- Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062152877
作品紹介・あらすじ
お金がなくても、思いっきり無理をしなくても、夢は毎日育ててゆける。契約社員ナガセ29歳、彼女の目標は、自分の年収と同じ世界一周旅行の費用を貯めること、総額163万円。第140回芥川賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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パワハラや同調圧力や、職場でありがちだろうけど、あまり良い環境と言えるのかはわからない人たちのお話に感じた。
ささやかな幸せで満足するというのはもちろん素敵なんだけど、周りにいたらもう少しやる気を給料や境遇にも活かせるようおせっかいしたくなりそうな主人公…
ただ、淡々と日々が進む様子を描かれているのは好みで、読み心地は好き。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
私が読む津村記久子氏作品の19冊目にしてやっと、芥川賞受賞作である本書を読んだ。
本書には2作品が載っているが、初めの『ポトスライムの舟』は読み始めてすぐに「ああ、これは確かに津村さんの作品だ」とわかる文体だった。
芥川賞受賞作品に対して漠然と苦手意識があるのだが、『ポトスライムの舟』の方はちゃんと読めた。
私の身近には居なくて良かったが、「そよ乃」という人物がとてもリアルに想像できて、こういう人、私は無理だなと思った。
そよ乃は、そんなに重要人物ではないので後半は登場しなかったが。
関西弁はいいな。
他人同士が仲良くなれる魔法の言葉のようで羨ましい。
もう1作の『十二月の窓辺』はやや飛ばし読み。
酷いなんてもんじゃないパワハラの話。 -
酔いが回って朦朧としたなかで、カラオケ店のトイレに貼ってある世界一周旅行のポスターに、何度夢を思い描いただろう。
本作の主人公であるナガセも、勤務先の工場の掲示板に貼ってある世界一周旅行ポスターに心を奪われたひとり。
参加費は163万。
工場での年間の手取りとほぼ同額。
工場での時間がそっくりそのまま世界一周に移行されるということが頭から離れず、ナガセは163万貯金することを決意するが…。
津村さんの芥川賞受賞作。今まで読んできた作品よりも若干温度が低く、主人公のナガセを筆頭に、友人のりつ子、同僚の岡田さんと、それぞれ人生について悩んでいるので重みを感じる。
旅先で移動のたびに開いては閉じ…をしていたので正直集中しきれなかった部分もあるが、自分の時間を対価に差し出された薄給で、娯楽やたまの贅沢に割く余裕もなく、ただ生活を続けていくことしかできない虚しさや、無力感が、現代の読者に痛いほどの共感をもたらすと感じた。
発刊された2008年でさえ不景気といわれていたけれど、物価上昇の速度が上がり、税金も上がり、実質賃金も下がり続けるなかで、政治家は素知らぬ顔で脱税をし、大した罪にも問われない2024年のどうしようもない無力さ、置いてけぼり感が哀しいかな、今この本を読むのにふさわしい時期な気がした。
2作目に収録されている"十二月の窓辺"もなかなか暗い。
著者もパワハラの被害にあった経験があるということなので、経験ベースなのか、主人公のツガワは、お局係長に辛く当たられ続けている。
P先輩、Q先輩、V係長、とイニシャルで登場人物が記されているので、誰が誰だか分からなくなってしまいがちではあった。
私自身、職場の人たちには恵まれていたものの、前職では人を見て態度を極端に変えるひとりの上司に酷い扱いを受けた経験があるので、"冷たい汗が足の指の間から湧き出し、腕に鳥肌を立てて目に涙を浮かべながら、ツガワは耳に飛び込んでくる一言一句の語尾にすみませんと添えた"という文章なんかは、当時を思い出し、胸がえぐられるようだった。
後半は若干抽象表現が見受けられ、理解が難しく目が滑るような感覚がある箇所もあった。わかりやすく長所が一つも見当たらない悪役が出てくる物語は苦手なので、こちらは読んでいて少しつらくなった。 -
芥川賞受賞作。
一年で世界一周できる金額を貯めようと薄給なりに頑張る主人公。なんの事はない日常の話なんだけど、読み終わった後、私も日々を一生懸命生きようという気持ちになった。
「十二月の窓辺」の方は作者の体験も入っている?
上司も相当酷いが、主人公自体もなんだかなぁと思う人柄だった。自分の事ばかりで親い人の辛さを分かってあげれなかったのは、自分の身の上に起こっている事だけで精一杯だったから…だけでしょうか?
