生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 66
  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062179973

作品紹介・あらすじ

徳島県南部の太平洋沿いにある小さな町、海部町(かいふちょう)(現海陽町)。
このありふれた田舎町が、全国でも極めて自殺率の低い「自殺“最”希少地域」であるとは、一見しただけではわかりようがない。この町の一体なにが、これほどまでに自殺の発生を抑えているというのだろう。
コミュニティと住民気質に鍵があると直感した著者は、四年間にわたる現地調査とデータ解析、精神医学から「日本むかしばなし」まで多様な領域を駆使しつつ、その謎解きに果敢に取り組む。
ゆるやかにつながる、「病」は市に出せ、“幸せ”でなくてもいい、損得勘定を馬鹿にしない、「野暮ラベル」の活用など、生きづらさを取り除いて共存しようとした先人たちの、時代を超えて守り伝えられてきた人生観と処世術が、次々とあぶり出されていく。

感想・レビュー・書評

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  • 家族や学校、会社、趣味のサークルなど、人は様々な集団に属して生きている。この本には、徳島県のある町(自殺最希少地域)に隠れている自殺率の低さの謎を探して取材、調査していく筆者の行程や思考の道筋がたんたんと描かれていた。読み進めているうちに、複雑な人間関係の中を、ストレスフリーで生きていくにはどうすればよいかの指南書にも思えてきた。人に執着せずに、ゆるやかにつながり、自尊心を大切に生きる。いろいろな人がいることを嫌悪せずに、むしろ楽しむことができたら、自分が属する様々な集団 でのトラブルやストレスも軽減できることだろう。にしても、データに基づいて分析する場面での、膨大なデータの前で奮闘する著書の様子が、あっさりと書かれてはいるものの、苦労が伝わり面白い。4年間の調査の重みは、しっかりと伝わってきた内容の本だと思う。

  • 「どうせ自分なんて」と思わないことからはじめよう。
    ちょっと弱音を吐ければ、楽になる。

    私は「自殺した人を責めない」
    そう思っていても
    なかなか口に出すことはできなかった。

    「残されたもののことを考えたら死ねないよね」
    「生きたいのに生きられない人だっているんだから」
    「死ぬ気で生きたらなんでもできる」
    もっともだからだ。

    もっともな意見を理解できても、心の奥まで響いてこない。
    なぜだろう。
    私は自殺をしようとしたことはないので、
    自殺した人の気持ちはわからない。
    自殺をした人が身近にいて、苦しみを知っているわけでもない。

    最近、私は「生きていていいのかな」と弱音をこぼした。
    すると、こう言われた。
    あなたの命はあなただけのものではない。
    たくさんの人から大切に思われていることを思いだしてほしい。

    私を心配してくれての言葉だからありがたい。
    でも「そんなことわかってる」と心で叫び、
    口を閉ざした。

    「命を大切」にという言葉は、正しい。
    しかし、心が弱った時にかぎって、心に響いてこない。
    命の大切さをよくわかっているから、
    私は生きてこられたのだろうか。
    そうではない気がする。
    だから、自殺をした人が
    命の大切さをわかっていない人だとは思えない。

    本書がひとつの答えをくれた。

    「命を大切に」という教育は、重要である。
    しかし、それだけで、
    大層なメッセージを伝えたような気になっていないだろうかと、
    問題提起されている。
    そこで、思考が停止ししてしまっていないかと。

    これまで、私は「命を大切に」という言葉の前で、
    自分の想いを封じ込めてしまっていた。
    「そうだ。命は大切にしなくては」と、
    自分を納得させようとした。
    けれど気持ちはいっこうに楽にならなかった。
    むしろ苦しくなった。

    想いを封じ込められたことが、
    苦しい大きな原因なのだと知った。

    同じように過酷な経験をしても
    心が癒されるものとますます辛く苛まれるものがいるのは、
    個人の資質だけではないという。
    その人が属するコミュニティが、
    どう受け入れるかによって変わるらしい。

    著者は、地域のコミュニティが
    住民の心にどのような影響を与えるか、極めて自殺率が低い 徳島県海部町で、
    住民の方たちと丁寧な話し合いを重ね、
    国内各地のデータと比較・分析していく中で、
    自殺率が低い理由を明らかにしていく。

    自殺の危険を高めるのが自殺危険因子。
    自殺の防ぐ方が自殺予防因子。
    本書は自殺予防因子を探す。

    自殺を予防するひとつに、
    ちょっとおかしいなと思ったとき、
    症状が軽いうちに、外へ出してしまうことが大切だという。
    痩せ我慢はせずに、できないことはできないと早く言う。
    取り返しがつかなくなる前に、
    お金のことでも病気のことでも人間関係でも悩みがあれば、
    はやく開示したほうがよい。
    はやく助けを求めることで、重症化せず、
    自殺へ傾いていくのを阻止できるというのである。

