泡をたたき割る人魚は

著者 :
  • 講談社
3.13
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本棚登録 : 180
感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (138ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062177719

作品紹介・あらすじ

21歳の現役女子大生、鮮烈なるデビュー作。恋はしない。美しい魚になるために。みずみずしい感性で描く新時代の人魚姫物語。第55回群像新人文学賞優秀作。

感想・レビュー・書評

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  • 薫が人魚に変わっていく様が執拗な痛みを感じさせる描写で良かったです。
    誰のものにもなりたくないから魚になることを望んだのに、完全に魚になってしまうと誰かの所有物になる。自由と恐怖は同時にやってきたけど、そうなんだと気付いたときにはもう戻れないのは怖いな。
    女性は気持ちだけを欲しがり、男性は現実を欲しがる島で。

    初めて読んだ作家さんなのでこの1冊だけではわからないけど、嫌いではない空気でした。

  • 水槽のなかには呑まれ溢れて自分をなくした女がいる。自由のために脚をすてた人間が罰をうけて閉じこめられている。
    月が太陽に、水が火に焦がれるように、反対の物に吸い寄せられる。欠けてゆくものは完全な円になりたい。陸から海にもどりたい。けれども、そこはほんとうに楽園か。感情や関係性に名前を与えると、お互いを縛り合うことになる。所有されるのを拒む女は境目をたゆたい、越えようとした。
    そんなことうまくいくわけがない。境目とは裂け目のことだから。落ちた深淵は孤独という地獄。引き裂かれてすべてを失う前に、一つを選ばなければ。

  • 小さい頃から魚になりたいと思っていた薫。

    島にある家にはそれぞれ泉があり、その水は地下で管のように繋がっていた。

    男たちと話すのは楽しくて、だけど恋人という関係に縛られるのは避けたいと思っていた。

    願いをかなえてくれるおばあさんに、ついに魚にしてもらい人魚となった薫は、地下を流れる水脈を泳いで、各家にある泉から顔を出しては人間たちを観察していた。

    金持ちの男の人の家に住み着くようになり、愛のない結婚をして、恋はしなかったものの、島に住み着くワニによって完全な魚となった薫。

    自由の身となったのに、瀬戸くんの家の金魚鉢に入れられ、彼をずっと見ていることは出来ても、話すことも体を重ねることもできなくなった。

    独特な、世界観。
    人との距離感って難しいのかも。

  • 豊かな水源を持ち庭に自分の泉を持つ島で暮らす女性。数人の男の人とも親しくしていて、楽しかったりドキドキしたりするけれど、恋人にはなりたくない。ずっと魚になりたいと思っている・・・う~ん、分からない。
    人魚はあれか、曖昧な象徴と言うか、絶対に結ばれることはないけれど交流は持ちたいというか?
    じゃあ泡は?なんで割るの?
    別に抽象的な話が嫌いなわけじゃないけれど、意図するところがあるんだろうなと思いつつも、それが分からないというのはもやもやが残って苦手。
    まず薫の心情が「あー何か分かる」と言う風に全くならない。複雑な女心を解しない私には合わない話だった。

  • 世界観にどっぷりと浸かって楽しめた。ラストに向けての収束も素晴らしい。色々考えさせられたが、それに対する答えもそれとなく提示されていて心地よい読後感。好きだなー。

  • 第55回群像新人文学賞受賞作品。

    比喩表現のオンパレードで、特に最初は目がすべって読み進めるのに苦労した。非常に女性的な比喩を多用する、女性的な作品。

    人魚の詳細な描写に関しては感服した。リアルなんだけれども、美しいイメージで包まれている描写だった。
    人と魚の境目が曖昧で、その曖昧さがいい、と。これはこの作品を貫くテーマであるようだ。恋人? 友達? おにいちゃん? どうして関係をはっきりさせたがるのか、と。ただ好き、ただ大事、そんな関係もあってもいいじゃない。
    主人公のこの主張はなんとなくわかるような気もする。決められた「言葉」にはめこんだ瞬間、その関係の重要な部分を取りこぼしてしまう気がする、そんな感覚なのだろう。鋳型からはみ出る部分が重要なのに。

