天使のナイフ

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062130554

作品紹介・あらすじ

殺してやりたかった。でも殺したのは俺じゃない。妻を惨殺した少年たちが死んでいく。これは天罰か、誰かが仕組んだ罠なのか。「裁かれなかった真実」と必死に向き合う男を描いた感動作!第51回江戸川乱歩賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  •  この小説は社会派ミステリーの中でも、評価が高いと思う。
    それはこの作品特有の問題として幾重にも伏線が張り巡らされ、回収されていく様は面白い。

     物語は、カフェを営む主人公の妻が、中学1年生の少年三人にナイフ等で殺害された。被害者は、まだ生後間もない子どもに覆い被さるように亡くなっていたという。警察の現場検証に対して、主人公の桧山貴志が立ち合い、被害に遭う前に五百万円が通帳から引出されていることを知った。警察の捜査で、まもなく犯人は拘束された、といった内容です。

     主人公の疑問が新たな疑問を産む。予想は出来たが最後までどう決着するのかは分からなかった。

     少年犯罪の問題を扱った作品は多くあります。読了後、早速刑法41条を確認した。
    『十四歳に満たない者の行為は、罰しない。』と書いている。刑法上の責任能力がないものとして扱われる。法に触れる行為を行った場合には「触法少年」と呼ばれ、少年法が適用され警察の捜査対象からはずされる。11歳~13歳が凶悪事件を犯した場合、少年院に送致することができる、と書いていた。
    しかし、少年法六十条には『刑を終えた少年は、将来に向かって刑の言い渡しを受けなかったものとみなす』とある。少年の犯罪は『前歴』となっても『前科』にはならないということだろう。勿論厳罰は覚悟しなければならないが、死刑は有り得ない。国際法である「児童の権利に関する条約」37条によって禁止と定められており、日本はこれを批准しているため、国内法が改正されても死刑にはならない。

     未成年者の犯罪についての詳細は、被害者の求めに対しても少年Aなのだ。少年法の改正については厳罰派と擁護派が存在する。

     せめて被害者の家族は、何故という疑問が残らない制度にしてもらいたい。たとえ少年Aであっても、恨みの連鎖は防げないと思う。
     今回の読書は考えることが多かった。

    それでも読書は楽しい。

  • 殺してやりたかった、でも殺したのは俺じゃない。妻を惨殺した少年たちが死んでいく…

    少年は罪に問われない。初めて知ったけど加害者の情報を被害者の家族に知らせないとのこと。犯人の年齢を問わず家族を失う悲しみは皆一緒なのにと思ってしまう私は心が狭いのかな?

  • 目を背けたくなるような描写が何度も出てくるので、途中で読むのを断念しかけた。同じように思う人がいるかもしれないが、ぜひ最後まで読み切ってほしい。エピローグに至るまで様々な仕掛けが施されていて、非常に面白い作品。
    主人公が犯罪被害者のため「犯罪者憎し」が前面に出て、とても共感できるものの、作中で主人公が「逆に自分の大切な人が犯罪加害者になったらどうする?」と問われるシーンが印象的。難しい‥‥

  • 再読。読んだことを忘れてもう一度読んでしまった。この頃の薬丸岳は、まだ粗さがあるが、伝えたいことを必至に伝えようとする思いがわかる。
    少年法にまつわる悲しい犯罪の物語。妻を中学生男子3人によって殺された主人公桧山。今は4年前に起きた事件を忘れ、娘と共に過ごしている。そんな桧山の勤め先の近くで、当時の少年Bが殺された。警察は桧山を疑うが、さらに少年Cも電車のホームから突き落とされ、誰が犯人なのかと疑問に思っていると、当時の首謀者であった少年Aも殺害される。桧山は犯人に行き着くことが出来るのか。再読とはいえ、楽しく読めた。
    少年法を考えさせられた。と同時に、薬丸岳の情熱を感じる。

  • Aではない君と、と対になっているような作品。
    少年法について、被害者の視点から考えさせられる。
    ただそれだけじゃなく、物語が思わぬ方向に二転三転して、難しい内容だけどどんどん読み進められる。
    おもしろかった。

  • 図書館にて借りました。

    妻を少年3人に殺された、夫と残された娘。
    少年犯罪がベースで被害者家族目線で話が進みます。

    少年法に守られ、犯人の少年は「逮捕」ではなく「補導」しかも数年でまた、何事もなかったように生活が保障され未来がある。
    傷は癒えないが、未来の象徴の娘がいる。
    ひたむきに前を向く主人公。
    そんな中、加害者の少年のうちのひとりが他殺死体で見つかり事態は急変する。

    単なる少年犯罪のやり切れなさだけではなく、被害者も加害者も様々な過去があり「法」によって良くも悪くも守られている、ことに焦点があてられていてなるほどと思いました。

    妻の無くなった時の疑問点はいったい何処に・・?と思っていると散らばったヒントが一斉に回収されていって終盤はびっくりの嵐でした(笑)まさか無かったことになるのか?と思ったほど終盤でした。

    被害者は加害者であり、加害者は被害者である。
    そして少年法を一番憎んでいた自分が少年法によって守られてしまうと言う、皮肉な結果がまた良かった。

    低年齢による犯罪の多発する今、「更生」の真意が問われる今。
    何が更生なのか、贖罪なのか、考えてしまう一冊。

  • 狭い人間関係の中に事件がらみの登場人物が多すぎるのが、ちょいどうだとは思ったけど、ラストまでグイグイ引っ張られた。面白かった。

  • 感情的に一方を援護、断罪するのではなく感情に寄り添いながら主人公と一緒に迷いつつ前に一歩ずつ進んでいく構成が丁寧。そこに少年犯罪という重いテーマに作者自身が悩みながらぶつかっているような誠実さを感じ、勝手に好感を覚えながら読みました。
    一方でミステリーとしてもきちんと「謎が徐々に明らかになる」王道の楽しさがあって読みやすい。少々、少年犯罪が絡まり過ぎな気がしないでもないですがそこまで気になるものでもないかな。
    初めて読む作家さんで本作がデビュー作ということですが、物語の面白さはもちろん滲み出る真摯さもとても好きになったので他の作品も読みたいと強く思いました。

  • 2012.12.10
    2005年江戸川乱歩賞受賞。
    初めての応募で受賞作ということで読んでみた。

    妻を惨殺した少年3人のうち1人殺され疑惑の人となる主人公の桧山。
    殺したいほど憎い犯人ではあったが殺したのは自分ではない。
    残された娘を育てながらカフェ店長をし事件の真相に迫って行く。


    2005年の作品やけど、少年法についてなんとなくしか知らないあたしも、
    未成年というだけで保護される情報や形だけの更生施設(少年によるが)、加害者の人権もないようなマスコミの報道など、残された被害者家族のやり場のない思いは計り知れないと。

    二転三転する展開は読み出したら止まらなかった。
    ミステリーの内容以外で言うならば、登場人物たちが淡々としてるというかいまいち特徴がなくて、えっと誰だっけ?って思うことがあったかな。

  • 少年犯罪というよくありそうでとても難しいテーマをうまく描いていると思う。それなりにページも多いが一気に読んでしまうほど先の展開が気になりとても面白かった。

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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