- Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062173902
作品紹介・あらすじ
どこに、どんな放射性物質がまき散らされたのか。なぜETV特集取材班は詳細な測定ができたのか。なぜ政府は放射能汚染の実態を住民に伝えなかったのか。いま、すべてが明かされる。
感想・レビュー・書評
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(2012.04.30読了)(2012.04.21借入)
【東日本大震災関連・その78】
福島第一原発の事故に伴う周辺の放射能汚染状況を独自調査し、ETV特集として放映した番組の取材記録です。
調査する人、取材する人、車の運転をする人、皆さん放射能汚染地帯に入り、被曝することになるので、使命感と恐怖との葛藤があるようです。若い人は、影響が大きいので、参加させないようにしているようです。
原子力発電所の周辺すべてが汚染がひどい訳でなく、また、30キロ以上、60キロ以上離れているからと言って、放射能汚染がそれほどないというわけでもないようです。
原子力発電所からどの方向に風が吹いているのか、地形というか谷筋がどのようになっているかで、放射能が流れて行き方が変わるようです。
調査によると、福島第一原発の北西方向に放射能汚染が広がったことは、多くのメディアが伝えている通りです。この方向に原発から30キロ以上離れた飯舘村があります。さらに飯舘村よりは汚染度が下がるのですが、伊達市や福島市にまで汚染が広がっています。
同じ地域でも汚染度が高いところと低いところがあります。汚染度が高い地域をホットスポットと呼んでいます。
福島市の南の二本松市やさらに南西方向へと広がっているのには驚きました。他の本を読んでいて、福島市から取材記者を引き揚げさせたという記述があったので、その時には、福島市まで、汚染が及んではいないだろうに、用心しすぎだよ、とか思っていたのですが、そうではなかったので驚いています。
福島市周辺は、新幹線や東北の北方向への幹線道路も通っているので、用心深い人は、東北方面へ行く場合は、日本海側を通った方が無難かもしれません。
福島第一原発の幾つかが爆発を起こしたわけですが、その際に放出された放射能が風に乗ったり、雨に含まれたりして地上にもたらされたわけですが、時間とともに、汚染度合いが減ってゆきます。場合によっては、雨水に流されて、あるところは減り、あるところには集中してくるというところも出てきます。
アスファルト道路等は、雨に流されて放射能汚染度が低くなるようですが、雨どいや側溝にたまった泥は、汚染度が高くなってしまう、というようなことが起こります。
福島県内の放射能に汚染された地域は、人が住み続けられるようにするためには、除染を行わなければならないのですが、日本には除染の専門家はいないようですし、除染のために取り除いた土の処分をどうするのかという問題もあります。
除染作業に当たる人や除染実験のために汚染された地域に入らざるを得ない人が出てくるわけですが、この人たちの被曝量を少なくする方法も考えないといけないでしょう。
福島に関心を持っている方、原発の今後に関心を持っている方、皆さんにお勧めです。
読んでみてかなりショックを受けました。
【目次】
まえがき 増田秀樹
第一章 事故発生から四日、電撃取材が始まった 七沢潔
第二章 科学者のネットワークを組む 七沢潔
第三章 三○キロメートル圏内屋内退避ゾーン 取り残された人々と動物たち 大森淳郎
第四章 放射能汚染地図をつくる 七沢潔
第五章 飯舘村 大地を奪われた人々 石原大史
第六章 子どもたちが危ない 福島市・校内汚染と不安 梅原勇樹
第七章 原発事故は人々を「根こそぎ」にした 大森淳郎
第八章 科学者たちの執念 検出されたプルトニウム 渡辺考
第九章 人体への影響を測る 木村真三博士と二本松市の挑戦 山口智也
「あとがき」に代えて 七沢潔
●自分たちで放射能汚染地図を(9頁)
福島県いわき市の志田名地区は、事故後に高い放射線量が検出されたホットスポットのひとつだが、地区の人々は住居、路地、田畑、水路など隅々まで丁寧に放射線量の測定を重ね、世界一詳細ではないかと思われる放射能汚染地図を作り上げた。志田名の住民たちは故郷の里山が放射能でひどく汚染されてしまった現実から目を背けることなく、一刻も早く実態をつかもうと行動を起こした。
●今行って(20頁)
いま行って、すぐに土壌サンプリングをやらないと、立ち入り禁止になって入れなくなって、データが採れなくなりますよ。それに早く取らないと半減期が短いために消えてしまう放射性核種もあるんです。僕は東海村JCO臨界事故の時には行政手続きに一週間かかり、出遅れて失敗したんです。(木村真三さん)
●テクネチウム検出(30頁)
テクネチウム99mという半減期がわずか六時間の放射性核種も見つかった。これは医療検査に用いられる物質で、セシウムやヨウ素に比べて融点が2140度と高く、比重も11.5と重い。48キロメートル先へのこの物質の飛来は、すでに原発内で炉心の核燃料が溶けだしていることを示していた。
●勝手な行動は慎んで(46頁)
福島第一原発の一号機が水素爆発を起こした翌13日、労働安全衛生総合研究所から職員に対して一斉送信でメールが送られてきました。<行動は本省ならびに研究所の指示に従うこと。勝手な行動は慎んでください>という内容です。
●息子家族のところへ(84頁)
「子供のところに行ったってよ、せいぜい一週間だよ、歓迎されるのは。居づらくなって戻ってくるのがオチだろ」
●赤宇木(85頁)
