貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する

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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062153584

感想・レビュー・書評

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  •  少し前に読んだ『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』がわりと面白かったので、著者の旧著を文庫化を機に読んでみた。

     謎かけのようなタイトルだが、内容は要するに、個人業者の「マイクロ法人化」による節税のススメである。
     「マイクロ法人」とは著者の造語で、新会社法によって可能になった、資本金ゼロ・取締役1人の「1人株式会社」を指す。我々ライターのようなフリーランサーも、マイクロ法人化によって大幅な節税が可能になる、と著者は言う。

     ……と、そこまでならよくある節税本と同じ。本書の独創性は、企業の一員も「サラリーマン法人化」によって大幅に節税する(すなわち収入を増やす)ことができる、という主張にある。

    《サラリーマン法人化とは、会社との雇用契約を業務委託契約に変え、同時にマイクロ法人を設立して、これまでと同じ仕事をつづけながら委託費(給料)を法人で受け取ることをいう。》

     著者はこの「サラリーマン法人化」を、『サザエさん』のマスオさんがサラリーマン法人を設立する、という物語形式をとることによって平易に解説していく。

     面白い提案とは思うが、本書の元本が刊行されてから2年近く経つのに、「サラリーマン法人化の事例が急増中!」なんて話も聞かないから、あまり現実的ではない気がする。まあ、5年後、10年後はどうかわからないが。

     とはいえ、本書はフリーランサーである私にも十分読む価値があった。「法人」という概念の内実について、初めて深く理解できた気がするし、随所で披露されるファイナンスをめぐるエピソードや雑学も愉しい。たとえば、次のようなものだ――。

    《近代会計は、イギリス王室の税収と出費を管理するためにはじまった。十四世紀には、何百人という会計士が国王の台所を管理するために膨大な帳簿と格闘していた。やがて会計制度は一般にも広く使われるようになり、十七世紀のイギリスでは宿屋や鍛冶屋ですら複式簿記によって収入と支出を管理していたという。》

     本書のかなりの部分がさまざまな分野の先行書の引用で成り立っているのだが、それでも「他人のフンドシで相撲をとっている」という印象はない。引用を文章に組み込んでいく手際が鮮やかなので、実質は身もフタもない実用書にもかかわらず、洗練された読み物に仕上がっているのだ。このへんは、経済小説作家の著者ならではだろう。

     もっとも、本書を読んでも、私は自分でマイクロ法人を作ろうとはとても思えなかった。面倒くさいし、白色申告のフリーランサーで十分である。

  • この本は会社にしがみつくのではなく、自分の稼ぐ力で生きてこうという人たちに会計や税務、ファイナンスの知恵を貸してくれる。結論からいうと、エピソードが冗長で多少退屈なところもあったが、結構発見があって面白かった。以下、発見を引用しつつ書きたいと思う。



    私たちがお金を獲得する方法は、つまるところたったひとつしかない。
    『資本を市場に投資し、リスクを取ってリターンを得る。』これだけだ。
    働く能力を経済学では人的資本という。若いときはみんな、自分の人的資本(労働力)を労働市場に投資して、給料というリターンを得ている。
    人的資本は要するに稼ぐ力のことだから、知識や経験、技術、資格などによって一人ひとり違う。大きな人的資本を持っている人はたくさん稼げるし、人的資本を少ししか持っていない人は貧しい暮らしで我慢しなくてはならない。p8


    働く力(労働力)を経済学では「人的資本」という。人的資本とは労働力。その労働力を僕達は会社に売って対価を得ている。こういうことは感覚的にはみんななんとなく理解していることだけど、言葉としてちゃんと説明できる人は少ないんじゃないか。



