鴎外の恋 舞姫エリスの真実

著者 :
  • 講談社
4.18
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本棚登録 : 110
感想 : 25
  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062167581

作品紹介・あらすじ

森鴎外の名作「舞姫」。悲劇のヒロイン、エリスのモデルとは誰か?世間を騒がせてきた積年の謎をついに解明。徹底的な調査によって次々に発見される新資料の数々。「舞姫」モデルの正体に迫る過程は、ミステリー小説を読むがごとくの興奮とドンデン返しの連続-そして巻末近くで明らかになる、「エリス」との感動の対面!抜群の面白さと世紀の発見の記録。

感想・レビュー・書評

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  • 森鴎外の舞姫エリスの真実を追究した一冊。
     
    舞姫のあらすじは今更語るまでもないと思うが、ドイツのベルリンで、日本人留学生の豊太郎と、貧しい踊り子エリスが出会い、恋をする。しかし豊太郎は、栄達の転機を得て、妊娠したエリスを置いて帰国してしまう。

    授業で読んだ高校時代、女子校だったこともあり、同じ年頃のエリスに肩入れし、妊娠した彼女を捨てる豊太郎許すまじと騒然となったものだ。ラストは救いがなく、ハッピーエンド大好きな高校生には大変なショックだった。
    それに最後の文もひどくないか。自分がエリスと別れて帰国することを承諾しながら、これをエリスに伝えた相澤に、「嗚呼、相澤謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。されど我脳裡に一点の彼を憎むこころ今日までも残れりけり」って。

    豊太郎は鷗外その人ではないけれど、ドイツに留学していた鷗外の経験を元にしていること、鷗外帰国後に来日したドイツ女性がいたこと、しかし森家にドイツに追い返されたことは知られているから、ずっと気になっていたのだ。舞姫はどこまでが真実なのだろう、エリスはどうなったのだろうと。

    本当は、加筆もある文庫版を読みたかったのだけど、図書館には置いてなかったため、単行本の方を手に取った。本書を読む前に舞姫を再読した。

    筆者は、緻密な調査でエリスのモデルとなった女性"エリーゼ・ヴィーゲルト"に迫り、それまでのエリス像を覆す。
    三歩進んで二歩下がりながら、少しずつ真実に迫っていく過程は、ミステリーを読んでいるようだった。一番の謎であった「エリスは誰か」については、もはや「説」ではなく、「これが真実」といえるものであろう。
    著者はドイツでライターの仕事をする傍ら、何度も国立図書館や公文書館、博物館等に足を運び、さらに古い洗礼記録や結婚記録のある教会簿の不鮮明で読みにくい装飾文字の羅列を追い、二人の出会った教会の位置や住居の場所を探り、地道で根気のいる第一次資料の調査を続ける(土地勘がなく、地図を読めない&地図を思い描けない私には理解できないところも多々…)。
    そして何度も挫折しながら、蜘蛛の糸をたぐるような作業を繰り返し、ついに舞姫のエリスとほぼ完全に符合するエリーゼ・ヴィーゲルトと、その家族に行きあたるのだ。
    筆者がドイツ在住という地の利や、堪能なドイツ語能力を生かしているのは確かだが、その調査を支えているのは、『路頭の花』とか『人妻』とか『娼婦』などと好き勝手に憶測されてきたエリーゼの本当の姿を知りたいという情熱。
    本当のエリーゼは、鷗外に招かれてやってきたのではないか。ハンカチイフを振って別れていったエリーゼの顔に少しの憂いも見えなかった、人の言葉の真偽を知るだけの常識も欠けた哀れな女だと鴎外の妹は書くが、そうなのだろうか。本当の涙はもっと別のところで流れていたのではないかーー。

    筆者は、終盤で、エリーゼの来日、そして帰国にまつわる謎についても推測を提示するのだが、これはかなり衝撃的だ。状況や文献から読み解いた仮説の一つとはいえ、少なくとも、鷗外がエリーゼを呼び寄せて来日させた点についてはほぼ確実だろう。

    「我豊太郎ぬし、かくまでに我をば欺き玉ひしか」…作中、豊太郎が知らない間に帰国を決めていたことに、「かくまでに」というのはやや唐突な感じもしていたのだが、もし筆者の考えるとおりだとしたら。
    エリーゼがハンカチイフを振って帰国したのは、本当にその時のエリーゼには憂いがなかったのだとしたら。
    エリーゼの叫びは海を超えて、鷗外に届いていたのだとしたら。