この話だけなら★3つ。 -
津村さんは結構読んできましたが、ふと気づくと出世作ともいえる本書を読んでいませんでした。芥川賞を受賞した表題作と「十二月の窓辺」の2編。
良く「お仕事小説」と言われる津村作品ですが、なんか違いますね。仕事の面白さや中身に関する達成感と言うものは無く、何時間働くか。収入にしても世界一周旅行代を貯めるという目標がは有るものの、旅に出て何をするかが無い。まあ、ポスターのアウトリガーの少年の舟に乗るという漠とした思いだけは有りましたが。なんだか中身が無くて、枠だけが有って中がうつろな感じです。そんな「枠」に振り回される主人公の日々の些細な出来事が細かく書き込まれる。
何となく私の中にある私小説イメージ~小説家が庭に佇みながら思い浮かべた特に何事もなかった来し方を書き連ねる~に近いような。でも、それで読ませてしまうのが凄いですよね。そういう意味で、芥川賞らしい作品でした。
ところが「十二月の窓辺」では一転。
著者の来歴を読むと「新卒で入社した会社で上司からパワーハラスメントを受け、10か月で退社」と有り、さらに、当時の経験は「十二月の窓辺」(『ポトスライムの舟』収録)に描かれているとの事。
そうでしょうね、確かに経験者でないとここまでリアルに書けないかも。その点「ポトスライムの舟」とは一変、中身が詰っている感じなのですが、あまり楽しくない。まあ、最後に軽く救われはしますが。 -
芥川賞を受賞した表題作ともう1編。
淡々と綴られる文章はトーン低めな印象、でも独特のコミカルさとはっとさせられる鋭い観察眼が感じられました。
「ポトスライムの舟」に描かれている女性たちの切迫感が切ないのです。
彼女たちと同世代ゆえ、余計にシンクロしてしまう瞬間が多かったのかもしれません。
物語の結末は、呆気ないような、でも大体のことって案外こんな感じかもな、という具合がリアルでした。
感情の波を刺激されたせいか、短い文章ですが、読み終えたときに少しだけ疲れていました。
「十二月の窓」は職場のパワハラ上司がおそろしい···。
執拗にいびられる主人公がどんどん退路を絶たれて、余裕を失っていく感じに胸が苦しくなりました。 -
表題の『ポトスライムの舟』と『十二月の窓辺』の中篇小説2篇。前作の方は工場社員とバイト掛け持ちで労働に明け暮れるアラサー女子が職場で見た世界一周旅行ポスターをきっかけにその費用の163万円を貯めようという目標を持ったところから始まる物語。最後にナガセは世界一周旅行に行けるのだろうか?と気になりつつ読み進めましたが、本人だけでなく、周りの友達や親や職場のリーダーといった人達の人間模様にも変化が現れて、じわじわと新しい世界がポトスライムのイメージとともに広がっていくところが面白かったです。しんどいこと、辛いことを抱えた人たちを暖かく見守る視点が感じられて、瑞々しさも感じて癒されました。一方後作の方はタイトルが示すように寒々しくて重かったです。職場のパワハラにかろうじて抗っていこうとする新入社員の記録です。V係長のようなパワハラ上司がどこかに本当にいそうで恐ろしかったです。パワハラの無い世の中になって欲しい。最後が衝撃でした。
オフィス街を見つめる目が変わりそうでした。 -
表題作が良かった
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現時点での津村作品ではダントツに一番好き。ゆるやかで、コミカルで、哀しくて、優しくて。主人公ナガセの生真面目さに好感が持てた。
世界一周旅行のお金を貯めようと、しゃかりきになって仕事を掛け持ちして働くナガセ。単調な日々にどうにか意味を持たせようとする彼女の姿勢に過去の自分を重ね、結婚生活の気苦労を抱えつつも、どうにか自分の足で立とうと懸命なナガセの友人や職場の主婦には今の自分を重ね。そんな彼女らのドラマにポトスライムの緑が鮮やかに映えるようで、とても心地よい読後感であった。泣かせる話ではないのに、勝手に泣きそうになった。
みみっちく情けない日々でも、時にはクサって蹲ってしまっても、明日はほんのすこしだけ明るいに違いない。日々のすみっこに転がっている、そんなささやかな幸せを信じさせてくれる一編だ。
表題作だけでも素晴らしいのに、併録の「十二月の窓辺」も甲乙つけがたい出来だった。がしがし働く人には、こちらの方が印象に残るかも。パワハラ上司、v係長のヒステリーがおっそろしかった…。この救われなさに、世知辛さをこれでもかと感じさせられたが…後半の展開にはびっくり。泣かせる話ではないのに、またしても泣きそうになった。
私は、津村さんが描くカタカナ表記の女主人公が大好きなのだ。不器用で損ばっかりしてるけど、だからこそ、明るい未来が待ってますようにと願ってしまうのだ。よろよろとした足取りでも、なんとか前を向いて歩く姿が、まるで自分のようだからかな。 -
あまり面白くないな、何を言いたい話なんだと思いながら、なんとかポトスライムの舟を読み終えた。ブクログに登録しようとしたら、芥川賞受賞という記載があり驚いた。なぜ受賞できたのか理解できない。