- Amazon.co.jp ・本 (154ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062145374
感想・レビュー・書評
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'21年9月8日、読了。津村記久子さん、三冊目。
3作とも、とても良かったです。
「カソウスキの行方」
28歳、OL、独身…後輩のセクハラ被害を上司に訴え、左遷で地方の倉庫へ。思考があっちこっちにフラフラする。何のために生きてる?何が欲しい?幸せって、何?
何を求めているのか、本人にも解っていないまま、それでも何かを求める…
「Everyday I Write A Book」
う〜ん…野枝(のえ)さんの、恋愛小説?ただのOLの、微妙な日常。でも、僕は好きみたい。
「花婿のハムラビ法典」
うーん…ちょっとエロティックな始まり。「結局、何が言いたいの?」と、読後に一番考えさせられました。
芥川賞の候補作、らしいですね…。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
津村さんの作品の主人公には共感する事が多い。この本の3つの物語の主人公もそれぞれに人間らしくて、読みながら何度も頷いてしまった。
表題作「カソウスキの行方」は、本社から倉庫に飛ばされた主人公が、同僚を好きだと思い込んで毎日の怠い出勤に張り合いを持たす話。対象の同僚がいるだけで羨ましい。最後の主人公のメールが面白い!展開も良い方向に向かって、結構好きな話だった。
「Everyday I Write A Book」は少し好意を持った相手が結婚して、その結婚相手(茉莉)がお花畑。茉莉のブログは見たらムカつくけど、でも気になって見てしまう、そういうの分かる分かる!そして私も茉莉みたいな女嫌いやわ~世の中の男性は、こういう女に騙されるよな…
「花婿のハムラビ法典」はルーズな彼女に対してイラつかないように、同じ事を仕返す(一度遅刻したら、一度遅刻し返すという感じ)主人公。でも、なんだかんだでお似合いの二人でした。彼女はきっと天然なんやね。 -
3編を収めた短編集です。
表題作の「カソウスキ」は「仮想好き」。
同じ職場の同僚を好きになったと仮定して暮らしてみることにした女性が主人公です。
津村さんの描く、自分の生活を一歩引いた目線で見る人々には、いつも自分に近いものを感じてしまいます。
"カソウスキ"のお相手を見るときの視線が好意ではなくて観察に近い感じとか、わかるなぁ…。
「Everyday I Write A Book」はあまり好きじゃない相手のブログやSNSを、ついつい見ちゃう心理に共感。
それが、久しぶりにちょっと気になった男性と結婚したキラキラ系女子だったらなおさら気になるよなぁ…。
ちょっとの羨ましさや憧れがないまぜになった感覚、決して私も無縁ではないな…と思ったり。
「花婿のハムラビ法典」は個人的にはあんまり…。
世の中の夫婦は相手の美点も欠点もひっくるめて一緒にいるんだ、ということ再確認した感じです。
3編とも物語の終わり具合がちょうどよいのです。
多すぎず、少なすぎず。
この塩梅が、私が津村作品を好きな理由の1つです。 -
働く女性とその恋愛、の短編集。
津村記久子さんと言えばお仕事小説というイメージなのだけど、この小説も主な舞台は職場で、働く若い女性たちのリアルな恋愛と生活が描かれているから、すごく身近に感じた。
表題作の主人公・イリエは本社でけっこう良い位置で働いていたが、後輩を庇ったのが仇となって僻地の倉庫に飛ばされた。そこには年下の上司・藤村と、地味で大人しい森川がいた。
本社勤めの頃とは違いやりがいのない日々の中でイリエは、自分は森川が好きなのだと仮定して過ごしてみることにする。
つまらない日々に張り合いを出す方法、ちょっと強引ではあるけれど何か分かると思った。特筆すべき変化がないから、そこに無理やりでも変化を加えてみる。意識すれば、現実も少し変わったりする。
ただの同僚。に、ほんの少し歩み寄ってみることで、思いがけない話が聞けたり、自分も語ることになったり。
そして少しずつ関係が変化していく。
最後のメールのやり取りがよかったな。何とも言えず好き。
仕事も恋愛も順風満帆とはいかない中で、不調に陥ったり感情的になる時もあって、でも何となく近くにいてくれる人がいて、またちょっと元気になったりする。
実際の日常もそんなものだ、と思えるからすごく近しい。
綺麗すぎるわけじゃない、でも嫌な感じがないまとまり方がよかった。
今の自分の感じにすごく合ってた。 -
短編3編。他の作品に比べてやや恋愛要素強め。『アレグリア…』ほど社内の状況に対し強くきれているわけでなく、『ポトスライムの舟』ほど悩みや横の繋がりが深く強く描かれてもいない。芥川賞候補だったようだけど受賞しなかったのはその辺かなと思ったりも。芥川賞の選評を見ると「小説はもっと仕掛けるものでは」(池澤夏樹)「(生活の無為性や無劇の劇性が)人間の最も芯にあるものに触れてくるなら結構だが、それもまた稀薄な作品ばかりだった。」(石原慎太郎)とある。たまたまヘビーな本の後に読んだこともあってか(世の中こういう部分もあるよね)とふっと一息。表題作のタイトルは好き。「カソウスキ」うまい使い方だと思う。山田詠美には不評だったようだが。
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表題作プラス2作品。どの作品も登場人物たちがどこか不器用で、でもなんか良いなぁと思う関係性を築いていて、読後感がどれもよかった。
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「カソウスキの行方」「Everyday I Write A Book」「花嫁のハムラビ法典」の3編からなる150頁にも満たない短編集です
本の紹介文に曰く「恋愛“しない”小説」。確かに。何せ、カソウスキ=仮想好きですからね。
主人公たちのテンションが奇妙に低いのです。どちらかと言えば私が苦手にしているちょっとヌルッとした文体で綴られる主人公たちは、何か事が有ると思わぬリアクションをする。落ちる、変な方向に曲がる、裏返る、でも決して跳ねない。それに同意したり納得する訳じゃないのですが、どこか可笑しい。これが津村さんの作品の魅力なのかな。
2008年に発表された作品で、この時、津村さんは30歳。ほぼ主人公と同年代で、自らを投影したものかもしれません。 -
後輩をおもって生真面目にセクハラを報告したら、左遷されちゃった・・・
まじめってばかっぽい。貧乏くじっぽい。
でも、まじめという道を踏み外す勇気はなかなか出ないものよ、年齢を重ねれば重ねるほど。
一生懸命生きているのにちょっとずれている。
そんなイリエになんか笑えちゃうけど、わかる気がする。
もっと年齢が上に行くと、「ここはもうお金をもらうところ!」と割り切れるんだけど、毎日通う場所が苦痛だったら好きな人でもいないとやってらんないよね。
若い人はより共感できるんじゃないでしょうか、このお話。 -
恋愛、男と女、エロ要素が(津村記久子にしては)多分に含まれる3つの短編。
まあまあ。
自分がもう結婚しちゃって、あまり恋愛のことを考えなくなったからなのか、好きとかやるとかどうでもいいよ、と思ってしまった。
でも「仮想好き」というライフハックはありだと思う。