解放老人 認知症の豊かな体験世界

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062164252

作品紹介・あらすじ

認知症=不幸なのか?

「認知症が進むにつれ、がんの痛みを感じなくなる。死に対する恐怖とも無縁になる。末期がんにも苦しまず、安らかに永眠する。これは、私ではなく、認知症の研究や治療、介護、看護にあたってきた専門家たちがよく口にする現実である。一般には、ほとんど知られていない事柄かもしれない。」(著者より)

認知症を"救い"の視点から見直す。

2025年には730万人に達する可能性があるともいわれる認知症患者(厚生労働省調べ。最多の場合)。『救急精神病棟』『脳を知りたい!』で知られる著者が、重度認知症治療病棟のお年寄りたちに長期間密着。この難病をまったく新しい角度から見つめた画期的なルポ。

(内容)
つげ義春の名作「ねじ式」も顔負けの
シュールな幻想を語ってやまないハナさん。
すきあらば病棟からの脱出を狙いつづける源五郎さん。
車椅子を両手でこぎまわりながら、悪罵と怨嗟(えんさ)のかぎりを叫びつづける徳子さん。
一日中、病棟の中をほぼ決まったコースで歩きまわる勘平さん・・・。

「なんと個性的な人々であろうか。
山形県南陽市にある重度認知症治療病棟での取材を始めてすぐ、私はそこにつどう人々の圧倒的な存在感に目を見張らされる思いがした。(中略)認知症の進行とともに、罹患者の内面から、常識や世間体や煩雑な人間関係といった余分なものが削ぎ落とされ、いわば”地肌”があらわになる。それは、私たちから見れば、ときに目をそむけたくなったり見るに忍びなかったりするものであろうが、その人が秘めていた個性の核心であるに違いない。」(「あとがき」より)

(事前にゲラを読んだ、ある読者の感想)
元気だった両親が年を重ねるにつれて、耳が遠くなったり、ちょっと前の出来事を完全に忘れていたりして、「もしかして・・・認知症かな」と思うことが多くなりました。そういうことを考え始めると、正直暗い気持ちになっていたのですが、この本を読んで、少し不安が和らいだような気がしました。親が認知症になるのは怖いです。でも、もしそうなっても、落ち着いて対応できそう、たとえば、親が自分のことを忘れてしまったり、時には攻撃的になったとしても、「うんうん」と優しく接することができるような気がしました。

感想・レビュー・書評

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  • 山形の佐藤病院に入院している重度認知症の方々を3年にわたって密着取材したドキュメンタリー。高齢になり、脳の萎縮や血管の病気などで認知機能が低下していき、周辺症状で周りが大変になってくることが社会問題のようになっていますが、そういった問題行動のある高齢の方々を様々な視点から見つめている作品。認知症のお年寄りにはその行動をする目的や、長年の経験からくるものがきっとあるんですよね。でも、周りが疲れ果ててしまっては優しくすることもできない。施設などで専門的なケアを受けることは大切だと思いました。祖父が血腫のせいで認知症になっていましたが、歩けなかったので話を合わせるだけで良くて、空想の世界がとても面白かったのを思い出しました。祖父も仕事のことを心配してたなぁと懐かしくなりました。

  • コロナのご時世、介護職へ向けての研修になかなか参加できないことから、自分で知識を広げるには…ということで、書籍での知識吸収を図っている。
    特に、7年前にオープニングスタッフとして介護職を始めた事業所では、当然利用者も年々ADLが低下し、認知症度も悪化していくわけで、問題行動を繰り広げるじいちゃん、ばあちゃんも出てくる。
    昨年から「認知症を知る」ことを目標に掲げたこともあり、手に取った本。

    認知症が重度化し問題行動が多くなると、グループホームでもお世話が難しくなる。そういった人は精神科病院への入院となってしまう。
    著者は山形県の精神科病棟にある「重度認知症治療病棟」に長期取材し、入院中のお年寄りに密着。
    病棟の廊下をお年寄りに手を引かれ延々歩いたり、あっちへこっちへ飛びまくり、エンドレスな話を「うんうん」と聞いたり、隙あらば院外へ抜け出そうとするじいちゃんに「ここあけてけろ」と懇願されたり、入浴拒否で大暴れのばあちゃんを垣間見たり…。

    そういった問題行動には必ず、その本人にとっての理由がある。

    ということはわかった。
    その理由を探ることが大切ということもわかった。
    では、どう対処するか。
    残念ながら対処法まではこの本は教えてくれない。

    ということで、書籍での知識吸収はまだまだ続きそうだ。

  • ふむ

  • 周りは大変で仕方ないけど、
    描き出される老人たちにはなんとも言えない
    切なさやおかしみ、可愛らしさがある。
    幸いにして私の両祖父母も両親も
    認知症を発せず亡くなったが
    身内からすればあまりそうも言えないんだろうな〜
    脳の不思議にはまだまだ飽きそうもない。

  • ノンフィクションライターから見た認知症高齢者の姿。専門家とは違う、その人となりを見る目がやさしい。とかく専門家は病気を見てしまい、その人となりを見落としてしまう。その人となりを理解することで、その人とのつながりが生まれる。人はつながりで生き、つながりで回復する。認知症は改善しないが、こころは回復する。そのような気持ちを持たせてくれる一冊。

  • 偶然 本屋さんで見つけた野村さんのルポ。高花台とリンクすることたくさん。野村さんの感性、眼差しがじんわり伝わってくる。

  • 筆者は老人介護施設や精神病院などに、取材をお願いして、長い時間をかけて、入居者と共に時間を過ごし観察した。認知症と今では言われるが、痴呆と呼ばれ、まだ理解もされない時期から長い観察はその個性あふれる症状と患者さん個々の持つ、いわゆる健常状態であった時の人となりも、家族に取材したり、介護職員にも取材したり、自分自身も当たり前に感じてもらえるほどの長い時間をかけ、患者さんの信頼もえ、人間性を掘り下げる。ほとんどが、別人のようになってしまうからこそ、普段の生活ができぬようになり、家族の手を離れることになった。だが、別人格と見えるようでも、実はその人が持つ価値観や人生への立ち向かい方、大きく影響する不幸。一人一人が全く違う症状は認知症のある時期から破滅的になったりするが、そこも越えて認知症が進行すると、がん患者同様末期は、穏やかな静かな時間と空間に住むかのように変化する。

  • なんだか楽しそうだ。周囲の人は大変だけど。

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著者プロフィール

野村/進
1956年、東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科中退。78~80年、フィリピン、アテネオ・デ・マニラ大学に留学。帰国後、『フィリピン新人民軍従軍記』で、ノンフィクションライターとしてデビュー。97年、『コリアン世界の旅』で大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞をダブル受賞。99年、『アジア新しい物語』でアジア太平洋賞を受賞。現在、拓殖大学国際学部教授もつとめる。主著に『救急精神病棟』『日本領サイパン島の一万日』『千年、働いてきました――老舗大国企業ニッポン』。近著は『千年企業の大逆転』

「2015年 『解放老人 認知症の豊かな体験世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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