整形前夜

著者 :
  • 講談社
3.60
  • (35)
  • (115)
  • (129)
  • (10)
  • (1)
本棚登録 : 662
感想 : 100
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062153966

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 再読です。

    印象的だったのは江戸川乱歩作品の「運命のふたり」要素について。
    明智と二十面相、単なるライバル同士というだけではなく、どこか恋愛めいた相手への信頼と期待があるとの説に納得してしまいました。
    それから、「ああ、あれは、まぼろしでしょうか」などの、読者への呼びかけ。
    しかし、呼びかけの形をとる一方で、実は乱歩自身が自らの仕掛けた異様な事態に夢中になっている陶酔感の表れでもあるのですね。
    そんな後ろ暗い悦びがつまっているからこそ、少年探偵団モノの魅惑は色あせないのでしょう。

    それから「共感と驚異」についてもふむふむと納得。
    人間は年をとるにつれて「驚異(ワンダー)」よりも「共感(シンパシー)」を求めるというもの。
    現代のメディアが提供するテレビ番組や音楽を見ていても、視聴者の「共感」を求める内容や煽りのものが多いです。
    「驚異」を「驚異」として楽しむことができる感覚を失わずにいたいものです。

  •  私は3年ほど前に穂村の魅力に“開眼”し、当時出ていたエッセイ集をすべて読んだのだが、なんとなく飽きがきて、その後はしばらく遠ざかっていた。

     久しぶりに読んでみたら、やはりバツグンに面白い。
     芸風は、相変わらず。自らの「世界音痴」ぶりをネタにした、いわば“キュートな自虐”が笑いを誘うユーモア・エッセイである。
     相変わらずではあるが、言語感覚の鋭敏さと意表をつく発想の面白さが抜きん出ているので、マンネリ感はない。

     収録エッセイのおよそ半分は女性誌『FRaU』と『本の雑誌』に連載されたもので、残りは各紙誌に寄せた単発エッセイ。

     そのうち、『FRaU』『本の雑誌』連載分は総じて出来がよい。
     『FRaU』に寄せたものは、女性一般に向けた畏敬の念や違和感をユーモアでくるむ手際が鮮やか。

     『本の雑誌』連載分は、本好きの読者に向けて書かれた「文章と言葉や本について書いた」エッセイが中心で、穂村の表現者としての核を垣間見せるものになっている。
     とくに、それぞれ3回にわたって同じテーマが追求される「共感と驚異」と「言語感覚」は、今後誰かが「穂村弘論」を書くとしたら必ずや引用されるであろう内容だ。しかも、それがけっしてお堅い文学論にはならず、ちゃんとエッセイとして愉しめるものになっている。

     単発エッセイは雑多な内容だが、少年期~青春期の思い出を振り返る文章が多いのが本書の特長。「ほむほむ青春記」ともいうべき一群のエッセイは、笑えると同時にリリカルで切ない。

     ところで、本書には何度か穂村の奥さんが登場するのだが、彼女の職業は図書館司書となっている。
     あれ? 『現実入門』に登場する編集者「サクマさん」と結婚したのではなかったのか? 『現実入門』の最終回はフィクションだったのだろうか?

  • 普段あまり活字を読まない私でもサラッと読めた。すごく読みやすい。そしてすごく面白い。『共感と驚異』の話がとても興味深くて繰り返し考えてしまう

  • 穂村ワールドにはまった。

  • 内容が濃くボリューミーな一冊。
    容姿についてや文学についてや過去について。

    青春時代の心理とか精神世界と現在との違和感みたいな話があった。あぁ、こういう風に感じてるのあたしだけじゃなかったんだ。こんな日常の中でふと思うけど深く考えず通り過ぎてしまうことを、もっとたくさん、この人に表に出してほしい。

    情けない話が少なめで、穂村さんて立派なひとなんだなって思った。

  • 信号のこととか、虫のこととかなんか呼んでいてつらくなってくる

  • 特にサイン会の話が何度読んでも笑っちゃう

  • 私は太宰の「人間失格」がぴんと来なかった人間であったけど、

    主人公が「「生き延びる」がぴんとこない人間」、
    そしてこの物語は「「生き延びる」を共通目的とする世界の網の目から零れてしまう魂の叫び」
    そして、零れないためには
    「みんなと同じように「生き延びる」感覚を身につけるか、もしくは別の世界に行くしかない。」
    との書かれ方に、わからなかったわけが腑に落ちた。

    大人になってからこの物語に触れた私はもう「生き延びる」方に必死で、「不要」「役に立たない」「なくても困らない」ものには目もくれないようになっていた。

    役に立たないものに価値があるような、「別の世界」に、私はまた戻れるだろうか?

    もう無理かもしれないけれど、詩歌や短歌に触れるとき、別世界を覗くように遊びに行くことはできるかもしれない。


    あと、推理小説の美しい文やタイトルをよく挙げられてるのが嬉しくなった。
    乱歩がお好きなの、わかるなあ。

    「子供で詩人で大人で探偵小説家で醜くて美しい乱歩最高と、思わずにはいられないのだ。」

    「うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと」の乱歩だものね。
    短歌って、意外性と飛躍、でもどこか連想が働くところが夜の夢に近いのかもしれない。


