暁の旅人

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 43
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062128704

作品紹介・あらすじ

幕末の長崎で西洋医学を学び、維新に揺れる日本を医師として自らの信ずる道を歩んだ人、松本良順。新撰組に屯所の改築をすすめ、会津藩で刀傷、銃創者の治療を指南し、さらには榎本武揚に蝦夷行きを誘われる-。医学の道に身を捧げた彼の数奇な運命に光を当て、その波乱と孤高の生涯に迫る感動の歴史長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 江戸時代後期から明治期。長崎でオランダ人医官ポンペのもと、実践的な西洋医術を身につけ日本の医学の礎を築いた松本良順の生涯を追った小説。

    ポンペの授業を受けるも、通史は専門用語に通じていないためにうまく進まない。オランダ語身につけ、ポンペの言葉を理解してさらに医学の勉強を身につけていく。周囲の門下生にはポンペの「関連する化学や栄養なども系統的に学ぶべし」とする教え方に失望したものもあったようだが、良順はそれを受け入れた。

    良順の学ぶ姿勢、知識の深さのみならず、奉行所へ解剖実験のための検死体依頼をしにいくなど、交渉のうまさや積極性も素晴らしく、ポンペはこの日本人青年に医学会の明るい未来を感じただろうと思いをはせる。

  • 2014年12月13日
    新撰組と同じ頃の医師の話。長崎留学して医学を学びました。松本良順。順天堂の前身。

  • 江戸末期から明治に掛けてお医者さんやった人の話。
    お話っぽくなくって、少々つまらなかったりしたが、その人がいはったことがよくわかったお話。
    治療するってことと戦争をしてはること。
    いつまで経ってもどこかでそないなことがおこっている。

  • 松本良順の半生を追う歴史小説。

  • 日本の近代医学の功労者ともいえる松本良順の伝記小説。
    松本良順が主人公の歴史小説といえば司馬遼太郎の「胡蝶の夢」が有名だが、この「暁の旅人」もより伝記に近い小説として心に残る。

    私のような新選組ファンには、近藤や沖田の傷病を治療し、西本願寺屯所の衛生指導をし、山崎に応急処置の手ほどきをし、沖田をかくまい、旧幕軍とともに会津、仙台と転戦するなど、最後まで幕府に準じようとした奥医者として、愛着を持って知られている人だが、その生涯は、実直なまでに医療の先陣にたって粉骨砕身する一生だった。

    シーボルトの来日以来、優秀な蘭方医もでてきたが、あくまでも学問としての西洋医学であって、医療の技術は普及していなかった。松本良順は、長崎でオランダの軍医ポンペの指導を受け、実証的な近代医学を身につけた最初の日本人医師だ。
    ポンペに協力して日本初のヨーロッパ式の病院と医学校である「小島養生所」の設立に尽力し、設立後もポンペの助手として医学生の教育や市民の傷病治療にあたっている。記録では、ポンペが在任の5年間に教育した医学伝習生の数は133人、診療した患者は、14,530人にものぼっているが、この数字も実践的医学を学ぶために幕府やポンペを説得し尽力した良順がいなければゼロに近かっただろう。
    この医学伝習所が長崎大学医学部と付属病院の前身で、ポンペが最初に講義を行った11月12日は、現在でも長崎大学医学部の創立記念日になっている。

    江戸に帰ってからの良順は、将軍家茂の主治医になり、その臨終を看取り、幕府の海陸軍軍医制を編成して総取締になり、幕府崩壊後は、旧幕軍といっしょに会津にいり、野戦病院を開き会津の医師たちを指導して多くの傷病者の治療にあたっている。松平容保公は、決戦にあたって、良順に会津を離れるように諭す。良順を惜しんでのことである。
    仙台で、榎本武揚に蝦夷行きを奨められて逡巡する良順のもとに、土方歳三がたずねてきて江戸に戻ることを奨める。土方の言葉で江戸に帰ることを決心したのだから、土方は、日本の近代医学の影の功労者だろう。

    土方が説得したことは、良順の自伝にも書かれているので史実である。
    胡蝶の夢を読んでいた昔、土方の説得の言葉に、良順への敬意と死を覚悟している武人の虚無を感じていたが、今回、暁の旅人のこのシーンを読んで土方の言葉に少し違った意味を感じた。良順への敬意とその技術を惜しんで蝦夷行きを引き止めたのだが、同時に、彼にはもっと具体的なものがみえていたのではないか。

    ポンペは「医師にとって、身分の差も貧富の差も意味がない、ただ病人があるだけだ」といって貧しい人は無料で治療し、町人も武家も平等に治療していた。その精神は良順にも受け継がれている。新選組時代から良順のアドバイスを受けていた土方は、ポンペの教えを聞いていたのかもしれない。もしくは、良順の生き方にポンペの精神を見出していたのかもしれない。土方は、そんなに遠くない未来に戦が終わることを感じていただろう。ふるさと多摩の人々の安らかな暮らしが続いて欲しい。そのためには新しい政府には良順のような平等と博愛の精神をもって欲しいと思っていたのかもしれない。武家の出でないからこそ、よけいに平等と博愛の意味の重さがわかるのではないだろうか。

    江戸に帰り、投獄されたのちも、絶え間なく医学、医療に尽くしている。
    松本良順ほど、一般市民のために献身的に尽力した人はいないのではないか。それでいて、人のために活動したという押し付けがましさが皆無の人も珍しい。
    近代医療に尽力した一人の男の真っ直ぐな行動力を感じ、その尽力に敬服してしまう一冊だ。

  • 面白かった

  • 松本良順と新撰組。マンガ「風光る」にも登場。家庭的には寂しい人だった。

  • 2007.8.x 了/司馬遼太郎「胡蝶の夢」同様,幕末の医師・松本良順の生涯を描いた物語.前半は「胡蝶の夢」のダイジェスト版で,あらすじを淡々と語っているだけでまったく面白くない.ただ,「胡蝶の夢」で省略された,維新後の良順の様々な活躍が描かれているのが良かった.小説というよりレポートという感じの,事実の説明本という感じは否めない.

  • 蘭方医松本良順の話、話の店舗が早く、内容は分かるが読む楽しみはない

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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