ポトスライムの舟

著者 :
  • 講談社
3.23
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本棚登録 : 1572
感想 : 377
  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062152877

作品紹介・あらすじ

お金がなくても、思いっきり無理をしなくても、夢は毎日育ててゆける。契約社員ナガセ29歳、彼女の目標は、自分の年収と同じ世界一周旅行の費用を貯めること、総額163万円。第140回芥川賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞を受賞した表題作ともう1編。
    淡々と綴られる文章はトーン低めな印象、でも独特のコミカルさとはっとさせられる鋭い観察眼が感じられました。

    「ポトスライムの舟」に描かれている女性たちの切迫感が切ないのです。
    彼女たちと同世代ゆえ、余計にシンクロしてしまう瞬間が多かったのかもしれません。
    物語の結末は、呆気ないような、でも大体のことって案外こんな感じかもな、という具合がリアルでした。
    感情の波を刺激されたせいか、短い文章ですが、読み終えたときに少しだけ疲れていました。

    「十二月の窓」は職場のパワハラ上司がおそろしい···。
    執拗にいびられる主人公がどんどん退路を絶たれて、余裕を失っていく感じに胸が苦しくなりました。

  • 芥川賞受賞作。
    一年で世界一周できる金額を貯めようと薄給なりに頑張る主人公。なんの事はない日常の話なんだけど、読み終わった後、私も日々を一生懸命生きようという気持ちになった。

    「十二月の窓辺」の方は作者の体験も入っている?
    上司も相当酷いが、主人公自体もなんだかなぁと思う人柄だった。自分の事ばかりで親い人の辛さを分かってあげれなかったのは、自分の身の上に起こっている事だけで精一杯だったから…だけでしょうか?
    この話だけなら★3つ。

  • 表題の『ポトスライムの舟』と『十二月の窓辺』の中篇小説2篇。前作の方は工場社員とバイト掛け持ちで労働に明け暮れるアラサー女子が職場で見た世界一周旅行ポスターをきっかけにその費用の163万円を貯めようという目標を持ったところから始まる物語。最後にナガセは世界一周旅行に行けるのだろうか?と気になりつつ読み進めましたが、本人だけでなく、周りの友達や親や職場のリーダーといった人達の人間模様にも変化が現れて、じわじわと新しい世界がポトスライムのイメージとともに広がっていくところが面白かったです。しんどいこと、辛いことを抱えた人たちを暖かく見守る視点が感じられて、瑞々しさも感じて癒されました。一方後作の方はタイトルが示すように寒々しくて重かったです。職場のパワハラにかろうじて抗っていこうとする新入社員の記録です。V係長のようなパワハラ上司がどこかに本当にいそうで恐ろしかったです。パワハラの無い世の中になって欲しい。最後が衝撃でした。
    オフィス街を見つめる目が変わりそうでした。

  • ポストライムの舟
    お金、働く、ということに縛られたいという欲求が誰かしら心の中に持っているのかも。縛られるということはある意味楽なこと。それがふとした事情で離れて、結局そのあとも単なる日常に戻るだけなのかも知れないけれど、心の中でさよならを言うだけの余裕ができる。物語りは淡々と進み、事件らしい事件も起こらないけど、日常の中に渦巻く感情を見事に表していると思った。
    12月の窓
    パワハラの話。怖い。自分が誰かにそうなっていないかが。

  • 現時点での津村作品ではダントツに一番好き。ゆるやかで、コミカルで、哀しくて、優しくて。主人公ナガセの生真面目さに好感が持てた。
    世界一周旅行のお金を貯めようと、しゃかりきになって仕事を掛け持ちして働くナガセ。単調な日々にどうにか意味を持たせようとする彼女の姿勢に過去の自分を重ね、結婚生活の気苦労を抱えつつも、どうにか自分の足で立とうと懸命なナガセの友人や職場の主婦には今の自分を重ね。そんな彼女らのドラマにポトスライムの緑が鮮やかに映えるようで、とても心地よい読後感であった。泣かせる話ではないのに、勝手に泣きそうになった。
    みみっちく情けない日々でも、時にはクサって蹲ってしまっても、明日はほんのすこしだけ明るいに違いない。日々のすみっこに転がっている、そんなささやかな幸せを信じさせてくれる一編だ。
    表題作だけでも素晴らしいのに、併録の「十二月の窓辺」も甲乙つけがたい出来だった。がしがし働く人には、こちらの方が印象に残るかも。パワハラ上司、v係長のヒステリーがおっそろしかった…。この救われなさに、世知辛さをこれでもかと感じさせられたが…後半の展開にはびっくり。泣かせる話ではないのに、またしても泣きそうになった。
    私は、津村さんが描くカタカナ表記の女主人公が大好きなのだ。不器用で損ばっかりしてるけど、だからこそ、明るい未来が待ってますようにと願ってしまうのだ。よろよろとした足取りでも、なんとか前を向いて歩く姿に自分を重ねてしまうからかな。

