授乳

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 265
感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062127943

作品紹介・あらすじ

その場限りの目新しさなら、もういらない。「文学」をより深めて行く瑞瑞しい才能がここにある。「こっちに来なさいよ」そう私に命令され、先生はのろのろと私の足下にひざまずいた。私は上から制服の白いブラウスのボタンを一個ずつ外していった。私のブラジャーは少し色あせた水色で、レースがすこしとれかけている。私はそういうぞうきんみたいなひからびたブラジャーになぜか誇りを感じている。まだ中学生とはいえ、自分の中にある程度腐った女があることの証明のように思えたのだ。群像新人文学賞・優秀作。

感想・レビュー・書評

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  • 村田さんのデビュー作を、ようやく読むことが出来ました。

    これまで読んだ他の作品と比較して興味深かったのは、何か他人事として気楽に読めない、ピリピリした感じが3つの短篇全てに漂っていたことです。シニカルな、クスッと笑える要素があまり感じられなかったというか。

    でも、逆に捉えると、ふざけているような生き方をしているように傍からは見えても、おそらく物語の主人公は、すごく真面目に人生を考えている。私はそう思いました。「授乳」の「直子」が蟻を踏み潰している場面もそうだし、「御伽の部屋」の「ゆき」にしても、別の居心地の良い世界にいたが、自分でどうにかなると気付いた瞬間の行動からの、見違えるような変貌ぶりには、爽快さすら感じた。

    そして、もう一つの作品「コイビト」の、「美佐子」は凄かった。主人公の「真紀」を完全に飲み込んでしまった存在感。小学生にして、いったいどんな人生を送ってきたのか、すごく気になった。

    おそらく私が何と書こうが、好みが分かれるのは、確かだろうと思います。が、それでも、こういう真実もあると思うのですよ。アイデンティティは、人の数だけあると思うし、自分のこれまでの人生経験から、この作品も分かるつもりでいます。

    最後に、特に印象に残った場面が、「御伽の部屋」の「正男」が、傘で植物の名前をひたすら公園の地面に書いていく姿で、自分の本当に行きたい世界へ行こうとして、もがいているけれど、どうにもならないだろうと、おそらく本人も気付いてしまった、そんな空しさ、切なさを感じました。見た目じゃないんですよ。

  • とっっっっっても好き。
    名前は知っていたのになぜ今まで手に取らなかったのか……文体も作風も世界観もどストライクに好き。

    デビュー作『授乳』
    潔癖な母親と、冴えない父親をもつ中学生の直子。
    家にやってくる家庭教師を蹂躙することに快感を覚えてしまった直子は、授乳を試みる。
    まずこのあらすじで一気に惹かれた。
    このはなしおける作者のとことん距離を置いた文章と、そこにある観察眼の鋭さには舌を巻きます。
    ここまで生々しくてえぐい家族に対する描写は初めて。
    圧倒的だった。完全に惚れ込みました。

    『コイビト』
    愛してやまないぬいぐるみとの戯れと心中。
    ゲンジツとは隔離された場所にある聖域のなかだけで過ごす恍惚と危うさのバランスが絶妙だった。
    なんだか童心にかえる思いがした。

    『御伽の部屋』
    これも読んですぐ好きになった。ひたすら自分のための完璧な自分を追い求める佐々木ゆき。
    藍色の扉を開いた先にある関口要二との楽園のような部屋、そこにひそむ二人の狂気と官能がたまらなかった。
    その一方でケンの部屋でのシーンにも鳥肌がたった。なにあの描写!ドキドキして熱そのものが私の中にも放出されたようだった。ケンは生きている、まぎれもなく。なんて健やかで恐ろしいんだろう。

    村田沙耶香さんすごいです。
    内向的な女の子を描かせたら抜群ですね。柔らかでいてじっとり暗いような文章と、他者に対するとことん鋭く冷静な観察眼が癖になる。
    酔っているような目眩がしているような読書ができた。