    サラリーマンとそれ以外の企業家にはひとつ決定的な違いがある。それは、サラリーマンが企業活動(お金を稼ぐ経済活動)の主要部分を会社に委託(アウトソース)してしまっていることだ。これは具体的には、会計・税務・ファイナンスである。会計は収支や資産や管理する仕組みで、税務は所得税や消費税などを国家に納税する経済行為だ。ファイナンスは資金の流れを把握し、資本市場から効果的に資金調達することをいう。これはどれも企業家にとっては生死を分かつほど重要なことだけれど、サラリーマンは源泉徴収と年末調整によって会社に税務申告を委託しているので、手取り収入の範囲で生活しているだけなら会計も税務も必要ない。住宅ローンはファイナンスの一種だが、家賃のかわりに決められた金額や払っているというひとが大半だろう。サラリーマンとは、企業家としてのコアを切り離すことで、自らの専門分野に特化したひとたちなのだ。p11


    会社に雇用されると「お金を稼ぐ経済活動の主要部分」を会社任せにしてしまうという。

    その主要部分とは「会計」「税務」「ファイナンス」

    なるほど。確かにサラリーマンをやっていたらこんなの勉強する機会なんて普通ないね。特に、ファイナンスなんて全く馴染みがないや。意味は資金調達。



    1980年代以降、欧米化など先進諸国で増え続ける新しい就業形態で、労働市場の流動化が進んだアメリカでは全就業者数の4分の1、約3300万人のフリーエージェントがいるという。p14


    「フリーエージェント」という就業形態があるみたい。これもたまに聞くけど、あまり馴染みがない。パット思い浮かぶのは与沢翼。そんな本出してたよね。笑



    Wikipedia
    フリーエージェント (free agent) とは、組織に雇われない働き方をする人々である。主にインターネットを使って自宅で働き、アメリカでは労働人口の四分の一がこの働き方を選んでいる。
    定義:「正規雇用者として組織に所属することなく、他者による時間的、空間的、対人関係的、また職務内容的な制限を受けずに、本人の自由裁量に基づいて働くこと」(正社員と比較して相対的に)


    このフリーエージェントが法人化したものが、マイクロ法人だ。(中略)会社をつくることによって、個人とは異なるもうひとつの人格(法人格)が手に入る。そうすると、不思議なことが次々と起きるようになる。詳しくは本編を読んでほしいのだが、まず収入に対する税負担率が大幅に低くなる。さらには、まとまった資金を無税で運用できるようになる。そのうえもっと驚くことに、多額のお金をただ同然の利息で、それも無担保で借りることができる。こうした法外な収益機会は、本来、自由で効率的な市場ではありえないはずのものだ(経済学の大法則は『市場にはフリーランチ(ただ飯)はない』だ)。ところが実際には、人格をひとつ増やしただけで、簡単にフリーランチにありつくことができる。(中略)マイクロ法人は、国家を利用して富を生み出す道具である。p14


    フリーエージェントを法人化させたものがマイクロ法人だという。このマイクロ法人をつくることでもう一つの人格を獲得できるというから驚きだ。法人とかよく聞くけど、意味はよく知らないよね。そうして人格をひとつ増やすことで、税金負担率が下がり、資金を無税で運用できるようになると。凄い。



    ダニエルピンクの試算によれば、アメリカには1650万人のフリーランス、350万人の臨時社員、1300万人のミニ企業家(マイクロ法人)がおり、フリーエージェントの総数は推計3300万人になる。そのうえさらに、フリーエージェント予備軍として、在宅勤務で働く社員が1000万人以上もいる。『雇われない生き方』は、アメリカの労働形態を大きく変えつつあるのだ。p59


    アメリカだと雇われない生き方をしている人は多いんだね。国によってホント全然違う。



    日本は40万人のフリーランス、300万人の臨時社員、30万人のマイクロ企業家しかおらず、フリーエージェント人口はアメリカの約10分の1の370万人だ。それ以上に特徴的なのは、臨時社員(非正規労働者)の数がアメリカのほぼ同数とその割合が突出して高いことだ。それに対してフリーランスやマイクロ法人の数は5%にも満たない。日本人の働き方がいかに強く会社に依存しているかがわかるだろう。p68


