僕たちのヒーローはみんな在日だった

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062168854

作品紹介・あらすじ

在日コリアン3世、舌鋒鋭い論客・朴一が、戦後復興期の英雄・力道山からアジアカップ優勝を決めたストライカー・李忠成まで、隣の国からやってきた日本の興行界の花形スターたちの生き様、パワーの源、知られざる苦悩を赤裸々に描く-。

感想・レビュー・書評

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  • 思索

  • 316.8

  •  SM官能小説で有名な団鬼六が、小説のモデルになる美しい女性を探していたときのこと、彼は神戸のあるスナックで気高く美しいホステスに出会い、好きになってしまいます。何とかモノにしようと思った彼は、バーテンにチップをはずんで彼女の住所を聞き出し、訪ねていきます。部屋に入れてもらい、彼がそこで目にしたのは、床に散らばっている韓国語の新聞でした。彼女は在日だったのです。その瞬間、体中から血の気が失せ、あこがれは嫌悪に変わり、彼女への興味はすっかり失せてしまいました。
     これは団鬼六が1969年に書いたエッセイ「一皮剝けば」に出てくるエピソードです。著者がこのエッセイを紹介しているのは、団鬼六の差別的な見方を糾弾するためではなく、これが当時の日本人が在日に抱いていた一般的なイメージを代弁していると考えているからです。現在でさえ、ネトウヨと呼ばれる無知で不幸な人たちは、自分が気に入らない人間を根拠なく「在日認定」とわめきます。「在日」という語は今でも、一部の阿呆にとっては侮蔑語なのです。
     アメリカレスラーを倒す日本人というイメージのため、偽の履歴まで作られた力道山、石原慎太郎の公設秘書により、選挙ポスター3000枚に「北朝鮮より帰化」というシールを貼られた新井将敬(後に自殺)、その他、和田アキコ、都はるみなどのエピソードなどを紹介しながら、最終章では、日本名を名乗らず、本名で通すスポーツ選手などの例を通して、これからの道筋を考える、この本はこんな構成になっています。著者は日本や日本人を断罪しているのはなく、単に「日本」であることに異様に過大な価値を置きたがるこの国(著者のではありません。私の印象です)、そこで出自を隠して生きてきた在日の人々の苦悩を描きながら、あるべき姿を考えることを提案しているのです。
     個人的には、力道山の妻へのインタビューが長い、スポーツ選手にページを割きすぎ(自分がスポーツに興味がないので)等の印象は持ちましたが、読んでよかったと思える本でした。最後に、松田優作が法務大臣に宛てた「帰化動機書」を引用しておきます。

    「僕は今年の7月から日本テレビの「太陽にほえろ!」という人気番組にレギュラーで出演しています。視聴者は大人から子供までと幅広く、家族で楽しめる番組です。僕を応援してくれる人たちも沢山できました。現在は松田優作という通称名を使っているので、番組の関係者にも知られていませんが、もし、僕が在日韓国人であることがわかったら、みなさんが、失望すると思います。特に子供たちは夢を裏切られた気持ちになるでしょう」

     読んでいて切なくなりました。「なんじゃ、こりゃ!」って、こんな気持ちで演じていたのですね。何が彼をこんな風に思わせてしまったのか、やはり真剣に考えるべきだと思います。

  • 在日でもある著者自身が、芸能人やスポーツ選手について在日であることを記す一冊。

    こんな人も在日だったのと知る一方で、そんな彼らの苦労も垣間見て、アイデンティティの喪失と二重性と相克で苦しむ彼らの境遇を気の毒にkな自他。

  • p.28 例えば「阪神タイガースの桧山進次郎選手は実は在日コ
    リアンなんですよ」というような話をしたときに出る。
    「桧山選手が在日コリアンであることと、桧山選手がプロ野球で活躍していることは何の関係もない。そんな話をわざわざするな」
     という反論である。確かにそれはある意味で、日本人からのまっとうな反論かもしれない。こうした問題に対する回答として、オリンピックというものを考えていただいたら分かりやすいのではないだろうか。(略)

     アメリカ系の日系人がオーノ選手(日系人)を応援したり、フィギュアスケートの長洲未来選手を応援するように、在日韓国人が同じ在日の桧山選手を応援するというのは当然の感情であり、ある意味で健全なナショナリズムといえるだろう。それを否定するいわれは何もない。

     ところが日本人の中になぜこうしたことに異議を唱える人がいるかというと、アメリカではオーノ選手や長洲選手が、自分が日本にルーツを持っているということを堂々といえるのに対して、日本ではなぜか朝鮮半島にルーツを持つという出自を隠さなければ、スターになれないといういびつな構造があるからである。アメリカと日本という国の違いは何なのかということを、ここで考えてみる必要があるだろう。


    p.38 WBCの韓国対日本の準決勝の試合のとき、私はテレビのゲストに呼ばれたことがある。(略)そのときにプロ野球チームを引退し野球評論家になったIさんが出演しており、司会者が「Iさん、今日の試合は何対何でどちらが勝ちますか」と聞くと、「3対1で日本が勝ちます」と彼は答えた。それから1分か2分かくらいのわずかなCMが入るときに、私の横に座っていたIさんが、「先生、私も在日です。本当は韓国が勝つと思いますけど、番組が番組ですから、日本が勝つと言わないといけない。そこは分かってください」と私の耳元でささやいた。