    "鷗外はなぜ舞姫を執筆したのか。"

    これまでただただ、「豊太郎ひどい奴」と憤っていたが、本書を読んで印象は大きく変わった。
    高校の時のモヤモヤを引きずっている人に、是非、読んでみてほしい。 

    • 地球っこさん
      マリモさん、おはようございます♪

      胸の熱くなるレビュー、読みごたえありました!
      さっきから何度も読んでます。
      最近、ブク友さんであ...
      マリモさん、おはようございます♪

      胸の熱くなるレビュー、読みごたえありました!
      さっきから何度も読んでます。
      最近、ブク友さんであるkuma0504さんの「トガニ」やnaonaonao16gさんの「82年生まれキムジヨン」のレビューも、とても印象深くて、涙が出そうになりました。
      そういうレビューに出会えると本当に嬉しいです。
      マリモさんのこのレビューも、またこれから何度も読み返します。
      お気に入りとして、いつでも読めるように残せたらいいのに。

      わたしは「舞姫」を読んだとき、クールで冷たい印象だった相澤が気になって仕方ありませんでした 笑
      彼にとったら、豊太郎に憎まれることなんて痛くも痒くもなかったのでは……
      エリスが発狂することも想定していたのでは……なんて、思ってました。

      それにしても、この著者さんの情熱はすごいですね。何度も挫折感を味わうことになったでしょうに。

      2021/04/18
    • マリモさん
      地球っこさん

      なかなかレビュー書きにくくてうまくまとめられなかったので、そう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます!

      ...
      地球っこさん

      なかなかレビュー書きにくくてうまくまとめられなかったので、そう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます!

      私もブクログのレビューで知った本です。よく理解できなかったところも多々あるのですが、筆者のエリスにかける思いの強さでぐいぐい引っ張られて読まされました。筆者は研究者ではないのですが、それまでの舞姫の研究と違うのは、女性としてのエリスの尊厳を女性目線で考え、エリスならどうしただろうかと想像していることかなと思いました。そんな筆者に対する神の采配なのか、行き詰まった時には思いがけない偶然から、細い糸のつながりが見えることが何度も起きるのですよ。収穫を得られなかった調査なども詳らかに記されているので、その過程がミステリーそのもので大変読み応えがあります。

      豊太郎は未練だけは強いけど不甲斐ない男という悪い印象だったのですが、筆者の想像する通りだとすれば、作中の豊太郎よりも、鷗外の苦悩は深かったのだろうなと思いました。

      私にとっても相澤は気になる存在です。相澤は豊太郎のために自ら憎まれ役を買って出たのかもしれませんね。
      エリスのその後についても、別の本でまとめられているようなので、こちらも読んでみたいと思います(^^)
      2021/04/18
    • 地球っこさん
      マリモさん

      とても分かりやすくて、胸熱なレビューですよ!
      本当に読めて嬉しかったです(*^^*)

      著者さんは研究者じゃないので...
      マリモさん

      とても分かりやすくて、胸熱なレビューですよ!
      本当に読めて嬉しかったです(*^^*)

      著者さんは研究者じゃないのですか!びっくり。
      でもだからこそ、女性としてのエリスの尊厳を女性目線で考える……という視点が生まれてきたのかもしれないなぁ。
      ある意味、研究という柵がない分、エリスへの強い思いを遠慮せずに出せたのかもしれませんね。
      神の采配、すてき⭐
      きっとそうですよ(*>∀<*)ノ
      2021/04/18
  •  森鴎外の短編小説『舞姫』(1980初出)の題材については、若き日の文豪のベルリン留学中の恋愛に係り、ヒロイン「エリス」の実像が小説を地で行く噂話として度々取り沙汰され、諸説は紛々、1981年に発見された乗船名簿からたうとう「エリーゼ・ヴーゲルト」といふ本名までは明らかにされたのですが、その人物像については、鴎外の没後になってから、妹小金井喜美子による「人の言葉の真偽を知るだけの常識にも欠けてゐる、哀れな女」であったといふ証言、また子どもたちからは、体裁を重んずる家族からの伝聞や、古傷をいたはるやうな父のさびしげな横顔が、思ひ出として報告されてゐるばかり。鴎外自身はこの顛末について一切を語らず、そして彼女からの手紙など一切を焼いて死んでしまったために、最も身近な関係者であった妹からの、最初にして止めを刺すやうな「烙印」が定説としてそのまま今日に至ってゐる、といった状態だったやうです。

