新世界より (下)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (582ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062143240

作品紹介・あらすじ

八丁標の外に出てはいけない-悪鬼と業魔から町を守るために、大人たちが作った忌まわしい伝説。いま伝説が、「実体」となって町に迫る。新しい秩序とは、おびただしい流血でしか生まれないのか。少女は、決死の冒険に身を投じる。

感想・レビュー・書評

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  • 面白かったんです。
    面白かったですが、疲れました。
    下巻はハラハラドキドキです。ただ、ちょっとだけくどい感じがしました。
    あとエンディングもイメージと違ったなぁ。
    先日まで「FACTFULNESS」を読んで、世の中は少しずつ良くなっているということを知っただけに、未来がこの物語のようだと哀しいなぁと思ってしまいました。
    未来は明るくあってほしいですね!

  • 物語は後半になって、さらにスピードアップする。そして主人公たちの命を懸けた冒険があって、大きな悲劇があって、切ない真相があって、意外な(私にとっては想定内の)真相があって、静かな余韻を持って終る、つまりはエンタメなSF大叙事詩であった。

    一応、この一千ページを超える小説の一番最後のセンテンスを書き記す。

    以下引用。
    この手記は、当初の予定通り、原本と複写二部をタイムカプセルに入れ、地中深く埋めることにする。そのほかに、ミノシロモドキにスキャンさせて、千年後に初めて公開できるような手段を講じるつもりだ。

    わたしたちは、はたして変わることができたのだろうか。今から千年後に、あなたが、これを読んでいるとしたら、その答を知っていることだろう。
    願わくば、その答えがイエスでありますように。

               245年12月1日。 渡辺早季

    蛇足かもしれないが、最後に全人学級の壁には貼られていた標語を、ここに記しておきたい。

    想像力こそが、すべてを変える。
    引用終わり。


    ここにある「想像力」とは、本来は「呪力(超能力)をコントロールする力」ということを意味しているだろう。しかし、作者が言いたかったことは、おそらく別のことである。つまり「私がここまでの世界を想像力ひとつで作って見せた。ぜひみんなも続いておくれ」という意味なのだろう。「人は実現可能なことしか想像することはできない」と言ったのはマルクスだったか。

    だから私は想像してみる。

    早季はなにを変えようとしていたのか。
    早季の世界では、日本はわずかに9つの小さな村しか残っていなかった。彼女はこの村通しの交流組織を作ろうとしていた。そしてその足かせになる遺伝子レベルまでに組み込んだ攻撃抑制と愧死機構(同属の人間を殺す気持ちも起こさないし、もし間違って殺してしまうと自分も死んでしまうという究極の殺人抑止機能)を捨てるという決断をしようとしていた。その結果、この1000年の間に起きた超能力者通しの支配関係と戦争の時代がまた起きるかもしれないということを覚悟しつつも、だ。小説を読んでいない人にはわかりにくいが、結局人間は自分たちの「生」に「鎖」をつけて生きていただけなのである。それはあらゆるところで矛盾を起こしていた。それが結局は、この小説の内容だった。

    これを捨てることは非常に危険な賭けだ。しかし捨てることで、人類はどこへでもいける「自由」を持つことが出来る。つまらない「地球の支配」などには目もくれず、もしかしたら「宇宙開発」にやっと本格的に進出するかもしれない。

    早季と覚はこのような言葉を交わす。
    「ときどき、呪力は、人間に何の恩恵も与えなかったんじゃないかって、思うことがあるわ。サイコ・バスター入りの十字架を作った人間が書いていたみたいに、悪魔からの贈り物だったのかもしれないって」
    「僕は、そうは思わない」
    覚はきっぱりと首を振った。
    「呪力は、宇宙の根源に迫る神の力なんだよ。人間は、長い進化を経た末に、ようやく、この高みに達したんだ。最初は、確かに身の丈にそぐわない力だったかもしれない。でも、最近になって、やっと、この力と共存できるようになってきたんだ」

    この二人の会話は象徴的である。

    呪力は1000年の間に人類の人口の九割以上が死滅するという大惨事を起こす。その過程で自らを縛ったのが、攻撃抑制と愧死機構であった。一方、呪力はエネルギー保存の法則が基本的に通用しない。達人になれば、呪力が持つエネルギーは基本無限大である。良く分からないが、作者は呪力をブラックホールとホワイトホールの関係のように捉えている節がある。そうだとすれば、ヘタをするとひとりの呪力の暴走で地球が滅亡することもありうるだろう。一方、これをきちんとコントロールすれば、人類は宇宙で大活躍が出来るかもしれない。

    この「力」は、きちんとコントロールさえすれば、たった一人で全地球を賄うくらいのエネルギーが出るので、エネルギー問題は解決だ、しかし、原発の安全神話が嘘っぱちだったように、「この高みに達した」かどうかはよっぽど疑ってかからねばならない。いや、「指輪物語」のように、それを棄てる「知恵」も持たなくてはならないのかもしれない。その覚悟を持つことが、が3.11以降の「人類の義務」だと思う。

