ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (100周年書き下ろし)

著者 :
  • 講談社
3.53
  • (164)
  • (494)
  • (542)
  • (86)
  • (23)
本棚登録 : 2781
レビュー : 560
  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062157612

作品紹介・あらすじ

"30歳"という岐路の年齢に立つ、かつて幼馴染だった二人の女性。都会でフリーライターとして活躍しながら幸せな結婚生活をも手に入れたみずほと、地元企業で契約社員として勤め、両親と暮らす未婚のOLチエミ。少しずつ隔たってきた互いの人生が、重なることはもうないと思っていた。あの"殺人事件"が起こるまでは…。辻村深月が29歳の"いま"だからこそ描く、感動の長編書き下ろし作品。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『内密出産』という制度があるそうです。2014年頃にドイツで開始されたこの制度は、予期せぬ妊娠をしたことで名前の公表を希望しない母親が、出産を受け入れる病院だけに身元を明かして出産する。そうして生まれた子どもは一定年齢に達した段階で病院がその出自を伝えるという制度だそうです。日本では2007年に熊本市の慈恵病院が『こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)』を設置して大きな話題となりました。そして2019年12月の記者会見で同病院はこのドイツの制度を導入することを発表しました。『子供が欲しい親、やむなく捨てる親』、家族の形が大きく変化するこの時代に新しい命をどう取り扱ってゆくのか、『何よりも大事なのは子供の命です。生きることです』。赤ちゃんポスト、そして内密出産、今後出産はどのようになってゆくのでしょうか。

    『大騒ぎになるのだとばかり思っていた。私を囲み、その前に倒れるお母さんを見て仰天しながら、私を取り押さえてつかまえてしまうはずだった。…私は加害者』という何か重大なことが起きたことを悟らせる序章からこの物語はスタートします。『どこ、いるんだろうね、チエちゃん。心配、すごく心配』という旧友の古橋由紀子を訪ねたフリーライターの『私=神宮司みずほ』は、幼なじみであるチエミの消息を掴むため、その後も実家のある山梨県甲州市に住む友人や小学校時代の恩師を順に訪ねてまわります。『今年四月、望月チエミの自宅で彼女の母親、望月千草が脇腹を刺され、死んでいるのが発見される』というニュースが駆け巡ってから数ヶ月。チエミを重要参考人とする警察の必死の捜査も芳しくなく『今や、容疑者の命を絶望視する方向へと傾き始めている。自分のやったことの罪の重さに耐えかねて、今頃はもう、きっとどこかで』という状況の中『まず知りたいの。あの家に、何があったのか』とチエミの手がかりを探すみずほ。一方でみずほは国内唯一とされる『天使のベッド(赤ちゃんポスト) 』を設置する富山県の高岡育愛病院の医師を尋ねます。当たり障りのない回答で取材を終えようとした瀬尾医師に みずほは『勘違いなさらないでください。施設の存続をお願いするために来ました』と告げるのでした。そして物語はチエミの行方を探し求めるみずほと赤ちゃんポストの存続の行方などが複雑に絡み合って展開していきます。

    冒頭の衝撃的な序章のあと、第一部と第二部から構成されるこの作品。第一部では、みずほの山梨県での旧友、そして恩師への取材過程が淡々と描かれていきます。その中では、みずほと母親、そしてチエミと母親という近所に暮らす二つの全く異なる母娘関係の裏表が次第に明らかになっていきます。『私は確かに彼女たちと自分を違うと思っていたが、そう思っていることまで含めてあの場所ではっきりと浮いていた』という山梨を出て東京で暮らすみずほの生き方と『ずっと一緒に、お母さんたちとここで子供を育てる』と考え山梨に生きるチエミの生き方。考え方が異なる幼馴染の二人。その生き様がそれぞれの母娘関係と共に見事に対比させて描かれていました。

    また、この作品で強く印象に残るのは、やはり『赤ちゃんポスト』のことだと思います。フィクションとして富山県の病院に設置されているとした上での問題提起。『それやっていいの?子供捨てるのって犯罪なんじゃないの?』、『私、逆に配達してくれるのかと思った。子供いない人のところに赤ちゃん、くれるのかと思ってた』というように みずほの友人たちには知識がほぼないという前提設定のもと、『関心を払わせるという意味では、「赤ちゃんポスト」の強い名称は成功していたと言える』と書かれる辻村さん。ただ、象徴的に問題提起したかに見える割には、少し尻すぼみのような取り上げ方が少し残念ではありました。

