- Amazon.co.jp ・本 (466ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062162036
感想・レビュー・書評
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読了後、ただ”凄まじい”と思った。10年もの歳月を調査と執筆に費やした著者の執念もさることながら、こんなことが現実に起こっていたのか、と驚くような出来事が多く記されていたことに。タイトルから「不死細胞」にまつわる様々なことが書かれている本だと思っていたが、実際には不死細胞だけでなくその元となったヘンリエッタの人生、ラックス一家の人生(とくにヘンリエッタの娘デボラの)、不死細胞による医学の進展という三つの物語まで描かれていた。さらに様々な要素、科学研究と倫理、人種差別、信仰……、本当にいろんなことが絡み合って存在している。面白いどころではなかった。医学や生物学、細胞とかに詳しくなくても存分に読めるので機会がある人には読んでほしい。
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「いつの日かこの子は、曾祖母のヘンリエッタが世界を助けたことを知るだろう!」
「この子も・・・この子も・・・そしてあの子も。この一件は今や、こうした子供たちに関わる話だ。彼らはこの一件を自分たちのものにして、自分たちにも世界を変えられるということを学ばなければならない。」「ハレルヤ!」
1951年ヘンリエッタ・ラックスは子宮頸がんの前身転移で亡くなった、しかし彼女のがん細胞(HeLa細胞)は培養される限り無限に増殖し、今では元々の彼女の体重を超えるほどになり医学に利用されている。それまでは細胞の培養はなかなかうまく行かなかった。これは細胞分裂の回数が予めDNAに組み込まれているためだがHeLa細胞はこの細胞分裂をカウントする仕組みにエラーがあり無限に増殖を続ける。同じことは彼女の前身へのがん転移がものすごく早いということでもあった。今ではHPVと言うウイルスが子宮頸がんの原因になることもこのウイルスがDNAに作用していることも知られている。
HeLa細胞はがんの生検時に採取され本人や家族にはそれがどういう風に使われるかは知らされていなかった。このことが後に彼女の家族を苦しめる。HeLa細胞の最も良く知られる貢献はポリオウイルスの感染の診断に用いられたことであり、他にも放射能の影響や宇宙での影響など人体実験をする前の実験に用いられている。またネズミに移植してがんが発生するかの実験などが行われたこともあり無限に増殖する不死の細胞、動物と人間のキメラなどとセンセーショナルな扱いがされ残された家族にも多くのインタビューがなされたが家族には何が起こったのか正確なことは知らされないままであった。
学生時代にHeLa細胞のことを知った著者はいつかこの物語を書きたいと思いラックス家族を追い求めて行く、やがて興味本位ではなく医学に多大な貢献をしたヘンリエッタ・ラックスがどういう人物でありどういう経緯でHeLa細胞が使われることになったかを調べることを娘のデボラはじめ家族たちに受け入れられて行く。
デボラたちに取っての真実は科学的な事実ではなく、聖書の言葉「わたしを信じるものは、信でも生きる。生きていてわたしを信じるものは誰も、決して死ぬことはない・・・」ということだったようだ。一方でHeLa細胞によって得られた莫大な利益の一部は家族のものだという者もおり必ずしも美しいばかりの話ではない。患者に無断で細胞を採取するのも現時点でも違法ではなく、一方で遺伝子が特許になる時代に提供者には何の恩恵も無いと言うのは釈然としない話だ。 -
全く知らなかったヒーラ細胞とその提供者の黒人女性を求めての記録.ヘンリエッタの痕跡を探すことで,彼女の子供達の母親が死んでからのその後の人生を物語ることになった.また,細胞の所有権はどこにあるのかその金銭的な効果、特許権,科学の進歩など問題は解決するのだろうか?