    終盤はマジックリアリズム的で私の好きな展開だった。薫が泉から顔を出した時の瀬戸君の反応、村井君の反応、山越君の反応、全部好きだ。夢の中にいるみたいな場面。
    薫が人魚姫になるシーンは、その美しさが目に浮かんでどきどきした。
    ラスト、自分の投げ込んだ王冠が生み出した汚い水に放り込まれたという終わりも想像力をかきたてられる。彼女が鬱屈したものを切り離すように捨てていった部分、そこに囲まれて生きるのを余儀なくされた薫は何を思うのだろう。

    物足りないな、と思うのは薫がなぜ魚になりたがったのかの背景が描かれていないこと。別に明確な理由は求めていないけれど、想像のとっかかりになるようなエピソードくらいあってもよかったかなあ、と。あと、美咲についてもうちょっと掘り下げてほしかった。

    こうしてこの作品の感想を書いていると、けっこういい小説だったのかなと思うのだけれど、とにかく文章が、比喩表現が、私には合わない。そのせいで純粋に面白いと思えず☆3の評価。

  • その島は、右半分は観光や漁業で栄え、左半分は沼地が広がり寂れていた。薫は左半分に住み、栄養飲料の配達をしている。絵描きの瀬戸や魚屋の村井と仲がよい。ある日、願いを叶えてくれるという老女のもとへ行き、「魚になりたい」と告げる。老女は薫の脚と、配達に使っていた原チャリと引き換えに、薫を人魚にしてくれた。うれしくて泳ぎまわる薫。海にもぐって島の右半分に顔を出した薫に、新しい出逢いが待っていた。
    「Amazon内容紹介」より

    この内容紹介を書いた方はこの本をちゃんと読んだのだろうか,と疑問に思うほど明るい書き方をしているけど,はっきり言ってこんな単純な話ではない.
    自分の中でなにかが欠落している,という感覚を常に持ち続ける人の話.独特の文体.

  • ワニのような形の島が舞台.右半分は観光や漁業で栄え、左半分は沼地が広がっていた.主人公の薫は左半分に住み、島中をピタニィの配達をしている.絵描きの瀬戸や魚屋の村井と恋愛と友だちの間の関係をつむぐ毎日.ある日、願いを叶えてくれるという今川焼き屋の老女のもとへ行き、「魚になりたい」ことを告げる。老女は薫の脚と、配達に使っていた原チャリと引き換えに、薫を人魚にした.

    不思議な世界観.比喩の仕方が独特.
    海と砂浜の境目、上半身と下半身の境目、恋人と友人の境目、人と魚の境目、、
    さまざまなところに境目があるけれど、それはもともとはっきりしているものなのか、はっきりさせられるものなのか、限りなく同じものなのか.
    薫は泡をたたき割る.恋を望みながらも恋を嫌悪しているのかなぁ、と思った.最後にはワニによって上と下が別々になって魚になってしまう.外界は境界を許容しない.なぜ境目ではダメなのか、と訴える声が聞こえる気がする.

  • 琉球ガラスのコップのような印象を抱く作品だった。
    薄く透明で、沈むほど濃く、境目は曖昧に蕩け、屈折した光も美しい。
    男と女。人と魚。恋人と友人。島と海と泉。二人の男。甘えと拒絶。
    全ての境目でいる事を望む主人公が、ゆらゆらしすぎてあまり好きになれなかったので合わなかった。
    最後の最後に境目でなくなってしまったのが哀れだと思う。

  • これはおとぎ話だ。人間が、人魚になる。逆人魚姫。装丁やタイトルからYA向け作品なのかと思いきや群像文学賞出身なので、純文学畑の作品なのですよね。好きな作家に村田沙耶香をあげているあたり「あぁ、わかるわ」という感じ。ろうそくと人魚っていうと小川未明の『赤いろうそくと人魚』を思い出す。ただ読んだのが20年ほど前だから内容は覚えていない(笑)そして多分この作品にもその影響はない。2012/709

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著者プロフィール

1990年、北海道生まれ。明治大学文学部卒業。大学在学中の2012年、「泡をたたき割る人魚は」が第55回群像新人文学賞優秀作に選ばれる。著書に『泡をたたき割る人魚は』(講談社)。

「2022年 『カプチーノ・コースト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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