やがて、赤宇木は全国紙に毎日その名が載ることになる。「各地の空間放射線量」という地図上の、他から突出して放射線量の高い場所として。私たちが、初めてその名を聞いた3月27日、赤宇木が極めて危険な放射能汚染地域であることを知る者はいなかった。すでにモニタリングカーの計測によって、その事実を把握していた文部科学省などの所轄官庁を除いてはだ。
●赤宇木(109頁)
二本松市の東和支所の二階に間借りしている浪江町役場を訪ねた。文部科学省のホームページに公表された空間放射線量及び積算線量のデータのコピーを示しながら、馬場有町長に話を聞いた。町長は、そのデータの存在を知っていた。3月20日ごろ、アドバイザー役の、東北電力の専門官から報告を受けたという。だが、町は、住民にその数値を伝えることはしなかった。
●減衰(122頁)
(4月21日)双葉町の町中は車中で毎時3マイクロシーベルトまで減衰していた。3月16日には40マイクロシーベルトはあった場所である。
●給食に地元の野菜を(180頁)
「少しでも放射能が入っていそうなものは子どもの口に入れたくない、という親御さんの気持ちも分かるんです。でもそれに従っていたのでは、給食作りに地元のものをずっと使えないということになって、給食から風評被害を撒き散らすことになるのではないか、と思いました。」
●なんでなの(195頁)
「何も悪いことをしたわけじゃないのに、何の落ち度があるわけでもないのに、なんで、財産をすべて失って、家を出ていかなければならないのか。本当に、なんでなんだろう。誰か答えて欲しい」
●叡智の結集(222頁)
非常事態であるにもかかわらず、一部の人々が重要なデータを抱え込んでしまい、多くの叡智を結集できなかった
「東電も保安院など政府関係者も自分たちで事故対処できないとわかったなら、その時点でデータを広く開示し、国内の専門家、外国の専門家を含め外部に広く叡智を求めるべきでしたが、それが全くなかったですね。日本の専門家すら集められませんでした」
●福島市内(238頁)
東京で毎時0.809マイクロシーベルトの放射線量が観測され大騒ぎになった3月15日。福島市内の放射線量が毎時24マイクロシーベルトに跳ね上がり、16日まで20前後の高い数字が続いたのだ。事故前のおよそ500倍だ。
●除染(264頁)
長崎大学の高辻研究室での測定で、セシウムの汚染は99%が地表から5センチメートルのところにあることがわかっている。
☆関連図書(既読)
「食卓にあがった死の灰」高木仁三郎・渡辺美紀子著、講談社現代新書、1990.02.20
「ぼくとチェルノブイリのこどもたちの5年間」菅谷昭著、ポプラ社、2001.05.
「原発と日本の未来」吉岡斉著、岩波ブックレット、2011.02.08
「緊急解説!福島第一原発事故と放射線」水野倫之・山崎淑行・藤原淳登著、NHK出版新書、2011.06.10
「津波と原発」佐野眞一著、講談社、2011.06.18
「前へ!-東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録-」麻生幾著、新潮社、2011.08.10
「福島の原発事故をめぐって」山本義隆著、みすず書房、2011.08.25
「災害論-安全性工学への疑問-」加藤尚武著、世界思想社、2011.11.10
「南相馬10日間の救命医療」太田圭祐著、時事通信出版局、2011.12.01
「市民の力で東北復興」ボランティア山形、ほんの木、2012.01.15
「官邸から見た原発事故の真実」田坂広志著、光文社新書、2012.01.20
「見捨てられた命を救え!」星広志著、社会批評社、2012.02.05
「ふたたびの春に」和合亮一著、祥伝社、2012.03.10
「飯舘村は負けない」千葉悦子・松野光伸著、岩波新書、2012.03.22
「これから100年放射能と付き合うために」菅谷昭著、亜紀書房、2012.03.30
(2012年5月3日・記)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ノンフィクション
原子力発電 -
ETV特集『ネットワークでつくる放射能汚染地図』の取材記であり、震災直後からの取材の舞台裏が描かれている。NHKについてはいろいろ言われているが、これを読むと本物のジャーナリズムがまだNHKの中に確かに存在していると感じられた。原発事故の現実についても考えさせられた。
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震災の年に放送されたNHK ETV特集の「ネットワークでつくる放射能汚染地図」は衝撃的な内容だった。
この番組が、政府・社会に与えた影響は大きかったと再認識。
その番組を担当したメンバーの苦闘の記録、本来の使命に忠実な科学者とジャーナリストの物語。
何人が、今のNHKに残っているのだろうか? -
登場人物の木村真三氏は二本松で独協医科大学の国際疫学研究室の室長に就任。隣にはホールボディーカウンターもある。親戚が郡山でNPO法人立ち上げか。
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番組を見たかった。
番組を見ていないと、「本編を知らずにメイキングをみた」状態になるかも。
報道関係の方々は、この本だけでどれだけ大変なことなのかわかるのでしょうが、私には経験と想像力が足りませんでした。
でも、これから何年も何十年も放射線の地道な計測が必要な国になってしまったのは、痛いほどよくわかりました。
原子力という御せないものを相手にするときには、英知を集めた科学をもって判断するべきだと強く思いました。
政治や経済をベースに原子力を考えてはいけない。これが教訓。 -
報道された内容もだが、さらに番組制作やオンエアにいたるまでの舞台裏なども興味深かった。番組に携わった人々への賞賛と感謝。そして現状のやるせなさ、悔しさ、切なさ、放射能の怖さ。