僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062139175

感想・レビュー・書評

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  • 父親からの異常な教育。
    これじゃ思い詰めるのも仕方ないと思った。
    自分だったらと思うとぞっとした。

  •  事件当時、連日報道されたという奈良県で起きた高校生による放火殺人事件の真相に、独自に入手した供述調書から迫っている本。
     まず、既に何度となく言われているように、この著者が行ったことは明らかに被害者・加害者だけでなく、裁判所という厳粛な場の情報の秘匿性を侵害したものであり、弁解の余地は無いと非難されても無理のないことだと思われる。この本一冊を巡って図書館や書店、出版社に属する人達も苦労なされたことだと思う。
     それでも、「はじめに」で語られているように、「少年事件は発生当初こそ多く報道されるが全容には至らない。教訓を得ることもなく忘れ去られる」。こうして世に出てしまった以上、「得られるものは得よう」という考えで、この本を手に取った。
     
     この事件の最大の被害者は間違いなく(少年から見て)継母・妹・弟だ。しかし、この凶行に及んだ少年もやはり被害者なのだと私は思う。
     少年の父は「別れた妻を見返したい、医師の家系だから息子も」という自分の感情を、息子に厳しい勉強を強いるという形で見せた。親から子への一方的な気持ちの押し付けは、正直なところどこの家庭でも少なからずあることだと私も思う(この父も幼い頃は乾電池で叩かれ頭の皮を切ってしまうなど、厳しくしつけられたそうだ)。
     しかし、幼稚園に通っている頃から勉強がうまく進まないと「なんでそんなんできへんねや」と怒る、小学校一年生の通信簿の成績に文句をつける、辞書を顔面に投げつけたりお茶を顔にかける、シャープペンシルを顔に突き刺す、それも小・中学校の教師に直接注意をうけたにも関わらず止めないという、常軌を逸したしつけが本当に子のためになると思っていたのだろうか。

     亡くなられた継母の両親は、「筆者は他の取材陣と異なり正確に事件を伝えているから」と取材に協力したそうだ。
     これまでマスメディアに根拠のないデマを何度となく流された中で、「少年の持つ障害を心神耗弱という理由で責任能力を回避しようとする動きに否定的、だがこの障害の社会的認知を高める必要を感じている」というスタンスで記事を執筆した筆者に、「この障害を持つ子どもの更生をどう考えるべきかという素材の一つにしてもらえば」と娘の名誉挽回のために協力を申し出た心情は分かる。

     しかし、はたして本来入手不可能であるはずの供述調書を引用してまで、事件の真実が書かれることを想像していただろうか。インタビューの中で「これからも少年の父親との関係を続けていく」と語っていたが、知りたくもなかった真実(これまで振るわれた暴力の内容や、家庭裁判所で「ストレス解消のために暴力を振るうなど実父が抱える問題は大きい、三人への償いが不十分という理由で再び暴力を振るうことも懸念される、衝動性や攻撃性を考慮すると父親のほうが問題かもしれない」と決定を下されていること)をこの本によって知ってしまったのではないか、と考えてしまう。

     最後の章では、家裁で両親の離婚の経緯を知り「母親に見捨てられた」と少年は泣いていたが、実は警察の供述では実母は「夫が再婚したと知り会いに行ってはいけないと思った。いつか自分の元に来てくれることを楽しみに待っていた」と語っていたという、「どうしてこんな事件が起きてしまったんだ」と地団駄を踏みたくなるようなエピソードが綴られていた。

     最初に書いた文を繰り返す形になってしまうが、問題があまりにも多い本であることは否定しようがない。だが、得る物も多い本であった。

     余談ですが、以前どこかの質問サイトで「この事件の概要をウィキペディアで知りたいが見つからない」という質問を見たのですが、"奈良自宅放火母子3人殺人事件"と入力すれば見つかると思います。

  • この事件があった当時は日本にいなかったので、事件の報道などはほとんど見聞きしていない。だが、少年犯罪のルポなどを読むと、必ずと言っていいほどこの奈良の事件が引き合いに出されていたので、ずっと気になっていた。

    この16歳(当時)の少年は、もちろん放火して3人の命を奪った加害者ではあるが、同時に被害者でもある。
    少年を自分の所有物としてしか見ていなかった父親がすべての元凶だといって間違いないだろうが、経過を見るに、たぶんこの父親も同様の抑圧された環境の中で育ったのだろう。負の連鎖があったことは想像に難くない。

