遍路みち

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 53
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062160988

作品紹介・あらすじ

楽しいことも嬉しいこともあったはずなのに…悔いのみを抱いて生きてゆく遍路みち-夫・吉村昭氏の死から三年あまり、生き残ったものの悲しみを描く最新小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 夫の死後の著者の周辺を記した短編を中心に編んだ『紅梅』の続編のような作品。自らが管をむしり取った行為がクローズアップされ、翻弄されたいきさつに対する家族の思いが綴られ、介護にあたった際に妻というより作家を優先したことを繰り返し悔いている。
    偲ぶ会で科学の最先端にいる医者が「今日先生が来ておられましたね」という。著者にも時々声が聞こえるそうだが、それは「夫ならたぶんそういうだろう」と思った幻聴だと分析している。
    冒頭の「消えた時計」では失いかけた視力を回復させるために思いきった手術を実施した際の記録。作家を業とする人の、治したいという強い思いが伝わってきた。

  • 「消えた時計」「木の下闇」「遍路みち」「声」「異郷」を収録。

    本作は、ほぼ私小説だと著者が後書きで語っているように、
    老齢の小説家女性が、自身の病魔に向き合う日々と
    高名な小説家の夫を亡くした後の生活を綴った作品集。

    思いのほか早かった別離に煩悶し、後悔するばかり。
    ただただ配偶者とその仕事を尊敬し、
    自分の仕事をおろそかにできなかった職人のような妻の
    高潔な姿が浮かび上がる短編たち。

    しかし、個人的には夫のことに思い煩っている作品よりは、
    自身の眼が悪くなった時のつれづれを書いた「消えた時計」や
    身寄りのない高齢の女性との交流を書いた「木の下闇」に
    心を揺り動かされるような感じがした。
    (おそらく没後の作品は取り乱し過ぎて、本来の著者の作風ではないのかなー、と思う)
    数々の高名な医者の紹介を受け、
    必死で視力回復のため、よりよい医療を求め飛び回る著者。
    妙な言い方になってしまうが、
    きちんとお医者様とのコネクションが結べる資産、人脈があるあたりも含めて、
    気高い貴族の奥様の生活を垣間見た!!と思ってしまった。
    それもこれも、作品のための資料をきちんと読み込むためなのである。
    回復した後も、無駄に目を使うことを恐れ、
    必要最低限の文章しか読まないようにする姿勢など、
    これが作家として生き続けてきた人の信念と行動力なのかと恐れ入る。

  • 津村節子さん(1928.6.5~)の「遍路みち」、2010.4発行です。消えた時計(2004.3)、木の下闇(2006.10)、遍路みち(2009.7)、声(2009.11)、異郷(2010.1)の5作が収録されています。著者の身辺のことを綴ったものばかりで、殆ど事実に近いそうです。後ろの3作は連作です。今自分に書けるものは、吉村の死(1927.5.1~2006.7.31享年79)について以外になく、もう一度それを再現するつらい仕事とおっしゃっています。

  • 短編。

    夫婦ともに作家である育子と夫。

    育子はある日突然、目が見づらくなった。
    いくつかの病院をまわってわかった病名は網膜中心静脈閉塞症と診断され
    点滴とレーザー治療の末、網膜の手術をして徐々に回復していく様子。

    癌の家系であるために毎年健康診断は欠かさなかった夫だが、
    結局癌を患い、闘病の末に自らの意思で点滴を抜きとって亡くなった。

    育子は、長年連れ添った最愛の夫を失った喪失感の中で
    タクシーでめぐる遍路のツアーに参加したり、マンションへ引っ越し
    異郷へ長期滞在して、息子娘たちに支えられ、夫の姿を思い浮かべながらの日々。

    ほとんどが著者自身の話、らしい。

    てか著者の夫の吉村昭氏ってなんかすごい人じゃん!)^o^(

  • 作者は言わずもがな、故吉村昭の夫人である。

    職業作家になってからはお互いの作品を読んだことがないそうだが、作風、文体が良く似ていると感じるのは私だけだろうか。

    淡々とした文体の中に伴侶をなくした喪失感がにじみ出て、胸に染みる。

    吉村昭は素晴らしい作家であった。津村節子も。

  • 夫を大事にしよう、夫と過ごす時間を大切にしよう、とつくづく思った。

    吉村昭の著書、これまでも何冊か読んで好きなので、他の本も読みたいと思っていたけれど、この本を読んでその気持がさらに強くなった。

  • 所収の短編『異郷』について
    日常のわずらわしさからふとした時に誰も知らない場所に行きたくなる。そんな異郷で思うことは日常の「しがらみ」ばかり。私たちの本当に休まる場所はどこにあるんでしょう?

    【九州大学】ペンネーム:shingo 5

  • 歳をとると健康に気をつけるようになるのは長生きがしたいためだからだと思っていましたが、夫婦や家族の為だというのも大きな理由の一つなのだと思いました。出来るだけの予防をしておけば、亡くなった後にのこされた家族が悔やむ事が少なくなるわけですから。前提として家族に愛されている事があげられますが。さて、私の場合は会社で義務づけられている人間ドックだけですが、それで十分でしょう。

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著者プロフィール

津村節子(つむら せつこ)
1928年 福井市生まれ。
学習院短期大学国文科卒。
1953年 吉村昭と結婚。
1964年 「さい果て」新潮社同人雑誌賞受賞。
1965年 「玩具」芥川賞受賞。
1990年 『流星雨』女流文学賞受賞。
1998年 『智恵子飛ぶ』芸術選奨文部大臣賞受賞。
2003年 恩賜賞・日本芸術院賞受賞。
2011年 「異郷」川端康成文学賞、『紅梅』菊池寛賞受賞。
日本芸術院会員。
主な作品
『重い歳月』『冬の虹』『海鳴』『炎の舞い』『黒い潮』『星祭りの町』『土恋』『三陸の海』等。
2005年『津村節子自選作品集』(全6巻)刊行。

「2022年 『紅色のあじさい 津村節子 自選作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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