愛の夢とか

著者 :
  • 講談社
3.57
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本棚登録 : 1131
感想 : 142
  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062177993

作品紹介・あらすじ

『ヘヴン』『すべて真夜中の恋人たち』と一作ごとに新境地を開拓する川上未映子の多彩にきらめく魅力が一冊になった初・短編小説集!
・「アイスクリーム熱」 いつも同じアイスクリームを買いに来る彼に想いを募らせるわたしは・・・
・「愛の夢とか」 ピアノの音に誘われて始まった、わたしと隣家の主婦との不思議な交流の行方は・・・
・「日曜日はどこへ」 14年前に恋人と交わした約束の場所へ、ひとり出向いたわたしは・・・
・「お花畑自身」 わたしが丹精して育てた愛しい花畑の庭が、あの女のものになるなんて・・・
・「十三月怪談」 愛し合う夫婦の妻が病死した後、魂がみつめる夫の「その後」の風景・・・
ほか、女と男、女と女の関係の出会いと別れ、日常の裂け目を鮮やかに描き、こころ揺さぶる万華鏡のような7ストーリーズ。

感想・レビュー・書評

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  • 詩人ならではのならではの攻撃的な言語感覚、そして作家縛り抜きで勝負できるルックス故に色眼鏡で見られることが多く評価がはっきり分かれる川上未映子。
    だから無理に勧めることはしないが少しでも彼女の感性に興味があるのなら入門として読んでみて損はないダイジェスト版。
    詩的要素たっぷりの「いちご畑〜」から耽美派純文学テイストの「愛の夢〜」「お花畑〜」どれもまた違った味わいが出て良いのだが特に良いのは今後の作品の芯になっていくだろうと思われる哲学的な趣きの「十三月怪談」 …大切な人を想って涙腺破壊必至のせつなくも愛おしい佳作

  • ヘヴンは震えるくらい面白くてすごかったけれども、これも震えるくらい面白くてすごい。ほんとうにすごい。こころの震えが手に取るように分かって、わたしのこころも震える。とんでもなく深くてやわらかいところまで響くような、決して偽物ではない。どこまで行くの、と聞きたくなるような。自分がいて他者がいて、自分の欲求があってどうしようもなさがあって、苦しさがあって、生きるのってほんとうに難しい。やわらかくてあたたかいところを守るような小説にわたしは弱い。しかしその良さ、その素晴らしさを言葉にしようとしても、具体的にここがいいとかあれがいいとかそういう風には言えなくて、ああなんて情けないと思うのだけれど、それすらも肯定されるようなぬくぬくと優しさにつつまれるようなそんな。

  • 3月10日に読み始め、3月11日に読了。
    なぜわざわざ日付を書いたかというと
    確かこれは去年末に買って3ヶ月ほどの積読になっていた小説なのだけど、内容は知らなかったのに本当に偶然、3.11の震災にも少し関連する短編がいくつか収録されていたから。
    こういうことはたまにある。
    人でも物でも表現でも、出逢うタイミングには不思議な縁がある。

    終始浅い夢を見ているような短編集で、カポーティの「夜の樹」を少し思い出した。
    物事や現象というよりも、主人公の感情の描写に引き込まれるような感じ。
    少し前によしもとばななさんの「スウィート・ヒアアフター」を読んだとき、もしも愛する夫か恋人がいる状態で自分が先に死んで、その先愛する人が自分以外の誰かと一緒に生きていく姿が見えてしまったら…ということについて少しばかり思考したのだけど、この小説の「十三月怪談」にはそのことをさらに考えてしまうような描写があって、読みながら泣いてしまったし、私は「無理だ。自分がいなくなったあと愛する人がまた誰かと生きて欲しいということは願いたいけれど、その暮らしが逐一見えてしまうのは辛すぎる。狂ってしまう。願いなんてただの綺麗事なのかもしれない」と思ってしまった。
    普段生きていて自分の自己中心性にはっとすることがあるけれど、小説を読んで想像して感じることもある。
    誰かのために生きる、という思想もあるけれど、結局は自分の感情からは逃げられない。

