神様 2011

著者 :
  • 講談社
3.61
  • (63)
  • (113)
  • (128)
  • (18)
  • (10)
本棚登録 : 927
レビュー : 154
  • Amazon.co.jp ・本 (50ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062172325

作品紹介・あらすじ

くまにさそわれて散歩に出る。「あのこと」以来、初めて-。1993年に書かれたデビュー作「神様」が、2011年の福島原発事故を受け、新たに生まれ変わった-。「群像」発表時より注目を集める話題の書。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 高橋源一郎『恋する原発』の「震災文学論」で紹介されていて興味を持ちました。川上弘美さんの小説はほとんど読んでいるつもりだったけど、なぜかこれは抜け落ちていたようで。

    「神様」は1993年に書かれた川上弘美のデビュー短編。しかし2011年に「あのこと」が起こり、リメイクされたのがこの「神様2011」。ハードカバーだけどとても小さなこの本には、この2作が両方収録されている。牧歌的な1993年の神様に比べ、2011年の神様はディストピア的だ。もはやそこに子供はいないし、くまが獲ってくれた魚は食べられない。

    余談ながら高橋源一郎が「震災文学論」で紹介していたのはこの「神様2011」と、石牟礼道子「苦海浄土」、宮崎駿「風の谷のナウシカ」で、震災文学論とはいえ、実はこの3作いずれも天災ではなく人災を扱っていることに今更気づく。苦海浄土は水俣病、ナウシカは核戦争後の地球、そして神様2011は、地震でも津波でもなく原発事故を。

    あとがきで作者が書かれている「静かな怒り」がひたひたと伝わってくる。そしてその怒りは「最終的には自分自身に向かってくる怒り」だということも。自分に何ができるのか、何をするべきか、改めて考えさせられます。

  •  2011年3月11日に東日本大震災が起こり、川上弘美は3月中にこの小説を書き、自ら出版社に持ち込んだ。掲載されたのは「群像」2011年6月号だから、5月初旬発売で原稿の締切はおよそ4月20日あたり。刊行された小説として福島の原発事故をとりあげた最も早いもののひとつだった。本書にはこの時に発表された「神様 2011」の前に「神様」というタイトルの短編がおさめられている。並置されていると言うのが正しい。ぼくは2012年になったくらいか、当時勤めていた会社の同僚女性に本書を、短いし読みやすいだろうなと考えて、貸した。神戸の出身で阪神淡路大震災を経験していて、東日本大震災のすぐあとに東京へ引っ越してきたひとだった。
     「神様」は川上のデビュー作だ。『神様』(中公文庫)のあとがきから引用する。
    〜” 表題作『神様』は、生まれて初めて活字になった小説である。
    「パスカル短篇文学新人賞」という、パソコン通信上で応募・選考を行う文学賞を受賞し、「GQ」という雑誌に掲載された。
     子供が小さくて日々あたふたしていた頃、ふと「書きたい、何か書きたい」と思い、二時間ほどで一気に書き上げた話だった。
     書いている最中も、子供らはみちみちと取りついてきて往生したし、言葉だって文章だってなかなかうまく出てこなかった。でも、書きながら「書くことって楽しいことであるよなあ」としみじみ思ったものだ。「めんどくさいけど、楽しいものだよなあ、ほんとにまあ」と思ったのだ。
     あのときの「ほんとにまあ」という感じを甦らせたくて、以来ずっと小説を書いているように思う。
     もしあのとき『神様』を書かなければ、今ごろは違う場所で違う生活をしいていたかもしれない。不思議なことである。
     やはりこれもなにかの「縁(えにし)」なのだろう。と、『神様』に登場する「くま」を真似て、わたしもつぶやいてみようか。
    (後略)”
    「神様」の書き出しは、
     
     くまにさそわれて散歩に出る。川原に行くのである。
    「神様 2011」の書き出しもまったく同じだ。川上はデビュー作を改変して発表した。お茶の水女子大学理学部生物学科を出てから田園調布雙葉高校の理科の先生もしていたひとは、東日本大震災の直後から「原子力」に関する勉強をはじめる。本書のあとがきから。
    〜” 1993年に、わたしはこの本におさめられた最初の短編「神様」を書きました。
     熊の神様、というものの出てくる話です。
     日本には古来たくさんの神様がいました。山の神様、海や川の神様、風や雨の神様などの、大きな自然をつかさどる神様たち。田んぼの神様、住む土地の神様、かまどや厠や井戸の神様などの、人の暮らしのまわりにいる神様たち。祟りをなす神様もいますし、動物の神様もいます。鬼もいれば、ナマハゲもダイダラボッチもキジムナーもいる。
     万物に神が宿るという信仰を、必ずしもわたしは心の底から信じているわけではないのですが、節電のため暖房を消して過した日々の明け方、窓越しにさす太陽の光があんまり暖かくて、思わず「ああ、これはほんとうに、おてんとうさまだ」と、感じ入ったりするほどには、日本古来の感覚はもっているわけです。
     震災以来のさまざまな事々を見聞きするにつけ思ったのは、「わたしは何も知らず、また、知ろうともしないで来てしまったのだな」ということでした。(中略)
     2011年の3月末に、わたしはあらためて、「神様 2011」を書きました。原子力利用にともなう危険を警告する、という大上段に構えた姿勢で書いたのでは、まったくありません。それよりむしろ、日常は続いてゆく、けれどその日常は何かのことで大きく変化してしまう可能性を持つものだ、という大きな驚きの気持ちをこめて書きました。静かな怒りが、あの原発事故以来、去りません。むろんこの怒りは、最終的には自分自身に向かってくる怒りです。今の日本をつくってきたのは、ほかならぬ自分でもあるのですから。”
     本書を貸した当時の会社の同僚だった女性は、すこしして、もう一度この本を貸して欲しいと言った。小ぶりで可愛らしい本なのだ。川上はデビュー作を書き換えて、もう一度原点から歩こうと考えたんじゃないかとぼくは思う。原子力開発にまつわる諸問題、あらゆる面からまだいっこも解決していないことを覚えていますか?