    一方、我が国の日本はというと、この通り、雇われる生き方が多数だ。最近はようやくその生き方に疑問をもって大企業をやめる人たちが増えてきたりしたが、まだ依然としていい大学→いい会社の生き方を目指している人たちが多い。



    個人が無担保でファイナンス(資金調達)しようとすれば、消費者金融で高利のカネを借りるしかない。ところがマイクロ法人は中小企業に対するさまざまな優遇制度の対象になるので、1000万円程度なら無担保、無利息に近い条件で資金を調達できる。この資金を借り替えていけば、ただでお金をもらうのも同じ話になる。p104


    もう一つの人格である法人格を手に入れることで、1000万程度ならほぼ無担保無利息でファイナンスできるらしい。らしいというか、実際にいま僕が勤めている超ベンチャー企業で、この前1000万円のファイナンスしてた!(審査落ちたけどそういう制度は実際にあった)からどうやら本当のようだ。こういうことだったんだね。笑



    株式会社を設立する場合、設立時に最低でも定款認証手数料5万円と登録免許税15万の合わせて20万円(及び印鑑代などの雑費)が必要になる。一方、合同会社は6万円の登録免許税と雑費だけで設立できる。この差額の14万円を節約したいひとが、株式会社ではなくて合同会社を選ぶのだ。p112


    20万ちょいで株式会社を設立できるんだね。合同会社で起業するなら6万のみ。



    ワンダーランドへようこそ
    法人は人の群れを法の管理下に置くための工夫であり、株式会社はその法人に経済主体として有限の責任を認めたものだった。だが日本では会社は常に家と同一視され、資本主義の原理からかけ離れた統治構造を持つようになってしまった。その象徴が、株式の持ち合いによる系列化だ。
    先にネットカフェ社長のアイデアを述べたが、法人や日本型資本主義の仕組みを知っているともっと面白いことができるようになる。新しい会社と取引をする際に相手が気にするのは、社長や社員の学歴や職歴ではなく、本社の所在地や資本金、従業員数、売上高などだ。
    中略
    資本金ゼロで設立したマイクロ法人でも、株式を持ち合うことでいくらでも自由に資本金を膨らませられる。会社法では互いの株式を50%以上持ち合うことを禁じているが、複数社で資本を循環させればこの規制は簡単に回避できる。
    中略
    会社法においては社員とは出資者=株主のことだ。法律用語では社員数は株主の総数のことだが、世間一般では雇用契約を結んだ従業員を社員と呼ぶ。だがこれは単なる慣例なので、言葉の定義を変えても誰も文句はいわない。歩合契約の登録スタッフを社員と呼ぶことにすれば、その数は簡単に1000人や10000人にできるだろう。会計の基本を知っていれば、実際に資金が動いていなくても、他の会社と売掛金や買掛金をやりとりすることでいくらでも売上高を増やすことができる。
    中略
    たったこれだけの工夫で、本社六本木、資本金5000万円、社員100名、売上100億円の仮想会社ができあがる。その社長が高校中退の元フリーターだとしても、よはや彼は社会の落後者ではなく、立見出世物語のヒーローだろう。p120


    法人格を獲得して上手いことやると、ちゃんと会社法に則った上で、フリーターがそれなりの経営者になれるみたいだ。ホントにワンダーランドだね。この後に色んな節税の話が詳しく記述されて、最後にあとがきで下記のように綴られる。



    最近では古いビルやマンションの一角を改装し、レストランや雑貨店をはじめる若い人たちが増えている。私の住んでいる街でもそんな店がたくさんできたが、ほとんどが数年で力尽きて閉店していく。彼らにアドバイスする立場にはないのだが、いつも残念に思うのは、頑張るだけでは問題は解決したいということだ。彼らにもし、会計や税務、ファイナンスの基礎的な知識があれば、無駄な出費や高利の借入でせっかくの挑戦を台無しにしてしまうこともなかったかもしれない。p307


