森の家

著者 :
  • 講談社
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感想 : 62
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062177061

感想・レビュー・書評

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  • やっと読める。サイン本を見つけてからどれくらい経ったのか。苦手なジャンルの本に手こずって、この本を開くのにかなりの時間がかかってしまった。千早茜さんは大好きな作家さんで、『魚神』は単行本と文庫本の大人買い。そして今作。待ちに待ったというところ。

    8頁目
    《起きているのは私だけ、今はたったひとり。そう思うと、夜がほんの少し膨らんだ気がした。》
    好きな作家さんは、文章を読むだけでうっとりしてしまう。声に出して何度も読み返したくなる。こんな幸せな時間を与えてくれることに感謝しないと。

    14頁目
    《蝋燭の火はあたたかく見えても触れられない。強く吹けば消えてしまう。そんなあやうさが扉を縁取る灯に滲んでいた。》
    この一文。とある人物への思いと暗く静かな場景を美しく想像できる。綴じて栞にしたいような文章。

    22頁目
    《けれど、私はあたたかすぎるより少し冷たいくらいがいい。間に風が通るくらいの距離が居心地好い。》
    いっときなら本当に近しい関係も気持ちいいけれど、長い時間を重ねると、少しの隙間が必要になってくる。

    36頁目
    《失ったと言えるのは一度でも得ることができたものだけだ。本当は何も与えられてはいなかったのかもしれない。》
    傷ついたり落ち込んだりすることは簡単だ。でも、冷静になって考えてみると、そもそも手に入れてさえいなかったのかもしれない。

    41頁目
    《人が一人消えたって世界はなくならない。当たり前のことだ。》
    自分がいなくなったらどれだけの人が泣いてくれるか、なんて考えていた高校生の頃。そんなことすら頭に浮かばなくなった今は、果たして幸せなのだろうか。

    86頁目
    《葬式ってさあ、逃げられないじゃない。内心、みんな思ってんだよ、めんどくさいってさ。》
    不謹慎だから、不道徳だから言えない。でもきっと思ってる。悲しみなんて独りで抱え込むものだ。

    102頁目
    《最初から期待というものがなければ、人はある程度は求めずに生きられるものなのだ。人を打ち砕くのは現実そのものではなく、現実と期待との落差なのだと思う。》
    自分の考えがそのまま文章化されていて驚いた。円滑な日常には期待値の調整が必要不可欠だ。

    120頁目
    《私、着ぐるみとか怖いの。中でどんな顔してるかわからないじゃない。》
    表情の固まったものが怖い。その裏の顔が恐ろしい。表面がにこやかであるほど、得体の知れなさが増していく。

    145頁目
    《「笑った顔しか覚えてないんだ。親ってそんな偏ったものじゃないだろ。泣いたり怒ったりするものなんじゃないの」》
    親も自分と同じ人間で、子供が大きくなっただけなんだと思う瞬間がある。これも成長の証のひとつ。

    217頁目
    《異物を植えつけられ、歪にふくれあがった身体はひどく生々しかった。人体が人間性を失って果実とか虫とか、もしくは単なる容れ物になってしまった感じがした。》
    妊婦という清らかさの象徴のような存在に対してのこの描写。静かに禁忌を犯す感じが堪らない。

    読了
    三者三様、それぞれの視点で各章が描かれる。森と湖のイメージが全体に漂っていて、その柔らかな雰囲気の中、言葉のひとつひとつがすとんと心に落ちてきた。静謐な舞台の上にふと湧き上がる辛辣な感情。歪んだ優しさと不器用な関係性に愛おしさを感じた。

  • 分かりにくい話しだった。面白ろくない。

  • 歪に寄り添って暮らしていた三人が、一度崩壊し、そして、再生していく話。千早茜独特の退廃的な感じは相変わらずだけど、よりリアリティがあり、新しい段階に踏み出しつつあるのかなあ、と思った。

  •   
    寂しさを抱えた3人の女、男、少年が家族として生きる話。3人のそれぞれの視点で物語が書かれているので3部構成。短い文がつながっていき読みやすい。まりもとみりは、まだわかる。けれども佐藤さんは、ずいぶん困った人だと思った。傷ついた自分をいつまでも持て余して逃げ回る男なのか?こんな男だけは、御免こうむりたいと思う。
     

