ポトスライムの舟

  • 講談社 (2009年2月1日発売)
3.23
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784062152877

感想・レビュー・書評

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  • パワハラや同調圧力や、職場でありがちだろうけど、あまり良い環境と言えるのかはわからない人たちのお話に感じた。
    ささやかな幸せで満足するというのはもちろん素敵なんだけど、周りにいたらもう少しやる気を給料や境遇にも活かせるようおせっかいしたくなりそうな主人公…
    ただ、淡々と日々が進む様子を描かれているのは好みで、読み心地は好き。

  • 私が読む津村記久子氏作品の19冊目にしてやっと、芥川賞受賞作である本書を読んだ。

    本書には2作品が載っているが、初めの『ポトスライムの舟』は読み始めてすぐに「ああ、これは確かに津村さんの作品だ」とわかる文体だった。

    芥川賞受賞作品に対して漠然と苦手意識があるのだが、『ポトスライムの舟』の方はちゃんと読めた。
    私の身近には居なくて良かったが、「そよ乃」という人物がとてもリアルに想像できて、こういう人、私は無理だなと思った。
    そよ乃は、そんなに重要人物ではないので後半は登場しなかったが。

    関西弁はいいな。
    他人同士が仲良くなれる魔法の言葉のようで羨ましい。

    もう1作の『十二月の窓辺』はやや飛ばし読み。
    酷いなんてもんじゃないパワハラの話。

  • ーポトスライムの舟ー
    地味に普遍に、穏やかに良く、安定感のある作品
    平易な言葉選びと文体で、どこかの道端に落ちていそうな物語が展開されてゆく
    ピークはあるが柔らかいもので、文体や言葉選びと同様で特殊な刺激や展開は無い
    このような激的な展開や特殊な文体や刺激の少ない文学作品はなぜだか心と身体を癒す効果があるように思う
    全体の印象はいわゆる「普通」なのだが、普通のおにぎりが五臓六腑に沁みるときがある
    人生には必ずそうゆう時はある
    おにぎり文学と心の中でネーミングしておく

    ー12月の窓辺ー
    こちらも 普遍に易しく穏やかに良い作品
    パワハラをテーマに扱っていてパワハラを受ける主人公がちょっと可哀想すぎる…
    ポトスライムの舟にも共通するが主人公の感情の機微を表現するのが巧み

    「普通」や「普遍」とは絶妙なバランスで成り立っており、「普遍」もひとつの才能がないと出来ない気がする
    クセを出さないのは難しい事なのだがその才能がある作家さんなのかもしれない
    津村紀久子文学の持つ普遍性に癒された読書体験だった 

  • 酔いが回って朦朧としたなかで、カラオケ店のトイレに貼ってある世界一周旅行のポスターに、何度夢を思い描いただろう。

    本作の主人公であるナガセも、勤務先の工場の掲示板に貼ってある世界一周旅行ポスターに心を奪われたひとり。
    参加費は163万。
    工場での年間の手取りとほぼ同額。
    工場での時間がそっくりそのまま世界一周に移行されるということが頭から離れず、ナガセは163万貯金することを決意するが…。

    津村さんの芥川賞受賞作。今まで読んできた作品よりも若干温度が低く、主人公のナガセを筆頭に、友人のりつ子、同僚の岡田さんと、それぞれ人生について悩んでいるので重みを感じる。

    旅先で移動のたびに開いては閉じ…をしていたので正直集中しきれなかった部分もあるが、自分の時間を対価に差し出された薄給で、娯楽やたまの贅沢に割く余裕もなく、ただ生活を続けていくことしかできない虚しさや、無力感が、現代の読者に痛いほどの共感をもたらすと感じた。
    発刊された2008年でさえ不景気といわれていたけれど、物価上昇の速度が上がり、税金も上がり、実質賃金も下がり続けるなかで、政治家は素知らぬ顔で脱税をし、大した罪にも問われない2024年のどうしようもない無力さ、置いてけぼり感が哀しいかな、今この本を読むのにふさわしい時期な気がした。