    「もうひとつの時間」もとても良く、
    バレエ少女がまとう別世界の気配にときめく感じがすごく共感できた。憧れる。


    今不意に踊りたいのはわたしだけ展覧会の光る床板 / 大田美和

  • 124-

  • エッセイ集のタイトルって難しいよね。
    ほむほむのことを知らなければ初見で絶対手に取らないタイトル。
    もしタイトルだけでぱぱっと取ったら違うコレジャナイ感満載だと思う。
    あいかわらずとぼけた日常(女性誌FRAu掲載)と、歌人としての言葉に関する真面目な考察(本の雑誌掲載)の二本立て。
    このエッセイ『FRAu』に載ってたらクレームでたんじゃない?てドキドキしたけど巻末の初出みたらそれは『小説現代』だった。
    ほっとした。

    あとこれ何故か目次が横書き。
    なんとなく、横書きの方が目次のページ数少なくできるのかな?て気がするけど普通の横書きとは順序が逆だからちょっと違和感。
    通読するわけじゃないからいいんだけど。

    デザイン / 服部 一成
    初出 / 『FRAu』2005年5月5日号~2006年12月5日号、『本の雑誌』2006年1月号~2009年4月号、毎日新聞2006年7月22日付け~2006年9月19日付け、『PHPスペシャル』2008年7月号・11月号、他。

  • だが、と私は思う。日本女性の美への進化もまだ完璧ではない。例えば、踵。あの踵たちもやがては克服され、「おばさんパーマ」のように絶滅してゆくのだろうか。かっこ悪い髪型からの脱出を試み、大学デビューを阻む山伏に戦く。完璧な自分、完璧な世界を強く求めながら、平凡な日常の暴走に振り切られる生ぬるき魂の記録。人気歌人の頭からあふれ出す、思索のかけらを集めたエッセイ。(文庫本裏表紙)

    段々読むのが辛くなってきた。文章の、言葉の端々にある切っ先のようなものが苦しい。
    「いちばん恥ずかしかったこと」の恐怖。ここ最近読んだあらゆる本の中で、最もぞっとしました。

  •  安定の面白さでした。
     生きる・生き延びるの話は、短歌入門でも詳しく書かれていたけれど、ハッとさせられます。「感性」や「心の闇」で簡単に片付けてしまうその乱暴さにも気付かされました。便利な言葉は思考を停止させる。また、「わかる」とか「共感」とか、つい心地いいことばかり求めてしまうけれど、ほむほむも短歌にわからない部分が40%もあると聞いて、なんだか安心できました。共感の末にあるのが「お天道様にも雑草にも石ころにも感謝」「今日一日が有り難い」的なものに行き着くのか。。。やだ。。
     この本のハイライトは、ほむほむが森見登美彦氏の作品を褒めていたところ。好きな作家が好きな作家を褒めてると嬉しい。

  • 2016.06.30 読了。

    図書館にて。

    雨だから迎えに来てって言ったのに
    傘も差さず裸足で来やがって

  • 日常の1コマに関するほむほむの所感が書かれた本。
    斬新な視点のようで、どこか自分にも心当たりがある感覚。そんな感覚が言語化されている。何気ない日常の風景が、カラフルに色付けされているよう。
    こうやって書くと堅苦しい本に見えるが、内容はとてもゆるく、すき間時間に読めて、思わずニヤけてしまう本。

  •  とてつもなく偉大なことを言っているのか、はたまたくだらないことを言っているのか。些細なことを言っているように思えるが、なにか壮大なことのようにも思える。

  • 『世界音痴』に並ぶ素晴らしいエッセイ集。
    『世界音痴』が日常考察系エッセイだとするなら、こちらは非日常考察系エッセイ。死の感受性について考察している何本かがすごくいい!そうなんだよ、そうそう!と思わずうなずいて読んでしまった。と、同時に「あれ、穂村さんってこんな格好いい文章かけるんだ」とちょっと驚いた。
    穂村さんもまた、1人の逸脱者として世界とのズレの苦しみを経験した人なのかもしれない。
    大島弓子作品を解説した項目の一文が切なく、胸が苦しくなる。『自らの生に忠実であろうとすることで、詰め将棋のように避けようもなくこの世から外れてゆく魂の痛み』。

    ところで穂村さん、絶対に生涯独身だろう(むしろそうであって欲しい)と思っていたのにいつのまにか結婚されていたんですね。(このエッセイで知りました)結婚生活の描写に違和感持ってしまって、なんだか、…なんだか不思議だなあ!

  • 「檸檬の記憶」に出てくる、透明感のある先輩に憧れる。美しいということは上品であるということなんだろうなあ。憧れるなあ。
    穂村さんの自意識の強さは痛い。なぜ痛いんだろうと考えて気づく。痛いのはわたし、つまりはわたしの自意識が強すぎるのだ。

  • 二人が出会う前夜、二人はなにも知らず、相手のことなんて考えていないけど、その前夜は確かにあった。そのシチュエーションを思い浮かべてドキドキする気持ち、わかる。

  • くすっと楽しい。
    気楽に読んだ。

  • 穂村弘のエッセイの中でも一番好き。普通にまじめに働いていると必ず「絶望」する、自意識トンネルからはい出るのに25年、布団の下は嵐の海、素敵男子への第一歩、コムデギャルソンに入って窒息しそうに(笑)

全100件中 1 - 20件を表示

著者プロフィール

穂村 弘(ほむら・ひろし):1962年北海道生まれ。歌人。1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。短歌にとどまることなく、エッセイや評論、絵本、翻訳など広く活躍中。著書に『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、『ラインマーカーズ』、『世界音痴』『もうおうちへかえりましょう』『絶叫委員会』『にょっ記』『野良猫を尊敬した日』『短歌のガチャポン』など多数。2008年、短歌評論集『短歌の友人』で伊藤整文学賞、2017年、エッセイ集『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、2018年、歌集『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。

「2023年 『彗星交叉点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

穂村弘の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×