     このたびの新刊『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』の意義は、もはや証言からは得られなくなった100年以上過去の外国人の人物像を、学術論文顔負けの実証資料により浮かび上がらせながら、同時にそれが退屈なものにならぬやう、現地の地理・文化史を織り交ぜたスリリングな「探索読み物」にまとめ得たところにある、といってよいでせう。綿密なフィールドワークと軽快なフットワークを可能とさせたのは、もちろん著者がベルリン在住のジャーナリストであったから、には違ひないのですが「今にも切れてしまいそうで、けれども時おり美しく銀色に光って見える」まるで蜘蛛の糸のやうな手掛かりに縋った探索行は、資料のしらみつぶしに読者を付き合はせるといふ感じは無く、まるで知恵の輪が偶然解かれるときのやうに、徒労に終ったどん詰まりの先「本当に諦めようとしたところで何かが見つかり、また先に続く」謎の扉の連続のやうなフィールドワークとして再体験されます。歴史に完全に埋もれやうとしてゐる一女性の正体に肉薄しようとする意味では、も少し豊富な材料があったらいづれ小さな一史伝と成り得たかもしれません。といふのも、これを彼女に書かしめたのは、学術的好奇心といったものではさらさらなく、晩年の鴎外が前時代の書誌学者に感じたと同様、自らの一寸した特殊な境涯が縁となって知ることを得た、時代を異とする市井の一人物へのそこはかとない人間的な共感の故であるからです。

     そもそも小説に描かれた内容を実人生に擬へ混同すること自体、非学術的といっていいでせう。しかしあのやうな人倫破綻の告白がどうして書かれるに至ったかといふ疑問には、出発したばかりの作家生命を賭した生活の真実が隠されてゐるに違ひない、さう直覚した著者によって、封印された悲劇の鎮魂が、記録を抹殺された女性の側から、資料の積み重ねによって図られることとなり──これが小金井喜美子と同じ日本人女性の手でなされやうとするところにも意味はあるのではないでせうか。学術的な論文ではなく、また空想がかった小説でもなく、世界都市ベルリンの世紀末からユダヤ人迫害に至るまでの文化史を、当地に実感される空気とともに織り交ぜて楽しむドキュメンタリーとして、普段の仕事と変りない視線から語られるレポートの手際は見事としか言ひやうがありません。ために、先行論文は虚心坦懐に吟味され、敬意が払はれ、また臆するところなく間違ひも指摘される。耳遠い文語体を口語体に直す配慮も親切の限り。さうして読み進んでゆくうち、読者は「鴎外の親戚でもエリーゼの知り合いでもない私(著者)が、ベルリン在住の地の利を活かして」行なった調査の結果、その「どれが欠けても、また、どの順序が違っても、発見に至ることはなかった」舞姫の秘密に、最後の最後、共に立ち会ふことになるのです。

     奇跡的な発見の結果は、著者に当時の日本の文学者や高足のだれひとりとして予想できなかった、ペンネーム「鴎外」やその子どもたちの名付けの謎解きにも、蓋然性ある推理で挑戦させます。またそんな奇跡にこの度はどこかで私も関ってゐるらしく、茲に書き添へ一筆広告申し述べます次第。

  • 何故か立て続けに森鴎外の「舞姫」エリスに関する単行本が
    相次いで発売されたようなので,興味を持って読みました。
    著者が偶然に導かれるようにエリスに近づいていく様子は上質なミステリーを読むようで,非常に面白かったです。
    先に発売された別著は未読ですが,おそらくエリスはこの本の女性ではないでしょうか。

    この本を読んで,鴎外は,エリスと日本で結婚するため呼び寄せたものの,家族の猛反対にあい,とりあえずこの場をおさめるため,女性をドイツに帰すが,密かにドイツで一緒に暮す約束をしていた。
    しかし,結局,母には逆らえず,母の決めた相手と結婚したが,生涯女性の面影を忘れることができなかった…,と想像しました。