  • 感性の受容体そのものの村田さん。対人でありとあらゆることを感じてしまう人なのではないかと。いや対人だけでなく、景色、色、かたち、様々なものが意味をもって横殴りの雨のように身に打ちつけるのに耐えているのでは?
    ヒリヒリした文に親への嫌悪と慕情が押し込められてる。

  • 「授乳」
    難しい作品。多様な解釈ができる。母と父の関係、主人公と家庭教師の関係から、かみ合わないセクシュアリティの問題が垣間見える。家庭教師の過去の話は、その原因か。突如、健全さを発揮する母も少し怖い。主人公の少女は、いい意味でありがちで、これぞ人間の本性という気がする。

    「コイビト」
    自我と他者の問題。欠落は埋められない。

    「御伽の部屋」
    セクシュアリティと秘密の密接な関係。支配と服従の快楽。自分の二つの顔。支配と服従の転覆が自我を見いだす契機となる。しかし、そこに見た自我とは。。。

    3作品とも自我と他者の問題を扱っているように読めた。人間の深淵を覗いているようで恐ろしい。話しに出口がないのも、その恐ろしさを倍加している。現代の怪談か。

  • 後で知ったが、デビュー作なのか。村田沙耶香は世界観が一貫しているな。性への嫌悪感と違和感を独特な気持ち悪さ(褒めている)で物語にする人だな。村田沙耶香の性の見方を通して、私の思うあらゆる常識が揺さぶりを受ける。
    あと、なぜか抽象絵画を見ているような感覚になる。

  • 村田沙耶香デビュー作。
    デビューで、これだなんて、すごいなーと
    思いながら読みましたー。

    授乳
    コイビト
    御伽の部屋

    すこーし村田沙耶香ワールドがあるけど、
    今ほどって感じじゃない。
    表現の仕方はさすがって感じだけど、
    なんとなく物足りなさを感じてしまったー。
    もぅ、毒されてるな、自分。

    • shintak5555さん
      毒が欲しいんですね!毒がっ!笑
      毒が欲しいんですね!毒がっ!笑
      2021/07/17
    • ほくほくあーちゃんさん
      そうなんです。
      他の方の作品を読んでも、村田沙耶香ワールドを欲するんです!!
      沼にはまってますー笑
      そうなんです。
      他の方の作品を読んでも、村田沙耶香ワールドを欲するんです!!
      沼にはまってますー笑
      2021/07/17
  • 『授乳』
    『コイビト』
    『御伽の部屋』
     どれも、主人公は少女。現実世界にうまく馴染めてなくて、妄想に逃げ道を求める話。
     いやー、つきぬけて狂ってる。抽象的すぎて、ちょっとよくわからない。ねばねばしてる。生理的嫌悪感。でも、朝焼けを「血にオレンジジュースを混ぜたようなねぼけた朱色」なんて表せる?いろいろすごすぎて怖い。

  • 「授乳」
    言っていいのか分からんが、マジでそういうネタの小説だった……。
    ラストまで含めて、なんてーか残酷だな……。
    支配も被支配も、結局は虚しいんだよ。

    「コイビト」
    ぬいぐるみを恋人に見立てる女と少女のおはなし。
    自分より病んで患ってる少女を見て、女は…。
    このゾワッと感は既に村田沙耶香だな…と思った。

    「御伽の部屋」
    不条理な謎SMというか、奇妙な遊びにはまった謎のつながりを持つ男女は……。
    その果てに待っていたのは……。
    この転落感も、それもまた村田沙耶香節だ…。

  • 授乳 家庭教師
    コイビト ぬいぐるみ
    御伽の部屋 ある日助けてもらった男

    それぞれを指示し、自分の中に取り込み、思うように動かしていく主人公

  • コンビニ人間が面白かったので処女作を読んでみたがこれはダメ。こういう世界観は全く分からない。やたらと気取った言い回しの文章も鼻につく。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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