小暮写眞館 (書き下ろし100冊)

著者 :
  • 講談社
3.86
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感想 : 772
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  • Amazon.co.jp ・本 (722ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062162227

作品紹介・あらすじ

もう会えないなんて言うなよ。あなたは思い出す。どれだけ小説を求めていたか。ようこそ、小暮写眞館へ。3年ぶり現代エンターテインメント。

感想・レビュー・書評

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  • 今まで読んできた宮部作品とはどこか違う。伏線の張り巡らされた緊張感ある作風が今回は見られない。

    主人公は高校生の花菱英一と年の離れた弟、光。花ちゃん、ピカちゃんと周りから親しまれている(両親まで彼らをこう呼ぶ)。店舗付き住宅を家ごと買い取り、少しだけリフォームして住みついた花菱家。 味のある「小暮写眞館」の看板はそのまま、ウインドウあり・フォトスタジオありのこの新しい家になかなか馴染めずにいるのは英一くらい。この 「小暮写眞館」に女子高生から心霊写真が持ち込まれ、英一は親友テンコらと共にその謎を追う羽目になるのだが・・・

    歯科医の息子テンコや、甘味屋の娘コゲパン、弁護士の息子 橋口、乗り鉄のヒロシやブンジ。激しくコミュニケーション下手の不動産屋事務員 順子。

    英一を取り巻くのは個性豊かな面々だが、手に汗握るようなハラハラものの展開にはならない。

    この作品は宮部さんにとって現代小説では初の「ノンミステリー」。「何も起きない小説」なのだ。

    これまで多くの殺人事件を描き、登場人物を不幸にしてきた彼女だから・・・「 『理由』の一家4人殺害事件。『模倣犯』の連続誘拐殺人事件――。「書いてつらくなるような事件は『もう書きたくない』という気持ちが、正直、出てきてしまいました」。執筆に寄せてこう語る。


    ------かつての社会派推理小説のように、伏線が絶え間なく連鎖するスリリングな展開にはならない。花ちゃんと友だちの会話など、「本筋とは関係ない無駄話をたらたらと書いているんです」。感情が盛り上がるような場面も、あえて筆を抑制した。「ゆるさを大切にしたかった」からだ。

     そんな気持ちの根は、『模倣犯』にある。「たくさん人を不幸にしたので……。あと引っ張っちゃったんですね」

     回復には時間が必要だった。現代小説から離れ、時代小説やファンタジーを書きながら、物語の楽しさを再発見していった。大きなきっかけは、アニメ映画化もされた『ブレイブ・ストーリー』だった。「新しい所は何にもないファンタジーなんですが、たくさんの人に気に入られて。勇気づけられました」

     執筆にあたり、意識したことがある。1998年の作品『クロスファイア』で描いた女性のことだ。彼女は周囲との対話がうまく行かず、苦しむ。今回、その女性と人物造形が重なる順子という女性を描いた。「同じような女性が、周りの人との出会いと支えで、明るく元気に生きていけるように書こうと思った」。順子は、緩やかな対話のなかで幸せを見つける。「今回は『ブレイブ・ストーリー』と同じぐらい、書いていて楽しかったんです」

     40代の自分が描く「高校生の青春小説」にリアリティーがあるか不安もあったが、背中を押したのは、20歳で小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』だった。同賞の選考で読み「言葉遣いは違うけれど、登場人物が同じメンタリティーをもっているじゃないかと、自信が持てました」

     デビュー23年目。脱稿してから、新人のような気持ちで本ができるのを待った。「タフでない、しおしおと書くものを面白いなと思ってもらえたらいいな。私はタフじゃないんだ、と正直に打ち明けて」------


    厚さにして4センチ、722ページの量感は、読むだけで筋トレになりそう。でも、この本に宮部さんが込めた思いの強さはうかがい知れる気がした。

  • あまりの分厚さに、これ実物見てたら借りなかったかもと思ったくらいで
    前半は「長いなぁ、1話読むのも十分長いなぁ」とややへばり気味でしたが
    後半はするする読んでしまいました。
    最終話は号泣ですわ。

    はじめのほうで蛇足のように書かれていたことが、ちゃんと伏線だったり
    そうだったのかと改めて気付かされるところがあったり
    よく分からない登場人物も後々ちゃんと絡んできたり。
    そうなのか、そうなんだね。
    心霊写真のはなしかと思いきや、苦しくてあたたかく切なすぎるホームドラマです。
    登場人物も小暮写真館もみんな素敵だー。

    ドラマ化するので読みたくなって、ドラマ前に読めなくて
    やっと読めたので、これからドラマ見ようと思います。
    花ちゃんこと英一がとてもおもしろくて最終話の啖呵もかっこよかった。
    神木隆之介くん、好きなので期待してます。

    過去と向き合うことで未来に進んでいける。
    読み終わって表紙を見ると感慨深い。しみじみ。

  • 花ちゃんを筆頭に登場人物がどんどん成長していく様が素敵。

    これから先花菱一家と仲間たちが幸せに穏やかに暮らせると良いなぁ。

    もぅ充分頑張ったやろう

  • 辞書並みに分厚いこの本の
    長い長い物語を読み進めている間ずっと、
    なぜ表紙が「小暮写真館」の写真ではなく
    春景色の中を走る電車なのか、首を傾げていたのだけれど。。。

