生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 797
感想 : 91
  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062179973

作品紹介・あらすじ

徳島県南部の太平洋沿いにある小さな町、海部町(かいふちょう)(現海陽町)。
このありふれた田舎町が、全国でも極めて自殺率の低い「自殺“最”希少地域」であるとは、一見しただけではわかりようがない。この町の一体なにが、これほどまでに自殺の発生を抑えているというのだろう。
コミュニティと住民気質に鍵があると直感した著者は、四年間にわたる現地調査とデータ解析、精神医学から「日本むかしばなし」まで多様な領域を駆使しつつ、その謎解きに果敢に取り組む。
ゆるやかにつながる、「病」は市に出せ、“幸せ”でなくてもいい、損得勘定を馬鹿にしない、「野暮ラベル」の活用など、生きづらさを取り除いて共存しようとした先人たちの、時代を超えて守り伝えられてきた人生観と処世術が、次々とあぶり出されていく。

感想・レビュー・書評

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  • 先に読んだ「森川すいめい」さんの著書で勧められていた、この著書は、同じ「海部町」を対象にしているが、こちらの著者である「岡壇」さんは、当時、学会で殆ど取り上げられなかった「自殺希少地域における自殺予防因子」について、何年間も研究を続け、論文として発表されている方なので、フィールドワークとデータ収集に基づいており、より深く掘り下げた内容となっております。

    興味深かったのは、海部町が移民者たちの集まった地縁血縁の薄い共同体という歴史があることです。

    身内や近所での古くからの緊密な人間関係は、時に排他的でもあるため、迷惑をかけることを極力避けようとし、私的な問題で助けを言い出せないことがある。

    これが海部町では、薄い共同体でゼロからのスタートを切ったことから、出自や家柄で判断するのではなく、その人の問題解決能力や人柄などの本質を評価して付き合う態度を身に付けたと言われており、援助すべき時は責任を持つが、つながり方は緩い。

    海部町の相互扶助組織の「朋輩組」にしても、他の同じような組織ではあった、年長者の意見に逆らえなかったり、加入や脱退に厳しい規定はない、自由度の高さが特徴で、やはり緩やかである。

    この独自性は、他の面にも現れており、いろんな人がいたほうがよい考え方や、どうせ自分なんてと思わない人が多いこと、別の表現で書くと、政治などのお上の問題意識を持ち、自分の意見がある、自分に世間を変えられる力があることを自然と認識している人が多いことが上げられる。

    書いてきた内容では、他の町で同じようにコミュニティを形成していくのは、なかなか難しいようにも感じられる。

    しかし、過去、どうせ自分なんてと思ったことのある私からすれば、自殺希少地域の存在自体が目からウロコで、生きやすいとは何かを少し実感出来たし、読み終えた後で、弱音を吐くことや助けを求めることは恥ずかしくないんだという安心感を得て、心持ちが軽くなりました。

    ただ、自殺により娘さんを失った母親が、他の親類から、「残された人の気持ちを考えなかったのか」とか、「死ぬ気になれば何でもできただろうに」とか言われた話には、怒りを通り越して、やるせなさを覚えた。このような考え方をする人のいない世の中に少しでも近づくことを切に願います。

  • 家族や学校、会社、趣味のサークルなど、人は様々な集団に属して生きている。この本には、徳島県のある町(自殺最希少地域)に隠れている自殺率の低さの謎を探して取材、調査していく筆者の行程や思考の道筋がたんたんと描かれていた。読み進めているうちに、複雑な人間関係の中を、ストレスフリーで生きていくにはどうすればよいかの指南書にも思えてきた。人に執着せずに、ゆるやかにつながり、自尊心を大切に生きる。いろいろな人がいることを嫌悪せずに、むしろ楽しむことができたら、自分が属する様々な集団 でのトラブルやストレスも軽減できることだろう。にしても、データに基づいて分析する場面での、膨大なデータの前で奮闘する著書の様子が、あっさりと書かれてはいるものの、苦労が伝わり面白い。4年間の調査の重みは、しっかりと伝わってきた内容の本だと思う。

  • 高野秀行さん絶賛の本書。大学院での研究として取り組んだことの成果が、一般向けにわかりやすく読みやすくまとめられている。「フィールドワーク」というのを、これほど血の通ったものとして感じたことはないように思う。示唆に富んだ一冊だ。