     思っていることもはっきり言えないような閉鎖的な状況の中で在日コリアンの彼が働いているということを、私は思い知らされた。彼のような立場に置かれたタレントは、日本人が多数派を占めるこのメディア社会の中で自分の思いをありのままに発言することができない。なぜか。思ったことをそのまま言うと、仕事がなくなってしまうからだ。日本人には、日韓の狭間で生きていかねばならない在日コリアンのこうした葛藤を理解することは難しいかもしれないが、こうした複雑な立場に置かれた在日の選手や解説者がいることを知ってもらいたいのである。


    p.53 錦野旦は語る
     「大晦日の『紅白歌合戦』は、われわれがいなかったら成り立たないんですよ」
     錦野がここで言う「われわれ」とは朝鮮半島にルーツを持つ在日コリアンを指す。(略)

     錦野は芸能界に入ってから、自分と同じような立場の人が大勢いることに気づいたのだという。錦野旦が紅白歌合戦に出場していた70年代の初め、紅白歌合戦の常連組には、錦野旦、都はるみなどの在日であることをカミングアウトしていた人たちに加えて、後にカミングアウトすることになる和田アキ子、レコード大賞に輝いたこともある男性大物歌手であるF・A、グループサウンズ出身の人気男性歌手S・K、音大の声楽家出身で歌唱力に定評のあるY・S、新御三家と言われた男性歌手のS・Hなど、在日コリアンの歌手が出場者の4分の1近くを占めていた。実際に、錦野旦が言うように、紅白歌合戦は在日コリアンがいなければ成り立たなかったのである。


    p.74 美空ひばりの伝説
     こうしたいくつかのエピソードだけでは、美空ひばりが本当に朝鮮半島にルーツを持っていたかどうかはわからない。ただ、日韓の報道合戦の通じてわかることは、日本人の心の中に、美空ひばりが韓国人の血を引く歌手であってほしくないという感情を持っている人が少なくないということである。やはり日本の芸能界が在日コリアンの芸能人の出自をタブー視するのは、メディアの背後に潜むこうした国民感情を恐れている


    ・p.79 力道山の苦悩~「隠していかないと生きていけない」

     力道山はかつて朝鮮半島で虫けらのように扱われていた自分が、「日本のヒーロー」を演じていることに、とまどいや不安も感じていた。元プロ野球選手の張本勲は、当時の力道山の複雑な心境を伝える次のようなエピソードを自らの著書で紹介している。

     「ある日、リキさんが自室でラジオをいじくっていました。短波放送だったでしょうか。ラジオから流れる朝鮮の音楽に耳を近づけて、しんみり聴いていました。それを見て、私は思わず『リキさん、何もこそこそと聴くことないじゃないですか』と言ってしまった。
     すると、リキさんの表情が変わり、ぶんなぐられました。
     『日本の植民地時代にわしら朝鮮人は虫けらのように扱われたんだ。隠していかないと生きていけなかったんだ。いまこうして国民のヒーローになったわしが朝鮮人だと言ってみろ、ファンがどれだけ落胆するか、貴様になにが分かるか』

     それはすごい剣幕でした。確かに、リキさんが17歳で来日し、プロレスで成功するまでにどれほどの苦労があったか。そういうことも知らずに、若気の至りとはいえ、思慮分別を欠いたことを言ってしまったと、自分を恥じました。同時に、これほどのスターになったリキさんにさえある差別の傷跡、その根深さを見たようにおもいました」(張本勲 『もう一つの人生 被爆者として、人として』新日本出版社、2010年、80-81ページ)


    p.137 松田優作の葛藤~「本当のことを知れば、おまえは俺から逃げていく」

     妻の父のルートを通じて帰化手続を始めた優作は、申請に必要な膨大な書類を準備しなければならなかったが、優作がいちばん力を入れたのは法務大臣宛の「帰化動機書」の作成だった。優作は当時、日本人になる動機と意思について、次のような文章を書いたという。

     「僕は今年の7月から日本テレビの『太陽にほえろ!』という人気番組にレギュラーで出演しています。視聴者は子供から大人までと幅広く、家族で楽しめる番組です。僕を応援してくれる人たちも沢山できました。現在は松田優作という通称名を使っているので、番組の関係者にも知られていませんが、もし、僕が在日韓国人であるということがわかったら、みなさんが、失望すると思います。特に子供たちは夢を裏切られた気持ちになるでしょう」(ルーツ秘め、優作ほえた」『朝日新聞』2001年3月19日付、および『越境者 松田優作』96ページ)