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生物学や生化学を修めようとしたことがある人ならヒーラ細胞については必ず聞いたことがあるでしょうし、扱ったことすらあるかもしれません。
本書はヒーラ細胞そのものと、ドナーであるヘンリエッタ・ラックスさんにまつわる歴史というか物語です。
ふとしたきっかけでヒーラ細胞についてWebで検索したのですが、その時にちょうど本書が邦訳で出たことを知り手にしてみました。
この細胞については知識として学んでもその由来となった人にまで思いを巡らせることはありませんでしたが、それが出来てホントによかった。
訳者の中里さん、どこかで見た名前だと思ったら『ハチはなぜ大量死したのか』の訳も手掛けた方でしたね。日本語としてこなれた読みやすい訳だと感じました。 -
ヒーラ細胞をご存知でしょうか?1951年黒人女性ヘンリエッタから、本人や家族の同意もなく採取されたがん細胞は、医学の発展に大きな貢献をしていきます。このドミュメンタリーの背景にある様々な社会問題、医療倫理の問題があり、とても多面的な内容を包括している本でした。
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ヒーラ細胞が大々的な商取引の対象になっている一方で、元の細胞を(それとは知らずに)提供したヘンリエッタ・ラックスとその家族が差別と貧困に苦しんだとは、そんな理不尽があっていいものかと思うが、特別な細胞を提供できたのは彼女の功績なのかという気もする。2011年9月4日付け読売新聞書評欄。2014年1月12日付け読売新聞書評欄「空想書店」で円城塔が挙げた5冊に入っていた。日経サイエンス2016年5月号ブックレビュー。
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不死細胞ヒーラ、その細胞の(本人は知ることなく)提供者となったヘンリエッタ・ラックス及びその家族の人生を綴った本
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生物、遺伝学の知識より、アメリカの社会と歴史の知識が要求される本だった。
久々に辞書や検索のお世話になりながら読んだ。
HeLa細胞で運命の狂った一族の話だと思って読み始めたが
運命が狂う手前に、黒人ゆえの不幸がまずあったように思う。
科学ノンフィクションというより
生物資源と特許、訴訟の話も含めて社会派ドキュメンタリーだった。 -
世界で初めて不死化された人類の細胞、HeLa。その名で全世界の医療研究施設で利用されている細胞の主は、1951年に子宮頸がんで亡くなったヘンリエッタ・ラックスという黒人女性だった。
ヘンリエッタは自分の細胞が研究目的で採取されたことを知らないまま亡くなり、家族もまたそれを知らなかった。しかしヒーラ細胞を利用して様々な研究成果があがるようになった頃、家族の元にマスコミが押し掛けるようになり・・・?
筆者が取材を始めた頃には既にヘンリエッタの遺族はマスコミに対する強い警戒心を持っていて、家族の理解を得て取材を進める困難さの記述が内容の半ばを占めていたように思う。
筆者が学生の頃から取材に取り組んだ最初の本ということで、医学的知識がなくても丁寧に解説してあるので理解できる。
昔のことで、細胞採取およびその後の利用に関して本人にも家族にも同意を得る必要が法的になかったとはいえ、ここまで医学界に貢献しているのに遺族には1セントの金銭も入らないというのはやはり気の毒。
筆者は本の売上の一部をヘンリエッタの子孫の教育基金に充てるとのこと。一人でも多くのヘンリエッタの血族がよい教育を受けられるよう祈りたい。 -
とにかく引き込まれて、読み耽ってしまった。
ありとあらゆる病気の解明と治療薬の開発に役立ってきたヒーラ細胞と、その持ち主であった、ヘンリエッタ・ラックスという女性、その家族のお話。
ヘンリエッタは、サザエさんでいうところのフネさんのように、働き者で慈悲深く、いつもきちんとした服を着て、爪の手入れを欠かさない女性だった。彼女を若くして殺した癌細胞が、ふとしたきっかけで、培養に成功した初めての人間の細胞となった。それはいまでも世界中で増え続け、様々な実験を助け、また強烈に阻害している。。。
貧しい黒人の彼女と、幼くして母をなくした子供達。そしてついこの前まで行われていた、本人に無許可のあらゆる実験。。。かなり衝撃的な内容だった。
この本に書かれている色々なことについて、私にはとやかく言えるようなものは何もない。ただ驚いた、ほんとにそれだけ。