- Amazon.co.jp ・本 (546ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062150736
感想・レビュー・書評
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伊坂さんの作品は、読後感が爽やかだ。
この本も例外ではない。
人は壮大な目的のために生きているのではなく、
もっと目の前のささやかな目的のために生きている。
と、主人公は言う。
つまりそれが、前作「魔王」からテーマのひとつになっている、
群衆心理を支えてもいるし、
逆に解釈すれば、自分の手の届く範囲で、
勇気を出して、やれることをやるという、
主人公たちの決断と行動の裏付けにもなるのだろう。
前作から、JOJOのように、主人公が移り変わりながら、
対する敵は、変わらない。
敵は特定の人格ではなく、世の中のシステムだ。
巨大なシステム(世の中)を変えようと思っていた人が、
ダークサイドに陥り、その状態で社会的地位を得たものだから、
「変わらない」ことを、説教がましく布教する。
また、仕事だから、という合言葉で、
人として許されるべきではない行為もありとしてしまう、
もしくは、その施策に加担することをよしとしてしまう、
もしくは、自覚なく、確かめることも、
改めて考えることもなく、加担している。
俺のことじゃん、と、思わされるところが、さすがうまい。
初代主人公は「考えろ」が口癖だった。
考えろ、自分に出来る小さな部分を変えることが、
世界をかえるんだ。
この本はそう言っている。 -
さすがとしか言いようがない。主人公の処遇が良いとはお世辞にも言えないため、主人公に感情移入するタイプの読み手はしんどくなるかもしれない。私は主人公に感情移入しがちなので心を休め休め読んだが、つらくても読むのをやめようとは思わなかった。
それだけ読者を引き込む作品の力が凄まじかった。
閉塞的な現代社会に生きる我々はシステムに守られているが、システムに守られ、順応している間、システムを意識するようなことはあまりないと思う。しかし、いちどシステムに違和感を持ち、世界にとっての異分子になってしまった瞬間、世界は我々に容赦なく牙をむくだろう。現実において声を上げぬ市民でいることの危機感をひしひしと感じさせられた。
読後から5年経つが非常に記憶に残っている作品。 -
そのうち読もうと思っていたものをたまたま図書館で見つけたので読んだ。
「魔王」を読んでから、干支が一周するくらい間が空いているので、前作のことは断片的にしか覚えてなかったけどちゃんと楽しめた。
分厚い本だったけど、漫画を読むくらいスラスラ読めるので、休日に一気に読み進めつつ、平日もちょろちょろ読んで、10日くらいで読め終えたと思う。
モーニングで連載していたということで、モーニング作家の花沢健吾の挿絵がついていた。花沢健吾自体は「ボーイズ・オン・ザ・ラン」も「アイアムアヒーロー」も好きなのだが、この作品を読むに当たっては不要だったように思う。こちらとの解釈違いも多かったので。小説の人物や景色って読者が勝手に補完しながら読んでいる部分が多いので、絵や映像に表そうとするとどうしてもずれちゃうよね。 -
国家の裏側に積極的に巻き込まれてゆく主人公、渡辺拓海の話。
仕組み化が推奨されている時代に、「そうなっているから」で済ませてしまうことの是非を考えさせられる小説だった。
これはフィクションではあるが、国家や会社などあらゆる組織において似た趣旨のことは起こり得ると感じた。
時折り引用される“名言”にハッとさせられることが多かった。
また奥さんの佳代子、後輩社員の大石、作家の井坂好太郎などキャラクター1人1人が魅力的に映った。 -
事実は一つだが真実は人の数だけある。
実際に小説の中のようなことが行われていると考えてもあながち間違いではないと思う。
自分の人生、大きな目的のために生きることはできないが小さな目的のために行動しようと思った。 -
魔王のつづき?
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この作品が刊行されたころはスマホもまだなくそれほどネット社会の問題が浮き彫りにされていなかったと思う。テーマはネットにおける監視社会。ディストピア的な雰囲気はあるけれど、コミカルな会話など読んでいて楽しい。あいかわらず伊坂さんの作品はエンタメ性に優れていると思う。
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自宅のマンションで浮気を疑われて拷問を受けそうになるところから始まる。
それを発端に主人公渡辺の周りで不可解で不気味なことばかり起きる。
「魔王」から50年後の物語。
「魔王」を読んでいたので、その中でモヤモヤしていた「お金の使い方」だけは、解決した。
今回もいろいろ謎が散りばめられていて、読みながらハラハラドキドキしっぱなし。
夜に1人で読んでいたら怖いくらいだった。
不可解な事件の原因は一応解明するものの、「そういうもの」として謎のままの事も。
例えば桜井ゆかりの行動や妻が本当はいったい何者なのか?
結局前作の主人公の最期については想像はできるものの、解明はしなかった。
そして、前作では不思議な力の呼称について明言していなかったけれど、今回は「超能力」とはっきり言っちゃってる。
言っちゃってるけど、それでもまだ「信じられるほうを信じればいい」って、「信じるか信じないかはあなた次第です」というスタンスなのが面白かった。
本作の中でクセのある井坂好太郎という作家がでてくる。
あとがきで作者も言っているけれど、「名前を考えるのが面倒だった」という理由でこの名前。
理由が面白すぎて、もっと活躍して欲しかった。
本作は前作の50年後なので、時系列的に「魔王」以外の他の作品との繋がりはないんじゃないかなぁと思う。
作中に何度も登場する「幻魔対策」。私も子供頃に見た。なんだか怖くて忘れられない名作。
全体としてもう少し謎解きがあって欲しかったけれど、それでも十分に面白い!