    高野さんがほめてなかったら、また例によって「絆」とか「つながり」を連呼したヤツじゃないかと思ったかもしれない。3.11以後のああいう物言いには非常に違和感があって、ちょっと待てよ!「地域共同体」ってそんないいことずくめのものか?という思いがフツフツと湧いてくるのを抑えられない。

    本書がそこらへんにどういう結論を出しているか。短く言えば「ゆるやかにつながる」というスタンスなのだが、その絶妙な人間関係の塩梅が、具体的なエピソードや統計資料を使って説明されていく。ここは興味のある方は実際読んでみてほしい。

    とはいえ、均質化の進む今の日本で、こんな町があるのだろうかという疑問がどうしてもぬぐえないところだが、著者は「交通や通信が現在のように整備され始めたのはたかだか五十年くらい前のことであって、人、物、そして情報は、山一つ川一本でも横たわっていればたちまち往来が阻まれる時代が長かった」のだから、昔からのコミュニティの特質が脈々と息づいているのは不思議ではないと述べていて、なるほど、そうかもしれないとも思う。明治、いや江戸だって、幕末に生きた人に実際接した人がまだ生きていることを思えば、実は手を伸ばした先にあるのだと、これは私も本当にそう思う。

    であるならば、今の日本にこういう地域があることにある程度納得がいく。今後についてはあまり明るい展望を抱けないが。ただ、著者が繰り返し書いているように、そこから学ぶことができるのは確かだ。そこもきわめて具体的に説明されていて(「明日から『どうせ』って言わない」ことを岡さんはあちこちで説いているそうだ)、そこが学者臭のない著者ならではの美点だと思った。

  • めちゃめちゃ面白くて一日で読んでしまった。自殺予防因子に関する考察は、この本に言及した他の本で既にある程度知っていたので、この本の方に先に出会っていたらいろいろ衝撃が多すぎて知恵熱を出していたかもしれない。それくらい久々に興奮した体験だった。

    ベースとなるのは著者の博士論文だが、論文に勝る付加価値としては、単に読みやすさだけでなく、著者が新たな道を切り開いていくさまを冒険譚のようにワクワクしながら読めることだ。前例のない分野でのデータ集めの苦労は計り知れないが、その苦労以上に著者の情熱が伝わってくるから、読んでいて爽快感とじんわりした温かみが同時にこみ上げてくる。それは行間ににじみ出る著者の人柄でもあるだろう。

    こんな人がいるんだから、自分もがんばらないと、と勇気をもらえる一冊だった。

  • 「どうせ自分なんて」と思わないことからはじめよう。
    ちょっと弱音を吐ければ、楽になる。

    私は「自殺した人を責めない」
    そう思っていても
    なかなか口に出すことはできなかった。

    「残されたもののことを考えたら死ねないよね」
    「生きたいのに生きられない人だっているんだから」
    「死ぬ気で生きたらなんでもできる」
    もっともだからだ。

    もっともな意見を理解できても、心の奥まで響いてこない。
    なぜだろう。
    私は自殺をしようとしたことはないので、
    自殺した人の気持ちはわからない。
    自殺をした人が身近にいて、苦しみを知っているわけでもない。

    最近、私は「生きていていいのかな」と弱音をこぼした。
    すると、こう言われた。
    あなたの命はあなただけのものではない。
    たくさんの人から大切に思われていることを思いだしてほしい。

    私を心配してくれての言葉だからありがたい。
    でも「そんなことわかってる」と心で叫び、
    口を閉ざした。

    「命を大切」にという言葉は、正しい。
    しかし、心が弱った時にかぎって、心に響いてこない。
    命の大切さをよくわかっているから、
    私は生きてこられたのだろうか。
    そうではない気がする。
    だから、自殺をした人が
    命の大切さをわかっていない人だとは思えない。

    本書がひとつの答えをくれた。

    「命を大切に」という教育は、重要である。
    しかし、それだけで、
    大層なメッセージを伝えたような気になっていないだろうかと、
    問題提起されている。
    そこで、思考が停止ししてしまっていないかと。

    これまで、私は「命を大切に」という言葉の前で、
    自分の想いを封じ込めてしまっていた。
    「そうだ。命は大切にしなくては」と、
    自分を納得させようとした。
    けれど気持ちはいっこうに楽にならなかった。
    むしろ苦しくなった。

    想いを封じ込められたことが、
    苦しい大きな原因なのだと知った。

    同じように過酷な経験をしても
    心が癒されるものとますます辛く苛まれるものがいるのは、
    個人の資質だけではないという。
    その人が属するコミュニティが、
    どう受け入れるかによって変わるらしい。