  • 神様 のほんわかした感じがすき。このくま、すき。

  • ふんわりとしていて涙を誘う、貴方と言われることを好む心優しきくまの世界が、「神様2011」では、変化していた。

    「食べないにしても、記念に形だけ」になってしまった魚の干物。
    この地域に住み続けることを決めた上でのくまとの抱擁。

    心の中に悲しみと、どこにぶつけたらいいのか分からない怒りが沸々と生まれる。
    一度起こってしまい、失われてしまった自然はもう元には戻らない。
    こうして二つの物語を読み比べることにより明らかになる差に衝撃を受けてしまった。

  • 「神様」は以前読んだときと同じく、不思議でぽかぽかしたお話で好きでした。
    「神様2011」と並べられることで、「あのこと」が起こって変わった日常と、それでもここで生きていくわたしのくまとのひとときが心に迫ってきます。
    2011年からは何年も経ちましたが、薄れさせてはならない思いです。
    あとがきも好きです。

  • 著者のデビュー作。
    くまと私が散歩するファンタジー。
    熊の神様が印象的。

    微笑ましくて、クスッと笑えるストーリー。
    気軽に何度でも読み返したくなる本。

    非日常体験よりも、
    日常でちょっと楽しかったことを重ねていく方が
    安心して幸せな気持ちでいられる。


    今回、新たに作品が加えられているのだが、
    (タイトル神様のあとに2011が追記されているように)
    原発事故後を時間軸に置かれている。

    同じ登場人物、同じ場所、同じシチュエーション。

    けれども日常そのものが変わってしまった。

    著者のあとがきが印象的。
    「日常は続いてゆく、
    けれどその日常は何かのことで大きく変化してしまう
    可能性をもつものだ。」

  • 短編。ファンタジー。
    ショート・ショートと言ってもいいくらい短い作品。
    クマと人間の交流。不思議。
    ここにも震災の影響が。

  • 有名な原作に加え、先の震災を踏まえリライトした2011版の計二作が収められた本。
    高校時代、現代文の問題集で原作に出会って以来、通しで読みたいなあと思いながら5、6年。ようやく本棚に並ぶ姿に惹かれて手に取ったわけだけど、完全に消化不良感。あの頃、2011版は世に出てなかったのかと思うと、不思議な気持ち。
    読み手の受け取り方も大きく変わるだろうに、原作を書きかえる。二作並べて本にする。この作品を肯定も否定もできないけど、その決断を実行した作者の思いがあるってことは心のどこかで覚えていたい。

  • 静かな怒りが伝わる

  • 1994年に発表された神様に続き、東日本大震災後に加筆修正された神様2011です。両方の作品が1冊に収められ、読み比べられます。タイトルの神様とは、熊の神様の恵がとあるが、この熊自身が神様なのではなかろうか。親しさと厳しさを持ち合わせた神様は、身近なところに存在する。一方では、日常に紛れ込んできた熊はまさに抗いようのない理不尽さの象徴なのではなかろうか。地震という理不尽な出来事、放射性物質という目に見えない恐怖が忍び寄る。それが熊のイメージに結びついているように感じる。

全154件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

川上 弘美(かわかみ・ひろみ)
1958年生まれ。96年「蛇を踏む」で芥川賞、99年『神様』でドゥマゴ文学賞と紫式部文学賞、2000年『溺レる』で伊藤整文学賞と女流文学賞、01年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、07年『真鶴』で芸術選奨、15年『水声』で読売文学賞を受賞。ほかの作品に『風花』『どこから行っても遠い町』『神様2011』『七夜物語』『なめらかで熱くて甘苦しくて』『水声』などがある。2016年本作で第44回泉鏡花文学賞を受賞した。


「2019年 『大きな鳥にさらわれないよう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川上弘美の作品

神様 2011を本棚に登録しているひと

ツイートする