    そして、地道なみずほの取材が淡々と描かれていた第一部に対して、作品は第二部に入って一気にそのスピードが上がり、辻村さんの『謎解きモード』に突入します。その中で、この作品のタイトルの意味も判明し、すべての謎が明らかになりますが、第一部に比してあまりの急展開に少し面食らってしまったのも事実です。また、その分、若干の消化不良感も残りました。ただ、500ページもの物量を考えると、これ以上は集中力がもたない感もあり、これはこれで仕方ないのかなとも思いましたが、第一部と第二部のバランスの悪さはどうしても気になりました。

    2009年の直木賞の候補となったこの作品。「冷たい校舎の時は止まる」から続いた思春期の少年少女の心理を、主に学校を舞台に描いた作品群が辻村さんの一番の魅力だと思っていますが、近年、人のドロドロとした内面を執拗に描いていく大人な作風に変化されてきています。この作品は、その中間やや近年よりという印象を受けました。自らの持つ価値観とは異なるコミュニティで、それを実感しながら、自分の中に異物感を抱きながら育った みずほ。でも幼馴染のことを思い、その今を憂うことのできる みずほだからこそやり遂げることのできた納得感のある結末を感じさせてくれた作品でした。

    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、コメントをいただきありがとうございました。

      こちらこそいつもありがとうございます。
      この作品、特に第一部の内...
      naonaonao16gさん、コメントをいただきありがとうございました。

      こちらこそいつもありがとうございます。
      この作品、特に第一部の内容がとてもヘビーでした。感想に入れ損ないましたが、みずほが取材する相手がとんでもない人物が多くて、読んでいて気が滅入りました。
      私には500ページぐらいが一日で読める上限かなと、最後の方ヘロヘロになって感じた次第です。
      コメントいただいた通り、こういった作品読むと自分について振り返る一機会にはなりますね。良いことも、悪いこともですが…。

      『継続は力なり』、で今後とも読んでいきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。
      2020/05/11
    • naonaonao16gさん
      さてさてさん

      こんにちは☆彡お返事ありがとうございます!

      最初に取材をする場面ですね…少し記憶がうっすらとしてきていますが…すみ...
      さてさてさん

      こんにちは☆彡お返事ありがとうございます!

      最初に取材をする場面ですね…少し記憶がうっすらとしてきていますが…すみません(笑)
      でも実際、取材って様々な人間関係に触れるし、もしかしたら、どんな相手でも、意外と全員「変な人」かもしれないな、なんて思うことはあります(笑)

      これからも、あまり無理をなさらない程度に、頑張ってくださいね!
      わたしもこつこつ、読んでいけたらと思っています!
      こちらこそ、今後ともよろしくお願いします^^
      2020/05/12
    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、ありがとうございます。

      naonaonao16gさんの『読みたい』にある「つきのふね」は私もとても『読みたい...
      naonaonao16gさん、ありがとうございます。

      naonaonao16gさんの『読みたい』にある「つきのふね」は私もとても『読みたい』です。

      今後ともよろしくお願いします。
      2020/05/12

  • ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナの意味がわかった時、ハッとしました。
    「.....逃げなさい」「産んでも、いいから」
    事件当夜の母娘のやり取りは涙が止まりませんでした。
    いろいろな形の親子がいるけど子を思う母親の気持ちは、変わらないのだと母親になった今だからこそわかる気がしました。
    後半は、吸い込まれるように一気読みでした。

  • 田舎に住みたい。
    昔からそう思っていたけど、今、引越しで一地方に住んで、田舎の閉塞感、息苦しさにはなかなか慣れない自分がいる。

    主人公みずほの幼馴染であり、親友?であった「チエ」ことチエミ。
    そのチエミが、仲の良かった母を刺して、失踪したという。。
    東京でフリーライターをするみずほは、チエミを探して故郷に戻り、かつての友人たちや同僚、恩師の元を訪れる。
    最初は、どこに手がかりがあるのかわからない、靄の中をただ進むような状態。
    それが、少しずつチエミにつながる糸が見えてくる。
    辻村さんの、温かみがありながら、鋭く感情をえぐりだす文章は、いつもながら、さすがと思える。

