女性のいない世界 性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062160186

作品紹介・あらすじ

男女の産み分けが容易になったことや一人っ子政策などで、中国やインド……世界の至るところで男が増え続けている。その根底には英米を中心とした国際機関による恐るべき人口抑制策の存在もあった。
本書は、男女比不均衡が引き起こす世界規模の社会的問題について、外国人花嫁や売春婦の人身売買・強奪、暴力犯罪や戦争の増加など、赤裸々な実話を交えてその深刻さを読者に訴えかける力作ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 女性のいない社会は殺伐としていて犯罪が多く住みにくい。少ない女は閉じ込められ、社会的な地位は底辺に置かれたままになる。

    世界には男女の性比が極端に男に偏った国がいくつもある。超音波診断装置が発達して、どこでも簡単に安く胎児の性別がわかるようになったことが原因だ。産み分けはまず堕胎から。

    裕福で知識階級の人々は男の子を欲しがる。世の中のトップは男性だから。彼らの産み分けは人工授精。

    1950年代のアジアの人口を減らすために欧米が行ったこと。家族計画により何億という女性が生まれることができなかった。そこには余った若い男性が社会不安の原因となっていく。

    女性の地位を向上させ、自立できるようにする。そんな社会が「娘を産もう」キャンペーンの目玉だが、高い学歴と給料を取るようになった娘たちは結婚が難しい。

    男たちは他国から嫁を買うか売春婦を買う。それは貧しい国から女性を奪うことだ。性感染症も蔓延する。

    とてもパーソナルなことが地球規模で連動し、二世代の時間がたつと思わぬ方向に走っていたということだ。修復は難しそうだ。

  • オリジナルの副題はChoosing Boys over Girls, And the Consequences of a World Full of Man という。なんとも実に意味深長ではありませんか。

  • 女性蔑視→「跡取り」としての男児重視→女児は生まれた途端間引かれる→科学の進歩で胎児の段階で性別判定可能に→胎児が女児なら中絶する、「女性は生まれ出づる以前から差別される」時代へ→男女が不均衡な「男余り」の社会に→「男様なら当然得られるべき」、「家事育児マシン兼俺様のすべてを受け入れヨチヨチしてくれる第二のママン兼気分のままにフルボッコできる精神&肉体的サンドバッグ兼どんなプレイもヤリ放題なダッチワイフ」が獲得できない「かわいそうな」弱者男性の蔓延→彼らによる「俺様に当然の権利たるオンナをあてがえーーー!!!」というヒャッハーな大暴れ(乱暴狼藉、性犯罪、女性誘拐その他もろもろ)→治安低下

    …という、隅から隅まで地獄みしかない人類の過去と現在と未来予想図。
    私は当初、「このように、女性が間引かれた結果の社会は、誰にとっても悲惨である。だから男女の不均衡を是正するため、女性差別はなくしましょう。それは男性のためでもあります」的なオチに至るのかと思っていた。が、本書を読み進むにつれ、その希望ははかなく消えていく。
    何が地獄と言って、かくて皆から望まれる稀少種となった女性の地位は、だからといって上がるどころかむしろ下がることだ。女性は親によって高く売られる商品となるが、その親たちが里帰りのたびに熱っぽく見つめるのは彼女にあらず、彼女の夫(が持ってくる金品)でしかない。どこまで行っても、増えても減っても、女性は踏みつけられる存在にしかならないのだ。
    「女性差別は差別のラスボス」とはよく言ったもので、白が黒になろうとまた白に戻ろうと、すべては女性叩きの口実としてしか利用されない。「『○○が××だから』女性差別はあった・ある・これからもなくしがたいのだ」というのは、「オンナは馬鹿だからw」から「昔は貧しかったから」まで、すべて言い訳にすぎないのだとよくわかる。男たちは何がどうなろうと、女性差別というとてつもなくトクになり、とてつもなくラクできて、とてつもなく面白い所業をやめようとはしないのだ、けっして。

    とにかく徹底して暗く、絶望的で、救いはどこにもないルポルタージュだが、これが掛け値なしの真実ということが何よりの鬱ポイント。もはや女性が生き残る道は、男性を拒絶することにしかないと思えた。

