ピカルディーの三度

著者 :
  • 講談社
3.09
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本棚登録 : 129
感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062142755

作品紹介・あらすじ

「おれは、おれの知らなかった恋愛を先生がくれると思った」音大受験を控えた「おれ」と「先生」のレッスンは排泄の儀式から始まった-論議を呼んだ表題作「ピカルディーの三度」を含む5篇を収録。三島賞作家が描く「愛と禁忌」の最新小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 熱望する人ではない相手と付き合っても感情は揺れない。
    相手と自分の差を感じて卑屈になる。
    自分を特別だと思いたいから相手の感情が揺れて爆発するところが見たい。
    思いが強くて言葉にならない。
    別々の個体だからお互いに求め合う。
    愛情は曖昧で定義化できない、そんな曖昧さを信じることこそが愛情なのかもしれない。
    読んだ時にはとてつもなく大きなことが書かれてる気がして、感想を書くと一般論に埋没してしまうような言葉が並んでしまう。
    読んだ時に感じる焦燥感は、一般論には埋没できないほどの差し迫った切実さを感じるから。
    もしかするとノーマルなものもアブノーマルなものも含めて一般論とはそういう切実さの集合体なのかもしれない。

  • 短編集。やはり表題作のインパクトが一番強い。主人公は音大受験を控えた男の子、和声を習うために訪れた作曲家の「先生(※男)」は、彼に洗面器で排泄することを要求する。BLな上にスカトロか!と一瞬ドン引きしかけますが、これが実際にはずっとプラトニック。彼らは抽象的な精神論しか語らない。最終的に先生の作曲した曲も、主人公が綴る文章も、自分の内部から出てきた排泄物=ウンコみたいなもんだという結論にいたって、なんとなくこちらも納得してしまった。

    他の短編も、なんだかわからないけど痛々しくて可哀想っぽい相手を好きになり、慰めてあげたいのかもっといたぶりたいのか自分がいたぶられたいのか、よくわからない屈折した恋愛感情を描いたものが多かった。個人的には「俗悪なホテル」が寓話ぽくて好きだったかな。

    ※収録作品
    「美しい人」「ピカルディーの三度」「俗悪なホテル」「万華鏡スケッチ」「女小説家」

  • 悲しいことに感情は完璧に伝わらないし受け取れないもの。感情の重み、温度、色、は受け取る相手の感情と勝手に融合され別のものになってしまうから。人は自己満足のために「好き」を必死に伝えようとします。でも言葉で伝えれば伝えるほど不安が募る。で、行き着くのが例の行為です。

    ----------------------------------------
    体は人の目に映るもの、心は深く潜って見えないもの。
    糞便はその両方だ。
    ----------------------------------------

    文学として描かれ見事昇華していました。自分の存在を承認してもらいたくて仕方がない、その欲求を言葉でないもので伝えようとする。努力する「僕」はとても意地らしく切なかったです。

  • 「美しい人」「ピカルディ―の三度」は感覚的に面白いと感じながら読めた。それ以降は読みやすさはあっても真意は難解だった。「美しい人」と「ピカルディ―」は男女、男男という違いはあれど相手に対して俗物な自分を卑下するかのような感覚に共通してる部分はあるのかなと感じた。なぜにウンコなんちゅう単語を…と思ったが読んでるうちにこの言葉がこの話の中で持つ意味が理解できた(気がする)から不快ではなかった。それにしてもあとは難解だなあ~、「女小説家」とか話は追えても意味わからんかった…。

  • 表題作目当てで。露悪的な文のものを集めたのかな。近親相姦であったりスカトロであったり。綺麗ではないもので愛の本質を語ろうとしているようでした。

  • 面白かった。もっとインパクトがほしい。

  • 短篇集。収録作の「万華鏡スケッチ」を再読したくて。他は初読。どの作品も好きだけど、どこが好きなのか説明するのがとても難しい。登場人物たちの突飛でいてまともな思考回路が好き(それだけじゃないけれど)。書くことや愛や性や信仰について、は難解で理解できないけど、それでも面白い。この作者にしか書けない小説だと思う。

  • まったく読んだことのない作家さんだったので、芥川賞受賞作を読む前に何か一冊、と思いタイトルだけで選んだ作品。確かに表題作は音楽(関係)のものではあったけど...観念的過ぎて私には合わなかった。どことなく山田詠美さんの描く世界を彷彿とさせたものの、当たり前だけど行き着くところはやっぱり違う。表題作以外には、時代や場所が特定できない浮遊感がある作品があったり、なんというか習作集を読んでいるような気持ちになる。

  • 「女小説家」がおもしろかった

  • とっかかりは変態的だけれど、すごい純愛物語でキュンとくる。

  • 素直に好きという気持ちを受け止めて、考えて行動する主人公には、すっきりとした気持ちよさを感じた。

  •  第29回野間文芸新人賞受賞作。表題作「ピカルディーの三度」は、音楽理論を研究する「先生」と学生の男同士の関係で、愛を伝える手段が糞便を見せることというガチBL小説で、なかなかすごい。

