- Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062165969
作品紹介・あらすじ
見知らぬ声に導かれるように、果てしない旅は続く。やがて青い地球を彼方に眺める宇宙空間に想像を絶する告白が。圧倒的な筆力と想像力。村上龍渾身の壮大な希望の物語。
感想・レビュー・書評
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極端な階層社会の上層へ歩みを進める。主人公の目を通して、矛盾に満ちた社会を見ていく。重たい小説で、気軽に読み始めるべきではなかった。誰も生きている意味を問わず、自らが生まれた階層の中で息をする。旅人として、階層をひとつずつ登っていく主人公は最上層の最も上で、ようやく生きる意味を見つける。どんな思いをもって、この小説を書いたのだろう。
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本書には2種類のメッセージがあります。
1つは政治や制度が持つ「形骸化」という性質へのアイロニーです。
本書の舞台は近未来の日本なのですが、様々な階層の人間が、階層ごとに棲み分けた上で、それぞれの居住地区内で最適化を図っています。
その最適化はどれも数十年前に打ち立てられたコンセプトに基づいており、現在そこに住む人間はそのコンセプトを意識することなく、ただの制約条件という感覚で環境を享受しています。
思想のアウトプットを引き継ぐだけでは、思想は引き継がれません。
現在資本主義や民主主義を制度として我々は引き継いでいますが、その思想を引き継いでいる人間は本質的にはいません。
思想は従来のものとの比較のなかでしか生まれないものだからです。
資本主義や民主主義の思想がかたちを持つのは、次の新しい思想に塗り替えられようというときになってからです。
そういう本質的な思想と制度のギャップを指摘しています。
もう1つは、村上龍が書籍やテレビ番組を通してずっと前から繰り返し発信しているものではあるのですが、「サバイブする」というメッセージです。
主人公は旅の過程で想像力や交渉を通して死を免れます。
ただ、個人的にはこちらのメッセージは破綻していたと思います。
主人公は終始、他人の用意したレールの上を進むだけで、そこに主体性はほとんど介在していません。
また最後に「移動する」という行為に生き甲斐を見出して生きることに希望を持ちますが、作中の「移動」は「レールの上の移動」であり、レールを最後まで進んでしまった主人公にこの「移動」を再現することはできません。
そもそも後者のメッセージはあまり意図していないのかもしれません。
村上龍には珍しく、それくらい強度の低いものになってしまっていました。 -
大惨事が現実に起こっている時期だから、無意識のうちにそれについて考えながら読んでしまったのだけれど、人類がどれだけ複雑で強固なものを編み出しても畢竟、最後はシンプルなものに帰結するのだと思う。世の中がややこしくなって善悪や正しいものがわからなくなって戸惑う人が増えているが、本当に必要なものや大切なものは驚くほどわずかだ。だから、この話の中で出てくる未来に生きる多くの人たちはびっくりするほどわかりやすい生活をしている。
人間の創造した便利で本来、人が幸福になるためにあるものが、犯罪や非なるものに結びつくという危険を孕むため、法的に外部から圧力をかけられるという皮肉。これはわたしに時計仕掛けのオレンジを喚起させた。それはもう現実に起こっていることだし、物事が表裏一体だとするならば今後も変わらないだろう。作者の想像する未来は案外間違っていないかもしれない。
人間の持つ感情について考えさせる描写がたびたび出てくるが、わたしたちの持つ感情にはひとつひとつ意味があることを知った。嬉しさも悲しさもひどく当然なものとして扱っているけれど、例えばなぜ近しい人が死ぬと人間は悲しいという感情を持つのか、考えたことなどなかった。
キーワードは上に引き続き「想像」すること。想像することによってわたしたちは不安や恐怖を引き起こすという事実。
矛盾を併せ持つが同時に合理的でもある世の中に散らばる数々の事象。結びに人の一生とはこういうものだ、との記述がある。思い当たる節がたくさんあって、ちょっと鬱々とした。でも作家にはやっぱり心理描写に終始するのではなくて、こんなふうに時代背景を考慮して作品を書いて欲しいなと思うよ。閉塞とか欲望とか希望とか。
(20110403) -
“大気圏を抜けようとしています。大気圏を抜けようとしています。よろしかったらどうぞ窓の外をごらんくださいまし。よろしかったらどうぞ窓の外をごらんくださいまし。機械的な合成音で目が覚めた。機内の時計を見る。四十分弱眠った。出発してから一時間が経ち、高度モニタの表示は78だった。地球から七万八千メートル離れている。窓の外に目をやると、地球の輪郭が見えて、思わず身を乗り出した。地球が、夜と昼に分かれていた。地球を包みこむようにして、黒い影がゆっくりと西に移動しているのがわかる。夜が移動している。きれぎれの雲が白い吐息に見える。夜は生きものなのだと思った。比喩としてではなく、本当に生きているのだと実感した。生物としての夜の移動を眺めていると、自分がどこにいるのかが曖昧になり、自分が消えてしまっているような感覚にとらわれた。人間は風景によって自分の位置を確認すると父親のデータベースで読んだことがある。よく知っている場所でも周囲の風景が変わってしまうと地理がわからなくなると書いてあった。”
この文章で涙が出た。
一気に読んで、アキラと一緒に旅をしているつもりにでもなっていたのかもしれない。
最後まで次の展開が読めなくて、息をつく暇さえない。
最後に彼が知ったこと。最後に彼が祈ったこと。
その祈りがどうか叶いますようにと。
“身体を削るような冷気が押し寄せてくる。びっしりと窓を覆った細かな氷をグローブの指先で剥がす。彼方の小さな光が、わずかに大きくなった気がする。闇と氷に覆われた視界に存在するたった一つの光だ。ぼくは光に近づくことはできない。今のぼくには移動する手段も力もない。だが、移動について気づいたことをアンやサブロウさんやサツキという女に伝えたい、そう思った。だから、小さな光がイスンであることを祈るしかない。ぼくは生まれてはじめて、祈った。生きていたい、光に向かってつぶやく。生きていたい、ぼくは生きていたい、そうつぶやき続ける。” -
人類がついに不老不死のSW遺伝子(Singing Whale)を発見した22世紀の世界の話です。
村上龍氏の新作はiPadで先行発売されて話題になりましたね。
SW遺伝子とは、限られた一部の選ばれた人間に応用されました。
その反作用として犯罪者には、老化を促進させる方法が取られました。
人々の徹底的な住み分けがなされた日本で・・・・・ -
コレ最後どうすんの? と思ったらめちゃよかった。
こねくり回した上に普遍的ってさいこー。 -
読みにくい。
頑張って読んでいるとラスト40ページ程で読者のライフゲージを根こそぎもっていくような展開にしてくれる。 -
摂南大学図書館OPACへ⇒https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99250128
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上巻よりかはスピードあげられましたが、エログロは止まりません。
ただまぁこの人はジャーナリスト寄りの仕事もしているし、背景に"社会とは"みたいな強いメッセージがあるので、そこらへんが好きな人は好きなのかもなぁと思った次第。
スポーツや乗り物に乗って移動するという部分への愛のようなものも見受けられますね。
どれも私の趣味ではないので、多分もう読むことはありませんが、ちょっと傾向の輪郭をなぞれたように思います。
そういう意味でも趣味じゃないのもたまに読むと脳みそトレーニングになって良いかも。
カバーイラストレーション / 柳 智之
表紙オブジェ / 青木 美歌
表紙撮影 / 高橋和海
装幀 / 鈴木成一デザイン室
初出 / 『群像』2006年3月号~2010年3月号連載(但し、06年6・8・10・11月号、08年1・2月号、09年5月号休載)