    商店街の古い写真館にそのまま住もう!という酔狂な父のせいで
    次々と不可思議な写真を持ち込まれ、
    「心霊写真バスター」扱いされてしまう「花ちゃん」こと、英一。

    でも、写真に写り込んだ「ありえないもの」は皆、幽霊ではなくて
    もがきながら生きているひとの想いが投影されたものだった。

    新興宗教に夫との仲を裂かれた女性。
    仕事先の娘であった婚約者を何重もの不幸に追い込んで苦悩する男性。
    絶対王政よろしく家族に君臨する父と盲従する母に苛立つ小学生。
    母に絶望して「絶対零度女」という殻に自分を封じ込めた垣本順子。

    そんな、写真の謎に導かれて邂逅したさまざまな人生に触れることで
    幼くして病死した妹 風子の死の責任を
    それぞれ心に抱えた両親、弟ピカ、英一自身の
    「冷凍睡眠」させてきた想いが、ゆっくりと解凍されていく。

    そして、英一という「駅」でひととき停車して
    自分の中の壊れた部品を点検し、調整して発車していった垣本順子が
    「あたしはとっくに走り出してる。」と送ってきた写真が
    表紙の謎をすうっと解いてくれた瞬間の、爽やかな感動!

    英一と彼女が、最後にインスタントカメラで撮り合った
    現像しないままのお互いの写真。
    そこに写っている相手の顔は、
    シャッターを切ったふたりの想いを乗せて
    きっと眩しく笑っている。

    • まろんさん
      雀宮さん、コメントありがとうございます♪

      うんうん、確かに!
      前半は、英一くんが、完全に心霊写真バスター化してましたものね(笑)
      宮部みゆ...
      雀宮さん、コメントありがとうございます♪

      うんうん、確かに!
      前半は、英一くんが、完全に心霊写真バスター化してましたものね(笑)
      宮部みゆきさんは、「長編を書くぞー!」と思い立つと
      ほんとにお話がものすご~く長くなる作家さんですよね!
      文章も構成も上手いからこそ許される、暴挙ともいえる長さです(笑)
      2012/06/21
    • 円軌道の外さん

      ええーっ!!!
      やっぱ読むの早いんですね〜(汗)(◎o◎)

      自分もまろんさんと同じく、
      空き時間があれば
      すべて本を読むの...

      ええーっ!!!
      やっぱ読むの早いんですね〜(汗)(◎o◎)

      自分もまろんさんと同じく、
      空き時間があれば
      すべて本を読むのに充てたいくらい、
      常に小説を持参して
      信号待つ時間や
      エスカレーターで上がる間にも
      本読んでます(笑)


      だけど読むんは
      かなり遅いんスよね〜(>_<)

      一回読んでも理解できなくて
      また何ページか戻って
      読み直したりしょっちゅうやし…


      普通で
      一歩進んで
      二歩下がるくらいのペースかなぁ(笑)

      2012/06/27
    • まろんさん
      円軌道の外さん
      そんな風に大切に丁寧に読んでもらえる本は、幸せだと思います!

      娘のところに、一緒にRPGをやろうって遊びに来た男の子の中に...
      円軌道の外さん
      そんな風に大切に丁寧に読んでもらえる本は、幸せだと思います!

      娘のところに、一緒にRPGをやろうって遊びに来た男の子の中には
      バトルだけに熱中して、ストーリー部分のログを
      ほとんど読まずに飛ばしちゃう子がけっこういて
      本じゃなくてゲームだけど、
      でもお話をもっと大事にしてあげてよ~(ノ_・。)
      と、思ったりしていました。

      私は、生きてる間にあと何冊、本が読めるかなぁと思うと
      ついついせっかちになってしまって。。。
      もっと丁寧に1冊を味わわなくちゃですね!
      2012/06/28
  • 両親の気まぐれみたいな選択に付き合わされて古い家付き土地に引っ越した4人家族、なんと昔 写真館を営んでいたと言う店舗付き住宅。看板まで敢えて外さずのまま、それが「小暮写眞館」で主人公は高1の花菱英一 あだ名は花ちゃん。曰く付きの店に曰く付きの写真が続いて持ち込まれて来てその謎に迫る4つの物語です。とりわけ最終の話は切ないようなスカッとするような面白さです♪ 宮部さんのユーモアセンスに溢れた言葉の選び方 使い方はやっぱり好きです。

  • 最後の章までは話がダラダラで読むのがツラかった
    本重いし
    登場人物にも感情移入しずらかった
    親戚付き合いのめんどくささは共感できる
    もうちょとコンパクトにまとめたほうがよかったと思う

  • 以前からずっと読みたいと思っていた作品。手にした時、ずしりとくる分厚さの長編。流石に長くて読むのに時間がかかってしまった。
    小暮写眞館の話かと思いきや、小暮写眞館に引っ越してきたが為に写真に纏わる謎の解明をさせられる高校生とそれを取り巻く友人や家族のお話。最終話は写真の謎をとく事はなかったが、ちゃんと写真を絡めて来た所が良かった。みんな、それぞれに成長して幸せな結末になっている所も良かった。全話通して、小暮さんの幽霊が見守ってくれているような温かみを感じた。

