袋小路の男

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 810
レビュー : 223
  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062126182

作品紹介・あらすじ

指一本触れないまま、「あなた」を想い続けた12年間。"現代の純愛小説"と絶讃された表題作、「アーリオ オーリオ」他一篇収録。注目の新鋭が贈る傑作短篇集。第30回川端康成文学賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 指一本触れたことがない男に18年間の片思い。
    純愛物?いえいえ、そんなきれいなもんじゃない。

    「袋小路の男」は自己憐憫に満ちた女の一人語りで、
    都合良くロマンティックに仕立てられた12年が綴られる。
    「小田切孝の言い分」は三人称語りで、
    18年間の男と女それぞれの本当の気持ちがあらわにされる。

    男は女に興味はないが、自分を特別扱いしてくれる
    その恋心を手放すのが惜しくて、中途半端に女の気を惹く。
    仕事も何もかも宙ぶらりんの男のプライドを保つのは、この女の存在だけである。
    女は完全に男の術中にはまり、新しい恋愛に踏み込めない体であるが、
    実のところ、終焉のない、このぬるま湯の関係が心地よいのだろう。

    ラストで、あぁ完全にドツボに嵌ったなと思った。
    仕掛けられた罠が、カチッと音をたてて獲物を捕らえた音が聞こえた。
    体を弄ぶよりより、心を弄ぶ方が罪深いのかもしれない。

  • 表題作と「小田切孝の言い分」は合わせ鏡である。

    一人称で淡々と描かれる「袋小路の男」
    男が自分勝手にふるまう理由なんてわからない。
    自分に興味がないのかと思えば、彼が出来た時だけは頻繁に電話をよこす。
    待ち合わせても平気ですっぽかす。
    男の気持はわからない。
    でも、私は男を追い詰めないように距離を取りながら、少しずつ居場所を作っていく。

    それに対して「小田切孝の言い分」とくれば、男の側からの一人称かと思いきや、交互に語られる同じ時間。
    小田切孝は決して大谷日向子の心をもてあそんでいるわけではないのである。
    決して恋愛感情があるわけではないけれど、それなりに気を使って大切にもしている。
    ただ、束縛されたくはない。

    そういう気持ちはわかる。
    けど、30過ぎても就職もしないで作家になる夢を追い、アルバイトをしながら袋小路にある家に母親と住む男。
    そんな男のことを、普通女性の方から見切りをつけるのではないだろうか。

    しかし彼女は、熱く男を求めない代わりに長く思い続けるのである。
    熱く求めなかったからこそ、長く思い続けていられたともいえる。
    それはある意味確信的に選択された行為であり、臆病であるとも強かであるともいえる。
    けれども文体はあくまでも穏やかで、少しだけ温かな気持ちで二人のこれからを思うことができる。

    それとは違い「アーリオ オーリオ」は、中学生の姪と独身の叔父の交流を書いたもの。
    一緒にプラネタリウムに行ったことから、叔父に心を開き、将来の夢などを手紙で綴る姪。
    それに対して人付き合いの苦手な叔父は、星のことしか返事に書かない。
    それでもつながるふたりの心。

    親ではない大人に、自分を認めてもらう誇らしさ、喜び。
    姪の気持になってそんなものを感じながら読んでいたら、突然下ろされる幕。
    娘の受験の邪魔はしないでくれという父の言葉によって。

    叔父と姪のあいだにだけ存在していた星。アーリオ オーリオ。
    恋愛じゃないんだけど、喪失の切なさが心にしみた一編。
    これ、好きだわ。

  • それでも、どうせ俺には判ってしまうんだが。


    恋愛に発展しない関係が、もしかしたら一番続くのかもしれない。

    でも、いつだって消滅の可能性があるから特別なんだとも思う。

    すきなひとと、なんにもないままで18年間。
    その覚悟が、私にはあるだろうか。

  • この作家さんの本ははじめてよんだ。
    主人公の視点で語られる表題作と、その相手の袋小路の男の視点から語られる『小田切孝のいいわけ』が入っている。
    そっけないフリをしたり、いっさい肉体関係に持ち込まなかったり、だけど、主人公が離れていかない程度につなぎとめようとする。この袋小路の男はなんてひどい男なんだ。そう思って次の話を読むと、この二人の関係がまったくちがって見えてくる。あんなに自分に自身がありなんでもできるように見えた男がこんなに人間くさい、情けない普通の男に見えてくる。しかし、そんな小田切孝がいとおしく思えてくるわたしも、どちらかというと袋小路の男を好きになってしまうたちなんだろう。