    相当深刻になって、「死にたい」といわれても
    助けてあげるのは難しいだろう。
    深刻になる前に予防するのが重要なのである。

    深刻になってから助けてくれる友だちを持つことが
    必要なのではない。
    それよりも
    普段、挨拶や立ち話をする程度の
    地域コミュニティのゆるやかさが、人を楽にさせるのだそうだ。

    そう言われても
    これまで話す相手ががいなかった人は、
    なかなか心を開示できないと思う。
    私もそうだからだ。

    人に話すのは難しいとしても
    肩の力を自分でちょっと抜くことはできる。

    話せない人は、こう思っているところがあるのではないだろうか。
    簡単に人に頼ってはいけない。
    自分のことは自分で解決しなくてはいけない。
    他人に迷惑をかけてはいけない。
    「どうせ自分なんて」と、遠慮する。
    それが、心を疲弊させているのかもしれないと、
    わかるだけでも
    悪い方へ傾いていく気持ちを予防できるかもしれない。

    本書であげられている自殺予防因子。
    1、いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい。
    2、人物本位主義をつらぬく、
    3、どうせ自分なんて、と考えない。
    4、「病」市に出せ
    5、ゆるやかにつながる。

    自殺率の低い社会は、きっと生き心地の良い町。

    情けはひとのためならず。

    周りの人を気にかけて、声をかけようと思う。
    そしてゆるやかにつながりたい。

  • 全国でも自殺の割合が少ないとされる徳島県海部町でのフィールド調査を通して、町にある自殺予防因子を探る内容。土地の傾斜や積雪量といった地理的指標と自殺率との相関が実際に現れるのが驚きだった。自殺の少ないコミュニティーの特徴として人に対する評価が年齢ではなく能力に根ざしていることというのがあるが、実力社会のギスギスした感じではなく、多様なものをそのまま受け入れることや、問題を小さいうちに他人と共有しやすい空気というのも、予防因子として挙げられている。コミュニティーの性質であるが故に個人の心がけで変えられることはなかなか少ないが、本文でもあるように「どうせ自分では」と思うのをこらえて、自分の中で他者に対する寛容さを身に付けられたらと思った。

  • ・いろんな人がいてもよい
     いろんな人がいた方がよい。
    ・人物本位主義を貫く
    ・どうせ自分なんてと考えない
    ・病は市に出せ
    ・ゆるやかにつながる

    「柔軟性 多様性 弾力」
    グローバル化した世界で、宗教/経済/利権/資源など様々な問題が複雑に絡み合っています。
    物が豊かになればなるほど面倒で複雑な話より、分かり易くて受け入れやすい主義や主張をしがちです。

    想像し、相手を思うエッセンスが本著には含まれていると思います。世界の先進国は人口減少によって経済が縮小し、今後発展途上国が世界的な力を持つと言われています。

    変化の中で、バックボーンの違う他者との共生が課題ではないでしょうか。

  • 自殺率の低い地域として、徳島県の海士町がフィールドワークされています。また、全国の平成の大合併前の旧市町村ごとに自殺率とともに環境要因を分析されています。4年にわたる調査を行った著者の努力と粘りはスゴいと思います。

  • 自殺リスク因子ではなく自殺予防因子の分析に着目した点が興味深い。

    自殺率が突出して少ない海部町は、しかし幸福と思う人の割合は少なく、うつ病の受診率も高い。ほどほどを知り、困ったことは隠さず早いうちに手を打つ。
    他人に興味津々なのに人と人との繋がりは淡泊で来るものは拒まず、去る者は追わない。近所づきあいはとても盛んなのに、地方独特の排他的な煩わしさはない。都会と地方の良いとこどりをしている感じだ。昔ながらの地形的社会的要因によるものらしいが、せっかくの知見なので街づくりに生かせたらいいと思う。

  • 町単位の話しだったので、一対一のケアでは使いにくなぁと思っていて、一緒に読んでいた奥さんもあまりピンと来てない様子でした。
    でもストレスチェック義務化の導入セミナーで、「ストレスチェックをして、パンドラの箱を開けるようなことにならないんでしょうか?」という質問があって、この本の内容が役立った。

    僕は、こう説明しました。
    徳島に自殺率が非常に低い町がある。隣接している似た土地柄の町は自殺率がとても高い。そこで何故自殺率が低いのかと調べた調査があって、その要因の一つに実は、住民同士が「あなたうつなんじゃないの?」などと抵抗感なく言い合うため、“早い段階で心療内科などを受診しやすい環境にある”
    というものがあります。
     
    (「生き心地の良い町」岡檀より。
    実際に取り上げられたのは以下の5要素
    ①いろんな人がいてもよい、いろんな人がいた方がよい
    ②人物本位主義をつらぬく
    ③どうせ自分なんて、と考えない
    ④「病」は市に出せ
    ⑤ゆるやかにつながる)
     