     この「動機書」から帰化を切望した松田優作の悲痛な叫びが伝わってくる。国籍が違うというだけで日本社会から差別され、つまはじきにされる。韓国籍を持っている限り日本の芸能界のスターにはなれない。そんな閉塞状況から脱出する道は帰化しかないと、優作は考えたのかもしれない。


    p.143 「在日認定」
     「在日認定」という言葉がある。ウィキペディアによると、「在日認定」とは「ある人物を事実や根拠の有無にかかわらず在日コリアンや、コリアン系の人物であると認定する」行為を意味するようである。こうした「在日認定」は、インターネットサイトの2チャンネルの世界で広がりを見せ始め、日本に批判的な人物を誹謗・中傷する手段として使われてきた。(略)

     なぜコリアンとは無関係な人物を「在日認定」しようとするのだろうか。そこには、在日コリアンに蔑視的・差別的な感情を抱いてきた日本社会のゆがみを利用して、「在日」と認定した人物に対する世間の評価を下げたいという邪悪な意図が感じられる。

  • 資料ID:21102762
    請求記号:

  • 日本の芸能界・スポーツ界に在日コリアンが多いとは思っていたが、これだけ有名人がいっとは知らなかった。マスコミが取り上げない事もあるが、本人が出自を隠していることがある。在日と言うことが負の負担となるからである。最近ではカミングアウトして活躍している人も目立つが、それがあたりまえの社会にならねばと思う。

  • ちょっと読むにはいいかもしれません。在日の方々が歴史の中で背負わされてきた偏見や差別は在日の方々にしか解らないと思います。孤独であったろうし、先の見えない不安の多い生活そのものが多くの在日の方々にのしかかっていたに違いありません。そういうものの中で自分を生き輝かせて来た人たちの軌跡を知った感じがありました。
    しかし、日本の中でマイノリティとして生きる道を選んだ在日の方々の苦労なども含め、ヒーローとしては生きられないでいる人が多いはずです。
    私は、この本を読みむしろそういう全然描かれていない側面をもっと知りたくなりました。・・・今度は、そういった本を読んでみようと思います。

  • 就職に対して差別のあった時代、多くの在日籍の人が実力で入れる芸能界やスポーツの道を選んだ、だからその世界には在日の人が多い、新しい世代には本名で帰化してカミングアウトして活躍している人々も出てきたけれど、いまだ告白できず、差別を恐れて苦しんでいる人やかつて苦しんだ人々がいることを知ってもらいたい、という趣旨でこの本は書かれた、とある。
    そうなんだろうな、と思う内容だった。

    何人かの芸能人やスポーツ選手の活躍や暴露、カミングアウト記事を並べたもので、ネットや週刊誌で見られるようなこと以上の内容はなかった。深い分析もなされていない。そして、私が新しい世代と同年代なこともあって、正直、力道山や松田優作のスター性を語られても(しかも在日だとかほとんど関係のない個人への賛美と奥さんへのインタヴューは普通にタレント本から抜粋したような内容)ピンと来ない。

  • たかじんのそこまで言って委員会でお馴染みの朴一教授による在日解説本とでもいうべき本書。在日というタブーを、芸能界で活躍する在日スターを取り上げその実態に迫る。和田アキ子がカミングアウトしてたとは知らなかったし、都はるみや、古くは力道山、俳優の伊原剛志など、言われてみれば確かに「ヒーローは在日」だった。ただ、日本人の視点からというか、普段在日と接する機会のない者としては、やや誇張が多いような、日本における在日の存在を過剰に卑下しているような気がしないでもない。相撲やプロレス、ボクシングを取り上げ「在日なくしていまの業界はなかった」かのような書き方も、正直イライラしてしまう。こういうことを書くと朴氏の思う壷なのかもしれないが。現在の韓流ブームの一方で、国籍を隠して活動するという矛盾がなんとも本人たちにしてみたら歯がゆいのかもしれない。ソニンなど、確かに韓国人名なのに日本語がペラペラだと、この人は一体ナニモノなのか?という疑問があった。そうかただ単に在日なのかという、分かってしまえばどうということのない話だけど、韓国朝鮮名で活動する難しさは否定しきれない。それでも、李忠成のように日本国籍を取得しつつも韓国名を名乗るスターがいるように、韓流ブームを逆手にとってこういう流れが出てくれば、日本社会におけるタブーはなくなっていくんじゃないだろうか。そこまで在日をひた隠しにしつつ、大半の在日スターはなんで日本国籍を取らないのかという疑問は本書を読んでも解消されなかった

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著者プロフィール

1956年、兵庫県生まれの在日韓国人3世。
1980年、同志社大学卒業。
1988年、同大学院商学研究科博士後期課程修了(商学博士)。
1990年9月より2022年3月まで大阪市立大学経済学部に勤務。
大阪市立大学大学院経済学研究科教授を経て、現在、大阪市立大学名誉教授。テレビ・ラジオコメンテーター。
著書に『韓国NIES化の苦悩』(同文舘出版)、『〈在日〉という生き方』『「在日コリアン」ってなんでんねん?』『僕たちのヒーローはみんな在日だった』『日本人と韓国人 「タテマエ」と「ホンネ」』『在日マネー戦争』(以上、講談社)、『越境する在日コリアン』(明石書店)、『朝鮮半島を見る眼』(藤原書店)、『20世紀東アジアのポリティカルエコノミー』(晃洋書房)などがある。

「2023年 『在日という病 生きづらさの当事者研究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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