    チエミが母を刺してしまった本当の理由。
    そして、失踪しなければならなかった本当の理由。
    恩師の元を訪れた理由。
    そして、チエミは今どこにいるのか――。

    ミステリー的な要素や、相互に依存しあった母娘のつながり・葛藤や、「赤ちゃんポスト」の問題提起や。
    色々なものがつめこまれていながら、一番共感を覚えたのは、地方に生きる女子の、特有の連帯感であり、閉塞感であり。
    これは、辻村さん自身の経験でもあるのだろうか。
    あまりにリアリティがあって、恐くなった。

    チエミには共感できない。
    依存しきった母娘の、愛なるものに、感動することもできなかった。

    でも、今、自分の中にある息苦しさは、息苦しさの正体を知って、少し楽になっただろうか。

  • 3.8
    設定があまり好みではなかったかな。
    話の展開としては面白かったです。

  • 母を殺してしまったチエミのことを追う,幼なじみのみずほ
    一見よくある設定ではあるが,話に惹きつけられた。
    最後に明かされる事実。
    母の日はなんだったのか…と考えると,なんだか言いようもなく切ない。

  • 32)望んでいないと何度も口にした。まだバリバリ働ける途中なのに計画が狂っちゃった。嫌みである事を自覚しながら平凡な女を望んでいる事を恥じて偽悪的に嘯いた。望んだ事は叶えてきたつもりだった。だからこそ人生に耐性がなかった。

  • ★軸があるからこそのストーリーテリング★手練れだなあと思わせる伏線と回収。妊娠話を後半で気づかせておいて、最後に視点を変えてひっくり返す。地方都市での生活の息苦しさを通奏低音としつつ、ふたつの母娘の関係を通じて、子を思う親の気持ちで泣かせる。タイトルも効いている。

  • 女性ならではの感情、世界観が凝縮されている。女性だからこその強い繋がりもあれば、脆さもあり。母と娘、女友達。心の醜さの描写が鮮烈で、そしてそれが「あー、わかるわかる」な自分に自己嫌悪。最後は何か、切なくてつらくて心えぐられた。

  • 複雑な人間関係、というか登場人物が多くて、
    すこしだけついていくのが大変な部分があった。
    でもやっぱり辻村さん。細かいところまですばらしい。
    きっと誰もが心の奥で感じていながら自覚していないところをことばにしていて
    ドキリとさせられたり、腑に落ちたり。

     **「自分の人生に対するモチベーションが低すぎる」
    このことばはすごいな。
    自分の人生に対する”モチベーション”。
    やりたいことにむかって努力することはそれとは微妙にズレる気がする。

    ゼロハチゼロナナってそういうことだったのか。
    どういう意味かとすごく気になって読んだ。

  • 母親を殺害した後失踪した幼なじみを探す物語。
    主人公みずほは、母親との関係が良好ではない。
    それに対してチエミと彼女の母親はとても仲が良かった。
    それなのに、なぜチエミは母親を殺害したのか。
    みずほがチエミの関係者に話を聞くうちに驚きの真相が見えてくる。

    この作品では、女性の本質、とりわけ汚い部分が上手く描かれていると思う。
    読んでいると『あー、この気持ちわかる』、『私と似てる』と感じることが多くあり、自己嫌悪になった。
    辻村さんの作品では、いつも魅力的な登場人物の虜になるが、今回はマイナス面で共感するところは多かったが、あまりはまらなかった。

全560件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

辻村深月(つじむら みづき)
1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業後、2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。2011年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、2012年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、2017年『かがみの孤城』で「ダ・ヴィンチ ブックオブザイヤー」1位、王様のブランチBOOK大賞、啓文堂書店文芸書大賞などをそれぞれ受賞。本屋大賞ノミネート作も数多く、2018年に『かがみの孤城』で第6回ブクログ大賞、第15回本屋大賞などを受賞し、2019年6月からコミック化される。他の代表作に『子どもたちは夜と遊ぶ』『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』『スロウハイツの神様』『名前探しの放課後』『ハケンアニメ!』『朝が来る』など。新作の度に期待を大きく上回る作品を刊行し続け、幅広い読者からの熱い支持を得ている。2020年、河瀬直美監督により『朝が来る』が映画化される。

辻村深月の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (100周年書き下ろし)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×