  • 3部に分かれている。みりさん視点、まりも君視点、佐藤さん視点。家族について、血のつながりの無い3人の視点から書かれている。

    文章が、かなかり気に入ったけれど、佐藤さんが吐き気がするほどムカつくし嫌いなので、読んでて楽しくは無かった。

  • 木々に囲まれた古い家に住まう三人。自堕落な三十過ぎの女性、父親との距離に惑う少年、女性の愛人であり少年の父でありながら彼らから逃げた中年の男。三者三様に、憎むわけではない近しい人物との距離に戸惑いながら生きている。男が家を出たことをきっかけに、女性と少年は自分のうちに眠っていた、育っていた気持ちに気づき一歩を踏み出す。男は過去を振り返り囚われて沈みつつある、が。鬱蒼と茂った森にいるような不安定感を持たせた三人の人間模様は、どこかやはり薄暗くどんよりとしているけれど、それでも光を見つけようと進みだす一歩への気持ちがうつくしい。彼らに光差す未来が来ることを願います。そして全般的にたゆたうようなあたたかなエロティックさがあって、それは作者の持ち味だなあと感じたりしたのでした。こういう、じわりと匂いたつような色気のある文章は、好みです。

  • 風変わりな母親を早くに亡くし、自分の父親かどうか定かではない穏やかな男性「聡平さん」を父代わりとして育ってきた少年まりもと、やさしいが捉えどころのない中年男性の聡平、その聡平と干渉しあわない不思議な恋人関係を築いている美里、三人は森のような木々に囲まれた古びた一軒家で一緒に暮らしている。
    それぞれ、家族との間に「普通じゃない」確執をもち、そもそも何が普通なのかもわからず、何かしらの欠落あるいはを過剰さを抱えている人間たちが、不可侵でいた互いの領分に踏み込みその関係性を模索する物語だ。
    美里、まりも、聡平の順にそれぞれの視点で物語りは語られる。
    現代の物語でありながら、生活観に乏しく、情緒的で、どこかファンタジックな印象の物語だ。

  • 初千早作品。
    読んでると微かに音が聞こえる不思議な感覚。
    人との距離の感じ、心の危うさが手に取るようで怖い反面、ちゃんと吐かなきゃ誰にも伝わらないと、戒めを受ける。
    北見隆氏の装画でなければ手に取らなかったかもしれない。出会えてよかった。

  • 「esora」に掲載された3部の単行本化。
    「水の音」では、みさとが語る。
    けっこう年上の恋人佐藤さんの家に転がりこんで1年以上になるが、昔父親が家を出た時「あんたを産まなけりゃよかった」と言った母を憎み続け、家族には懐疑的。
    その佐藤さんが何も言わずに突然家を出て行ったため、残された大学生のまりも君と途方に暮れる。

    「パレード」では、まりも君が語る。
    6才の時「まりものお父さんは佐藤さん」と言っていたという母が死んで、「まりもが成人するまで」という約束で佐藤さんが一緒に住むようになるが、距離をおいて聡平さんと呼ぶ。
    彼は約束を果たして出て行ったことを受け入れるが、みさとはそんなまりもをおかしいと批判する。
    恋人とのトラブルもあって、佐藤さんを含めて自分たち3人は人との距離の取り方が下手という同じ欠陥を抱えていることに気づく。

    「あお」では、佐藤さんが語る。
    6才で父がいなくなり、親戚だったまりもの母の家によく行って面倒をみてもらった。
    まりもの母は判断力が欠けていてふわふわしていて家に閉じ籠っていて、葬儀で帰郷した時一度だけ抱いて、妊娠を知らされたが会いに行かなかった。
    それにずっと罪悪感を持ち続けていたことが最後にわかるが、まりも君を育てて責任を果たし、仕事もやめてあてもなく旅に出、学生の時に来たことのある山の湖にやって来るのだが。。。

  • 血の繋がりがなくても、きっと家族として繋がっていけると思える話。
    向かい合う前に壊してしまえばいいと思ってしまう聡平さん。
    大人びていて達観しているようで誰かと繋がりたいとも思っているまりもくん。
    自分の距離感を守って、自分を守っていた美里。
    3人はそれぞれの寂しさを共有できたとき「家族」になれると思う。
    3人の中にはあまり恋愛のような愛情は感じられず、
    どちらかというとふんわりと温かい、そして歪んだ家族愛を感じる。
    読んでるときはまりも君が好きだったけど、
    改めて考え直すと聡平さんが好きだと思った。

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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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