    2018/6/8読了

  • 前半はどうして男が増え、女が減ってきたのか、中国・インド・韓国などの事情を読み解いて行きます。
    そして後半男女比バランスが崩れたゆえに何が起きたか、これからますます女性の少ない状態が続いたらどうなるかが書かれています。

    女性が少なければ、女性がモテテ大事にされるのかと思っていました。ところが・・・・。
    女性の地位が低いまま、女性の価値が上がったところで、その対価は女性の周りの男性、親や兄に流れるだけでした。
    貧しい国から富める国に嫁に行った娘が里帰りしても、親は娘が婿に大事にされているかどうかを気にしたりしない。気にするのは婿がどれだけの金を嫁の実家に持ってくるかだけ。

    売るために育てられる貧民層の娘でなくても、誘拐や拉致の危険がつきまとうのが「女性のいない世界」。
    お腹の子が女の子だからと中絶するのは女性、男の子を生めと強制する姑も女性、高いお金を出して買った息子の嫁が逃げ出さないようにと見張るのも、女性。
    女子教育を行きわたらせ、女子の経済的自立を可能ならしめない限り、女が女を貶める連鎖は止まない・・・・。

  • 一人っ子政策に加え、医学の発達により男女産み分けが可能になったことから、中国やインドなど世界のいたるところで出生における男女比が不均衡になり、男が増え続けている。男女比不均衡が引き起こす世界規模の社会的問題について、その現状のレポートとデータを踏まえた近未来予測を織り交ぜたノンフィクション。

    本書によれば、もしアジアの出生性比がこの数十年間、自然な平衡値である105を維持していたならば、アジア大陸にはあと1億6,300万人の女性がいたはずだという。日本の総人口よりも多い数の女性が、アジアだけで生まれる前に消されているのだ。

    私はジェンダー関連の問題には関心があるので、途上国における割礼やイスラム圏における名誉の殺人といった明らかな女性差別に関してはいくつか本を読んできたが、この「産み分け」の問題がこんなに深刻だとは本書を読むまで知らなかった。しかもこれは、どちらかといえば文明が発達し、きちんとした医療を受けられる、ある意味でそれなりに男女平等が進んでいるはずの国や地域に特に深刻な問題なのだということは皮肉である。

    著者は「根本的なところで男女は決して平等ではなかった」という趣旨のことを書いているが、これが世界中で改められない限り、産み分けは続けられ、男が増える社会の動向は止められないだろう。
    かといって、そうするためには国のそれぞれの文化、宗教、歴史の中で根付いてきた男女の役割をも変えねばならず、いったいどうすればこの問題を解決できるのか途方に暮れてしまった。

    いずれにしても、こういうことが世界で起きていると知ることができるという意味で、非常にわかりやすい良書である。

  • 2012.7.16 HONZで見つける。

  •  なにやらSF小説のようなタイトルだが、そうではない。アジアを中心に広がる「性比(男女比)不均衡」の問題に光を当てたノンフィクションである。

     自然な出生性比というのは、だいたい女子100人に対して男子105人の割合になるのだそうだ。
     なぜ男子のほうが多めかというと、男子には我が身を危険にさらす本能的傾向があり、女子より死ぬ確率が高いため。男子が5%多めに生まれることで、成人男女の均衡がちょうどよくなるのだ。自然というのはうまくできているものである。

     ところが、1980年代あたりから、中国、インドなどのアジア各国を中心に、この均衡が大きく崩れ始めている。女児の出生数が大幅に減っているのだ。
     本書は、この性比不均衡がなぜ起きているのか、そして、今後の世界にどのような悪影響を及ぼすのかを、北京在住の米国人女性ジャーナリストが綿密な調査から探ったもの。

     勘のいい人なら、「ああ、男女産み分け技術が発達したから、男尊女卑傾向が強いアジアでは女児が避けられてしまうんでしょ?」とか、「中国の一人っ子政策の影響でしょ?」などと、答えの予想がつくであろう。
     たしかに、それらも要因の一つではある。が、事態はもっと複雑に入り組んでいるのだ。たとえば、欧米各国の人口抑制政策がアジア諸国にも影を落としていたりとか……。

