静かなアリス

制作 : 古屋 美登里 
  • 講談社
4.15
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本棚登録 : 41
レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062151849

作品紹介・あらすじ

ある日、地位に名誉に恵まれたハーバード大学教授が"若年性アルツハイマー"と診断された。日々壊れゆく自分。そのとき彼女は、そして家族は…!?全米を感動と涙につつんだベストセラー、ついに邦訳。

感想・レビュー・書評

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  • 若年性アルツハイマーにかかったアリスが、徐々に自分を失っていく様が丹念に描かれた物語。悲しみだけでなく、長年対立していた末娘への愛情と交流、病との絶望的な戦いへの恐れと勇敢さ、夫の、病をもったアリスへの煩わしさや過去への郷愁がない交ぜになった複雑な愛情など、アリスと家族の様々な思いが自然と伝わってくる。
    ラスト近く、アリスが夫に言った「わたしが恋しい」という言葉は胸に響いた。
    とってもオススメの一冊。

  • ジュリアン・ムーア主演で映画化され、
    アカデミー賞の主演女優賞を受賞したばかりの作品だ。

    主人公アリスはハーバードの大学教授。
    50歳で若年性アルツハイマーと診断される。

    主人公の目にうつる日常が
    次第に不確かになっていく様子が当事者目線で描かれ
    途中読んでいて苦しくなった。

    だが、苦しいだけのストーリーではない。
    本人とその家族が葛藤しつつも
    次第に受容していく物語で読後感はあたたかい。

    著者自身が神経科学を専門とする研究者で
    さまざまな認知症当事者との対話からヒントを得て
    本作を書いたという。

    ストーリーのなかに登場する
    長谷川式に似た検査方法や治療薬などの情報もリアルで
    アメリカも日本も状況はそれほど変わらないことが
    よくわかる。

    ちなみに、本書はなんと絶版。
    文庫本あたりで再度出したらいいのに。
    翻訳も読みやすく、なかなかの良書。

    <参考>
    映画「アリスのままで」2015年6月ロードショー
    http://alice-movie.com/

  • ある日、自分が好きな食べ物がわからなくなった。
    ある日、自分がどこに向かっているのか、わからなくなった。
    そしてある日、自分が愛する人がわからなくなった.....

    アリス50歳 女性 職業 大学教授  夫も大学教授、子供は3人...
    そして、若年性痴呆症と診断された。

    著者はアルツハイマー病の研究者。
    その豊富な認知症患者との対話から、本書は生まれたという。
    若年性認知症とは、65歳未満で発症する認知症の総称。
    3人の子供のうち2人はすでに、独立。次女の進路については、まだ悩みを抱えている。
    他方、研究者としてはまさにこれから更なる活躍が期待されるポジションにいる女性に、いきなり宣告される若年性認知症。
    ちょっとした勘違い? 疲れによる物忘れ といった兆候が気になりだしたアリスは、専門医の門を叩く。
    そして、冷酷な事実を告げられる。

    本書は、認知症の専門書ではない。
    若年性認知症が発症したアリス自身の視点で、その病気が発症してからの心の動き、自分の行動、そして行動に対する苛立ち、家族に伝えること、そして家族、友人がどのように受け止め、どのようにアリスに接していくかを描いている。

    認知症患者は、状況分析、判断ができないわけではない。記憶が繋がっている時間、アリスは与えられた課題に対して、冷静に分析し、的確に判断している。
    しかし、その短期的記憶に障害がおきる。
    そのため、周りの多くの人は、アリスは判断能力を失っていると誤認する。そして、あたかもそこに彼女がいないように、アリスのことについて意見を交わす。
    そこにあるのは、自分の状態を理解してもらえないアリスの孤独。そして、病気の進行とともにアリスはしだいに、その自分の孤独すら理解できないように...

    本書に、ハッピーエンドは無い。
    50歳で若年性認知症を発症したアリスの、病状が進行していく2年間の姿を切り取ったもの。
    そして、本書が終わる2年後以降も、アリスの生活は続いている。

    読み終わって、認知症その他の病気の患者の気持ちが、少し垣間見れたような気がした。
    彼ら、彼女らの気持ちを想像したうえで、それらの患者と接してきたいと思った。

    原題は"Still Alice” 
    2015年第87回アカデミー賞主演女優賞受賞作 邦題「アリスのままで」 の原作。

  • 著者は、神経科学の専門家であり、米国アルツハイマー協会のコラムニストでもある。本書は、認知症当事者の人々と著者との多くの対話を経て生まれたという。だからなのだろう。本書は、フィクションではあるが、認知症と診断された人の感じるとまどい・不安・混乱・家族や社会との関係が、リアリティをもって迫ってくる。

    本書は、ハーバードの大学教授であるアリスの視点から一人称で描かれている。物語は時間軸に沿って進み、描かれている病状の進行は早い。

    認知症になんらかの関わりのある人にとって、読むのが辛くないと言えば嘘になるだろう。救いは、辛さにうちひしがれるばかりの前半に対して、後半部分では、娘との和解や新しい命による喜びなどがも描かれている点かもしれない。

