作品紹介・あらすじ
老舗旅館の長男、中学校二年生の逸夫は、自分が"普通"で退屈なことを嘆いていた。同級生の敦子は両親が離婚、級友からいじめを受け、誰より"普通"を欲していた。文化祭をきっかけに、二人は言葉を交わすようになる。「タイムカプセルの手紙、いっしょに取り替えない?」敦子の頼みが、逸夫の世界を急に色付け始める。だが、少女には秘めた決意があった。逸夫の家族が抱える、湖に沈んだ秘密とは。大切な人たちの中で、少年には何ができるのか。
感想・レビュー・書評
絞り込み
すべて
評価★5
評価★4
評価★3
評価★2
評価★1
ここ何作かと同じく、悲しく切なく静かな物語だ。辛い運命を生きる登場人物達の姿に胸が痛くなる。初期の頃のようなあっと言わせる仕掛けはないが、深く引き込まれて読んだ。
本当に端正な文章で、よどみがない。直木賞作家にこういう言い方はなかろうが、うまいなあと思う。
どの作品からだったか、かすかではあるけれど明らかに救いのある結末が待っているようになって、ずいぶん読みやすくなった。わたしはこの路線が好きだ。だまされる快感のあるお話もまた読んでみたい気がするけれど。
タイトルから、殺人事件かと思い手にした作品。
違いました。道尾秀介作品は「カササギたちの四季」に次いで二冊目。
どちらもなんとなく、ほの悲しさがある。
どこがどうと言えないのですが、胸の奥で涙がじわりとする感じです。
いじめ問題とか将来のこととか、子供の背負うものって忘れていたけど、たくさんあるんですよね。
忘れていたこと、ポロポロと思いださせるようなジンワリとした作品でした。
いじめにあう子、いじめる子。
離婚や親子関係。
いじめる子はどうしてかわいいのか。
旅館の経営の難しさ。
年老いていくことの自然の流れ。
などなど。
人生の始まりから終わりまでの個々が描かれています。
かつて自分の住んでいた町がダムの底に沈んでしまったら。
嘘をついてきたいくばぁちゃんはホッとした気分だったに違いないけれど、そうでなければ寂しい気持ちになるんじゃないのかな。
いくばぁちゃんの幼い頃のつらい気持ちが、孫逸夫の同級生敦子の気持ちと共鳴したに違いない。そういうことは肌で感じるものなんだろう。
いくばぁちゃん、逸夫、敦子の3人でダムで行った儀式は意味があったと思う。この儀式のおかげでダムの底へつらい気持ちを葬り新しい気分でやり直すことができたのだから。
普通な少年、普通でありたかった少女と哀しい過去を持つ祖母の3人の心理描写が本当に丁寧に描かれていて読み応えがあった。終章で物語の伏線が見事に回収され、救いと希望のあるラストは読後感もいい。帯のコピーに嘘はない素敵な作品だった。
人生は悲しくて切ない。それでも しっかり生きている。
格好わるくても生きていく。
道尾秀介さんの作品を読むのは、本作が初めてでした。
各章の冒頭部分が現在の話で、その後の部分は過去の話で構成されていますが、現在の部分でミスリードされるようになっていて、予想と違う展開でした。
かといって、どんでん返しというよりは、なあんだという安心感のある展開でした。
再生の物語ではあるけど、これで良かったと思うのかどうかは、読者に委ねられている気がします。
逸夫がんばれ、がんばれ!ってずっと願いながら読み続けた。
人は人によって傷つけられるけど、
浮上するきっかけとなるのは、
やっぱり人との関わりなんだよなあ
って思う。
笑子さんや敦子が乗り越えることができたのは
もちろん本人の強さだろうけどね。
よかった。
巻末の著者紹介に「驚きに満ちた物語と磨き抜かれた文章で、読者の支持を集めている。」とある。
だが本作に関しては、さほどではないのであった。(私は、氏の著作を10冊ほど読んでいる。)
終盤での力強く鮮やかな〝どんでん返し〟は、本作には無かった。
道尾ミステリーとして、ではなく、文芸作品として読み始めるのがよろしい、と思う。
吉川逸夫は中3生。山間の渓流沿いの旅館「河音屋」の息子。級友の木内敦子と静かな交流が始まる。逸夫はやがて、敦子が烈しいいじめに耐えていることに気づく。
逸夫と敦子らが、12歳のときに校庭に埋めたタイムカプセル。そこに封じこめた手紙。敦子は、その手紙を掘り返そうと願うのだった。
読了しても、正直、敦子が手紙を差し替えようとした想いが、よくわからないままであった。
<以下、ネタばれ>
渓流の上流にあるダム湖には、湖底に小さな村が沈んでいる。逸夫の祖母いくは、その湖底に秘密を封じ込めていた。 湖底に沈めた秘密、そして、タイムカプセル。それらを重ねて描く、というのがねらいだったように思われる。だが、敦子の心模様の描き込み、その輪郭が曖昧な印象で、うまく落とせていないように感じた。
タイムカプセルとダムから身をなげる場面が印象的だった。
タイムカプセルはふつう未来の自分へ希望を込めて書くものだが敦子は死の意志を決めて手紙の内容を変えようとしていた。
ダムから身を投げることはあきらめの意を込めてすることだが逸夫達は過去をおいて未来への希望を託して人形をダムから投げた。
登場人物ひとりひとりが強い人物で勇気をもらえた。
水の中に沈んだ村
学校で、家で行き場をなくしてしまった
女子中学生
普通という事への葛藤
思いが重なっていく。隠されてた秘密。
うーん!!道尾さんの世界。面白い!
著者プロフィール
1975年生まれ。2004年『背の眼』で「ホラーサスペンス大賞特別賞」を受賞し、作家デビュー。同年刊行の『向日葵の咲かない夏』が100万部超えのベストセラーとなる。07年『シャドウ』で「本格ミステリー大賞」、09年『カラスの親指』で「日本推理作家協会賞」、10年『龍神の雨』で「大藪春彦賞」、同年『光媒の花』で「山本周五郎賞」を受賞する。11年『月と蟹』が、史上初の5連続候補を経ての「直木賞」を受賞した。その他著書に、『鬼の跫音』『球体の蛇』『スタフ』『サーモン・キャッチャー the Novel』『満月の泥枕』『風神の手』『N』『カエルの小指』『いけない』『きこえる』等がある。
道尾秀介の作品
この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。