    わたしたちは、はたして変わることができたのだろうか。今から千年後に、あなたが、これを読んでいるとしたら、その答を知っていることだろう。
    願わくば、その答えがイエスでありますように。

  • 世界観に圧倒された。
    難しい、なかなかハマらないと苦しんで読んだ上巻だったが、下巻、後半の展開はのめり込んで読んだ。
    面白い面白くないというより、人類の歴史、思想について考えさせられた。常に他種よりも人類が偉いと思い、その人類の中でも人種によって差別し淘汰し淘汰される歴史を繰り返す人間。

    スクィーラを弾弓する聴衆のシーンは幾度となく繰り返された歴史の断片なんだろうなと目を背けたくなった。断罪せよと叫び苦痛を与え続け赦しを許さないことこそ悪鬼、業魔なのではないかと思ってしまった。
    平和な世界を築くために必要だとして遺伝子操作された、人間としての尊厳が失われた呪力のない人々。
    人間だと叫んだスクィーラと、それを嘲笑う真実を知らない呪力を持つ人々。
    言葉が通じないから、見た目が違うから、醜いから、理由をつければ殺戮を許していいのだろうか。もちろん同胞、家族が殺されたら殺した相手を憎むだろう。しかし、無間地獄をと高らかに叫び同調する声は恐ろしい。数が集まれば抑圧する。自分は高等な生物と信じて。

    力とは知識。
    何も知らなかった、は知ろうとしなかったということ。
    固執した考えは己を殺し、他者をも殺す。
    常に想像を巡らすこと。
    そうして未来に警鐘を促し継承していくこと。
    早希はやっぱり、上にたつべき勇気ある人で、相手を憂うことができる強さがある。千年後の人類の未来に幸あれ。


    早希たち視点で自分たちを見れば彼は酷い計画を企てた罪人なんだけど、我々はこの世界ではスクィーラ側にあたるので、そう考えると革命を起こした英雄に感じる
    歴史に正しいはなく、どの視点で見るかで変わり、正解などないんだなぁ

  • めちゃくちゃおもしろかった。

    投げ出したくなるような目の前の現実に理性を持って向かっていく早季や覚の聡さと、歴史から目を背けない覚悟がすごくかっこいいしきっとどんな時代でも大切なことだと思った。

    最後に書かれてたように、攻撃抑制や愧死機構みたいな極端なルールはそのままリアルな日本人の国民性、言ってしまえば頭の硬さを危惧し示唆しているなと思ったし、最悪の末路を見せられたような気がした。
    力をふりかざして間違った方向に傾倒していかない今とこれからがあると良いな…。

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00375021

    見せかけの平和がいま崩れる。
    人類が手にしたのは、神の力か、悪魔の力か。
    空前絶後のエンターテインメント、ついに佳境!
    八丁標の外に出てはいけない――悪鬼と業魔から町を守るために、大人たちが作った忌まわしい伝説。いま伝説が、「実体」となって町に迫る。
    新しい秩序とは、おびただしい流血でしか生まれないのか。少女は、決死の冒険に身を投じる。(出版社HPより)

  • ・心から面白かった。虫表現、人間のシやグロテスク描写があるためひとには薦めづらいが その類が平気な人にはぜひ薦めたい。読み切るのに体力がいるので、そうそう再読はしないかも。
    A-1がアニメ化しているらしい。画像だけ見たが、バケネズミの容姿は随分マイルドだった。
    ・世界観のつくりこみ、説得力と、描写の力が凄まじい。早季と一緒に、バケネズミの巣穴では目眩を、東京地下街では水責めの恐怖を感じながら読んだ。
    ・前半までは、大人達との戦いの物語、洗脳からの開放がゴールになるとおもっていた。実際は、もっと我々の無意識の部分を啓こうとする話だった。

    ・最も好きなキャラクターは、ミノシロモドキさん。最初に出会うPanasonic製の個体も、最後に出てくる小型のTOSHIBA製も。いちばん現代文明の思想に近く、理解しやすいせいだろうが、親しみを持てた。脅しに屈するのも、悔しげにするのもかわいらしい。ちょうど世間がChatGPTで盛り上がっている現代の自分が見ても、非生物とこれだけ当意即妙に会話できたら楽しかろうなと。
    ・本書とは関係ないが、歴史の教科書で18世紀辺りからを「近代」と呼ぶの、ぜんぜん近くないじゃん!と思っている。「現代」も、呼び方をどこかで「直近代」「極近代」みたいなのに変えるか、言葉の意味の方を変える(現代とは20世紀頃を指す言葉であり、イマという意味はないとする)か、どうするつもりなんだろう。
    早季たちの世代からすると、2000年まるごと「古代」になるように、どこかで切り方自体も変わるんだろうな。
    ・パナの方は2129年時点の記録があるということは、少なくともそこまでPanasonic社は存在しているのかな?100年後も生き残る会社が他にどれだけあるんだろうか。
    読者=一般消費者にわかりやすくするためにPとTの2社の名前を挙げたのか、それくらいの未来には 市場を食い合った結果、官公庁の出入り業者も この辺りの大手に集約されてるという読みなのか。
    ミノシロモドキを捕獲したスクィーラ達が、思想バキバキになっていくくだりも読みたかった。
    ・覚が攻撃性に目覚めず、優しく育ったのは意外だった。守の方が“そう”なるとは。守にとっては真里亜が救いだったろうけど、真里亜がいなかったら守は“そう”ならなかった、もっと無邪気に、弱いながらも健気に育った と自分は読んだので、やるせない。
    こういう作品って、だいたい共依存に未来はないものだ。

