- Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062151917
作品紹介・あらすじ
昭和36年、10歳のホームレス生活を経てたどりついた学園で、11歳の著者を待っていたのは…。愛情あふれる先生と、それぞれに事情を抱えた生徒たちとの出会い、将来の夢、友情、勉強する楽しみ、そして、文学への目覚め…。「10歳の放浪記」の著者が描く、再生の物語。児童文学作家・上條さなえ、渾身の自伝第2弾。
感想・レビュー・書評
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胸が締め付けられる思いがした。
貧困、ネグレクト、いじめ。
戦後すぐの話だが、これは、今の日本と同じではないか。
養護施設で同級生からいじめにあいながら、高潔に生きられたのは、先生、友達、妹のことを思いながら働いている姉の愛情、それに石川啄木という同志でありながら先生でもある作家のお陰だ。
わたしはこれを読んで、自分は今まで人間の何を見てきたんだ、と強く思った。
大切なのは見かけや地位などではない、人の悲しみに寄り添える心なのだ。それがすごく価値あるものだと感じさせてくれる本だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
以前読んだ『10歳の放浪記』の続編である。
児童文学作家の著者は、10歳の1年間を父とともに「ホームレス」として暮らした。その間の出来事を振り返ったのが、前作『10歳の放浪記』であった。
著者はその後、親から離れて児童養護学校(学校を兼ねる児童養護施設)に入所する。本書は、養護学校で暮らした11歳の日々を綴ったものである。
『10歳の放浪記』がもっていた作品としての美質は、本書にもすべて揃っている。ただ、題材の衝撃度が薄れた分だけ、本としての印象も薄い。10歳の1年間をホームレスとして暮らした子どもはごくまれでも、養護施設に暮らす11歳なら世の中にたくさんいるのだから……。
身も蓋もない言い方をすれば、本としての「セールスポイント」に乏しい。ゆえに、『10歳の放浪記』ほどには売れないだろう。
しかし、地味な内容ながらも、『10歳の放浪記』に感動した読者なら十分読む価値のある良書である。
養護学校に暮らす子どもたちの中でもひときわ貧しい風体の主人公・早苗は、意地の悪い男子生徒などからいじめに遭う。それでも、思いやり深いよい先生に恵まれ、たくましく生き抜いていく。また、石川啄木の短歌との出合いから読書の楽しさに目覚め、そのことが、のちに児童文学作家として立つ原点となる。
《竹田養護学園での日々は、ホームレスだったわたしの再生の日々でもありました。(中略)わたしは山下先生との出会いにより、「教師」になろうという夢をもちました。その夢が、どれほどわたしの励みになったことでしょう。
友だちのいじめに耐えられたのも、夢のおかげだったと思います。また、わたしはホームレスの日々を経て、強い少女になっていたのでしょう(「おわりに」)》
著者に希望の光を与える山下先生のふるまいが、すがすがしい感動を呼ぶ。教育者としての一つの理想像が、ここにはある。 -
著者は半世紀近くを経てこの自伝を書くことができたのだと思う。書く事によって再び生きることができるのだろう。書かねばならなかった著者の魂に生で触れたような気がした。この壮絶な経験を経てなお著者が今あるのは、やはり絶対的に信頼できる大人(姉や施設の先生)の存在と父と母へのゆるぎない愛があったからだろう。児童文学者の自伝は広く読まれることはないだろうが、この2冊はYA世代から老年世代までおすすめしたい作品。
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涙なくしては読めない…の第二弾でした。
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現在では児童文学作家である上條さなえさんの幼い頃の生活と辛く悲しいながらも生命力に溢れていた日々が綴られています。子どもって、本当に逆境の中でも生きる力がみなぎっている美しい存在だなと改めて思いました。読んでいて、とても励まされる一冊です。