    これは、深刻な被害、自殺や休職を防ぐには触れないのではなくそこにアプローチした方がいいという事を示しています。
    だから私は、そのパンドラの箱は開けた方がいいパンドラの箱だ、と考えています、と。

    他にも面白かったのは、
    ・実は徳島県は、47都道府県で比較した場合の自殺率は低い。したがって、県が取り組む保健衛生の課題としては自殺問題は優先順位が低く、長い間、自殺対策に力を入れねばならないという発想が希薄だった。A町の一部の関係者らは地域の自殺発生が極めて多いことを体感的に認識し、早急に対策をとる必要があると考えていたものの、県の行政はさほど重大視していなかったのである。
    →県単位だと問題に気付きにくいのだ、とか。
     
    ・海部町とその両隣りに接する町を比較した場合、海部町の住民幸福度は三町の中でもっとも低い。つまり、「幸せ」と感じている人の比率がもっとも小さい。
    初めてこの結果を目にしたとき、私は非常に意外な気がした。
    …住民幸福度に関するそれまでの私の漠然とした考えは、自殺の少ない地域では幸せな人がより多く、自殺の多い地域では不幸な人がより多い―端的に言ってしまえばそういうことだった。私自身の考えというよりも、このことはある種の通説になっていた。
    分析結果を見ると、「幸せ」と感じている人の比率は海部町が三町の中でもっとも低い一方で、「幸せでも不幸せでもない」と感じている人の比率はもっとも高い。また「不幸せ」と感じている人の比率は三町中もっとも低かった。
    →自殺率が低い地域では「幸せ」は少なく「不幸せ」の人も少ない、とかも面白かったです。 

  • 読みやすく、分かりやすかったです。内容もとても好きです。多くの方、とくに教育に携わる方にお勧めしたいと思いました。
    海部町では、小中学校の特別支援学級の設置について他町とは、異を唱えているそうです。そのことに対して町会議員は、多少の違いがあるからといって、別枠に囲い込む行為に賛成できない、クラスの中にいろんな個性があったほうがよいではないか、と言います。
    人口の規模もありますし、一概にどこでも通用することではないとは思いますが、これが出来るのは、クラスの子供たち、先生、保護者の理解と支えがあって、その障害者の子供が周りと自分を比較しても十分やっていけることが素晴らしいと思いました。

  • 生きづらさを回避する方法が書いてあった。

  • 高野秀行さん絶賛の本書。大学院での研究として取り組んだことの成果が、一般向けにわかりやすく読みやすくまとめられている。「フィールドワーク」というのを、これほど血の通ったものとして感じたことはないように思う。示唆に富んだ一冊だ。

    高野さんがほめてなかったら、また例によって「絆」とか「つながり」を連呼したヤツじゃないかと思ったかもしれない。3.11以後のああいう物言いには非常に違和感があって、ちょっと待てよ!「地域共同体」ってそんないいことずくめのものか?という思いがフツフツと湧いてくるのを抑えられない。

    本書がそこらへんにどういう結論を出しているか。短く言えば「ゆるやかにつながる」というスタンスなのだが、その絶妙な人間関係の塩梅が、具体的なエピソードや統計資料を使って説明されていく。ここは興味のある方は実際読んでみてほしい。

    とはいえ、均質化の進む今の日本で、こんな町があるのだろうかという疑問がどうしてもぬぐえないところだが、著者は「交通や通信が現在のように整備され始めたのはたかだか五十年くらい前のことであって、人、物、そして情報は、山一つ川一本でも横たわっていればたちまち往来が阻まれる時代が長かった」のだから、昔からのコミュニティの特質が脈々と息づいているのは不思議ではないと述べていて、なるほど、そうかもしれないとも思う。明治、いや江戸だって、幕末に生きた人に実際接した人がまだ生きていることを思えば、実は手を伸ばした先にあるのだと、これは私も本当にそう思う。

    であるならば、今の日本にこういう地域があることにある程度納得がいく。今後についてはあまり明るい展望を抱けないが。ただ、著者が繰り返し書いているように、そこから学ぶことができるのは確かだ。そこもきわめて具体的に説明されていて(「明日から『どうせ』って言わない」ことを岡さんはあちこちで説いているそうだ)、そこが学者臭のない著者ならではの美点だと思った。

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著者プロフィール

岡 檀 (おか・まゆみ)

和歌山県立医科大学保健看護学部 講師、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 研究員
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 博士課程修了
「日本の自殺希少地域における自殺予防因子の研究」で博士号を取得
コミュニティの特性が住民の精神衛生にもたらす影響について関心を持ち、フィールド調査やデータ解析を重ねてきており、その研究成果は学会やマスコミの注目を集めている。
第一回日本社会精神医学会優秀論文賞 受賞

「2013年 『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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