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Amazon.co.jp ・本 (226ページ) / ISBN・EAN: 9784062179973
作品紹介・あらすじ
【推薦の言葉】
「探検記」の傑作。誰も知らない(住んでいる人たちも自覚していない)謎の「パラダイス」が存在したという展開は、ソマリランド級のインパクト。日本のあらゆる社会問題解決の鍵は本書にある! と遠吠えしたくなった。
―― 高野秀行、ノンフィクション作家、「謎の独立国家 ソマリランド」著者
徳島県南部の太平洋沿いにある小さな町、海部町(かいふちょう)(現海陽町)。
このありふれた田舎町が、全国でも極めて自殺率の低い「自殺“最”希少地域」であるとは、一見しただけではわかりようがない。この町の一体なにが、これほどまでに自殺の発生を抑えているというのだろう。
コミュニティと住民気質に鍵があると直感した著者は、四年間にわたる現地調査とデータ解析、精神医学から「日本むかしばなし」まで多様な領域を駆使しつつ、その謎解きに果敢に取り組む。
ゆるやかにつながる、「病」は市に出せ、“幸せ”でなくてもいい、損得勘定を馬鹿にしない、「野暮ラベル」の活用など、生きづらさを取り除いて共存しようとした先人たちの、時代を超えて守り伝えられてきた人生観と処世術が、次々とあぶり出されていく。
みんなの感想まとめ
自殺率の低さの謎を解き明かす本書は、徳島県の小さな町が持つ独特なコミュニティの特性に焦点を当てています。著者は四年間にわたる現地調査とデータ解析を通じて、地域の人々がどのようにして「ゆるやかに」つなが...
感想・レビュー・書評
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【まとめ】
0 まえがき
徳島県にある海部町(現:海陽町)は、県南端の太平洋に臨む、人口3000人前後で推移してきた小規模な町である。かつては農業や漁業、林業などの第一次産業が盛んであったが、昭和の高度成長期の後に徐々に衰退し、近年では少子高齢化の問題を抱えている。日本の典型的な田舎町だ。
しかし、この小さな町は、全国でも極めて自殺率の低い「自殺最希少地域」なのである。海部町は全国3318市区町村の中で、8番目に自殺率が低い。しかも海部町以外の低自殺率の自治体は全て「島」という特殊な地勢である。一般的な地勢に絞って比較するならば、「日本でもっとも自殺率の低い町」といえるだろう。
この至って普通の田舎町に、いったいどんな秘密があるのか。
1 データから見る
・自殺危険因子…自殺の危険を高める要素。社会経済的地位の低さ、失業、支援の欠如、精神疾患などがその典型。
・自殺予防因子…自殺行動を予防する要素。家族との関係、個人の素質や人柄、社会文化的背景などがその典型。
1973年から2002年まで30年間のデータを集め、徳島県下45市町村の値を比べた結果、海部町の自殺率が極めて低いことが分かった。海部町を挟んで両隣にぴったりと接する2町の自殺率平均値が、26.2と29.7であったのに対し、海部町だけが8.7という不思議な現象が起こっていた。ちなみに、2002年時の全国平均値は25.2である。また、海部町では高齢者のみならずすべての年齢層において自殺発生が極めて少なかった。
海部町には自殺危険因子が少ないのか?日本人の自殺の動機でもっとも多いのが「病苦・健康問題」ついで「生活苦・経済問題」であるが、調査の結果、海部町にも隣接する他の2町にも、自殺危険因子は同様に存在していた。
となると、海部町だけに「自殺予防因子」が強く存在していることになる。
2 海部町で見つけた自殺予防因子
〇多様性の尊重
・海部町では、赤い羽根募金が集まらない。「募金したい人はする、したくない人はしない」というスタンスである。これは老人クラブ(高齢住民のために福祉活動を行う、地域に根ざした組織)の加入でも同じスタンスであり、自分が入りたければ入ればよく、他の人が入ろうが入るまいがどうでもいいと思っている。
・海部町には「朋輩組」と呼ばれる江戸時代発祥の相互扶助組織がある。メンバーは地域住民で、中学または高校を卒業した年頃の人が加入する。4、5歳の年齢幅で同世代のメンバーたちがグループを作り、それらグループが積み重なって「朋輩組」全体を成している。主たる活動は農業や漁業など生業にかかわる連携、地域の保安、普識(家屋の修繕)、冠婚葬祭の手伝いなど、地域住民の日常生活に密着しており、メンバーが暮らすコミュニティと不可分の関係にあると言ってよい。
