喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし)

著者 :
  • 講談社
4.26
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本棚登録 : 1996
レビュー : 323
  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062166362

作品紹介・あらすじ

学問の深遠さ、研究の純粋さ、大学の意義を語る自伝的小説。

感想・レビュー・書評

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  • 森博嗣さんはそろそろ執筆を辞めるんではないかと囁かれていますね。難しそうでいてとっても分かりやすい文章で、あらゆる分野で面白い本を書ける人なので、もっと名作を残して頂きたいです。まだまだ若いんですし。
    そんな森博嗣さんの自伝的小説です。
    大学で理想の研究者喜嶋助手と出会って、次第に研究にのめり込んでいく青春小説(?)です。
    研究者というと変わり者というイメージですが、この本読むとやっぱり変わっているんじゃないかと確信を深めます。主人公も変わっているし、先生も変わっています。
    でも、この変わっているけれどどこか間抜けで真摯で温かい姿がとても愛おしいです。世の中と折り合いをつけるのが苦手な子供の心を残したまま、秀でた頭脳を持ってしまった人たち。次第に皆大人になって社会に飲み込まれていくのに、喜嶋先生だけは静かな学究の世界に留まっているのではないか?それを主人公も神に祈るように望んでいます。
    表紙があらわしている通り、とても清らかでシンプルな世界に生きているのが学究の徒なんだなと思いました。
    この本はあくまで小説なのでモデルが居ても、作りだされた人格です。それを証明するかのように、広げた人形劇をぱたぱたと片付けるように、あっという間に店じまいします。森先生何考えているのか分からないけれど、取り残された僕の心に温かさと空疎さを残して、忘れられない本になってしまいました。

  • 「どの本が一番好き?」
    って聞かれたら、迷わずこの本を選ぶと思う。
    大学生である今の時期に読めてよかった。

  • 人生をある時期に本にしたら、時間の濃淡はこの本のようになるんじゃないかなと思います。どうでもいい授業や出来ごとは一行も書かずに、大事な先輩に出会ったときや、ガールフレンドができたときのことや、先生と酒を酌み交わしたことや、そういったものの記述が長くなる=その時間は長く覚えているものだと思います。

    人格形成期の希望と不満(10代~20代前半)、社会の中での位置が見えてくる喜びと不安(20代後半から30代前半)、そのまま働いた末の得たものと失ったものの悲しみ(40代~50代)、それぞれにおいて読むと、またその時々に感じるものが違うように書いているような印象を受けました。なので、また10年後に読むように本棚に取っておこうと思います。

  • やはりいい。
    頭のよい人は本当に羨ましい。
    羨むということだけで僕は森さんから遠のいているのはわかるのだけれど。

    誰を羨むこともなく
    誰と比べることなく
    誰も妬むことなく
    誰にも理解されなくていい

    最も珍しいことにこの作品では喜嶋先生と橋場くんは自分を比べているけれど。

    森さんの作品を読むとき僕は正直内容はどうでもいい。
    ただ文章の中に流れる汚れなく美しい何かに触れることがとてつもなく嬉しいのだ。
    それは僕が森博嗣という生き方に対して憧れや羨望、自分のなかった未来を重ねているからだろう。

    僕もあんな風に生きたかった。
    世俗になんかまみれたくなかった。

    こんな人が近くにいたら僕は変わっていただろう。
    本だけでこれだけ変わったのだから。
    しかし会うことはない。
    ステージが違い過ぎる。
    たった一人雰囲気が似ている人に出会い、僕は憧れを抱いたが近くに居続けることは出来なかった。
    あれが最初で最後。
    僕が知性に触れることが出来た機会だ。
    貴重だった。
    もっと早くに出会っていれば僕は森さんにもっと近づけただろう。

  • 大学生の日常生活で、エッセイ調かと思いきや、どんどんドラマチックな展開に。最後は少しぞっとするミステリーのような終わり方。孤独や寂しさが作品全体から感じられて、読み終わってもまだ静かな世界に取り残されたようでした。

  • 静かだけど情熱的。
    目の前に山(研究課題)を積み上げては高く高く登っていく、その喜びが詰まっていて、読んでいるとこちらまで高揚してしまうほど。

    学問の意義。
    勉強と研究の違い。
    研究を進めていくときの感覚。
    そして、生き方。
    この読書のなかで、たくさんの収穫があった。

    喜嶋先生は社会的な枠組みだけから見れば多くの欠点を抱えた人だ。でも主人公の視点から見たときそれらは全く逆の意味を持ち、ますます先生への尊敬は高まっていく。
    なぜなら、それらが研究者として正しい道を歩いているが故だと理解できるから。

    「学問には王道しかない」という先生の言葉から主人公が汲み取ったものと、その純粋さにひたすら圧倒される。
    こういう生き方もあるんだと、衝撃を受けた。

    でもやっぱりそういう生き方は難しいもので、生きている限り、たくさんのものに縛られていく。
    素敵な奥さんと出会って、新しい家族が出来て、研究一本に突き進めなくなってからの文章に泣きそうになった。
    それが家庭を持った者としてのごくあるべき姿、「王道」なのだと私は思うけれど、同時に研究者としての王道を外れてしまうことでもあるというのはやはり切ない。