    2作目に収録されている"十二月の窓辺"もなかなか暗い。
    著者もパワハラの被害にあった経験があるということなので、経験ベースなのか、主人公のツガワは、お局係長に辛く当たられ続けている。
    P先輩、Q先輩、V係長、とイニシャルで登場人物が記されているので、誰が誰だか分からなくなってしまいがちではあった。
    私自身、職場の人たちには恵まれていたものの、前職では人を見て態度を極端に変えるひとりの上司に酷い扱いを受けた経験があるので、"冷たい汗が足の指の間から湧き出し、腕に鳥肌を立てて目に涙を浮かべながら、ツガワは耳に飛び込んでくる一言一句の語尾にすみませんと添えた"という文章なんかは、当時を思い出し、胸がえぐられるようだった。
    後半は若干抽象表現が見受けられ、理解が難しく目が滑るような感覚がある箇所もあった。わかりやすく長所が一つも見当たらない悪役が出てくる物語は苦手なので、こちらは読んでいて少しつらくなった。

  • 「ポトスライムの舟」
    奈良市内の古い一軒家に住んでいた友人宅を思い出す。少ない給料、楽しみの少ない毎日、世界一周のクルージングを目標にせっせと節約に励む。なんか好き。図鑑好きのちょっと変わった女の子、なんかいいなぁ。

    「十二月の窓辺」
    職場のパワハラの話。つらい。2007年初出。今なら企業も敏感になってるから、ここまで放置されなさそう。

  • 芥川賞受賞作。
    一年で世界一周できる金額を貯めようと薄給なりに頑張る主人公。なんの事はない日常の話なんだけど、読み終わった後、私も日々を一生懸命生きようという気持ちになった。

    「十二月の窓辺」の方は作者の体験も入っている?
    上司も相当酷いが、主人公自体もなんだかなぁと思う人柄だった。自分の事ばかりで親い人の辛さを分かってあげれなかったのは、自分の身の上に起こっている事だけで精一杯だったから…だけでしょうか?
    この話だけなら★3つ。

  • 津村さんは結構読んできましたが、ふと気づくと出世作ともいえる本書を読んでいませんでした。芥川賞を受賞した表題作と「十二月の窓辺」の2編。
    良く「お仕事小説」と言われる津村作品ですが、なんか違いますね。仕事の面白さや中身に関する達成感と言うものは無く、何時間働くか。収入にしても世界一周旅行代を貯めるという目標がは有るものの、旅に出て何をするかが無い。まあ、ポスターのアウトリガーの少年の舟に乗るという漠とした思いだけは有りましたが。なんだか中身が無くて、枠だけが有って中がうつろな感じです。そんな「枠」に振り回される主人公の日々の些細な出来事が細かく書き込まれる。
    何となく私の中にある私小説イメージ~小説家が庭に佇みながら思い浮かべた特に何事もなかった来し方を書き連ねる~に近いような。でも、それで読ませてしまうのが凄いですよね。そういう意味で、芥川賞らしい作品でした。
    ところが「十二月の窓辺」では一転。
    著者の来歴を読むと「新卒で入社した会社で上司からパワーハラスメントを受け、10か月で退社」と有り、さらに、当時の経験は「十二月の窓辺」(『ポトスライムの舟』収録)に描かれているとの事。
    そうでしょうね、確かに経験者でないとここまでリアルに書けないかも。その点「ポトスライムの舟」とは一変、中身が詰っている感じなのですが、あまり楽しくない。まあ、最後に軽く救われはしますが。

  • 芥川賞を受賞した表題作ともう1編。
    淡々と綴られる文章はトーン低めな印象、でも独特のコミカルさとはっとさせられる鋭い観察眼が感じられました。

    「ポトスライムの舟」に描かれている女性たちの切迫感が切ないのです。
    彼女たちと同世代ゆえ、余計にシンクロしてしまう瞬間が多かったのかもしれません。
    物語の結末は、呆気ないような、でも大体のことって案外こんな感じかもな、という具合がリアルでした。
    感情の波を刺激されたせいか、短い文章ですが、読み終えたときに少しだけ疲れていました。

    「十二月の窓」は職場のパワハラ上司がおそろしい···。
    執拗にいびられる主人公がどんどん退路を絶たれて、余裕を失っていく感じに胸が苦しくなりました。

  • 表題の『ポトスライムの舟』と『十二月の窓辺』の中篇小説2篇。前作の方は工場社員とバイト掛け持ちで労働に明け暮れるアラサー女子が職場で見た世界一周旅行ポスターをきっかけにその費用の163万円を貯めようという目標を持ったところから始まる物語。最後にナガセは世界一周旅行に行けるのだろうか?と気になりつつ読み進めましたが、本人だけでなく、周りの友達や親や職場のリーダーといった人達の人間模様にも変化が現れて、じわじわと新しい世界がポトスライムのイメージとともに広がっていくところが面白かったです。しんどいこと、辛いことを抱えた人たちを暖かく見守る視点が感じられて、瑞々しさも感じて癒されました。一方後作の方はタイトルが示すように寒々しくて重かったです。職場のパワハラにかろうじて抗っていこうとする新入社員の記録です。V係長のようなパワハラ上司がどこかに本当にいそうで恐ろしかったです。パワハラの無い世の中になって欲しい。最後が衝撃でした。
    オフィス街を見つめる目が変わりそうでした。