    「エリス」がドイツでせめて幸せな結婚生活を送ってくれていたらいいのに…と思います。
    願わくば著者には,ドイツ帰国後の「エリス」の調査もしていただきたいです。

  • 今年初め、今野勉氏の「鷗外の恋人」を読んだので、数ヵ月後に「舞姫」のモデルがついにわかった!との報を聞いて何をいまさら…と思っていたら、どうやら今までの通説・憶測を吹き飛ばす、本物の本物が判明したらしい。
    と、いうことで、本書を読んでみた。

    どうしても前に読んだものとの比較になってしまって申し訳ないが、まず読み物として、圧倒的に本作のほうが面白い。

    今野氏の本は、TV番組で取り上げた内容をまとめたもので、鷗外側からの調査であり、文献を読みこみ精査することで分析した内容がほとんどだった。
    本作は、著者がベルリン在住なこともあり、鷗外の恋人エリーゼ側の立場から調査を進めている。
    この件を調べることになったきっかけに始まって、文献の調査はもちろん、地の利を活かして、実際に様々な場所に足を運び、いろいろな人に会い、当時の鷗外の生活の場も尋ねた経過を時系列に追っているので、非常にわかりやすい。

    なかなかたどり着けないもどかしさや戸惑いに、やめようと思いつつもやめられない。苦労しながらも、人と出会い、彼らの思いがけない手助けを得、そしてそれが真実への糸口になるなど、非常に臨場感にあふれ、読んでいて著者の思いをそのまま追体験しているようだった。

    時間をかけて根気よく丁寧に調査を進める姿勢にも敬服。文章もうまい。

    ただ、エリーゼを突き止めた、というところまでが結果なので、どういう経緯で日本まで来たのかとか、渡航費用の問題とか、そのあたりは相変わらず不明で、あくまでも現時点で判明している内容からの推測でしかない所はやや消化不良っぽくもあるが、もうこれ以上調べ上げるのは不可能なのかも。

    間違った結果を導いた今野氏の著作ではあったが、そちらを読んでいたおかげで、鷗外側の立場や親族たちの思惑などを知っていたので、よりよく本作を理解できたのは事実。
    両方読むのがおススメ。

    あ~面白かった!

  • ふむ

  • まさに人事を尽くして天命を待つ、の体現

    著者は折り目正しく、先駆たる研究者らに礼を尽くしているものの、
    専門家の立場からすれば、これほどの実証検討を(現地在住の利があるとはいえ)
    専門外の人に為され、核心に迫られては立つ瀬もなかろう。

    実際、多くの僥倖が導いた発見だと著者は述べているが、
    それも緻密で粘り強い調査あってこそだと思う。

  • 調べていく過程が不思議につながっていく。最終的にそれらしい人に当たる。おそらく書かれていない膨大な無駄足があるのだろう。調べているときの心持を思い出した。いつかまた何かを調べるときがあるといいのだが。

  • 文学
    歴史

  • <学生サポートセンター 教務係職員>
    森鴎外の「舞姫」に出てくるヒロインのエリスは実在したのか?したのであればどんな人だったのか?多くの人が挑戦した謎が、ついに解き明かされました。
    ふつう学術論文ではその研究を始めたきっかけや、失敗して方針を軌道修正した過程などが明かされることはありません。
    著者はエリスを追跡していく中で体験した衝撃の出会いや、100年前の資料のありかを突き止める様をドキュメンタリーのように描いており、歴史学の面白さを知ることができます。
    続編もあり。

    ◆長野県立大学図書館OPAC
    https://u-nagano-lib.opac.jp/opac/Holding_list/search?rgtn=11039419

  • 途中何度もエリスについての研究を止めそうになるシーンが出てくるので、その都度「頑張れ! まだ、残り○○ページまで残ってるぞ!」という気にさせられた。

    鷗外の娘二人の名前が、実は、エリスのモデルエリーゼの親族からとられているのではないか? という説が、目から鱗だった。

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著者プロフィール

1962年大阪生まれ。ノンフィクション作家。88年よりドイツ在住。2011年『鴎外の恋』を発表し、話題に。他の著書に『それからのエリス』『いのちの証言』がある。

「2020年 『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

六草いちかの作品

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