    著者は、地域のコミュニティが
    住民の心にどのような影響を与えるか、極めて自殺率が低い 徳島県海部町で、
    住民の方たちと丁寧な話し合いを重ね、
    国内各地のデータと比較・分析していく中で、
    自殺率が低い理由を明らかにしていく。

    自殺の危険を高めるのが自殺危険因子。
    自殺の防ぐ方が自殺予防因子。
    本書は自殺予防因子を探す。

    自殺を予防するひとつに、
    ちょっとおかしいなと思ったとき、
    症状が軽いうちに、外へ出してしまうことが大切だという。
    痩せ我慢はせずに、できないことはできないと早く言う。
    取り返しがつかなくなる前に、
    お金のことでも病気のことでも人間関係でも悩みがあれば、
    はやく開示したほうがよい。
    はやく助けを求めることで、重症化せず、
    自殺へ傾いていくのを阻止できるというのである。

    相当深刻になって、「死にたい」といわれても
    助けてあげるのは難しいだろう。
    深刻になる前に予防するのが重要なのである。

    深刻になってから助けてくれる友だちを持つことが
    必要なのではない。
    それよりも
    普段、挨拶や立ち話をする程度の
    地域コミュニティのゆるやかさが、人を楽にさせるのだそうだ。

    そう言われても
    これまで話す相手ががいなかった人は、
    なかなか心を開示できないと思う。
    私もそうだからだ。

    人に話すのは難しいとしても
    肩の力を自分でちょっと抜くことはできる。

    話せない人は、こう思っているところがあるのではないだろうか。
    簡単に人に頼ってはいけない。
    自分のことは自分で解決しなくてはいけない。
    他人に迷惑をかけてはいけない。
    「どうせ自分なんて」と、遠慮する。
    それが、心を疲弊させているのかもしれないと、
    わかるだけでも
    悪い方へ傾いていく気持ちを予防できるかもしれない。

    本書であげられている自殺予防因子。
    1、いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい。
    2、人物本位主義をつらぬく、
    3、どうせ自分なんて、と考えない。
    4、「病」市に出せ
    5、ゆるやかにつながる。

    自殺率の低い社会は、きっと生き心地の良い町。

    情けはひとのためならず。

    周りの人を気にかけて、声をかけようと思う。
    そしてゆるやかにつながりたい。

  • 自殺のリスク因子ではなく、自殺が少ない徳島県旧海部町に入り込んで自殺を低くする要因を探った本。
    お互いが人に興味を持ちつつ、深入りしない緩い繋がり。取り返しがつかなくなる前に気軽に打ち明けられる関係性。いろんな考えの人がいるから良いという考え方。

  • 全国でも自殺の割合が少ないとされる徳島県海部町でのフィールド調査を通して、町にある自殺予防因子を探る内容。土地の傾斜や積雪量といった地理的指標と自殺率との相関が実際に現れるのが驚きだった。自殺の少ないコミュニティーの特徴として人に対する評価が年齢ではなく能力に根ざしていることというのがあるが、実力社会のギスギスした感じではなく、多様なものをそのまま受け入れることや、問題を小さいうちに他人と共有しやすい空気というのも、予防因子として挙げられている。コミュニティーの性質であるが故に個人の心がけで変えられることはなかなか少ないが、本文でもあるように「どうせ自分では」と思うのをこらえて、自分の中で他者に対する寛容さを身に付けられたらと思った。

