マンチュリアン・リポート (100周年書き下ろし)

著者 :
  • 講談社
3.58
  • (63)
  • (133)
  • (136)
  • (36)
  • (4)
本棚登録 : 848
感想 : 155
  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062165006

作品紹介・あらすじ

昭和3年6月4日未明。張作霖を乗せた列車が日本の関東軍によって爆破された。一国の事実上の元首を独断で暗殺する暴挙に昭和天皇は激怒し、誰よりも強く、「真実」を知りたいと願った-。混沌の中国。張り巡らされた罠。計算と誤算。伏せられた「真実」。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 関東軍による張作霖爆殺事件。真相をひた隠す軍・内閣に業を煮やした昭和天皇の密命を受け、若き陸軍将校が満州から書き送る報告書「マンチュリアン・リポート」。

    まず、関係書を読んでもなかなか理解が難しい中国現代史、とくに国民党と北部軍閥の勢力争いについてここまで具体的にイメージを持てたことはなかった。また、西欧列強と渡り合いながら当時なりに配慮を重ねていた山東出兵から、一線を越えて踏み越えていく辺りの過程についても、あくまで「当時の軍人の思考回路」という体裁を取りながらもわかりやすく解説。「厳密に取材されたフィクション」の強さ。

    本書の中核は「英雄 張作霖」の造形だろう。本来は、「蒼穹の昴」に始まる浅田の中国現代史シリーズを最初から読むべきところ、いわば「外伝」的な位置づけであろう本書から予備知識なく読み始めてしまったのだが、北方の貧しい馬賊から身を立て、一時は中国全土に手をかけたこの風雲児に著者がいかに入れ込んでいるかはよく分かる。

    「事件の全貌」については、かなり浅田氏の推察が含まれているようだ。例えば、この暗殺実行のため、関東軍は似たような規模の橋梁を二回も爆破してシミュレーションを重ねていたという。そんな記録よく見つけたな、と感心していたら、後で浅田氏のインタビューを読むと、当時の小さな記事からの浅田氏の推測だという。それはそれですごい。

    浅田節とも言うべきファンタジーは今回も健在で、本事件によって脱線する運命にある機関車が独白の形で物語をかたる体裁となっている。このあたりは読者の趣味によって評価が分かれるところだろう。なお、ストーリーとしては、個人的にはラストの「秘密」はちょっと受け入れ難い展開。ただ、昭和史に残る陰謀を巡る謎解き小説としては存分に堪能することができた。

  • 「蒼穹の昴」のシリーズ作品。
    志津邦陽陸軍中尉...治安維持法改悪に対する意見書を撒いたが為
    投獄されるも、さる方の命を受け、張作霖爆殺事件の真相を調べる事に。
    陸軍中佐 吉永将...張作霖爆殺の際、左足を失う被害を受ける。志津の極秘任務を知る一人。張作霖の軍事顧問。
    大元帥府書記 岡 圭...張作霖の側近。志津の任務の手助けを引き受ける。
    鋼鉄の公爵...西太后のお召し列車としてイギリスからはるばる北京へ。25年の眠りを経て再び凱旋の旅と出た。

    中原の虹で馴染みの名前が出てくる度、懐かしい友と再会した様に
    胸が熱くなる。
    張作霖の生き様が回りの者の証言で浮き彫りになって行く。
    張作霖が生きていたら....もう少し彼の時代を見たかった。

  • 『蒼穹の昴』『珍妃の井戸』『中原の虹』に続くシリーズ最終章?
    昭和天皇の密勅を受けた志津中尉の報告書と、西太后の御料車「鋼鉄の公爵」の独白から迫る「張作霖爆殺事件」の謎。
    列車の「公爵」が話し始めた時には、どうなるかと思いましたが、最後にこの「公爵」が泣かせてくれました。

  • 図書館で借りようとしたら、89人もの人が予約していたので諦めて買いました。シリーズのファンがそれだけ多いということなんでしょうね。
    機関車の語り部分が好きです。志津のキャラクターにはあんまり共感できないというか魅力的に思えませんでした。次作は是非ラストエンペラーふぎを主人公にしていただきたいです