    僕の周りでもレストランや雑貨店が何度も閉店していったよ。彼らが、この本に綴られているような会計、税務、ファイナンスの基礎知識(お金を稼ぐ経済活動の主要部分)を知らなかった為に、夢破れてしまったのだとしたら、これ以上悲しいことはない。そんな悲しさを味合わない為にもこの本を読んでみることをオススメする。

    http://tomolog.hatenadiary.jp/entry/2014/01/14/110835

  • 法人設立方法
    公的融資制度→日本政策金融公庫と各自治体の制度融資がある
    文庫化されている。

  •  面白かったです。
     でも、この本の趣旨(マイクロ法人という選択肢を広める)を考えると、無駄な部分が多くて、マイクロ法人という選択肢を本当に必要としている方は途中で興味を失ってしまったかもしれないと思います。

     ただこの本はコーポレート・ファイナンスの基本中の基本を実にわかり易く書いてくれていて、ちょっと感動しました。昔勉強しようと思って日経文庫の『コーポレート・ファイナンス入門』という本を買ったんですが、最後まで結局“資本コスト”がよくわからなくて…なんだそういう意味だったのか。

     マイクロ法人はともかく、起業を考えるほど経営センスのある方なら最後まで楽しく読める内容かと思います。

  • 著者の言う「マイクロ法人」というスキームは、思考実験としては面白いけど、
    普通のサラリーマンが実践するにはいろいろハードルが高くて現実的ではないと思った。

    むしろ、ダイエーの創業者である中内功の話や西原理恵子の脱税の話など、
    本筋から寄り道した小話がいっぱいあって、それが面白かった。

    あと、公的融資制度を利用すればほとんどただ同然の金利でファイナンスできることは、
    今後利用することがあるかどうかは別として、知識として覚えておいて損はないと思う。

  • あなたはデコらない自分に耐えられますか - 読んだものまとめブログ http://t.co/oJSVqP6 via @sadadad54

  • 会計、税、ファイナンスのことがまだわからない。読んでもわからないところがあるけれど、細々と知識をつけて行こうと思う。最近、起業を考えて何冊か本を読んだけれど、この本で融資にチャレンジしてみようという気持ちになった。今年一番の出会いは橘さん。

  • 『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』の著者による、ファイナンス技術の本。『黄金の羽根』と同じく、日本の国家が抱える制度上の歪みを利用して節税するための方法が書かれている。本書では特に、株主・取締役が一人だけの株式会社(本書ではこれを「マイクロ法人」と呼ぶ)について紹介している。
    昨今では日本でもフリーエージェント・フリーランスと呼ばれる人が増加傾向にあると言われているが、そういう人々を対象としている。
    法人は法律上「ヒト」として扱われたり「モノ」として扱われたりする不思議な存在であり、そこに制度上の歪みが生じる。そこから利益を得るために、会計・税務・ファイナンスの基礎知識を解説している。
    あとがきには「本書で紹介したのはごく基本的なことで、専門家はもちろんビジネスの現場にいるひとも『こんなの常識だ』と思うかもしれない」とあるが、初心者にはほとんど分からないレベル。そして、「詳しくは類書を当たってほしい」といった記述もあるため、結局本書だけでは何もできないように思われる。(後からリファレンスとして参照するにしても、地の文が多くて使いにくそうだ。)
    マイクロ法人というコンセプトを初めて知人は読んでも良いかもしれない。

  • 著者の軽快な言いっぷりが好きです。
    最後に書いてある、国家に依存するな。国家を道具として使え!が
    印象的でした。

  • 「貧乏はお金持ち」とは個人の資産をマイクロ会社に渡すと個人としては貧乏になるが会社を自在に使えるので事実上のお金持ちになれるという意味
    もちろん、商売である程度儲けることができるのが大前提

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著者プロフィール

作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』 (以上ダイヤモンド社)など多数。『言ってはいけない ~残酷すぎる真実』(新潮新書)が50万部超のベストセラーに。

「2019年 『1億円貯める方法をお金持ち1371人に聞きました』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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