- Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062149051
感想・レビュー・書評
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オーストリア皇妃、エリザベートの生涯を書いた作品。
エリザベートといえばミュージカルの題材として有名で、歴史に疎い私もなんとなくどういう人か知っている気になってしまう。
美しい皇妃で、自由を愛し、皇室にいるのではなく旅をして回った人…。そういうイメージだった。
登場人物はとても多い上に、同じ名前がたくさん出てくる(どうやら高貴な方は、男児が生まれたら祖父の名、女児が生まれたら祖母の名を継ぐという伝統があるらしい)。読み終わるまでに「これ誰だっけ?」が何度も訪れた。
エリザベートは我が子ルドルフを自由主義のもと育て、最後にはルドルフを失った。
エリザベートの夫である皇帝フランツヨーゼフは、母ゾフィーのもと伝統的なハプスブルク家の教育を受け、皇帝になるために育てられ、エリザベートを失うまで自分の深い愛をエリザベートに伝えることはできなかった。
ルドルフとフランツの対比…どちらも悲しい男である。
私はルドルフって、革命家気取って革命が上手くいかなかったから死んだのだと思っていたけど、この本のルドルフは必ずしもそうではなかった。
エリザベートと親子の絆を取り戻すことができたからこそ、ルドルフはハプスブルク家を守るために死んだのだ。ルドルフはクーデターを起こすように同胞から求められていて、それに応じれば父である皇帝を死なせることを理解していたから、本当は同胞を切り捨てたかったのだろうが、そうすればルドルフ自身が殺される…だから自らの死に方と死場所を選び死んだということか。これはルドルフにもエリザベートにも優しい解釈だよね。実際がどうかは分からないけどさ。
ルドルフは、軍人教育がつらくてエリザベートにすがって泣いた6才の少年のままだったのだろう。
どんな教育を施そうと、その人の本質を変えることは出来ない…そんな気がした。もしルドルフが皇帝になるための伝統的な軍人教育を受け続けたとしても、きっと別のルートを辿って、短命な人生だったのではないだろうか。
エリザベートは、自由で無邪気な美しい皇妃(キラキラ)のイメージだったけど、彼女の印象もこの本を読んで大きく変わった。
エリザベートは、彼女が心の友と呼ぶルードヴィヒと似てるよね。
つまり、エリザベートも狂人ということ。
美への執着も、7時間かけて競歩で歩き続けるというのも、狂人の域だろう。
結婚したばかりのときはゾフィーに負けたくなくて、その後は若い女優に負けたくなくて。負けず嫌い、すごく人間的だ。
美貌を武器に皇室を自分の思う通りにしようとするものの、歳をとって美貌を失ってからの、自分探し…。旅には末娘だけを連れ回して、ルドルフには全く関知せず。相当、自分勝手な人だ。
ただ私が彼女に一番同情したのは、彼女は、詩集を発表すれば後世にも自分の存在が残ると信じていたのに、自分の詩はたんなる真似事でしかなかったと気づいて出版を諦め、詩作意欲もなくなるところだ。
子どもの時から大好きだった詩が、真似事で価値のないものだと年をとってから悟るって、残酷すぎるよ。
別に芸術作品として優れてなくても、真似事でも良いじゃないか!って思うけど、それは私の現代的価値観なんだろうな…。
芸術は時代を超えて愛されるもの。実際にヨーロッパの芸術は現代でも世界中で愛されている。エリザベートの時代には、現代にある「多様な価値観」はなかったのだろうか。だから、芸術的に崇高か、そうでないか、の2択しかなく、崇高でないものは価値がない…ということなのか。
エリザベートが詩作を辞めたことについて、サラリとしか書かれてなかったんだけど、私はそれがすごく悲しくて、気持ちが重くなった。
私は子どもの時、漫画家になりたくて、下手な絵でノートに漫画を描いたり、好きな漫画を真似したりしてた。当然、それは出版には値しないんだけど、もし今もそれが残っていたら「こんなん書いてたな〜!」って笑い飛ばせるもののはずだ。それは、私が子ども時代の自分を客観的に見ることができるようになったからだ。でも、エリザベートはそれが出来なかったんだろう。彼女自身、幼い少女のまま、大人になるきっかけがないまま、歳をとってしまった人なんだな、と思った。
それでも、彼女が生前に残した詩は現代に残っていて、それが着想となり、ミュージカルエリザベートが製作されたそうだから、時代を超えた存在になったわけだよね。
エリザベート自身、すごくつらい人生だったと思う。
心おだやかに感じられる時や、幸せをかみしめる時は、彼女にはあまりなかったんだろう。
でも、嵐の中の船のような激動の人生の割に、長生きしたのだと思った。彼女の周りの人たち(我が子、父母、姑、姉妹、義弟、心の友…などなど)を見送ってから、彼女は死んだのだ。決して短命ではなかった。
エリザベートは、美しいスイスの地で、自分が刺されたことにも気づかないまま、ゆっくりと意識が遠のき死んでいった。
「彼女が死を望んでいた」というミュージカルのテーマにも納得できるようなラストだった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
自分の役割、居場所がないのは皇妃だろうが一般人だろうが、辛い。美しさに力を見出して追い求めても老いは受け入れるしかないし。。
役割や居場所に縛られる、男性であるフランツヨーゼフも苦難で一杯の人生だけど -
ミュージカルの予習として、エリザベートがどんな人か知りたくて。
Wikipediaで簡単な生涯は把握したあと、どんな人だったんだろう?と恐る恐る読んだ。
小説方式になっているのでそのときの心情や状況を連動させやすくて、読みやすかった。
あくまで私の性格上だけど、和を乱す我儘な人が好きじゃないので義母ゾフィーに同情してしまい、エリザベートも可哀想だとは思うけどあまり好きになれず。。
読んだ後気になっていろいろ調べたら、メインの人たち以外もその後の人生が悲劇的な人が多くて切なくなった。
本当に波乱万丈。 -
自由人エリザベート。
責任ある立場ながら、その奔放ぶりに驚きです。
でも現代人のような描写で、女の幸せとは何か、考えさせられる一冊。 -
ラストが好き。
精神的に幼い皇族の物語、というのが私の印象です。
あぁ、ここでこうしておけばこの二人にはもっと別の道があっただろうにとやきもきさせられながら読みました。
ゾフィーが亡くなった直後のフランツ・ヨーゼフの心境が見ていて切なかった。
あと婚約前の彼等のやり取りが好きです。 -
主人公は言わずと知れたオーストリア・ハプスブルクの皇妃エリザベート。
彼女は恋、姑との争い、宮廷の堅苦しさ、出産、子どもを育てられない悔しさ、恋のまねごと、夫の浮気、後継ぎの自殺、困難の中で傷つき苦しみ、悩みます。
その姿は直情的でもあり、純粋でもあり、フランツ=ヨーゼフだけでなく、読み手をも引き付けます。
読み手の私も次第に彼女の心境にシンクロして喜怒哀楽を繰り返してしまいました。
誰にも「自分」を分かってもらえなくて、どうすれば理解してもらえるかもわからなくて、「自分」は何かを、その根拠や拠り所を求めるように運命をさ迷い歩く彼女の姿は、読んでいてつらい物がありました。
読み終わった後、切なさが胸に込み上げました。 -
オーストリアの勉強になるかなと。
泣いてしまった。終焉が。でもきれいだ。