  •  これ、ラブストーリーだったんだ。それも飛びきりの。枝葉が多くて全体がふくらんでいるから見通しがよくないけれど、枝葉を刈りこんでしまえばシンプルな話だ。読み終えてふと帯を見たら、ちゃんと書いてあった。「もう会えないなんて言うなよ」って。
     大船駅のラストシーンが美しすぎる。今どきインスタントカメラかよ。現像しなくていいよ、だと? ふざけんじゃないよまったく。全然似合わないよ。甘ったるくて見ちゃいられないよ。ほら、目から汗が...。
     700頁を越える長編。全体が4話に分かれてはいるものの、主人公の高校生花菱英一の家族と交友関係が中心のひとつながりの長いストーリーになっている。いろいろな事件、出来事が次々に起こるが、錯綜していないので混乱することもなくスラスラ読めてしまう。もともと読みやすい文章を書くことにおいては天下一品の著者だし、豊かな表現力のせいで主要登場人物のキャラが立っていてわかりやすいのだ。
     宮部みゆきの文章については、何度も繰り返し書いたので今さら付け足すこともないが、ほんとうに感心してしまう。この人の頭の引き出しはどうなっているのだろう。たとえば、「笑う」という引き出しにはゆうに100個くらいの表現が詰まっていて、そのつど最適なのを引っ張り出してきてはピタリとはめるから、読み手にはその笑い方ひとつで、作中人物がどんな人でどう感じているかが目の前に見るように浮かんでくる。つい親近感を覚える。そして作品世界に惹きこまれる。そうなったらすでにもうお釈迦様の掌の上だ。
     これはこれでハッピーエンドなんだろうな。諸々のことはほぼ片づいてしまったし。ラブストーリーとしてはどうなのかという気もちらっとはするけれど、常識的にいえば妥当な結末だろう。この作者は読み手を裏切ったり放り出したりするような邪悪な結末が書ける人ではない。人が困っていたり、不幸だったりするのを黙って見ていられない人なんだろう。だから安心して読める。人にも薦められる。でも、やっぱりちょっとかなしい。もう会えないなんて。

  • 街の古い写真館に引っ越すことになった一家の物語。
    ひょんなことから関わるハメになった不思議な写真
    その謎を追ううちにさまざまな人たちと関わりあい・・・

    登場人物がみなすごく魅力的
    ピカちゃんやテンコなど、どれも生き生き
    やはり宮部みゆきは少年が上手いなぁ

    読後感は寂しいけれどほんわか・・
    花ちゃん!歩き出そうよ!

  • 今、NHKのBSでやっているドラマがとてもいいので。
    いずれ総合でもやると思います。
    穏やかな日常の陰に見え隠れする哀しみは、やがて‥
    好評の家族小説。

    高校一年の花菱英一は、元は写真館だった建物に一家で越して来ました。
    両親は一見ごく普通だが、どこかセンスがおかしいと思っている。
    何しろ、息子を友達の呼ぶあだ名の「花ちゃん」と呼ぶ~一家みんな花ちゃんだっつーの(笑)
    越してきた写真館のスタジオを改装もせずにリビングにして、看板まで出したままなのだから。
    そのために、あらぬ誤解を受け、「心霊写真を撮った責任を取れ」と言われてしまう…
    妙な写真にぼんやり写っている…それは、念写だったのか?
    いくつかの出来事に関わり、謎を解きほぐしていく物語です。

    写真の主を訪ねて行ってみた不動産屋で、愛想のない事務員・ミス垣本に出会います。
    独身だからではなく、社会人としてどうよと思われるぐらい欠けているものを感じたので密かに「ミス」とあだ名を付けたという。
    ところが、電車の来る線路にいた現場を目撃してしまい、放っておけなくなる花ちゃん。
    どこか壊れている年上の女性と、何気ないような縁が出来ていき…

    身体の弱い弟のピカこと光(ひかる)は利発で、きれいな顔立ち。
    親友のテンコこと店子力(たなこつとむ)がなぜか似たタイプで、そのせいか二人はすごく仲良し。
    テンコは寝袋を抱えてよく泊まりに来るし、二人だけで遊んでもいる様子。
    比べると自分は平凡と感じつつも、どっちのことも好きな花ちゃん。
    コゲパンというあだ名の女の子も登場。誰の彼女になるのでもないけれど、仲良くなる距離感がなかなかいいですね。

    実は、花菱家の兄弟の間にはもう一人、女の子の風子がいたのだが…
    一緒に生活しているかのように両親は口にすることもある。しかし、もう亡くなっているのだ…。
    家族はそれぞれに痛みを秘めて、自分を責めていた悲しみが次第に明らかに。
    そのことに気づいた家族は、あらためて心が通い合うのでした。
    日常的な描写の積み重ねから、少年が成長する様がじんわり伝わってきます。
    ゆっくり読むのにいいですね。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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