日御子

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (546ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062176774

作品紹介・あらすじ

代々、使譯(通訳)を務める安住一族の子として生まれた針(しん)は、病床の祖父から、那国が漢に使者を遣わして「金印」を授かったときの話を聞く。それは、「倭」の国が歴史に初めてその名を刻んだ出来事。祖父が聞かせてくれる物語に、針は胸震わせ遠い過去に思いを馳せた。それから十数年が経ち、再び漢へ遣いを出すことになった。こんどは針の番だった。伊都国の使譯として正式に任命されたのだ。5隻の船にたくさんの生口(奴隷)を乗せ、漢の都・洛陽へ。
──その後「倭国大乱」「邪馬台国」そして「東遷」へと、代々の使譯たちの目を通じて語り伝えられていく日本の歴史。眼前に広がる古代歴史ロマンが、日本人の心を捉えて放さない。

感想・レビュー・書評

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  • 使譯(しえき=通訳)の視点から見た1-3世紀の北九州の古代史である。作者はよく勉強していて、今まで読んだ古代小説の中では最も詳しく自然な古代社会の再現を行っていて、なおかつ、倭国と中国、朝鮮半島との交流を学説と想像を織り交ぜながらきちんと再現していた。私の夢である古代小説のそのまま「ベース」となり得る小説だったと言っていい。多くの読者にとっては、今まで読んだこともない生き生きとした古代が目の前に広がったのではないだろうか。

    帚木蓬生の「創造」部分で特に秀逸だなあと思ったのは、以下の通り。
    ・使譯(あずみ族)の家系に伝わる三つの教え。人を裏切らない。人を恨まず、戦いを挑まない。そして、良い習慣は才能を超える。これは、そのままこの作品のテーマにもなっている。特に二番目の家訓の理由として「人が人をいつくしみ、愛している間は、天が導いてくれる。しかしその人間が邪悪な心を持ったとたん、天の眼にはその人間の姿が見えなくなるのだ。つまり天の恩恵が受けられなくなり、その人間は山をうろつく獣と同じになってしまうのだ」と言っている。実はこの教えが巫女頭になった灰のひ孫の炎女から弥摩大国王女日御子に受け継がられ、この物語全体の基調になって行く。
    ・更には、炎女から「骨休めは不必要、仕事を変化させる一瞬に、休みがある」という教えが付け加えられる。これはおそらく帚木蓬生の信条なのだろう。しかし、その弛まず努力する生活があずみ一族を全ての国で生きながえさせる力になるのだ。
    ・一族は「木火土金水」の順番で名前を付ける、という仕組みも面白い。灰(かい)→針(しん)→炎女(えんめ)→在(ざい)→銘(めい)→治(じ)と変わって行く(途中飛んでいるのは、その間特別活躍する描写がなかったから)。そうする事で弥生時代でも堂々と漢字を使う事が出来る。
    ・生口とは何だったのか。深めている。
    ・製鉄の秘密、鉄が国をどのように変えるのか。等々、灰や針や在に中国まで朝貢の旅をさせる事で、我々に「カルチャーショック」を追体験させようとしてくれている。

    一方で、せっかくの長編なのに、国々の和平への道のりや中国や朝鮮諸国の倭国の国々への扱いがあまりにも「良心的」過ぎるという弱点もあるように感じられた。一言で言えば、「リアルではない」のである。また、良く知られていない弥生時代を説明するあまり、文がくどくなっていた気がする。

    また、もっと掘り下げるべきところを掘り下げていない。例えばこんな会話がある。
    「ある生口が、裏切られても、裏切ってはいけませんかと、訊いた。いい質問だった。銘、どう思う。裏切られて裏切り返すとどうなるだろう。この世の中がたちまち裏切りで満ちてしまう。獣にしても虫にしても、魚にしても、裏切る話は聞かない。人の世だけ起きるのだとすれば、これ以上の情けなさはない。獣以下、虫以下、魚以下の世の中になってしまう。そうならないのは、世に、裏切られても裏切らない人間がいるからだ。そうした人間は大河が溢れるのを防ぐ土手に似ている。土手があってこそ、流れは正しく大地を潤し、海に注ぐ。」(在が銘に語った言葉)

    これを言葉だけで終わらさずに、ドキドキする様なドラマにして欲しかった。そうすれば、現代の課題に答える見事な小説になっただろう。
    2012年9月25日読了

  • 日御子は勿論卑弥呼のこと。荒唐無稽な物語かと思って読んだが、後で調べたら、後漢書、三国志魏志倭人伝の2000文字の内容をできるだけ忠実に再現し、それに作家独自の色づけをして弥生後期300年の歴史絵巻を繰り広げた物語だった。

    魏志倭人伝以前の中国の文献に点のように登場する倭国の記述を繋げ、魏志倭人伝への流れを媒介する一族として、漢語、韓語の通訳を行う一族が登場し、すべての点が線で繋がる。

    邪馬台国は九州説が採られているが、卑弥呼の平和を愛し、戦いは即ち天から見えなくなることだという思想には深く共感できた。鬼道で政治を行った訳だが、その違和感はあまり感じなかった。