  • わかる。
    わたしも先日はストックの葉をむしりながら、
    これは多分煮浸しか、レンジでチンしてお浸し的なやつかな
    と思った。
    食べられそう、って気持ち。

    そこじゃないんだろうけどね

  • *第140回 芥川賞受賞作。お金がなくても、思いっきり無理をしなくても、夢は毎日育ててゆける。契約社員ナガセ29歳、彼女の目標は、自分の年収と同じ世界一周旅行の費用を貯めること、総額163万円。さりげないのに面白い、私たちの文学!同時収録「十二月の窓辺」 *

    初読は8年くらい前だったか…その時は、ナガセ始め登場人物像が良くつかめず、さらっと読んで感慨もなく終了した気が。むしろ「十二月の窓辺」の方が、かつて強烈なパワハラを受けたことのある身として胸が締め付けらたことを思い出しました。
    が、今回は「ポースケ」の面白さにハマっての再読なので、ラインで働くナガセ、離婚に踏み切るりつ子、家庭第一のそよ乃、店を軌道にのせようと頑張るヨシカのそれぞれの個性がくっきりと浮かび上がって、初読時とは全く違う面白さでした。順番は逆になるけど、意外にポースケからの本書の方が入り込めるかも。

  • 最初の登場人物の名前が出た時からなんとなく予感はしていたけど、これポースケに続いてた。知らずにちょうど直前にポースケ読んだばかりだから、逆にしておくべきだった!続き物ならもっとわかりやすくしてくれたらよかったのに〜。ただ、こちらの方はナガセだけの視点でかなりぼんやりと薄暗い感じだったから、先に読んだら続きは読まなかったかも。
    もうひとつ収録されていたパワハラの話が怖がった。自分の苦痛は他にもあるのかどうか、どこの職場でも必ず何か耐え難いことはあるんじゃないか。仕事で行き詰る時、私もそう考える。働かないとわからないからこそ、この考えはずっとぐるぐるまわる。
    だからずっと常識の範囲をとんでもなく超えた上司のふるまいに何も出来なかった、という気持ちがすごくわかる。
    でも、苦痛ら相対的に考えたらいけない。他の方がひどいかも、なんて想像は役に立たない。今の自分が受け入れることが出来るかどうか、絶対的に考えた方が良い。皆もつらいから、とか他もひどいなら、だから自分も我慢しなきゃ、なんてことで生活を暗くしちゃいけないとも思う一方、自分の忍耐力に問題があるのかとも思う。
    職場環境は人によって変わる。周りの人間関係や仕事内容。同じ度合いでも大丈夫な人もいれば辛い人もいる。受け入れ方は本当に人の数だけあると思う。だからこそ、少しでも皆が、自分の知らない人も含めて、仕事に関して過剰な苦痛に耐えなければいけないようなことななっていないと良いなと思う。
    主人公の受けるストレスが読んでるこちらも辛くて、最後会社を辞めた時にはほっとしたけど、もっと色々仕返ししたら良かったのに、ともどかしい気もした。ヨーグルトを加熱するだけは甘いよ、と。
    仕事の上司であれ、人間を傷つけて良いわけない。なんかすごく腹立たしい作品だった。現実には起きないでほしいなあ。

  • 2008年下半期、芥川賞受賞作。同時期の候補者には鹿島田真希や田中慎弥もいて、なかなかに激戦だった。まず、タイトルがいい。ポトスライムは、色彩の鮮やかさと瑞々しさを喚起するが、そこに舟が加わることで、イメージに一層の拡がりが生まれる。次にリズムがあり、スピード感に溢れる文体が爽やかだ。けっして明るい物語ではないのだが、暗く落ち込んで行くこともない。視点人物である主人公のナガセをはじめ、りつ子にも、母にも、その他の登場人物にも、どこにも男の影のない小説だ。そうなのだ。女はかくも自立して生きて行けるのだ。

  • この手の人なら、絲山秋子の方が信頼できる気がする。

    「ポトスライムの舟」3
    山田詠美が「『蟹工船』より、こっちでしょう」と評したが、なるほど、と。
    群集の貧困ではなく、それぞれ個人の貧困を描くのが、現実的だろう。
    お金の生々しい描き方に、主人公/作者が女性であることを感じた。

    「十二月の窓辺」3
    職場の関係性が、さすが現役のOLならではの深みが。
    隣りの芝生の青さと、実際に入ってみた時の肩透かし感が見事。

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著者プロフィール

1978年、大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で太宰治賞を受賞してデビュー。2008年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、2009年「ポトスライムの舟」で芥川賞、2011年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞、2013年「給水塔と亀」で川端康成文学賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2017年『浮遊霊ブラジル』で紫式部文学賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞、2020年「給水塔と亀(The Water Tower and the Turtle)」(ポリー・バートン訳)でPEN/ロバート・J・ダウ新人作家短編小説賞を受賞。他に『とにかくうちに帰ります』『エヴリシング・フロウズ』『つまらない住宅地のすべての家』などの著書がある。

「2021年 『現代生活独習ノート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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