     “女性の少ない世界ではどんなことが起こるのか?”を多角的に探った最後の第3部には、それこそSFのようなスリルもある。
     著者は、テストステロン濃度の変化などというファクターまで持ちだして、結婚できない男が世界に増えると、犯罪や戦争が増えると予測している(!)。そのくだりを読んで私は思わず笑ってしまったが、考えみれば笑いごとではないのだ。

     読後に世界が少し変わって見えるような、知的興奮に満ちたノンフィクション。

  • まだざっくりしか読めてないので現時点での感想。また再読したい

    ・家父長制/イエ制度が強い社会
    ・女性差別が強い社会
    が経済的に発展し、胎児の性別がわかる技術が浸透すると、中絶される女児が増え、男女の人口バランスが崩れる

    という問題について。

    男女の産み分けは伝染病のように世界に広がっている、と本書はいうが、女児が中絶される理由に普遍性、将来にわたって続く可能性が見出させないような…。家父長制は解体されつつあるし女性差別も少しずつだが解消されつつある(と信じてるけれども果たして…)し…。

    本書でテーマにされてるのは旧ソ連東欧(てか西アジア?)と東アジアについて。
    アジア、アフリカ地域のこれからには当てはまるだろうけど、先進国ではもう女児中絶をする動機はほぼないのでは…?

    韓国は一時期女児中絶のムーブメントが起こったが、今では沈静化している。理由は女性の社会進出と経済的な必要性から女性も働くようになったが、社会の出産育児のサポート制度&夫の意識が女性差別時代のままであることからくる晩婚化、少子化。女児中絶は特に2人目以降の子供に起こることが多いため、子供を1人しか持てない社会ではおこらない。

    日本は自然な出生男女比(100:105)をずっと維持しているが、その理由は現代の韓国と同じ、「女性差別の緩和と経済的な必要性から女性が社会進出を果たしたが、社会の出産育児のサポート制度&夫の意識が女性差別時代のままであることからくる晩婚化、少子化」に当てはまるのだろうな。

  • 人口学関連に興味はあれど、なかなか読めずにいたのでこれが一冊目になる。とてもおもしろかったし人口学の奥深さを堪能できた。
    性比の不均衡が科学技術と経済発展により促進され世界が緩やかに変わりつつあり、その状況を我々は目の当たりにしているにも関わらずどこか他人事としてしか捉えていないために問題をさらに肥大させ、取り返しのつかない状態に追いやろうとしている。
    ベトナム女性がこぞって台湾へ嫁へ行っている実態や、中流階級の産み分け、アメリカの子供選別など知らない世界の出来事がたくさんあった。
    ページをめくる手が止まるような話は数あれど、中でもアメリカの暴力性が入植時の性別比率から来ているという分析は目からウロコだった。確かに冒頭で書かれている通り、無謀な旅をしたがるのは男性の特徴でもあるし、堅実な女性は西部開拓なんかに参加はしなかったのだろう。西部のイメージと男性性は強く結びついている。思えば石川好もアメリカンドリームは女性をなんとかして呼び寄せようとする男たちが作り上げたと著書で書いていたし、性問題とアメリカは切り離せない歴史があるんだろう。
    「女なんて星の数ほどいる」というセリフが通用しなくなってきたな。
    裕福な地域は男性を選んで産み、貧しい地域は女性を選んで産むことによる性の格差を止めないとここ数年で頑張って持ち直してきた性の平等がまた無に帰ることになる。

  • 新聞で紹介されていた本。表題の”女性がいない”は産み分けにより女性が産まれてこないという意味。インドや中国では人口抑制政策により子供の数が規制されるため後継ぎとしての男性が優先され、そのため女性を妊娠していると分かると中絶するという現実がある。しかし、その事が女性の出生率を下げ、男性の結婚を難しくしているという現実も生み出している。本当の男女平等な世界にならないと、この問題は永遠に解決しないことなんだろうなあ。

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著者プロフィール

北京駐在の『サイエンス』誌記者。『サイエンティフィック・アメリカン』『ポピュラー・サイエンス』『フィナンシャルタイムズ』などにも寄稿。この10年間は中国に滞在し、考古学から宇宙計画まであらゆることについてリポートしている。上海の復旦大学でジャーナリズムを教えた経験をもち、国際的なジャーナリズム推進の組織「ラウンド・アース・メディア」の顧問も務める。

「2012年 『女性のいない世界 性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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