烏有此譚

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 407
感想 : 58
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  • Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062159333

作品紹介・あらすじ

灰に埋め尽くされ、僕は穴になってしまった-目眩がするような観念の戯れ、そして世界観-。不条理文学のさらに先を行く、純文学。

感想・レビュー・書評

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  • 2冊目『烏有此譚』(円城塔 著、2009年12月、講談社)
    何が何だかわからない、というのが素直な感想である。
    ジャンルとしては一応セカイ系SFということになるのだろうか?取り止めも脈絡もないような話のようであり、”喪失”と”補填”、そして”誕生”を描いた正統な純文学のようでもある。
    本文にも匹敵する大量の注釈が空白の多い物語を埋める。その注釈の配置にも仕掛けが施されているという、ハイコンテクストな小説である。作者はちょっとどうかしている。

    〈それで、何ともなるわけではないけれど〉

  • 幻想のようでそうでなくて、不条理文学のような違うような…掴めない作品。注釈はほぼ独立した物として後から読んだが第四の壁を突き抜けたメタ視点が入った瞬間ドキッとしてしまった。末高に降り積もる灰とは結局何なのか、この作品は何なのか…よく分からないまま流され読む感覚は朝吹真理子「流跡」に似ている。

  • 【感想】
    ・これは、半世紀近く前に書いたぼくの大学での卒論とそっくりやなあ。もちろん内容はまったく異なるけど注に注を重ねる形式が。ぼくは好みでランダム・アクセス可能な論文(というのもおこがましいが)を書きたかった。そういや思い出した。提出したその日に教授から「おもろかったよ」とわざわざ電話がかかってきてびっくりした。評論家でもある教授にとってはぼくが注で遊び的にやっちまった会話風な言葉遣いだけが不満だったようだがそれについてはぼくもちょっと取って付けた感あるなと反省はしている。本文はせいぜい原稿用紙三十枚くらいで、あとは全部注、その注、さらにその注という感じで何階層までつくったかは忘れたけど。まあ、本文がメインルーチンで、実のところサブルーチンを付けるための骨格で、本文の言葉は注を引っかける受容体で、真のメインはサブルーチン=注それぞれやった。その自分の経験から、今回はまず本文だけ読んで全体の流れを把握して、それから注をそれぞれ独立した短文として読むことにした。たぶんその読み方で正解で戸惑いなく楽しく読めた。ま、それやと詩集かエッセイ集みたいなもんやけどね。
    ・本文部分は自動筆記したときの文章に似ている。その場合でも書く者の傾向とか好みとかは出はする。ちょっぴり科学というかSFの味付けがある。
    ・本文は進むにつれ、普通になっていき、ちょっとつまらないような、理解しやすいような。
    ・あまり意味のない文章だとは思いつつどこか納得させられるところもあり、どことなく安部公房を読んでるような気分でもある。
    ・むかし、埃が主人公の小説を書いたことがあり、周辺では何書いてるのかわからんと、すこぶる評判が悪かったのだが、なんとなくそれを思い出したりもした。
    ・ぼくはこういうの好きやからけっこう楽しめました。

    【一行目】
     末高の裡(うち)には灰が降り、僕の部屋には雑多なものが堆積していく。

    【内容】
    ・内容は特にない。と言ってもいいのでは? ということ自体が内容。

    ▼メモ取らず読んでいるだけでヒマなので注に出てきた書籍のリストをつくってみた。抜け落ちはあると思う。

    『麗しのオルタンス』ジャック・ルーボー
    『がんばれガートルード』スティーブン・リーコック
    『忘れられたバッハ』
    『仙界とポルノグラフィー』中野美代子
    『イヴの卵~卵子と精子と前成説』クララ・ピント-コレイア
    『ホワイト・ライト』ルーディー・ラッカー
    『あなたの人生の物語』テッド・チャン
    『多面体と宇宙の謎に迫った幾何学者』シュボーン・ロバーツ
    『南方熊楠英文論考』
    『ブラックロッド』古橋秀之
    『人類が消えた世界』アラン・ワイズマン
    『秘密』フィリップ・ソレルス
    『グレート・ギャツビー』フィッツジェラルド
    『砂の女』安部公房
    『ピエール』ハーマン・メルヴィル
    「トップをねらえ!」(明確には出てないが)
    『猫のゆりかご』カート・ヴォネガッド
    『たった一兆』アイザック・アシモフ
    『新編木馬と石牛』金関丈夫
    『穴と境界~存在論的探究~』加地大介
    『人口論』トマス・ロバート・マルサス
    『ディアスポラ』グレッグ・イーガン
    『ホット・ゾーン~恐怖! 致死性ウイルスを追え!』リチャード・プレストン
    『故事新編』竹内好訳