ユニークなのは、組織でありながら会則と呼べるものがなく、入退会にまつわる定めも設けていない点だ。
〇人物本位主義
学歴や家柄ではなく、その人の能力によって登用を決める。年長者が年少者を抑えつけない風土がある。
〇どうせ自分なんて、と考えない
海部町では、主体的に政治に参画する人が多いという印象がある。自分たちが暮らす世界を自分たちの手によって良くしようという姿勢があり、「お上頼み」の傾向は弱い。
〇病は市に出せ
これは、町の先達が言い習わしていたという格言である。
「病」とは、たんなる病気のみならず、家庭内のトラブルや事業の不振、生きていく上でのあらゆる問題を意味している。そして「市」というのはマーケット、公開の場を指す。体調がおかしいと思ったらとにかく早目に開示せよ、そうすれば、この薬が効くだの、あの医者が良いだのと、周囲がなにかしら対処法を教えてくれる。まずはそのような意味合いだという。
同時にこの言葉には、やせ我慢すること、虚勢を張ることへの戒めがこめられている。悩みやトラブルを隠して耐えるよりも、思いきってさらけ出せば、妙案を授けてくれる者がいるかもしれないし、援助の手が差し伸べられるかもしれない。だから、取り返しのつかない事態にいたる前に周囲に相談せよ、という教えなのである。
相互扶助の枠組みはどの町にもあるが、海部町が他と違うのは、個々人が「私的」な悩みを開示しやすい環境が整っているという点だ。
〇ゆるやかにつながる
海部町は物理的密集度が極めて高いコミュニティであり、住民同士の接触頻度が高い。特に密集した居住区では、隣家の電話での会話まで聞こえてくるというような生活を送っている人たちもいて、彼らにとってはプライバシーの保護などまるで現実味がない。
その一方で、隣人間のつきあいに粘質な印象はない。基本は放任主義であり、必要があれば過不足なく援助するというような、どちらかといえば淡泊なコミュニケーションの様子が窺える。
海部町では、人間関係が固定されていない。隣人間でのコミュニケーションが切れているわけではないが、かなりあっさりとしたつきあいを行なっているのだ。
以上から分かることは、海部町の人々が持つ「弾力性」の高さである。海部町では多種多様な価値観が混在しているが、かといってそれらを否定しようとはしない。「こういう考え方、ものの見方があったのか」と納得する。多様性を尊重し、異質や異端なものに対する心理的受け入れが備わっているのだ。
3 損得勘定
そもそもなぜ海部町は、このようなコミュニティを作り上げてきたのか。
それは、「それが海部町民にとって『お得』だったから」だ。
私は、海部町のコミュニティ特性の出発点がこの「損得勘定」から始まっていると考えている。
たとえば隣人の誰かが悩みやトラブルを抱えていたとして、周囲がそのことに気づかないまま過ごし、発覚したときには取り返しのつかない事態になっているというのでは、共倒れの危機にさえなりかねない。ゆえにできる限り早めに開示させ、その時点では周囲の人々が多少の面倒を引き受けなければならないものの、長い目で見れば損失を大きく減らせるという発想をもって、「病は市に出せ」という教えが広まってきた。それも、この格言をただ言うだけでは十分ではない。人が助けを求めることへの心理的抵抗を軽減するために、コミュニティの中にいろいろと工夫をこらしてきた。
まさに「情けは人のためならず、めぐりめぐりて己が身のため」という格言そのものの理念となるのだが、海部町民はこの理念を共有し根付かせることによって、自分たちの共存に成功したのではないだろうか。そしてその成功体験から、人々が共存していく上で可能な限り「生きづらさ」の元となる要素を取り除き、生き心地のよいコミュニティを次世代に引き継いできたのではないだろうか。
こうしたことのすべてが、先達の「損得勘定」から始まっていたと、私は想像している。さらに言えば、人間の業である損得勘定を基にしていたからこそ、長年にわたり破綻することなく継承されてきたと考えることができるのである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「自殺希少地域」である徳島県旧海部町。海沿いにある人口三千人ほどの小さな町の自殺率の低さにはどんな理由があるのか。大学院でコミュニティの特性と自殺率との関係を研究していた著者が現地に入り、その要因を探る。
以前に読んだ『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』という本で、著者の岡檀さんの旧海部町での研究が紹介されていて興味を持った。