    淋しかったり、いい意味でぞっとする物語は私好みだった。文章はやはりやや独特なところがあるけれど、いまの川上さんの文章は好きだと思う。
    表題作はリストの愛の夢を聴きながら読んでみたら少し感慨が生まれました。

  • 短編集。
    中でも、「十三月怪談」がとても好き。どれが現実でどれが本当の記憶なのか、読んでいてよくわからなくなってしまう書かれ方をしているが、「2人がとても愛し合っていたという事実は絶対で永遠のものである」と感じさせてくれるラストが好き。
    「お花畑自身」もなんだかゾンワリしていて良い。
    他の短編には、あまり惹かるものはなかった。

  • 短編集。孤独の最小単位はふたり、ということ。
    ふたりを知らなければひとりを知りようもない。
    色々なふたり、色々な孤独が詰まってる。
    十三月怪談だけが幸せな終わり方をしていて、幸せな終わり方をしたのがこのお話で良かったと思った。
    終わりが終わりの顔をして近付いてこないこと。「通りすぎたうんとあとにあれが最後だったと気づくだけ」なのは、悲しいけど本当。

  • 私はこれまで、女性作家の小説というものをあまり好んで読んでこなかった。というのも、なんだか恋愛のゴタゴタを描くものが多くて、女流作家の描くものはなんとなく自分には理解できないものだという先入観が支配的だったというのが大きな理由の1つだった気がする。
     今年の春に、国際文芸フェスティバルというのに参加する機会があり、そのシンポジウムで川上未映子の話を聞いたのをきっかけに、彼女の考え方に興味を持ち、ヘヴンを読んで衝撃を受けた。まず、彼女の文章が持つ美しさ、繊細さに。そして、何よりパーソナルな問題に留まらない大きなテーマ性に。
     ほどなく、この新作短編小説が発売され、また新しい衝撃を受けた。
     
     7つのストーリーに貫通しているテーマは、パーソナルな小さな世界における別れである。最近に執筆された幾つかの話には、それぞれの世界の中でエピソード的に震災の出来事が挿入されるが、決して震災を経験しての劇的な世界の変化としては描かれていない。

     ささいな日常を、繊細な感覚で生きている人にとっては、別れの後には「記憶」という厄介なものと対峙しなければならなくなる。アイスクリーム、庭の植物、お気に入りの作家、三陸のほたるいかの船、心血注いで手入れした一軒家・・・それは、時間を消費し、忘れる能力を無意識に会得した人間にとっては想像もできない世界なのかもしれない。作者は、そうした記憶を形作っているモノや景色に細やかで生き生きした感情を与えていて、昔国語の授業で習った「擬人法」という手法の存在する意味を体感させてくれる。
     
     「十三月怪談」では死別をテーマに、生の夫と、幽霊(?)となった妻のパラレルワールドが描かれるが、これはまさに「記憶」の世界である。平野啓一郎的には「死者との分人」。死後を生きる遺された者にとっての「死者との分人」が、不可避的に小さくなっていく日常を見守る妻の言葉が、徐々に感情のみが短いひらがなのみで紡がれていくのは、これぞ女流作家の美しさだ。
     「お花畑自身」では、まさに自分の庭の土と生きながらにして同化していき、「十三月怪談」では、愛した人と同化していく。死や別れが描かれているのに、美しい文体と繊細で愛情あふれる描写が、「開かれた終わり」を強く読者に印象を与える。そんな、「薄れ行く記憶の根っこにあるもの」は、言語化しがたいものであればこそ、小説のテーマとなっているのであろう。
     一緒に暮らしていれば、お互いの所作や匂いが似てくる。そんな日常をおかしみながら大事に記憶に焼き付けていく。それが、「新たな震災前」を生きる私たちなのかもしれない。