    それにしても、当時の倭人が漢の都洛陽に行くのに、如何に多くの労苦を要したか、気の遠くなるような気持ちになった。

    物語には諸葛孔明、司馬懿の名前も登場して、この歴史絵巻を盛りあげていた。

  • 誰も知らない、謎に満ちた遠い昔の日本。
    しかし、まるで自分がその場面にいあわせたかと錯覚してしまいそうなほどの臨場感です。

    昔の日本人にとっては、中国で目にするものの一つ一つが驚嘆に値するものばかり。
    それらを前にした時の感動、そして使譯としての務めを果たす時の緊張感……

    何世代にも渡って一族を追いかけストーリーは進みますが、変わるもの、変わらないものをじっくり味わえます。

    読み終わったあと、誰しもが深い感動に包まれるでしょう。

    邪馬台国を教科書の中の存在だけにするのはあまりにももったいないと思い知りました。

  • 読み終わっても、その子供、孫・・・と、知られていない歴史が続いている。ずっとその物語を聞いていたいという気持ちになった。邪馬台国が舞台になるのは後半から。しかし、主人公はあくまでも<あずみ>の一族。

  •  邪馬台国が九州にあったという設定で描かれた古代日本史小説。
     代々、使譯(通訳)を務める安住一族を通して描かれている。
     彼らは代々の王に使え、漢(中国)に朝貢するという重責を担う。
     ただ、辺境の地、日本には大したものは無い。
     そんな倭国(日本)が誇れる朝貢は生口(奴隷)であった。
     王たちは使譯(通訳)を通じて、生口(奴隷)たちに漢語を覚えるよう指導させる。
     だが、人のあるところ、争いもある…。

     基本的に、悪人はメインにすえられていない。
     あくまでも勤勉で平和を願う人々ばかりである。
     著者の理想の「日本人像」だと思う。
     
     当時の圧倒的文化を誇る漢の首都、「洛陽」の描写も感動的だが、川が流れ、田畑に風がそよぎ、稲穂が垂れる、倭国の情景描写が素晴らしかった。
     当時の風俗(文身(刺青のこと。作中では出身地を示すものとしている))、食事が生き生きと描かれている。


     ところで、だいぶ以前に仕事関係でこの著者の講演を聞いたことがある。
     講演の内容は「パチンコ依存症の人々」。
     パンチの効いた話(何千万の借金をしても、まだやめられない、失職、家族離散など)を思い入れたっぷりに語るその様子に圧倒されたことを覚えている。
     なんか、若干不器用そうなで思い込みの激しそうな人のよさそうなおっちゃんだったことが記憶に残っている。

  • 邪馬台国付近の時代、地理の物語を、通訳を勤める家系を主役に語る。さすが筆者による物語で、現代に通じる人間味と歴史の重みが描かれた壮大な作品で、読み応えある!

  • 好きな著作が有名だがあまり小説化されていないと思う「卑弥呼」を題材にした小説を書いたと知りワクワクしてページをめくる。うん、楽しい。

    日御子が生まれる前、福岡志賀半島の金印から話は始まる。漢字を読み書きできる「使節」が主人公。漢の国に行く使節の仕事を代々受け継いでいる一家が、3つの教えを守り、日御子誕生前、日御子が成長する様、没後を身近な立場の使節一族の目から物語は紡がれる。

    三国志との繋がりも書かれており、歴史のイメージが広がる楽しい一冊だった。

  • 分厚い本に少し怯みましたが、面白かったです。
    卑弥呼のお話だと思っていましたが、この頃の通訳であった(しえきが出ないスマホ…)あずみの一族が主に描かれていました。
    卑弥呼である、日御子の神性にも惹き付けられます。
    あずみの教え、「人を裏切らない。人を恨まず、戦いを挑まない。良い習慣は才能を超える。」は心に留めておきたいです。
    帚木さんは、邪馬台国は九州説なのですね。福岡在住なので、各国の位置関係が把握しやすく興味深く読みました。
    帚木さんの作品は初めて読みましたが、他の作品も読みたいです。

  • 図書館でみかけ、気になりつつも
    540ページとういう分厚さに手にとってはまたの機会にと
    後送りしていた作品です。やっと読む気になれました。

    タイトルは「日御子」。
    どうしても、邪馬台国の卑弥呼を連想します。
    実際この作品も偉大なる女帝「日御子」が登場するのですが、
    私が思っていたストーリーとはちょっと違っていました。

    はるか昔、2~3世紀の倭国では、
    国の平和のために海を渡り、隣の大陸の漢へ朝貢をだしていました。
    そして倭国には、
    代々使譯(通訳)として朝貢にかかわって来た一族がいました。
    志賀島に埋められた金印にまつわる自分の半生を孫・針に語る
    使譯の灰の話から物語は始まります。
    漢へ使譯としてわたり、無事に役目をおえて
    自分の後継者として、孫の針に
    使譯としての心づもりと教訓を説いて聞かせました。
    そして、針も成人して使譯となり、
    その心意気は、娘の炎女に語り継がれます。
    炎女は宮廷にあがり、仕えた人こそ、「日御子」でした。
    炎女が父・針から受けた平和の教訓は、
    針の祖父・灰が自ら悟ったものであり、
    炎女はそれをそのまま、女帝「日御子」に教えます。
    4世代にわたって受け継がれてきた平和への教えが
    やがてばらばらになっていた小国を
    一つにまとめるきっかけとなったのです。

    このストーリー、ざっと読むとわかるのですが、
    主人公はあくまで一般市民の使譯(通訳)一族です。
    女帝「日御子」が主人公のように思っていましたので
    そこでまず驚きました。

    国をまとめるという大仕事、
    女帝の力だけでは出来ないのですね。
    代々語り継がれ、受け継がれてきた教えがあってこそ、
    それをもとに民を統治する政策の根源ができ
    住みやすい、平和な国ができるのです。

    少々、間延びした部分もありますが、
    4代にわたる国造りの物語、圧巻でした。

  • 3.8。締めがどこになるのか掴めんと思ってたら、なんつートコで終わるんじゃ…(せめて後記でいいからその後の経過の概略がほしかっただよ)

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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