調査の結果、「自殺予防因子」として挙げられたのは以下の5つである。
1 いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい
→他人と歩調を合わせる必要はない。赤い羽根募金も自分が納得しなければやらないし、特別支援学級のように多少の違いを囲い込むようなことは反対。
2 自分本位主義をつらぬく
→相手の地位や学歴などに惑わされない、年齢や経歴にも左右されない。年長者だからっていばらない。
3 どうせ自分なんて、と考えない
→病気になっても、ケアが必要になってもおおいばりで病院に行く。自己信頼感、有能感が高い。
4 「病」は市に出せ
→困ったことやおかしなことがあったらとにかく早く開示する。できないことはできないと早く言う。
5 ゆるやかにつながる
→人に関心はあるが飽きっぽい。隣人間のコミュニケーションは立ち話、あいさつ程度。基本放任主義。
上記の因子は『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』の中でも紹介されていて、旧海部町が歴史的に外部からの人の出入りが多かったことから培われた気質であるとされていた。これについて、私がもう少し知りたいと思っていたのは、①交通手段や生活の変化により気質は変わっていかないのか、②旧海部町と環境条件が似ていると思われる隣町では何が違うのか、ということだった。
①について、著者は、生活や交通手段が変わったのがここ50年程のことであり、長い間培われてきた気質はそれほど変わらない、とする。逆に言うと、平成の大合併など近年の変化が今後気質に影響してくる可能性はあるわけで、それがよい方向へ向かうことを願うばかりである。
②について、著者は隣町で自殺率が高いA町にも聞き取りやアンケート調査を行うとともに、統計数理研究所の厖大なデータベスを使って分析を行い、地理的特性が影響を及ぼすことを突き止めている。
具体的にいうと、自殺希少地域の特徴は「傾斜の弱い平坦な土地で、コミュニティが密集しており、気候の温暖な海沿いの地域」、自殺多発地域の特徴は「険しい山間部の過疎状態にあるコミュニティで、年間を通して気温が低く、冬季には雪が積もる地域」であるという。
旧海部町の隣町A町は、険しい山間の集落であり、民家同士の距離が遠いそうだ。こういう地域で暮らす人たちが、すぐに誰かに助けを求めない気質であるということは感覚的にも理解できる。
ただ、旧海部町がよくてA町がだめだ、とか、A町の人は旧海部町に引っ越せばよい、といった話でもない。忍耐強いA町の人たちの美徳を取り除きたいのではなく、要因や気質を知ったうえでできる対策を進めていってほしい、と著者は提案する。
一般書としてわかりやすく書かれているが、データの根拠について、調査方法や情報の精査の仕方などを非常に詳しく提示しており、説得力のある内容になっている。できる限り自殺者を減らしていきたい、という著者の真摯な思いでまとめられた誠実な本だと感じた。 -
先に読んだ「森川すいめい」さんの著書で勧められていた、この著書は、同じ「海部町」を対象にしているが、こちらの著者である「岡壇」さんは、当時、学会で殆ど取り上げられなかった「自殺希少地域における自殺予防因子」について、何年間も研究を続け、論文として発表されている方なので、フィールドワークとデータ収集に基づいており、より深く掘り下げた内容となっております。
興味深かったのは、海部町が移民者たちの集まった地縁血縁の薄い共同体という歴史があることです。
身内や近所での古くからの緊密な人間関係は、時に排他的でもあるため、迷惑をかけることを極力避けようとし、私的な問題で助けを言い出せないことがある。
これが海部町では、薄い共同体でゼロからのスタートを切ったことから、出自や家柄で判断するのではなく、その人の問題解決能力や人柄などの本質を評価して付き合う態度を身に付けたと言われており、援助すべき時は責任を持つが、つながり方は緩い。
海部町の相互扶助組織の「朋輩組」にしても、他の同じような組織ではあった、年長者の意見に逆らえなかったり、加入や脱退に厳しい規定はない、自由度の高さが特徴で、やはり緩やかである。
この独自性は、他の面にも現れており、いろんな人がいたほうがよい考え方や、どうせ自分なんてと思わない人が多いこと、別の表現で書くと、政治などのお上の問題意識を持ち、自分の意見がある、自分に世間を変えられる力があることを自然と認識している人が多いことが上げられる。
書いてきた内容では、他の町で同じようにコミュニティを形成していくのは、なかなか難しいようにも感じられる。