  • 浅田 次郎 作品。 『蒼穹の昴』シリーズ 第4部。

    前作、『中原の虹』で、長城を越えた張作霖が奉天で列車ごと暗殺される。その最期の物語。

    陸軍少尉の報告書(A Manchurian Report)と、張作霖が爆殺時に乗った蒸気機関車の独白(A Monologue of Iron)が、並行して展開してゆく。

    が、序章のほうが内容が濃い。結局、明治・大正は、西洋に模倣できなかったのか、追いつけなかったのか、と。日本神道普及のために、大規模な廃仏毀釈までしたというのに。
    そして語る。「かつて貧しい河北の農民たちが糧を求めて長城を越えた。日本人も同様に食わせるだけの耕地がない、産業を支える資源もない。餓死するくらいなら海を越えて満州へ」と。
    しかし、考える。私たちは、そのお陰?で、今日があるのかもしれない、と。
    満州報告書は、残念ながらレポートの枠を超えられず、今までの作品に比べ深みがなかった気がします。ボリューム的にも仕方がないか?


    印象的なフレーズ:「名誉ある撤退だよ、将軍」「負けは負けだぜ」天の星々は、かくも勇敢な人間にどうして冷たいのだろう
    星は一人で読むものさ。男の旅は孤独で、連れ合いは星空ばかり。

    さて、次は大作『天子蒙塵』に挑戦。

  • 満州は天然資源の宝庫であり、土壌はすこぶる良くかつ広大であります
    市尊たるゆえに、天照大神を始めとする八百万の神々を祀る、祭主のお務めをされております。人間たるゆえのを祭主が神として祀られていることは、矛盾と申し上げるほかありません

  • 読み応えある昭和史ミステリー

    やはりこの人の昭和史を絡めたミステリーは読み応えがある。しかし本作はむしろ一連の「蒼穹の昴」シリーズに含まれるべきか。鋼鉄の独白はいかにも浅田らしい。いつも失われてしまった日本人の気高さについて書かれているように感じるのは自分の深読みか。

  • 「満州某重大事件(張作霖爆殺事件)」をテーマとした作品です。

    治安維持法の改正に対して、「天皇制を悪用した暴論だ」と反論した陸軍少尉の志津。
    彼は軍紀を紊乱したとして陸軍刑務所にて禁固刑を言い渡されますが、その言説が響き、天皇より呼び出されます。そして、天皇の意図とは大きく乖離した結果となっている満州のあり方について、その原因となった張作霖爆殺事件の真相を探るように密命を受け、単身中国へ渡ります。

    冒頭部分の天皇陛下と志津の会談はとても理論的で納得できる論理展開で(実際にこのようなこと(一階の軍人が陛下とお言葉を交換すること)があり得たかどうか、は別として)、こういった軍人が多ければ、歴史も少しは違った形になっただろうと思いました。
    満州での志津の調査報告書(マンチュリアン・リポート)も、張作霖が乗車していた汽車の視点からの語り(「鋼鉄の独白)」も、小説の作り方として非常にユニークで、また読みやすくもあり面白いと感じました。


    ただ、エンディングに向けてのストーリー展開が、宦官・将軍・その他の人々が「龍玉」なるものをめぐって争っているような筋書きになってしまったことで、わかりにくい作品になっているように感じました。

  • 続編に期待。

  • 泣かせにかかってきてるのは重々承知なんだけど。こういう「すごい本」に出会ってしまうと、次に読む本の選択にとてもとても困る。
    ひとまずみなさん、蒼穹の昴を読んで、この中華の地のロマンを共有しましょう。

全155件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1951年東京都生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で吉川英治文学新人賞を受賞。以降、一九九七年『鉄道員』で直木賞、二〇〇〇年『壬生義士伝』で柴田錬三郎賞、二〇〇六年『お腹召しませ』で中央公論文芸賞と司馬遼太郎賞、二〇〇八年『中原の虹』で吉川英治文学賞、二〇一〇年『終わらざる夏』で毎日出版文化賞、二〇一六年『帰郷』で大佛次郎賞を、それぞれ受賞。二〇一五年紫綬褒章受章、二〇一九年菊池寛賞受賞。他の著書に『蒼穹の昴』『天国までの百マイル』『大名倒産』『流人道中記』『おもかげ』など多数。

「2021年 『日輪の遺産 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

浅田次郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

ツイートする
×