    • meguyamaさん
      「十三月怪談」で「同化」って感じられたところ、面白い視点だなと思いました。わたしは気付かなかったので、いずれまた読み返してみたいです。
      「十三月怪談」で「同化」って感じられたところ、面白い視点だなと思いました。わたしは気付かなかったので、いずれまた読み返してみたいです。
      2013/04/19
  • けっこういろいろなタイプの短篇を集めたという印象。
    全体を漂うけなげな諦観は、森鴎外『雁』にも匹敵するうつくしさ。

    個人的に好きなのは最初のふたつ『アイスクリーム熱』と表題作『愛の夢とか』。
    読んでいて、最近はあまり会う機会もない懐かしい友人ふたりの顔が浮かんだ。で、私たち、けっこうまじめに生きてたけど、なんだかいつもちょっとずれちゃったよね、可笑しいね、みたいな話をしたくなった。

    凄かったのは、最後の『十三月怪談』。
    パートナーを病気で失くすっていう話は今までうんざりするほど読んだ気がするけど、ここまで切ないというか、ああ、そうだよね、きっとそういう気持ちになるよね、と思えたのは初めてで、そこまでリアルでありながら、いつのまにか怪談になっちゃって、読む者は虚実の重層に竜巻みたいに巻き込まれるしかない。

    • gudonさん
      コメントありがとうございました。同化はどうかな?とくだらないシャレはおいといて、お花畑自身→十三月怪談の流れで、ヒトとモノの肉体の同化に対し...
      コメントありがとうございました。同化はどうかな?とくだらないシャレはおいといて、お花畑自身→十三月怪談の流れで、ヒトとモノの肉体の同化に対して、ヒトとヒトの精神(というか、記憶の根っこ)の同化というふうに解釈したんですが・・・まあ願望込みですね。森鴎外の「雁」は未読なので、是非読んでみます。平野啓一郎さんも鴎外から文学の道へと仰っておりましたし。。
      2013/04/19
  • 今回これを読んで初めて川上未映子を「わかった」ような気がした。
    今まで私の中で川上未映子は、なんというか、敵意とか愛情とか、自信とか羞恥とか、嫌悪とか憐憫とか、もっと言えば喜怒哀楽様々なの感情を針のように全身にまとい、ちょっとやそっとで共感しないでよ、と言っているような、そんな存在。
    それが、この短編集を読んで、初めて自分と同じ地面に立ち同じ呼吸をしている一人の人だと、そこにいて私たちに向かって叫んでいる一人の人だと、「わかった」気がする。
    生半可な共感を拒絶し続ける7つの短編を読むと、わからないけどわかる、そういう不思議な体験ができる

  • タイトルからふわわ〜んとしたお花畑みたいな短編集かと思いきや、逆。救われるとかうまくオチるとか一切関係ない場所で作られた世界観に魅せられた。読んでて寄った眉毛が離れなくなった。「お花畑自身」がすごくて、読後に振り返ってページ数はこれだけか、と嘆息してしまう。冒頭「悪魔が来たかと思いました」のインパクト大。つい「あくまがきたかと」という発音の張りを頭の中でリピートしてしまう。五十代の女性の、淡々としてそれでいて明確な絶望にめまいを感じたし、その収束の仕方にも底知れぬ希望の無さを感じた。

  • 7つの短編集。
    「不安」を、言葉にしようとしている感じ。
    普段見ないふりをしている不安と、目と目が合う感じがある。
    不安ってなんなんだろう。
    未来とか、死とか(生きていること)、自分の存在とか、毎日会う人にさえ、不安。
    意識と無意識の境目みたいな、眠りに落ちる瞬間の境目みたいな、そういうものに似ていて、曖昧で、正体を知ってしまうことが、とてもこわい。



    「お花畑自身」がすごくこわかった。“家”と人の精神が溶けあう感じの話はやっぱりこわい…。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』で第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。2019年、長編『夏物語』で第73回毎日出版文化賞受賞。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』など著書多数。その作品は世界40カ国以上で刊行されている。

「2021年 『水瓶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川上未映子の作品

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