しかし、過去、どうせ自分なんてと思ったことのある私からすれば、自殺希少地域の存在自体が目からウロコで、生きやすいとは何かを少し実感出来たし、読み終えた後で、弱音を吐くことや助けを求めることは恥ずかしくないんだという安心感を得て、心持ちが軽くなりました。
ただ、自殺により娘さんを失った母親が、他の親類から、「残された人の気持ちを考えなかったのか」とか、「死ぬ気になれば何でもできただろうに」とか言われた話には、怒りを通り越して、やるせなさを覚えた。このような考え方をする人のいない世の中に少しでも近づくことを切に願います。 -
高野秀行さん絶賛の本書。大学院での研究として取り組んだことの成果が、一般向けにわかりやすく読みやすくまとめられている。「フィールドワーク」というのを、これほど血の通ったものとして感じたことはないように思う。示唆に富んだ一冊だ。
高野さんがほめてなかったら、また例によって「絆」とか「つながり」を連呼したヤツじゃないかと思ったかもしれない。3.11以後のああいう物言いには非常に違和感があって、ちょっと待てよ!「地域共同体」ってそんないいことずくめのものか?という思いがフツフツと湧いてくるのを抑えられない。
本書がそこらへんにどういう結論を出しているか。短く言えば「ゆるやかにつながる」というスタンスなのだが、その絶妙な人間関係の塩梅が、具体的なエピソードや統計資料を使って説明されていく。ここは興味のある方は実際読んでみてほしい。
とはいえ、均質化の進む今の日本で、こんな町があるのだろうかという疑問がどうしてもぬぐえないところだが、著者は「交通や通信が現在のように整備され始めたのはたかだか五十年くらい前のことであって、人、物、そして情報は、山一つ川一本でも横たわっていればたちまち往来が阻まれる時代が長かった」のだから、昔からのコミュニティの特質が脈々と息づいているのは不思議ではないと述べていて、なるほど、そうかもしれないとも思う。明治、いや江戸だって、幕末に生きた人に実際接した人がまだ生きていることを思えば、実は手を伸ばした先にあるのだと、これは私も本当にそう思う。
であるならば、今の日本にこういう地域があることにある程度納得がいく。今後についてはあまり明るい展望を抱けないが。ただ、著者が繰り返し書いているように、そこから学ぶことができるのは確かだ。そこもきわめて具体的に説明されていて(「明日から『どうせ』って言わない」ことを岡さんはあちこちで説いているそうだ)、そこが学者臭のない著者ならではの美点だと思った。 -
家族や学校、会社、趣味のサークルなど、人は様々な集団に属して生きている。この本には、徳島県のある町(自殺最希少地域)に隠れている自殺率の低さの謎を探して取材、調査していく筆者の行程や思考の道筋がたんたんと描かれていた。読み進めているうちに、複雑な人間関係の中を、ストレスフリーで生きていくにはどうすればよいかの指南書にも思えてきた。人に執着せずに、ゆるやかにつながり、自尊心を大切に生きる。いろいろな人がいることを嫌悪せずに、むしろ楽しむことができたら、自分が属する様々な集団 でのトラブルやストレスも軽減できることだろう。にしても、データに基づいて分析する場面での、膨大なデータの前で奮闘する著書の様子が、あっさりと書かれてはいるものの、苦労が伝わり面白い。4年間の調査の重みは、しっかりと伝わってきた内容の本だと思う。
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めちゃめちゃ面白くて一日で読んでしまった。自殺予防因子に関する考察は、この本に言及した他の本で既にある程度知っていたので、この本の方に先に出会っていたらいろいろ衝撃が多すぎて知恵熱を出していたかもしれない。それくらい久々に興奮した体験だった。
ベースとなるのは著者の博士論文だが、論文に勝る付加価値としては、単に読みやすさだけでなく、著者が新たな道を切り開いていくさまを冒険譚のようにワクワクしながら読めることだ。前例のない分野でのデータ集めの苦労は計り知れないが、その苦労以上に著者の情熱が伝わってくるから、読んでいて爽快感とじんわりした温かみが同時にこみ上げてくる。それは行間ににじみ出る著者の人柄でもあるだろう。
こんな人がいるんだから、自分もがんばらないと、と勇気をもらえる一冊だった。 -
人と接する上でも自分が生きる上でも学びになる本だった。住環境を変えることは難しいけど、自己効力感を高める意識を持って人と接することはすぐにできるしプラスしかないと感じた。
