と、夏男の許嫁・美緒。
■祝いの夜
家族水いらずの食事からタクシーでの帰途。
還暦を過ぎた高太郎を老い先短いと言っては失礼だろうけど、そんな人の定年退職祝いに、子どもの動物で作られた料理を食べる残酷さみたいなのはあるかなあって思った。
最後ちょっとした騒動が起きるが、家族みんながバラバラのほうを向いていたから起きたことなんじゃないか。そして、これ以降の作品では、家族四人が揃って登場することはもうない。
タクシーの運転手は結局なんだったんだ。
■昼の火
散歩途中で立ち寄った喫茶店で、常連達がうわさしていた人物「トクさん」。焼け跡から発見された焼死体を、高太郎はその人だと確信する。
なんだかホラーだった。本当に焼死体がトライアスロンに挑戦しようかという健康な老人(?)トクさんかどうかは分からないけれど、トクさんだと確信することで喫茶店の常連と何かを共有してるような感じも受けた。
■日暮れの鍵
堤子が締め出された斜向かいの家の老女・花子に声をかけたせいでなんだかめんどくさいことに。妄想と不安が膨らみすぎてそれは考え過ぎだって! と思うけど、なんとなく気持ちは分かる。
ていうかさー、お礼くらい言えよな! と思うのですが(笑)
■午後の影
夏男が美緒を連れて、母校を訪れる。かつては小学生だった夏男も大人になって結婚する。家族は変質していく。たくさんの記念樹は、卒業生がみんな老いて死んだ後も残り続けるだろう。
■冬の腰
知る人ぞ知る老マッサージ師に治療してもらう話。老師、腕はよいようなのだが、なんと治療の途中で寝てしまうのだ。
この老師に肩揉んでほしいようなほしくないようなー。
■家族風呂
家族旅行で温泉へ。でも夏男はいなくて、母娘の女二人にちょっと疎外感があるような高太郎。勤めてた会社の人に似た女の人を見つけて妙に不安になる。確かに、プライベートで会社の人にあまり会いたくないな……。
売店で見かけた老人が救急車で運ばれていく。恐ろしや。
■雨の道
同期が亡くなり、香典を送るために郵便局へ向かう道中、近所の医院を捜すじいさんに出会う。なんとなく不気味なじいさん。
「ああ、切ないなあ」は誰が言った言葉なんだろうか。
■耳と眼
携帯電話、アウトレット。取り残される男・高太郎(還暦過ぎてる)。
携帯電話が散らばった家族を引き寄せる道具になりえる……ような感じではない。
■家の声
家にガタがくる話。それは群野家を象徴しているというより、住んでいる高太郎と堤子とダブる感じ。老い先短い、はやっぱり失礼だろうけど、そう長くはない彼らの未来を実感してしまう。
■空地の人
いつの間にか花子おばあさんは死んでいて家が空地になっていた。こういう未来は、群野家にも必ず来る。
しぶいぜ黒井千次。ヤングアダルト(YA)ではなく、エルダーアダルト? て感じ。