    ・別作品の感想でも書いたが、説明もなく、その世界の当たり前が急に出てくるSFが好きだ。(緻密に説明してくれるSFも同じくらい好きだが)
    前触れもなく早季と真里亜が同衾していたくだりで、おっと、これは二人がそういう関係性、いや社会自体がそういう価値観なのか…?となった。真相は「ボノボ」だったわけだが。
    6人目を忘れてしまう一班、大玉転がしの後に消えたクラスメイトのことも、そういう世界なんですね…?とじわじわ不快になる。
    ・「17歳まで人権がない」本書でいちばんのトリハダポイントの1つだと思う。何世紀前の価値観?!過ちは繰り返されるものなんだ。
    ・瞬は結局、家庭環境が不安定だったという理解で良いのかな。才能のために、街で引き取って育てる とかならないのが、何とも未熟な村社会。いや、瞬自身の望みで実家を離れなかった可能性もあるか。
    しかし、瞬のシに際に立ち会ったおかげで、早季はあの子を倒す方法に行き着いたわけで、これもまたやるせない。

    ・この後は、どういう社会になるべきなんだろうか。
    バケネズミを人間として扱い共生してゆく?「元を辿れば〇〇なんだから✕✕するべき」みたいなのは、既得権益を手放すこととなる人間には受け入れがたいだろう。その論で何でも解決するなら、国境問題も民族問題も無い。関わらないのがお互い幸せかもしれないが、「汚れ仕事をする階級」がまた必要になるだけか。
    ・エンディングで、早季と覚が結婚したのは拍子抜けした。子どもまで授かるとは。それが彼らの望みなら祝福するしかないが、1000年経っても、人類のハッピーエンドはそれしかないのかと。何もかもを知られている唯一の相手なのは否定し得ないが、他の人たちとも手を取らないと世の中は変えていけないし、覚とは結婚以外の形で支え合う選択をして欲しかったな。渡辺家は両親仲が良かったから、結婚というものを肯定的に見ていたのもあるか。
    ・本文は「想像力こそ、」と締められていたが、個人的には表現力が伴ってこそだと感じた。作中で言う呪力しかり、行動力しかり、外へ伝えてはじめて世界を変え得た。
    作者も、この物語を想像でおわらせず 緻密に丁寧につくりあげて、世に出してくれたことへ感謝。

  • 完璧、その一言に尽きます。

    上巻からの伏線もきれいに、見事に拾い上げただただ圧倒されます。
    悪鬼との戦いも彼の運命も、スクィーラ達バケネズミの存在も、心の底からぞっとします。

    最高におもしろい!!

  • (上下巻合わせて)独特の世界観の構築力が半端ない!そこが一番評価できる点。バケネズミの正体は薄々そうじゃないかと思っていたけどやっぱりショックで。人間って仲間以外に対しては想像以上に残酷。

    ただ…上巻の方はひきこまれてこの先の展開でこの世界がどう変わるのか!?と半ば期待して下巻を読んで、殺戮諸々しんどいながらも読み終わって…結局何も変わらなかったのかぁと、残念。
    主人公と周辺の仲間が幼いから仕方ないが、情感が軽くて薄くて響いてこないのも物足りず、設定が懲りに凝っているだけに勿体なかった。

  • 貴志作品の中で一番好きかも。
    1000年後の未来、呪力を持った人間の存在は核兵器よりも恐ろしい。バケネズミのルーツが明かされるくだりは薄々思っていたことだったけど、暗い気持ちになってしまった。
    "想像力こそがすべてを変える"
    ★野狐丸、奇狼丸の最期はどちらも悲しい

  • 出現した悪鬼と人類側の闘いをメインに巻末直前で最初からあった違和感の正体、作品の裏テーマのようなものが明らかになる巻。
    人類最強の呪術師達の鮮やか、熾烈な戦いなども見どころ。
    次々現れる気持ちの悪いモンスター達は、まるでロールプレイングゲームを進めていく際のドキドキ感をもたらす。
    上巻から感じていた人類のバケネズミに対する扱いの酷さ、もとい気持ち悪さが最後の最後で明かされる。人類側の視点で見ればハッピーエンドではあるが、(現)人類の私たちから見れば、大きな力に踊らされてはならないという警告のようなメッセージも感じる。読後、色々と考えさせられる作品。

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。京都大学卒。96年『十三番目の人格-ISOLA-』でデビュー。翌年『黒い家』で日本ホラー小説大賞を受賞、ベストセラーとなる。05年『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞、08年『新世界より』で日本SF大賞、10年『悪の教典』で山田風太郎賞を受賞。

「2023年 『梅雨物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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