    それでもなお(だからこそ?)喜嶋先生に敬愛と信頼の念を捧げつづける主人公の姿が悲しすぎる。

  • 喜嶋先生の奥さんが最後に、自殺することについて。
    本の中では、何も明確にされていない。
    その理由について、ぼうっと考えた。

    喜嶋先生は結婚された後、九州の大学に栄転されて助教授になっている。
    これは出世とか給料とか地位名誉なんかより、研究する時間を優先して助手をしていた先生が、日常生活である沢村さんとの時間を多少なりとも優遇したから。
    九州という遠い土地に離れたのも、周りに知る人がいない方が好都合であったからではないかと予想する。

    (蛇足的な予想の中の予想。
    沢村さんはある程度の名家とか財産もちのお嬢さん。前旦那との結婚も家と家との繋がりのような意味も含めたものであった。だから、簡単に破棄することは出来なかったし、離婚することも出来なかった)

    で、二人は結婚生活を楽しむことは出来たはずだ。しばらくは。
    しかし喜嶋先生は大学を辞めてしまった。辞めた理由は、読んだ人なら、誰でも想像できる通り、研究をしたいという欲求を選んだからだろう。大学にいなくとも紙とペンがあれば、研究は出来るのだから。
    そして研究を選ぶということは、最終的に日常生活も選ばないことに繋がる。研究に喜嶋先生を取られた沢村さんは、悲観して自殺してしまった?
    というのが最初読み終わって率直に辿り着いた想像。悲しい終わり方、、、と思った。だけどその日に寝る前、布団の中で考えふけって、思い描いた結論は別のもの。

    沢村さんは、喜嶋先生のことを愛していたに違いない。
    喜嶋先生が最後に選んだのは、研究をし続けること。だけど研究に集中するためには、日常は邪魔なものなはず。少なくとも、大学で助手をやっていた頃のような、純度の高い研究者には及ばない。
    自分がいては、喜嶋先生は助手をしていた頃のような静かな世界に戻ることは出来ない。静かな世界に必要なのは喜嶋先生と研究対象だけ。それ以外は必要ない。
    だから死ぬことにしたんじゃないだろうか。
    喜嶋先生を好きで、喜嶋先生の研究が好きで、それ故の死ぬという選択ではないだろうか。
    そんな理由で死にましたと言われたとして、誰だって納得はしないだろうし、理解もできない。
    ただ、二人だけ、喜嶋先生と沢村さんにとっては、意思疎通の結果であると思う。

    喜嶋先生が王道を進み続けるため、そして幸せであるために沢村さんが亡くなられたと考え付くのであれば、決して悲観的な終わり方ではなかったのであると僕は思う。

  • 『喜嶋先生の静かな世界』読了。
    主人公が研究者になるまでの話。
    自分の知らない世界でとても新鮮、もっと早く読めば良かった。
    結婚式での喜嶋先生のスピーチの締めにクスリ。
    研究するって良いな、私ももっと色々な事を知りたい。

    -「紙と鉛筆さえあれば、どこでも研究はできるよ」(327P)

  • 主人公橋場君をとおして尊敬する喜嶋先生を描いていますが、ほとんど橋場君の研究観、生活観、恋愛観を表しています。研究者の中でも橋場君は普通で、喜嶋先生は「特殊」だと思います。ただこんな先生はよくいるもので、研究者としては皆のお手本になりますが、なりきれないのだと思います。研究者の価値観をよくあらわした素晴らしい小説だと思います。

  • 森博嗣が好きだ。S&Mシリーズ迄は。
    森博嗣がビジネスのためにと割り切って小説を書いて居るのは有名だが、最近の某シリーズは最早同人レベルで、ミステリは崩壊、「このキャラを出せば嬉しいんでしょ?」的な目線のぐたぐた加減で本当に悲しかった。

    しかし今回は久々に楽しいものを読ませていただいた。
    大学生、という「人生の夏休み」期間の想いが、少ない登場人物の中でよく描かれて居る。
    喜嶋先生っぽい人、って大学に一人は居る気がする。
    ああ、大学生に戻りたいなぁと思える。
    自伝的小説なのだけれど、自分の大学生時代も投影してしまう、そんな小説でした。
    面白かった!

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著者プロフィール

1957年愛知県生まれ。工学博士。
1996年『すべてがFになる』(講談社文庫)で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。
怜悧で知的な作風で人気を博する。
犀川創平と西之園萌絵の「S&Mシリーズ」瀬在丸紅子の「Vシリーズ」ほか「Xシリーズ」「Gシリーズ」(すべて講談社文庫)などシリーズ作品多数。
講談社タイガ収録の「Wシリーズ」「WWシリーズ」で描かれる未来は、予言的でもある。
エッセィや新書なども数多く執筆。

「2020年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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