海部町の、人に興味関心は持って、いつでも助けるけれど、つながり自体はあっさりしているというところが意外だったけど、よく考えると納得した。一つのコミュニティへの執着は、つながりも深まるけれど、壊れた時の傷つき方は怖いものだろうな。
他にもいろんな気づきヒントが得られる本。 -
自殺のリスク因子ではなく、自殺が少ない徳島県旧海部町に入り込んで自殺を低くする要因を探った本。
お互いが人に興味を持ちつつ、深入りしない緩い繋がり。取り返しがつかなくなる前に気軽に打ち明けられる関係性。いろんな考えの人がいるから良いという考え方。 -
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全国でも自殺の割合が少ないとされる徳島県海部町でのフィールド調査を通して、町にある自殺予防因子を探る内容。土地の傾斜や積雪量といった地理的指標と自殺率との相関が実際に現れるのが驚きだった。自殺の少ないコミュニティーの特徴として人に対する評価が年齢ではなく能力に根ざしていることというのがあるが、実力社会のギスギスした感じではなく、多様なものをそのまま受け入れることや、問題を小さいうちに他人と共有しやすい空気というのも、予防因子として挙げられている。コミュニティーの性質であるが故に個人の心がけで変えられることはなかなか少ないが、本文でもあるように「どうせ自分では」と思うのをこらえて、自分の中で他者に対する寛容さを身に付けられたらと思った。
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まず文章のセンスがすばらしい!めちゃくちゃ読みやすく、すいすい頭に入ってきます。
多くの人に知ってほしい、という意志の現れかも。
とにかく非凡な文才を感じたので、他の執筆も確認してみたい。
「病、市に出せ」たったこれだけの言葉に凝縮された海部町の文化とメンタリティ、心にひびいた。
強固なコミュニティには生きづらさを感じる人もいる。他者に対しては、無関心ではなく、関心はあれど期待はしない緩やかな連帯が望ましいようだ。
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「病、市に出せ」ということばは鷲田清一氏が『折々のことば』で紹介されたときにとても気に入り、今も新聞の切り抜きをメモ帳に挟んでいる。その際参照されたのが本書。自殺予防因子をつきとめると同時に多発地域での比較と原因解明も行いフィードバックしていく。調査を通じ著者はどうやったら自殺が減らせるかということでなく、どんな世界で生きたいか、より「生き心地」がよくなるかを考えていくことで答えが見いだせるのではないか(p.173-174)と説く。まさにその通りだと思う。本書は自殺予防を考えることから一歩進めて日々の暮らしやすさ、コミュニティの在り方なども考えさせられた(「絆」の連呼とかどうもね)。お堅い論文の内容のものと思っていたのだが、研究のとっかかりから手法、途中経過、自身の経験も含め、非常にかみ砕いて書かれていた。大学の教科書や同分野を研究したい人にも入門書として最適だと思う。
著者が見つけた5つの自殺予防因子「いろんな人がいてもよい、いろんなひとがいたほうがよい」、「人物本位主義をつらぬく」、「どうせ自分なんて、と考えない」、「「病」は市に出せ」、「ゆるやかにつながる」(第2章より)。旧海部町の方々はよそから来た人には「賢い」と映るようだが、生き様がさばさばしていて大人(mature)だと思う。 -
自殺率が低い、すなわち「生き心地の良い町」だという徳島県海部町(いまは周辺と合併して海陽市の一部)。そのわけを探るべく著者は同町に飛び込んだ。書かれているのは生き心地のよさ、さもありなんと思わせるようなユニークで爽快な人々の言動。たとえば、赤い羽根募金の集まりが悪い。それはお仕着せに意味を見出さず、周りと横並びで一斉に募金しようという気がないから。また、特別学級の設立に反対するのも、どの子も同じクラスでいいじゃないかという考えから。その他、関係性はあれども濃密ではなかったり、うつを恥じる気もないから精神科の受診率が高いとか、自分たちで世のなかを変えられるという思いも強かったり。集約すると、①コミュニティはゆるやかな紐帯を有する、②身内意識が弱い、③援助希求への抵抗が小さい、④他者への評価は人物本位である、⑤政治参加に意欲的であるといった因子があるのだとか。
この本が期待以上に面白かったのは、海部町がすごいという話にとどまっていなかったこと。著者は全国的な自殺多発地域と希少地域の特徴の抽出まで研究を進め、地理的な自殺希少地域の特性として以下のようなものを見出している。