    本書は諸刃の剣だ。本書で描かれる認知症の当事者からの視点は、本人の気持ちをないがしろにしがちな家族や社会の言葉や態度を鋭く読者に突きつけてくる。我々の社会がこの病気を十分に受け入れ切れていないことを厳しく告発する。社会的な意義も価値も高い。その一方で、もしこの本を表面的に読めば、認知症に対する負の感情が増幅され、社会は著者や本書の主人公が望んだ方向とは真逆の方向へと向かってしまう可能性もある。痛みを伝えることの難しさがそこにある。

    厚生労働省は、2025年、日本国内の65歳以上の高齢者のうち、認知症の人の数は700万人を越える可能性を示す推定値を発表した。前期認知障害を持つ人まで含めれば、おそらくその人数は1200万人規模になるのではないだろうか。認知症は極めて今日的な意味を持つ日本社会の課題である。我々はその事実を十分にはまだ受け入れていない。認知症とともに生きることは、どこかの誰かの物語ではなく、この本を手に取るすべての人にとって、「私」の物語なのだといえる。

    一方で、認知症は、特定の疾患をあらわす言葉ではない。本書で描かれた遺伝的な要因による若年性のアルツハイマー型認知症もあれば、その他の疾患によるものもある。症状も様々であり、本人が感じる困惑も様々である。本書が、記述として正確であればあるほど、リアリティがあればあるほど、それもまた部分にすぎないという事実が見えにくくなってしまう。そこに本書の難しさがある。純粋な小説であれば、一般化のリスクを怖れる必要はない。それはひとつの物語なのだから。本書もまたそう受け止めて読むべきものだ。これは、ひとりの主人公、アリスの物語なのだ。

    本書のもっとも重要なメッセージは、その表題にある。邦題は「静かなアリス」だが、原題は”Still Alice”。本書は、冒頭から終わりまでアリスがアリスでありつづけていることを記した小説なのだ。そしてこの”Still Alice”という原題は、認知症を社会が受け入れる上でもっとも重要なメッセージでもある。病気である限り、辛いことは無限にあるだろう。しかし、アリスがアリスであることに変わりはない。本書をもし「私」の物語として読むならば、「私」がいまも「私」であることを描いた小説だといえる。

    私が私であるとはどういうことなのか?その問いは、認知症のコンテクストを外しても、ある種の「答えのない質問」だ。しかし、感情的にはとてもシンプルだ。私は私であり、それを自然な状態として感じている。その感情はごく普通の当たり前の感覚といえる。それを問われてしまうこと自体が、そしてそのことを不安に感じること自体が心の負担だ。

    10年後、日本の65歳以上の高齢者のうち認知症の人の数が700万人を越えるという。高齢者の5人にひとりという割合だ。我々は社会として、「私」の物語のあり方をまだ十分には捉えられていないのに。

  • ハーバード大学の言語学教授アリスが、若年性アルツハイマーに罹る物語。

    作者自身がハーバード大学の認知学の教授(だったかな?)だからか、アルツハイマーの症状の恐ろしさの描写がとてもリアルでした。
    言語学者としてのキャリアを手放さざるを得なくなるくやしさ、
    つまらないことは覚えていられるのに、大切な家族のことを忘れてしまうという失う記憶を選べない悲しさ、
    空間感覚や方向感覚がなくなって、つまづいたり、目の前に穴があるように感じたり、家の中でも迷子になったりすること、
    幸福感に包まれたと思えば鬱状態になったりすること、
    電話で会話だけを聞いていると頭がついて行かなくなってしまうこと、
    本や映画も話がつながらなくなって分からなくなってしまうこと、
    知っているはずのことが思い出せないもどかしい気持ち、
    そして若年性アルツハイマーが子どもたちに遺伝していないかという恐怖。
    アリスの気持ちだけではなくて、それを支える家族がいて、物語の時計が進んでいく様子が静かに、悲しみと優しさを持って描かれていました。

    なぜかアルジャーノンに花束をを思い出しながら読んでいました。
    アルジャーノンとは違い「自分にもありうるかもしれない」題材なので、この本を読み終えてから、
    もし自分がアルツハイマーになったらどう生きたいか、どう生きていけるのか(自分の醜いところだけが残ってしまったらどうしようという恐怖)、
    私の周りに認知症に罹った人がいたらどういう支援ができるのか、
    そんなことを漠然と考えるようになりました。

    文章も読みやすく、機会があれば家族や友人にも勧めたいなと思える本でした。

  • 若年性アルツハイマーにかった大学教授の女性。

    日々失われていく世界との繋がり。記憶がぼろぼろと砂のようにこぼれていく様は読んでいて切なくなります。

    明日起きたら夫が分からなくなるのではないか、自分が分からなくなるのではないかと恐れながら生きていきます。

    発病してから、2年で全く別人のように。
    冷静に淡々と書かれているだけに胸を打ちます。

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