  • 表題作が良かった

  • 現時点での津村作品ではダントツに一番好き。ゆるやかで、コミカルで、哀しくて、優しくて。主人公ナガセの生真面目さに好感が持てた。
    世界一周旅行のお金を貯めようと、しゃかりきになって仕事を掛け持ちして働くナガセ。単調な日々にどうにか意味を持たせようとする彼女の姿勢に過去の自分を重ね、結婚生活の気苦労を抱えつつも、どうにか自分の足で立とうと懸命なナガセの友人や職場の主婦には今の自分を重ね。そんな彼女らのドラマにポトスライムの緑が鮮やかに映えるようで、とても心地よい読後感であった。泣かせる話ではないのに、勝手に泣きそうになった。
    みみっちく情けない日々でも、時にはクサって蹲ってしまっても、明日はほんのすこしだけ明るいに違いない。日々のすみっこに転がっている、そんなささやかな幸せを信じさせてくれる一編だ。
    表題作だけでも素晴らしいのに、併録の「十二月の窓辺」も甲乙つけがたい出来だった。がしがし働く人には、こちらの方が印象に残るかも。パワハラ上司、v係長のヒステリーがおっそろしかった…。この救われなさに、世知辛さをこれでもかと感じさせられたが…後半の展開にはびっくり。泣かせる話ではないのに、またしても泣きそうになった。
    私は、津村さんが描くカタカナ表記の女主人公が大好きなのだ。不器用で損ばっかりしてるけど、だからこそ、明るい未来が待ってますようにと願ってしまうのだ。よろよろとした足取りでも、なんとか前を向いて歩く姿が、まるで自分のようだからかな。


  • あまり面白くないな、何を言いたい話なんだと思いながら、なんとかポトスライムの舟を読み終えた。ブクログに登録しようとしたら、芥川賞受賞という記載があり驚いた。なぜ受賞できたのか理解できない。

  • ポストライムの舟
    お金、働く、ということに縛られたいという欲求が誰かしら心の中に持っているのかも。縛られるということはある意味楽なこと。それがふとした事情で離れて、結局そのあとも単なる日常に戻るだけなのかも知れないけれど、心の中でさよならを言うだけの余裕ができる。物語りは淡々と進み、事件らしい事件も起こらないけど、日常の中に渦巻く感情を見事に表していると思った。
    12月の窓
    パワハラの話。怖い。自分が誰かにそうなっていないかが。

  • 十二月の窓辺の方を先に読んだ方が読後感が良かったかもしれない。平日の仕事終わりに読むにはきつい内容があったから休みの日に読んで良かった。
    ポトスライムの舟の方がまだ希望が見える終わり方で救われた。もう少し懐に余裕があれば163万円を払って世界一周してみたい。その間は確かに自分は歳を重ねないような気がする...と同時に周りと比べてしまう癖があるからどうしたって焦燥感に取りつかれる気もする。 でもいつまでもその選択ができるわけでもないから、、とか色々考えてしまった。みんな懸命に働いて生きているんだなー

  • 文章も読みやすく物語としての抑揚は少ないけどなぜか好きな作品。

  • みんな、自分で自分を救っていて偉い。

  • 図書館で借りた本。
    2話収録。
    表題のポトスライムの舟。163万円。世界一周旅行の値段が自分の年収とほぼ同じ事に気がついた主人公。とりあえず1年で163万円貯めてやろうと決めた。こっちの話はすんなりと読めたけど、もう一つの十二月の窓辺。こちらは状況が分かりにくく、何度も読み返したので時間がかかってしまった。

  • 表題作は日常のワンシーン的後味良い話。もう一作が著者の経歴でパワハラを受けたというまさにそれが描かれ重く少々暗い。受賞作で手に取る人も多いこの本に何故これを載せたのか。

  • 主人公が困窮していること以外、何も伝わって来ず、言動に統一性がないため、全く感情移入できなかった。

  • (2024/07/27 2h)

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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