  • ページの下半分を注釈が占めているという、変わったページ構成。

    そもそも話し自体も、いったい何の話なのかよくわからない構成・・・

    そういう作風だし、読むの3作目ともなればいくらか慣れるけど、でもやっぱり難しい・・・

    でも注釈をまた注釈してさらに注釈するってのは、なんだか追いかけるのが結構楽しかったりする。

  • 小難しいことは考えずに読み進めればよろしい。

    正直言うと頁の間を行ったり来たりしていると本文の内容が驚くほど頭に入ってこない。それと反比例するように注釈を読むのが楽しくなってくる。次の注釈を読むために本文を読む進めるという、見事な本末転倒っぷりがおかしい。

    読むのに骨が折れる本というのは世の中に数多溢れてるが、指の数が両手じゃ足りなくなるのはこの作品くらいじゃなかろうか。
    校閲さんの苦労を想像すると自然と頭が下がる。

  • 少し飛び道具っぽい作品だけど、本と戯れるような読書体験が面白かった。

    ページの下段3分の1ほどが注釈に使われており、この注釈を素直に読んでいくと、本文をすっ飛ばしてどんどんページをめくることになる。

    むしろ注釈のほうが熱を帯びて書かれているため、さらに注釈の注釈がまた注釈を加速させるなどし始め、せまいスペースで大暴走している。

    我に返ったように、かなりページを戻って本筋に戻るときの、「つーか、何の話だったっけ?」という感覚がバカバカしくて笑ってしまう。

    この構成は、本作の全体に通底する、「どこからともなく降って湧いてくるもの」を体現していて、テーマに一貫性を感じた。

    部屋にたまるホコリと、わいてくる虫の話から、物理学や数学、宇宙、ゲーム、文学、SF三大馬鹿物質まで、気が遠くなるほどの知識に裏づけされた、なんでも来いの脱力ボケの数々。

    そしていつしか、本文に注釈の番号がふられていると、「きたきたきたあ!」と、歓喜している自分に気がつくという、痛快な奇書である。

  • 121:また円城文学に煙に巻かれている……! わけがわからない、でも面白い。そんな素直じゃない面白さが満載です。でもやっぱり文系なので、かなりついていけないところもあり。タイトルの読み下しが「いずくんぞこのはなしあらんや」となります、と脚注にあったときの衝撃といったら(笑)
    オススメはできないけど、くせになる面白さです。

  • 注と一緒に読んだ。
    全体をつかむことはさっぱりできなかったけれど、部分でへぇって思ったりこういうところ面白いなーって思ったりしたので、これはこれであり。

  • ネタバレの内容どころか何がネタバレなのかもわからない内容。氏の作品には宇宙が広がってると言うか作品自体がもう宇宙。
    意味なんてないのかもしれない。よくわからないものをよくわからないままよくわからないく書く、って逆に凄いことだし、個人差はあれど、私には何故か面白くて楽しいものばかり。何故って訊かれてもわからないけど。
    意味が分からないのに面白い本、というのは本当に稀で(これも個人差はあるだろうけど)、これはそんな本の一つ。注釈がまた良い味を出しているとも思えるし、注釈の所為で置き土産が沢山散りばめられている。新たな世界への扉がそこかしこにあると言ってもいいかもしれない。
    SF好きならニヤッと出来るネタが中々多く、まあ普通に楽しい。
    ただ問題は、注釈を読んでいると色々考えた挙句本文が進まず「何だったっけ」が増えること。本文→注釈→本文(もしくは並行読み)がおすすめかもしれないし、そうじゃないかもしれない。要は「どんな風に読んだって、わかんないものはわかんない」。
    やっぱり円城塔が好きだなあと再確認されられた本だった。一つ前に読んだ、『シャッフル航法』は理解できる内容が多かったから。
    そしてやはり円城塔の世界が好き。この一言に尽きる。

  • 単行本を読んだ上で文庫になるのが楽しみな本という稀有な存在。いつ出るのか。

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著者プロフィール

1972年北海道生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2007年「オブ・ザ・ベー
スボール」で文學界新人賞受賞。『道化師の蝶』で芥川賞、『屍者の帝国』(伊
藤計劃との共著)で日本SF大賞特別賞

「2023年 『ねこがたいやきたべちゃった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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