     思弁的な小説であることは変わりなくて、糞便は無意識まで含めた自己の全体の表象だけれど、言葉は意識的に選択された「見せたい自分」で嘘の自分なのだとしつつ、恋愛と語りの問題が接続されている。表象とメッセージ伝達がテーマなのだ。最後の数頁では一人称をめぐる思弁が展開されており、語りへの自己言及で締められる。

     鹿島田真希は、インタビューの中でもデリダなどに言及する知的な作家だが、この小説は柔らかな自我を持つ十代の青年を語り手とすることで、理念的なことがらを比較的生な状態で語ることを成立させていると言えるだろう。

     語り手の男の子が屈託がなくかわいいので何をやっても許されるという雰囲気がこの小説にはあり、なので糞便も理論の生な語りも「あり」という感じなのだが、その意味ではこの小説は鹿島田文学の楽屋裏を明かしているメタ小説になっているとも言える。

     他の収録作では、「女小説家」のラストが衝撃的。鹿島田は「書くこと」についての小説も多いが、この短篇もかなり突き詰めている。

  • 鹿島田真希にはまるきかっけとなった短編集。スカトロを扱った表題作もよいが、近親相姦をテーマにした「美しい人」がこれまたいい。

    妹の体内に蠢動するリビドー!それに駆動されて止まらない一人称!

    他に類をみない,洒脱に躍動していく文体が「技巧」よりも「情念」を感じさせる。

    リビドーに駆動されて爆走する筆。必見です。

  • BLでスカトロと言えば、おっとなるが、その手で期待するようなものではない。専ら「言語」だけで世界を紡ごうという意志、決意のようなものがこの作者にはある。ヌーヴォー・ロマン的なものに対する憧れ?

    「排便するおれをもっと見て。糞便はおれの中でもっとも原形に近い一人称の愛の語りだ」。これを言いたいがためにくだくだ独白が続く。中二病の典型的症例。

  • メッタ斬りで、びーえるすかとろ小説と紹介されており気になったので読んでみた。表題作は排泄行為っていうか排泄物から愛を語るというなんとも斬新な物語。が、そこには汚らわしさよりも美しさがあった。

  • いつの間にか読みたい本リストに入っていた本。

    ピカルディーの3度(未発売)

    って書いてあったから、どこで知ったのだろう?

    内容はほのかに野ばらさん的な禁忌や混沌が感じられるけど、野ばらさんの作品とは違って、自分が見てる世界とは違う世界で、理解しがたい作品。
    収まりが悪い、居心地が悪い、そんな作品群。

  • 『美しい人』
    十五歳。それはわたしにとって、
    女として汚れることの始まる年だった。
    ショートケーキの上に載っている鮮やかに赤くなったいちごが
    女の流す血のように見えた。

    『ピカルディーの三度』
    おれが糞便をひり出しているとき、
    おれはおれの自我まで排出してしまっている気がする。

    体は人の目に映るもの。心は深く潜って見えないもの。
    糞便はその両方だ。


    おれたちはセックスしたってことにしよう。
    先生がおれに「愛してる」って言ったことにしよう。
    それともおれたちの愛は堕落しないまま、
    ずっとウンコの関係だったことにしようか。
    どんな嘘をついたって、一人称で綴れば、
    みんな本当の話だって信じるのだ。

  •  表題作はいろいろな意味で衝撃的だった(汗)。ただ表題作にしろ「美しい人」にしろ「俗悪なホテル」にしろ、インモラルだけど狂おしいほどに真っ直ぐで一途な愛を描いていて、心揺らされる。聖と俗の対比、言葉で尽くすしかない切なさ、この世界から拒絶される、頬っぺた叩かれたような衝撃を受ける作品などさまざま。

  •  猟奇 と読み進み、あっ と気が付けば、鹿島田真希のストーリィが内部に構築されているように感じる。彼女が築かんと表さんとしているところを手探りで模索するような。
     続きを知りたい、最後はどうなるのか と急きつつ、お話が終わらなければ良いのに と思う。

     「万華鏡スケッチ」を「ラン・ローラ・ラン」を撮ったトム・ティクヴァが映画化すればいいのに と思った。

     表題作の、おれの喋り方がかわいい。

  • んんん。よくわかんない。

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著者プロフィール

1976年生まれ。1999年、「二匹」で第35回文藝賞を受賞しデビュー。2004年、『白バラ四姉妹殺人事件』で第17回三島由紀夫賞候補、2005年『六〇〇〇度の愛』で三島由紀夫賞受賞。2006年「ナンバーワン・コンストラクション」で第135回芥川賞候補。2007年『ピカルディーの三度』で野間文芸新人賞受賞。2009年「女の庭」で第140回芥川賞候補、『ゼロの王国』で第5回絲山賞を受賞。2010年『その暁のぬるさ』で第143回芥川賞候補。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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