青年時代

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062149891

作品紹介・あらすじ

文豪トルストイ(1828〜1910)の処女作。「トルストイへの愛を貫いた」と中野孝次が絶賛した北御門二郎の訳で、文豪の若き日々が甦る。

感想・レビュー・書評

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  • ※「青年時代」と併せて、一部「少年時代」に関連することも書いておきます。

    ****
    文豪であり、後年は道徳を説く作品も多く残したトルストイ。人間的に完成され人格を備えた人物、というイメージを私は抱いている。
    なのだが、自伝的な小説とも言われる「青年時代」に描かれる「青年期トルストイ」の人格は、思いのほかいびつで、屈折している。非貴族を見下し、同じ階級の学友らにも虚勢を張る。つまり性格の悪さも吐露されていて、おおいに興味深い。

    ところで「読書」について、である。
    ときに人は読書に関して、良書に出会えばそうした書物が何かを与えくれる、と思うかもしれない。今回「青年時代」や「少年時代」を読んでいて、そうした、本が一方向で何かをもたらす、という考えは、ちと違うのではないか、と思い至った。

    「青年時代」や「少年時代」には、読み手への問い掛けのような一節が散見される。筆者は青年時代、かように感じ、考えていたのだが、あなたはどうだろうか?という問いを投げ掛けらるのだ。

    例えば、
    「読者よ、あなたは自分の生涯のある時期に、突然物の見方ががらりと変わり、まるで今まで見て来たいろんな物がくるりと向きを変えて、それまで知らなかった別の側面を呈示するようになる、といった経験をお持ちであろうか?」(3章「少年時代」p35)。

    そして、読者である自分は、自身の生涯を振り返る。 これは、「読者よ」という呼び掛けであるから、より直接的ではあるけれども。

    書籍が無条件に一方的に何かを齎してくれるのではない。つまり「対話」である。読書が私たちに何かを齎らしてくれるとするなら、それは読み手と書き手の対話によって、であるように思う。

    そのほか、「青年時代」には、
    愛の3類型について書いた章もある。
    曰く、「愛には次の三つの種類がある。」
    (一)美的な愛 (二)献身的な愛 (三)実践的な愛
    (「青年時代」24章「愛」p132)

    上の一節。なんだか、以前に読んだトルストイ「人生論」を思わせる。

    本書「青年時代」、家族や友人らの表情や心理分析を緻密に詳らかに描いてゆく。また青年期トルストイ自身の赤裸々な告白を綴っている。また青年期に至っているため形而上学的な思考を辿る部分も多い。
    斯様にドメスティックに掘り下げてゆく本書である。そのため内向的に密度が濃いと言おうか、読んでいて息が詰まる心地もある。なかなか根気が要った。爽快感ある読書ではなかった。
    だが、それは逆に本書の「エグ味」でもある。そういう「エグ味」を魅力として味わえる度量を備えた読者には本書を薦めたい。

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