  • 自殺率が低い、すなわち「生き心地の良い町」だという徳島県海部町(いまは周辺と合併して海陽市の一部)。そのわけを探るべく著者は同町に飛び込んだ。書かれているのは生き心地のよさ、さもありなんと思わせるようなユニークで爽快な人々の言動。たとえば、赤い羽根募金の集まりが悪い。それはお仕着せに意味を見出さず、周りと横並びで一斉に募金しようという気がないから。また、特別学級の設立に反対するのも、どの子も同じクラスでいいじゃないかという考えから。その他、関係性はあれども濃密ではなかったり、うつを恥じる気もないから精神科の受診率が高いとか、自分たちで世のなかを変えられるという思いも強かったり。集約すると、①コミュニティはゆるやかな紐帯を有する、②身内意識が弱い、③援助希求への抵抗が小さい、④他者への評価は人物本位である、⑤政治参加に意欲的であるといった因子があるのだとか。
    この本が期待以上に面白かったのは、海部町がすごいという話にとどまっていなかったこと。著者は全国的な自殺多発地域と希少地域の特徴の抽出まで研究を進め、地理的な自殺希少地域の特性として以下のようなものを見出している。
    ①自殺希少地域は傾斜の弱い平坦な土地で、可住地人口密度が高く、海岸部に属する市町村に多いという傾向が示され、面する海域は太平洋と瀬戸内海が多かった。
    ②日照時間は自殺率に対して負の影響を、積雪量は正の影響を与えていた。
    ③標高と傾斜度については、標高が約三百メートルをピークに自殺率への影響が横ばいとなっているが、傾斜度は大きくなるほど自殺率への影響が強まり、傾斜十五度を超えた地点から危険度が急速に強まった。
    これもけっこう面白い結果で、そもそも何となく都会のほうが自殺が多い気がしていたけど、そうともいえず、①について平坦で人口密度が高いという点で自殺希少の要素と重なるし、一方、住民間のネットワークがありそうな地方でも、気象や地形によって自殺が起きやすいとみることができる。そして著者が、自殺希少の特性を満たさない、つまり気象や地形条件が厳しく不便な土地の人々について、そういう地で生活するゆえの真面目さや「覚悟を決める」ことを知っている人たちをしているのも温かでいい視点だと思った。
    小難しい研究の話かと思えば、著者が面白がっているのがわかる感じで、その勢いに巻き込まれてか次から次へとページをめくっていける。著者はきっと陽性な人で、かかわった人たちも巻き込んでいったんだろうな。海部町との対比として、自殺率が高いとされているA町なんかは、いわば不名誉なほうでさんざん取り上げられているんだけど、著者がA町の人々への研究結果の伝え方などを町の関係者と相談したときも、「はっきり突き付けてもらうことで対策ができるようになる」といった研究させてもらってる者冥利につきる言葉をもらえたりしてる。
    そういう意味では、海部町の人々の言動の爽快さだけでなく、著者の研究への興ののりぶりとかそれに協力した人々の様子とかまで含め、とても読み心地の良い本だった。
    研究の過程や手法が平易に書いてくれてあるのもいい。研究って「やらなきゃ」じゃなくて、こんなふうに興味のおもむくまま楽しくやるといいんだってこともいまさらながら知った感じ。
    海部町で育ち都会に出た人たちは、人々の関係性に戸惑う経験をした人も少なくない。著者によれば、でも彼らは共通してこんなことを言っていたという。
    「ああ、こういう考え方、ものの見方があったのか。世の中は自分と同じ考えの人ばかりではない。いろいろな人がいるものだ」(p.98)
    これって、人は人、自分は自分と思って生きることができるってことだろう。これが心に過重をかけない生き方の秘訣。読み始めた頃は、海部町で暮らしたいって思ったけど、読み終えてみればそこまでは思わない。著者の研究成果を参考に、自分の心のもちように気をつければどこでも暮らしていけそうな気がする。

  • ・いろんな人がいてもよい
     いろんな人がいた方がよい。
    ・人物本位主義を貫く
    ・どうせ自分なんてと考えない
    ・病は市に出せ
    ・ゆるやかにつながる

    「柔軟性 多様性 弾力」
    グローバル化した世界で、宗教/経済/利権/資源など様々な問題が複雑に絡み合っています。
    物が豊かになればなるほど面倒で複雑な話より、分かり易くて受け入れやすい主義や主張をしがちです。

    想像し、相手を思うエッセンスが本著には含まれていると思います。世界の先進国は人口減少によって経済が縮小し、今後発展途上国が世界的な力を持つと言われています。

    変化の中で、バックボーンの違う他者との共生が課題ではないでしょうか。

  • 自殺率の低い地域として、徳島県の海士町がフィールドワークされています。また、全国の平成の大合併前の旧市町村ごとに自殺率とともに環境要因を分析されています。4年にわたる調査を行った著者の努力と粘りはスゴいと思います。

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著者プロフィール

岡 檀 (おか・まゆみ)

和歌山県立医科大学保健看護学部 講師、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 研究員
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 博士課程修了
「日本の自殺希少地域における自殺予防因子の研究」で博士号を取得
コミュニティの特性が住民の精神衛生にもたらす影響について関心を持ち、フィールド調査やデータ解析を重ねてきており、その研究成果は学会やマスコミの注目を集めている。
第一回日本社会精神医学会優秀論文賞 受賞

「2013年 『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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