    少年は、昨今の少年犯罪でよく取りざたされる発達障害の一つ「広汎性発達障害」の診断を受けていた。
    私が誤解してほしくないと思うのは、アスペルガーや高機能自閉、広汎性発達障害など、発達障害そのものは決して犯罪を犯す原因ではないということだ。ただ、この障害の特性から、犯罪につながるリスク要因となりやすいこと、周囲の無理解がそれを助長することがあるのは事実。
    だから同じような悲劇を生まないためにも、是非、身内に発達障害者がいるという人だけでなく、一般社会でももっともっとこの障害について理解とサポートを深めてほしい。
    現に、正しいサポートを受け、彼らの持つ才能を発揮して社会で活躍している発達障害者だってたくさんいるのだ。

    少年が少年院を出て社会復帰する時、父親は息子を引き取ることを希望しているそうだが、そのためには父親自身の問題を解決させておくことが絶対条件だろう。
    この親子の行く末が案じられる。

  • 後に不当な情報流出で問題視されたといえど、事実のみを記載した調書から少年の言動・感情や当時の情景が真っ直ぐに伝わってきた。
    作者のいうよう、父に愛されていなかったわけではない。
    父も実母も継母も、彼を取り巻く環境全てに原因があったと思う。自分の子供が事件によって「広汎性発達障害」を発していたと知らされるのも空恐ろしい状況。
    「家族の在り方」を考えさせられる一作だった。

    ただ個人的には、父側の取材が行われていない点を踏まえてこれが真実とは言い難い。継母との確執(誤報)を覆す“真実の一部”を映した作品だと認識しておく必要がある。

    また「広汎性発達障害」という診断を、作者自身が賛同することについて否定はしないが、同じ特質を持って生活している人への配慮がもう少し欲しかった。出版されて数年経っているため当時の時代的な考えもあるかもしれないが、本作を読んだ人が広汎性発達障害=犯罪の可能性と考えないことを願う。

  • 父親が病的すぎる。少年が犯罪を犯すまでに、誰か一人でもあと一歩踏み出してくれていたら・・・と思わずにはいられない。これまで軽く家出をしたことがあるようだけど、ほぼ初めての反抗が今回の放火。こうなるまでにもっと違う反抗の仕方や拒絶の仕方を、なぜ模索できなかったのか残念でならない。偏差値の高い高校に通っていても「まだ子ども」だということなのだろうかと読み進めていくと、出てくる「障害」の問題。「ケーキの切れない非行少年たち」でも読んだけど、同じようなことだと思う。小さい頃からわかっていれば、もっと違う対処の仕方はあったかもしれない。難しい。

  • 誰が悪い?父親?祖母?教育とは、環境とは、障害とは。

  • これは少年の父親の問題で、何度も指摘されてきたのに改善できなかったことが悲劇の始まり。

    少年が東大寺という超進学校に通っていたからセンセーショナルに騒ぎたてられたが、似たような家庭は至るところにあると思う。

    幼少期はおっとりしていた少年が、有名進学校に通い平均的な成績をとり、友達とも仲良くしていた。それだけを聞けば素晴らしい。例え広範性発達障がいがあろうと事件がなければ順風満帆生活を送れたのではないだろうかと思うと少年の育った環境が残念でならない。

  • 2018年07月28日読了。

  • 2017.12.28読了
    子育ては難しい。親がダメでもしっかり育つ子もいればそうでない場合もある。また、親がどんなに愛情を持って接していると思っていても子供にとってはそれが重荷になる場合もある。多種多様である。
    子供は親の所有物じゃない。
    ともあれ、この少年は確実に不幸だ。
    逃げ場がない。子供にも大人にも男にも女にも逃げ場は必要だ。だからまた頑張れるのだ

    この父親は医師であった。現役の。。。
    こんな不安定な精神状態の医師が現場にいたことが恐ろしい

  • 時系列で調書を追って書かれているのでリアルさを感じた

著者プロフィール

ジャーナリスト・ノンフィクション作家。日本発達障害システム学会員。地方局アナウンサーからブルームバーグL.P.でファイナンシャル・ニュース・デスクを務め、独立。著書『少年A矯正2500日全記録』(文春文庫)など。

「2018年 『となりの少年少女A 理不尽な殺意の真相』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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