①自殺希少地域は傾斜の弱い平坦な土地で、可住地人口密度が高く、海岸部に属する市町村に多いという傾向が示され、面する海域は太平洋と瀬戸内海が多かった。
②日照時間は自殺率に対して負の影響を、積雪量は正の影響を与えていた。
③標高と傾斜度については、標高が約三百メートルをピークに自殺率への影響が横ばいとなっているが、傾斜度は大きくなるほど自殺率への影響が強まり、傾斜十五度を超えた地点から危険度が急速に強まった。
これもけっこう面白い結果で、そもそも何となく都会のほうが自殺が多い気がしていたけど、そうともいえず、①について平坦で人口密度が高いという点で自殺希少の要素と重なるし、一方、住民間のネットワークがありそうな地方でも、気象や地形によって自殺が起きやすいとみることができる。そして著者が、自殺希少の特性を満たさない、つまり気象や地形条件が厳しく不便な土地の人々について、そういう地で生活するゆえの真面目さや「覚悟を決める」ことを知っている人たちをしているのも温かでいい視点だと思った。
小難しい研究の話かと思えば、著者が面白がっているのがわかる感じで、その勢いに巻き込まれてか次から次へとページをめくっていける。著者はきっと陽性な人で、かかわった人たちも巻き込んでいったんだろうな。海部町との対比として、自殺率が高いとされているA町なんかは、いわば不名誉なほうでさんざん取り上げられているんだけど、著者がA町の人々への研究結果の伝え方などを町の関係者と相談したときも、「はっきり突き付けてもらうことで対策ができるようになる」といった研究させてもらってる者冥利につきる言葉をもらえたりしてる。
そういう意味では、海部町の人々の言動の爽快さだけでなく、著者の研究への興ののりぶりとかそれに協力した人々の様子とかまで含め、とても読み心地の良い本だった。
研究の過程や手法が平易に書いてくれてあるのもいい。研究って「やらなきゃ」じゃなくて、こんなふうに興味のおもむくまま楽しくやるといいんだってこともいまさらながら知った感じ。
海部町で育ち都会に出た人たちは、人々の関係性に戸惑う経験をした人も少なくない。著者によれば、でも彼らは共通してこんなことを言っていたという。
「ああ、こういう考え方、ものの見方があったのか。世の中は自分と同じ考えの人ばかりではない。いろいろな人がいるものだ」(p.98)
これって、人は人、自分は自分と思って生きることができるってことだろう。これが心に過重をかけない生き方の秘訣。読み始めた頃は、海部町で暮らしたいって思ったけど、読み終えてみればそこまでは思わない。著者の研究成果を参考に、自分の心のもちように気をつければどこでも暮らしていけそうな気がする。 -
自殺率の低い地域として、徳島県の海士町がフィールドワークされています。また、全国の平成の大合併前の旧市町村ごとに自殺率とともに環境要因を分析されています。4年にわたる調査を行った著者の努力と粘りはスゴいと思います。
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こんな研究があるんだ、面白い。
本にしてくれたおかげで出会えました、ありがとう。
(この本の存在は「その島のひとたちは、ひとの話を聞かない」で知りました)
少し冷静に考えてみると、自殺が一番多いのは50代くらいだったような?
50代くらいでは、主たる帰属先と認識しているのは、地域、ではないように思う。
この本で紹介されている海部町や比較されている町は、職住が近い人たちが多いのかな?
それとも高齢者が多いのかな?
まぁ、帰属先がどこであれ、多様性(風通しのよさ)とか、自己効力感(私なんか、と思わない)とか、どうやってそういう空気感を持続するか、が大切なのだろう、と思う。
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めっちゃ分析・調査が成されてて、自殺率の低さに関連する要因も納得できるものが多い。しかし、当たり前だが、自殺を今すぐに少なくする方法が載っている訳ではなく、これから地道に目指していく方向性を示してくれる感じ。シンプルに読みやすかった。
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ある意味日本一自殺率の低い町「徳島県旧海部町」と他の地域を調査・比較しつつ、自殺予防に効果のある因子を抽出して、自殺予防対策への一つの回答を生み出した著作
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