  • 「沖で待つ」もそうだが、絲山さんの書くたんたんとしていても絆の深い男女間がとても好きです。日向子ちゃんも小田切さんもそれなりにずるくて、テレながらもそれなりにお互いを大切にしてて。そのズルかわいさに読んでいてにやにやさせられる。

  • 純文学というのは正直体質に合わないのですが、たまに妙に心地よく読めてしまう人がいます。最近発見したのですが絲山秋子さんはその一人です。そもそも芥川賞取っているので発見もへったくれもないのですが、僕的には発見。
    本作は、一人の男と18年身体的接触が無いまま執着ともいえる関係を続ける女と、プライドを保つために、自分に執着する女を縛り付けておくために、細い希望をちらちらと見せる作家志望の男。
    表題作は女が出会いから10数年執着し続ける姿を描き、2話目は男と女がどう思いながら18年を過ごしていたかの対比です。こういうの結構イライラする性格なのですが、すっと水を飲むかのように受け入れられました。なんでだかは難しいので分かりません。性的な接触が無くてもつながっていられるという所が受け入れられたのかも。
    3作目のアーリオオーリオが一番好きでした。世間的にはうだつが上がらない叔父と、叔父を慕う姪との手紙のやり取りが可愛い話です。姪のほんのりとした恋心を感じてしまうのは僕だけでしょうか?

  • ★2008年7月4日 53冊目読了『袋小路の男』絲山 秋子著 評価B

  • ??袋小路の男、小田桐孝の言い分:袋小路の家に住む男との袋小路の関係。ハンサムな小田桐に激しく惹かれた日向子だが、話したりデートはしてもらえるものの、一貫して彼女にはしてもらえず。ストレートに迫っても日向子にはわからない理屈ではぐらかされてしまう。他の男に走れば察して頻繁に連絡してくるが、戻ってくるとまた素っ気なくされる。けれどもお互いの考えてることはだんだんとわかってくる。そして、もう一編で、小田桐側の言い分、日向子からすれば勝手な言い分が語られる。最後の背中を向けたところに、長い付き合いから喜んでることを感じ取るシーンがいいな、と思う。最後まで詰まらなそうだけど、ちょっとずつちょっとずつ距離を縮めて行く感覚。以下備忘録。あなたが持っている最後の担保はカッコよさなのに、そんなのはひどい、裏切りだ/もっとも豊かな愛は時の仲裁に服するものである/おまえと縁を切るつもりはないけれど、俺は本当にいろんなことを諦めているんだ。これで答えになるのかな/けど追い詰めたりしない。しずかな気持/??アーリオオーリオ:清掃工場に勤める、理系のこと、特に星座が好きな主人公が、中学生の姪をプラネタリウムに連れていき、そこから文通がはじまり。人との関わりが苦手な三十代といろんなことに疑問を持ちストレートにぶつけてくる十代のやりとり。しつらえはほぼ違うのに、理系の父と娘のやりとり、池澤夏樹「ヤー・チャイカ」似た、涼やかな読後感。「人間は何もかも説明しようとするが、宇宙空間に言葉や数式は転がっていない。」

  • 宮下奈都さんのエッセイで、絲山作品が好きと書いてあってうれしかった。マイベストはその時々で変わるけれど、本作が今のベスト作品と書いてあって、しかも未読だったので読んだ。
    それぞれの不器用なありようがなんともせつない。切り取り方(終わり方)が潔くって、自分が置いてけぼりにされたようで、後を引くなぁ。

  • 表題作のなんとも言えない、けどなんだか皮膚で分かってしまいそうな感覚。なんなんだろう。
    一番好きなのは、最後の一遍。
    この距離感がいい。終わり方がいい。

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著者プロフィール

1966年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。住宅設備機器メーカーに入社し、営業職として福岡、名古屋、高崎などに赴任。2001年退職。03年に「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞、04年に「袋小路の男」で川端康成文学賞、05年に『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、06年に「沖で待つ」で芥川賞、16年に『薄情』で谷崎潤一郎賞をそれぞれ受賞。他の著書に、小説『逃亡くそたわけ』『エスケイプ/アブセント』『妻の超然』『末裔』『不愉快な本の続編』『離陸』『忘れられたワルツ』『夢も見ずに眠った。』、エッセイ『絲的メイソウ』『絲的サバイバル』『絲的ココロエ 「気持ちの持ちよう」では治せない』などがある。群馬県高崎市在住。

「2020年 『御社のチャラ男』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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