そろそろ旅に

著者 :
  • 講談社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (482ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062141338

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  • 有吉佐和子の『悪女について』で用いられたような、一人の人物を関係者の証言を用いて浮かび上がらせていく、という手法でもって、江戸時代の大遊郭、吉原の花魁を描いた『吉原手引草』(昨年の直木賞受賞作ですな)も面白かったけど、今作『そろそろ旅に』はそれ以上に痛快な歴史小説でした。
    時は同じく江戸時代。主人公は、武士の子として生まれながら商家へ婿入りし、しかしろくすっぽ働かず、ばかりか、ひょいと(肉体的にも精神的にも)旅に出てしまう重田与七郎、後の十辺舎一九であります。「とは言ってもね、普通に中学高校で歴史を教わっていても、十辺舎一九ってそんなに大きく取り上げられないから、それほど馴染みある人物ではなかろうて」そんな風に思う方、まあ一寸お待ちなさい。よく知らない人物であればこそ、読んでいて与七郎のダメっぷりは滑稽です。そして、故郷から与七郎に随伴してきた太吉が、そんな与七郎をなじるのが、また、可笑しい。故郷の静岡から、大坂、果ては江戸へ。浄瑠璃作者として活路を見出しつつあった与七郎の旅の終わりは一体いつになるのやら。

    酒見賢一の『ピュタゴラスの旅』という作品の中で、数学の祖とされる「ピュタゴラスは旅人であった」というくだりがあるけれども、あるいはこの十辺舎一九も本質が旅人だったのかもしれませんね。その放浪癖が後の代表作『東海道中膝栗毛』の弥次さん北さんにつながってくるわけですけども。ちなみに単なる歴史小説というわけでなく、ラストでは思わずおぉと言ってしまうような展開も。元々著者はミステリーものも書いていましたからね。そんな感じの急展開。

著者プロフィール

1953年京都生まれ。小説家。早稲田大学大学院修士課程修了。松竹株式会社で歌舞伎の企画・制作に携わる。97年『東洲しゃらくさし』でデビュー。『仲蔵狂乱』で時代小説大賞、『吉原手引草』で直木賞受賞。

「2018年 『作家と楽しむ古典 好色一代男 曾根崎心中 菅原伝授手習鑑 仮名手本忠臣蔵 春色梅児誉美』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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